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■夏の日の想い出・郷愁(35)

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ところで今井葉月(天月西湖)は現在中学3年生で、来年度は高校進学である。現在、実際問題としてアクアの代役を務めるためにかなりの日数お仕事をしており、今年度もここまで30日ほど学校を休んでいる。それで公立高校は無理だろうということで、芸能活動に理解のある都内の私立高校を目指すことにした。
 
それで1年前に同じ問題で悩んだアクアに尋ねてみると、芸能活動と両立しやすい都内の私立高校として、渋谷区のK学園、品川区のD高校、世田谷区のJ高校、北区のC学園、多摩市のF学園、という5つの学校があることが分かる。
 
この中でF学園は女子校ということだったので除外する(たぶん入れてもらえない)。C学園の芸術科は男子も入れることになったのだが、音楽関係である程度の実績のある生徒でないといけないし男子の定員3人というのは厳しいと思ったので、これも諦める。
 
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「アクアさんが時々着ているような女子制服も可愛いけどなあ」
などと葉月は一瞬考えてしまったものの、女子制服で通学してたら、親から何か言われそうだと考えた(西湖は自分が女装にハマッていることをあまり意識していない)。
 
またK学園も中学時代にある程度の芸能活動の実績のある子しか受け入れないので正直、自分の経歴では微妙という気がした。何でもここは芸能人の生徒だけ隔離して!他の生徒とは別に授業を受けるらしいが、それも何だか嫌な気がした。
 
そういう訳で、葉月は品川区のD高校と世田谷区のJ高校に絞ることにした。出席日数についてはD高校はわりとアバウト(レポートで出席に代えることが可能)だがJ高校は年間出席必要日数の3分の1以上(約65日)休むと留年になる。しかし§§プロは中高生のタレントに関しては、できるだけ学業優先にしてくれるので、多少忙しくなっても、そこまで休むことはないだろうと思った。
 
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それで取り敢えず学校説明会に行ってみようと思い、日付を確認する。
 
D高校は10月21日(土)、11月26日(日)、12月9日(土)、1月6日(土)。
J高校は10月22日(日)、11月23日(祝)、12月10日(日)、1月5日(金)。
 
なんで土日とかばかりなの〜?と葉月は思った。
(普通の人は土日でないと動けない)
 
葉月は土日祝の日程が全部埋まっているのである。
 
これじゃ説明会に行けないじゃん!と思う。しかし葉月は気付いた。
 
1月5日は平日だ!
 
もっともこの日程は願書提出期間の直前である。出願期間はどちらの高校も1月10-16日で、試験はD高校が1月22日(月)、J高校は1月23日(火)に行われる。
 
ちなみに葉月のスケジュールはアクアのツアーに同行し、1月4日に愛知ドーム、1月6日は北海ドームなのだが、5日は移動日で空いているのである。4日の公演が終わった後、東京に単独で戻り、翌日説明会に行って、その日のうちに札幌まで移動すれば問題無い気がする。
 
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それで葉月はそういう行動を取っていいか、コスモス社長に訊いてみた所、ちゃんと5日中に札幌まで来るのなら問題無いと言われた。それで葉月は1月5日のJ高校の説明会に予約を入れた。一方D高校については両親に訊いてみたものの、お正月の公演中だから無理とあっさり言われ、どうしようと思っていたら、吉田和紗(桜木ワルツ)さんが「私が代理で行って書類だけでももらってこようか?」と言ってくれたので、お願いすることにした。
 

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それで葉月は4日の夕方、愛知ドームの公演が終わると、そのまま新幹線で東京に戻った。自宅に入るのだが、両親は公演のため劇団事務局に泊まり込んでおり、不在である。しかしそういうのには慣れているので、自分で御飯を作って寝た。翌5日は朝6時に起きて、朝御飯を食べ、問題集を開いて勉強していたら桜木ワルツから電話がある。
 
「ねえ、西湖ちゃん、ふと気になったんだけど、あんた札幌行きの飛行機の便は予約してるよね?」
「あ、いえ。説明会が終わるのが何時になるか分からなかったから、実際に空港に行ってから買おうかと思ってました」
「それ、お正月の混雑する時期に無茶。チケット取れる訳ない」
「え〜〜〜!?」
 
ワルツからは
「そういう時は最終便を押さえておくものだよ」
と言われたが、彼女は自分で航空会社のサイトで空きを確認してくれた。
 
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「今日の札幌行きは全部埋まってるよ。念のため、函館行きや旭川行きもチェックしたけど、残ってない」
 
