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■夏の日の想い出・郷愁(17)
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(C)Eriko Kawaguchi 2017-12-15
12月1日(金)、アクア主演の映画『キャッツアイ−華麗なる賭け』が公開された。政子はアクアが舞台挨拶をする予定の映画館の予約を押さえていて、この日の夕方からその映画館に出かけて行った。
(アクアは学生なので舞台挨拶は学校が終わった後、夕方からである。フェイやヒロシ、丸山アイ、大林亮平と本騨真樹、中村監督などは朝から舞台挨拶に回っている。アクアは12月2,3日は朝から夕方まで舞台挨拶に回る)
先月の試写会の時とは多少のシーン変更が行われていたようである。どこどこが試写会の時はこうだったけど、公開版ではこうなったとか、試写会の時に少し流れが悪いなと思った所が直されていた(多分撮り直した)と、詳しく私に話してくれた。
アクアは今年春から秋にかけて放送された『ときめき病院物語』でも男の子の佐斗志役で男声を使っていたのだが、多くのファンは例によってボイスチェンジャーを使っているのだろうと思っていたようだ。しかしこの映画の舞台挨拶で、アクアはこの映画では内海刑事役は生の声で演じていることを話し、一部観客から悲鳴が上がっていた。
「これ発声法なんですよ。こうやって男の子の声を出して・・・こうやって自分の地声で出すと女の子っぽい声になります」
とアクアは語った。
ネットでは「とうとうアクアは声変わりしたのでは?」という書き込みがあふれていた。
「さすがにもう声変わりが来ないのはおかしいと思っていた」
「16歳でまだ声変わりしてないというのはどう考えても変だもん」
この問題について、結局アクアは12月4日、夕方のテレビ番組に緊急生出演して実際の声変わり問題について話した。
「お医者さんの話では、僕の睾丸は少しずつ大きくなってきているので、恐らく数年以内には声変わりは起きるだろうと言われています」
とアクアは女の子のような普段の声で話す。
「ではまだ声変わりは起きてないんですか?」
「そうなんです。こちらは発声法で出している男の子っぽい声です」
と言って、映画の中で出していた男声っぽい声も出してみせた。
「喉の奥の方を強く締めるような感じで出すんですよ」
と普通の声に戻して話す。
「だから実は3分程度以上は話せないんですよね。撮影の時も長い場面は分割して撮影してもらったんです」
テレビ局はアクアの高校の同級生にも取材していた。顔は映していないがC学園の女子制服が映っている。
「うん。龍ちゃんはふだんふつうに女の子っぽい声で話しているよ」
「だからみんな『男の子』として意識してないもんね」
「やはり男の子みたいな声で話されると、私たちも引くかも知れないけど」
「喉仏とかも無いみたいだし、まだ声変わりしてないんだと思いますよ」
と同級生たちの声であった。
番組ではアクアの同級生である松梨詩恩にまで取材していた。
「普段学校では声変わり前のボーイソプラノで話してますよ」
と最初に《声変わり疑惑》を否定する。
「男の子っぽい声を出すのは去年だいぶ練習したらしいです。それでも高校に入って来た頃は20-30秒しか維持できなかったんですよね。でもその声で『ときめき病院物語』の声を出して、アクアが男声を出せるようになったので、撮影が随分楽になったらしいですよ」
「学校では男の子の声は全然使わないんですか?」
「全く使ってないですね。何度か学校から放送局への移動が一緒になったんですけど、その移動の車の中で練習してました。5月頃、何かうまい出し方を見つけたみたいで、それ以降3分くらい維持できるようになったみたいですね。でも男の子の声で話すのは物凄く疲れるみたいです」
この詩恩の説明で、アクアの男声が特殊な発声法で出しているものであること、まだ練習途上らしいことが明快になった。
ネットの声。
「良かったぁ、まだ声変わりしてなくて」