「どうしよう・・・」
「説明会は何時頃終わるの?」
「分かりません。10時からなんですけど、いつ頃まで掛かるものでしょう?」
「午前中に始まるなら、お昼をはさんでということはないと思う。多分12時かせいぜい12時半くらいには終わると思う。だったら、あんた新幹線で移動しない?」
 
「新幹線で札幌まで行けるんでしたっけ?」
「今函館まではつながっているんだよ。その後は特急で4時間。だから確認したけど、15:20東京発の新幹線に乗れば今日中に札幌に辿り着くよ。指定席は取れないから自由席、へたするとずっと立ってないといけないかも知れないけど、とにかく乗ることは可能なはず」
 
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「だったらそれで行きます」
 
それでそちらも桜木ワルツが手配してくれた。新幹線はやはり指定席が取れなかったものの、函館から先のスーパー北斗23号の指定席は取れたということで「助かったぁ」と葉月は思った。
 

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ともかくもそれで葉月は説明会に行くことにした。説明会は渋谷の大橋会館で行われる。服装は学生服にしようかどうしようかと思ったのだが、その後すぐに東京駅に移動して桜木ワルツと落ち合い、ワルツが確保してくれたJRのチケットを受け取り、札幌に移動することにしている。旅支度は軽い方がいいので、普段着のフリースのジャケットにジーンズという格好で行くことにした。
 
埼京線で渋谷に出て、駅から5分ほど歩いて大橋会館まで来る。到着したのが9:05頃である。説明会は10時からだから少し早く着きすぎたかなとも思う。
 
でも早い分はいいよねと思い、それで確か11Fだったよなと思い、エレベータに乗ってから11Fのボタンを押そうとしたら、そこに飛び込んで来た27-28歳の女性が居る。10Fのボタンを押してから
 
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「あれ?君、学校説明会に来た生徒?」
と訊く。
 
「あ、はい」
「もう時間過ぎてるじゃん」
「済みません!」
 
あれ〜?僕時間、間違ったかな?などと考える。
 
「どこから来たの?」
「桶川市なんですけど」
「都外からうちに入るんだ!?」
「私、芸能活動していて、それでこちらは芸能活動をする生徒に理解があると聞いたので」
「ああ、確かに芸能活動している生徒はうちの学校多いからね」
と言ってからその女性は少し考えるようにしてから言った。
 
「だったら私が口添えしてあげるから」
「済みません!」
 
それで葉月はその女性と一緒に10Fで降りてしまったのである。
 

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受付の所ではもう片付けをしていたが、その女性(先生?)が何か話すと、
 
「分かりました、二本松先生」
と言って、資料の入っている封筒を葉月に渡す。
 
「ちなみに名前と予約番号を教えて下さい」
「85番、天月西湖(あまぎせいこ)です」
と葉月は言ったのだが
「あら?85番なんて整理番号はありませんよ」
と言われる。すると葉月を連れて来た二本松先生が
 
「いいじゃん、説明会受けさせてやってよ」
というので受付の人は
「はい」
と言って、34という番号札を手書きして、葉月に渡した。
 
それで葉月は説明会の会場に入ることができた。
 

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幸いにもまだ説明会は始まっていなかったようだが、葉月が入ってからすぐに先生が登場し
 
「本日はお忙しい所、学校説明会に起こし頂きありがとうございました」
と言って、学校の説明を始めた。
 
葉月はJ高校はミッションスクールと聞いていた気がしたのだが、前に立って説明している50歳くらいの教頭先生は普通のレディススーツを着ており、会場内にもシスター姿の先生とかが見当たらない。あまり宗教色は出してないのかも知れないな、と思った。
 
話を聞いていると、確かにこの学校は“緩い”感じである。うちは生徒の自律心を大事にしますので、服装チェックや髪型チェックなどはしませんが、あまり酷いパーマとかは注意する場合もありますという話だった。
 
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そもそも制服というのが定められておらず、標準服はあるものの、標準服を着ない生徒もあるということだった。またうちはお嬢様学校とかではないので自家用車、自家用飛行機、自家用ヘリコプターでの通学は禁止です、という説明があると笑いが起きていた。さすがに日本には自家用飛行機で通学するようなとんでもないお金持ちは居ないんじゃないかと葉月は思った。
 

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芸能活動をする生徒、スポーツ活動をする生徒などについてのコメントもある。当校で進級・卒業するためには年間出席日数約190日の内、3分の2以上の出席が必要だが、芸能活動、スポーツ活動、音楽活動などのため、特に許可を得ている生徒は、必要出席日数の半分以上出ていれば不足分はレポート提出で出席とみなす特例を認めていると説明があった。
 