「アクア様が声変わりしたら、世界の損失」
「やはり絶対に声変わりしないように去勢を」
「いっそのこと女の子に改造を」
「女になってくれたら、俺の嫁にしたい」
といつもながらネットの意見は暴走していた。
やや冷ややかな意見もある。
「アクアは夏に出た写真集見ても明らかに女の子のボディライン。脂肪も女の子っぽい付き方してるし。どう考えても女性ホルモンやってる。でも本人の男性的発達がもう女性ホルモンで押さえきれなくなって、声変わりの兆候が出てきたのでは?それで男声も出るようになったんだと思う」
「発声法で男声が出るようになった、ということにしておいて実は元の女の子みたいな声の方が発声法だったりして」
「しかし結果的に多分20歳くらいまでは女の子の声で通すつもりなのでは?」
「アクアは恐らくは実質両声類になっていく気がする」
「あいつ多分20代の内くらいまでは女装を随分やらされる気がする。その時は女の声を使って、普通の男役の時は男の声と使い分けるつもりなんだろうな」
最終的には似たような所に辿り着く。
「しかしずっと女の声も出るんなら、男でもいいから嫁に欲しい」
「日常的に女の服を着ていてくれるんなら、付いてても構わないから結婚したい」
12月2日(土)の午後、青島リンナと百道大輔は各々の事務所との連名で報道機関にFAXを送り、同日正午ジャストに婚姻届を市役所に提出したことを発表した。青島リンナのブログに、リンナがかなり大粒のダイヤのプラチナリングをつけて大輔と並んで微笑んでいる写真が載っていた。
なお挙式・披露宴は行わないらしい。
ふたりが交際しているような話は全く聞いていなかったので、私はびっくりした。KARIONのツアーの話でわざわざ郷愁村まで来てくれた畠山社長も
「実は僕もびっくりした」
などと言っていた。青島リンナの事務所というのはつまり∴∴ミュージックである!
「事務所にはいつお話があったんですか?」
「先月の初めくらいだったよ。自分たちで発表したい、結婚式は挙げないということだったから、それは任せると言った」
「じゃ、ちゃんと話は通していたんですね」
「うん。それはやはり大輔君はきちんとした性格みたいだから。でも結婚式をあげると、お兄さんが来て荒らしたりしないかというのを懸念したのもあって結婚式は挙げないことにしたみたいだね。まあ元々リンナちゃんもそういう仰々しいことが好きではないみたいだし」
「ああ」
と私は嘆き声を上げた。
「困ったお兄さんを持つと大変だね」
と鷹野さんが同情するように言う。
百道大輔の兄、百道良輔は素行の悪さで知られる。過去に多数の女性タレントと浮き名を流し、そのために仕事を降ろされたり多額の賠償金を課せられた人もいる。典型的な「下げチン」として有名だが、それでも彼と付き合おうとする女性がいるのが、私は不思議でならない。
ローズ+リリーがデビューした時にも唐突に自分はマリ・ケイと一緒に寝たとわざわざ記者会見を開いて言ったものの、どうも誰か(*1)に脅されたようで、会見の途中で「ごめん。今の冗談」などと言って会見場から逃亡してしまった。
(*1)この時良輔に会見をやめさせたのが良輔の元恋人であった須藤美智子であったことを私は随分後に知った。当時須藤さんは謹慎中で、表には出てこられない身であった。
しかしその「ローズ+リリー乱交疑惑」を完全に否定するのには苦労し、政子は「処女証明書」、私は「男性器存在証明書」をお医者さんに書いてもらい、マスコミの人たちに「公開しない」という条件で提示して、やっと納得してもらった。
良輔は現在、メジャーどころかインディーズのレコード会社でも彼を相手にしないので、自主制作でCDを作り、通販しているが、それには固定ファンがいるようで年間数千枚売れているという話である。それでも売上げはせいぜい年間100万円程度と思われ、彼がどうやって暮らしているのかは謎である。彼の生活費を弟の大輔が出しているのでは?と随分言われているが、大輔は否定している。
「兄のためを思うからこそお金を渡しません」
と彼は言っていた。