現在、中高6年1350名(200x3+250x3)の中に芸能活動をしている人が60名、スポーツや音楽などの活動で欠席の多い生徒が40名居るものの、これらの生徒にその特例が適用されているということである。1350名中100名って結構多いなと葉月は思った。でもこんな話、学校のホームページには書かれていなかったのにと葉月は不思議に思った。
 
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学校説明会は10時半頃に終わった。この後、うちを受けたい人はそのまま個別相談をして、その場で願書をお渡ししますということだった。葉月は願書はもらっておきたいと思ったので、個別相談会に参加することにした。
 
説明会自体の参加者は葉月が34の番号をもらったことから分かるように34名(+保護者)だったのだが、実際に個別相談に参加するのはその内の半分くらいのようだった。葉月は残っている生徒を見て、女子が多いなあと思った。というより、自分以外は女子ばかりである!
 
今更ながら葉月は間違ってどこかの女子高の説明会に来たってことはないだろうな?と思ったものの、女子高なら自分が説明会に入れる訳ないし、そんなことはないだろう。多分もう出願直前なので、こんな時期まで説明会に来てなかった人が少なかっただけだろうと思った。
 
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30分ほど待って、11時頃「あまぎ・せいこさん、8番へ」と呼ぶ声があるので8番のブースに入る。
 
「こんにちは、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
と、まずは挨拶を交わす。
 
「せいこちゃんって可愛い名前ね」
 
などと言われる。あれ?女の子と誤解されてない?
 
「今日はあなただけ?親御さんはいらっしゃらなかったのかしら?」
「すみません。両親は舞台俳優で公演中なので来られなかったんですよ」
「あら、そうなんだ」
「実は私も芸能活動をしていて、それでこちらの学校は芸能活動に理解があると聞いたので、取り敢えず説明会に来たのですが」
「なるほどですね。なんてお名前で活動しているのかしら?」
 
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「芸名はたぶんご存知無いと思うのですが、今井葉月(いまいようげつ)と申します。実は少年アイドルのアクアのボディダブルというのをしていまして」
 
「ああ、アクアちゃんのボディダブルなんだ!」
 
葉月は、さすが芸能人の多い学校の先生だと思った。普通の人にはボディダブルという言葉自体が通じない。スタントマンとかスタンドインなどは比較的知られているものの、ボディダブルという仕事があまり知られていない。もっとも葉月はアクアのスタンドインやリハーサル歌手も務めている。
 
「でもアクアちゃんって女の子みたいな体型してるもんね。ボディダブルも女の子でないと務まらないよね」
と先生は言った。
 

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葉月はまた誤解されてる〜!やはり学生服で来るべきだったかと後悔した。
 
「すみません。私、男の子なんですけど」
「嘘!?だって、あなたお名前は、せいこちゃんって」
と先生は書類を見ながら言う。
 
「こういう字なんです」
と言って、葉月は自分の生徒手帳を取り出して提示した。
 
「西湖と書くのか!それに写真では学生服着てる!」
と先生は驚いたように言った。
 
そしてとても残念そうな顔をして言った。
 
「でもうちは女子校なんですけど」
「え?J高校さんって女子高校だったんですか?」
「うちはS学園ですが」
「え〜〜〜!?」
 

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それで確認してもらうと、この日は10階で9時からS学園、11Fで10時からJ高校の説明会が行われていたことが分かる。それで葉月をここに連れ込んでしまった二本松先生が
 
「あらあ、私の勘違い。ごめんねー」
と謝っていた。
 
「でもあなた女の子にしか見えないのに」
「お仕事で頻繁に女の子役してるからかも」
「あら、女の子役なの?」
「私、女顔だから、女の子の役なら役をあげると言われたので、もっぱら女の子役をしています」
 
「確かに女顔だよね」
「すごく優しい雰囲気だもん」
「あなたいっそ女の子になったら、うちに入れるけど」
「え〜?どうしよう」
 
葉月が迷うように言うので先生達が顔を見合わせる。
 
「女の子になりたい男の子?」
「いえ。別になりたい訳ではないのですが」
「過去に女の子になりたい男の子を女生徒として受け入れたことあったよ」
「あの子も女の子にしか見えなかったもんね」
「去勢とかしてるの?」
「してません」
「ヒゲとかはないのね」
「実は頻繁に女の子役をするんで永久脱毛しちゃったんです。ヒゲとかすね毛とか、脇毛とか」
「喉仏無いよね?」
「私のは目立たないみたい」
「声変わりは?」
 
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「一応してます」
と葉月は男の子の声で言ったが
「でも女の子役が多いので、女の子の声の練習兼ねて、ふだんはこんな感じの声で話していることが多いです」
と女の子っぽい声に戻して言う。
 

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夏の日の想い出・郷愁(35)

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