ローズ+リリーの制作は演奏者のスケジュールの問題で、平日組と休日組に分けて進めたのだが、11月中は平日には『Four Seasons』の制作を進め、休日に『郷愁』をしていた。そして12月に入ると平日組・休日組ともに『郷愁』の制作に入った。
11月から12月上旬に休日組で制作したのは下記である。
11/03-05,10(祝土日金) 『トースターとラジカセ』(Sweet Vanillas)11/10-12,17(金土日金) 『靴箱のラブレター』(青葉)
11/17-19,23(金土日祝) 『セーラー服の日々』(七星)
11/23-26, 12/2(祝金土日土) 『携帯の無かった頃』(実は七星)
12/2-3,8(土日金)『お嫁さんにしてね』(実は千里)
休日組での収録は、金曜日に大まかに演奏して調整した上で、土日の2日間で集中して作り込むものの、一週間の熟成期間を置いて翌週の金曜日に少し調整するというのがだいたいのパターンになっていった。
「やはり途中で少し時間を置くのがいいみたい」
「うん。その間に頭の中でこなれていくんだよね」
なお若干のアレンジ変更をして、休日組で演奏する曲からは和楽器をほぼ外して、和楽器を本格的に使う曲は平日組の方に集めた。これは演奏者の都合もある。
『トースターとラジカセ』はビッグバンド風のアレンジにしており、渡部賢一グランドオーケストラの管楽器セクションのメンバーに協力を求めて収録した。グランドオーケストラの人たちは学校の先生や会社員などで平日は稼働できないのだが、休日なら動けるのでやってきてくれて、演奏をした後、渡した食券で《ムーラン・郷愁村店》で、牛丼なり天丼なり好きな丼物とコーヒーを飲んで帰って行った。
丼物もコーヒーや紅茶も美味しい美味しいと評価が高かった。
彼らには副業規定に引っかからない人には直接報酬を払い、受け取れない人の分は、オーケストラの運営費に寄付させてもらった。
この曲のPVでは実際に昔のトースターやラジカセを「まだ持っているよ」と言っておられた東郷誠一先生のお宅から借りてきて、食パンを実際にトースターで焼いて、焼き上がったら飛び出してくる所、独特の縦の焼き目模様が付いている食パンの様子、それに昔風にバターを塗って、マリと美空が美味しそうに食べている所が映っている。
昔風の牛乳瓶に入った牛乳にやはり瓶入りのヤクルト!(これらは小道具係の人が用意してくれた)、それに日東の缶入り紅茶、1960年代風の砂糖入れから角砂糖を取ってティーカップに入れている。
ふたりが食べている横で私は昔風の割烹着をつけて、玉子焼きを焼き、ふたりの前にあるお皿に置いている。(だいたい私はこういう役である)
『靴箱のラブレター』は木管楽器を多用した。口笛まで入っているが、この口笛は暇そうにしていた小風に入れてもらったものである。
今年は和泉がアクアのディレクターとして結構多忙になっており、私はこの状態だし、美空は暇なのでゴールデンシックスに常駐している感じで、結果的に小風が放置されていたのである。何度か旅番組のレポーターなどもしていた。
フルートを吹いているのは風花とたまたま来たのを捕まえて徴用したXANFUSの光帆、ピッコロがバレンシアの観来(みるく)、アルトサックスは七星さんと鮎川ゆま、テナーサックスがバレンシアの心亜(ここあ)、クラリネットは詩津紅、篠笛はバレンシアの礼文(れもん)である。これにちょうど東京に出てきた青葉に龍笛を入れてもらった。
この曲のPVは『青い恋』のPVを撮った廃校を再度借りて撮影した。靴箱の中にラブレターを見つける役は来年デビュー予定の桜木ワルツ。春頃にはアクアのサブマネージャーをしていた子である。19歳であるが、セーラー服はもちろん充分行ける。
「今回は男役だよと言われて学生服を着るのかなと期待してたのに」
などと彼女は言っていた。
「女の子役でごめんね〜」
「でもセーラー服は久々だったし」
彼女の想像の中のイメージに出てくる学生服を着た男の子は実は彼女自身の2人の兄である。長兄は会社勤めの傍らアマチュア劇団で活動している。次兄は大学生でアマチュアバンドを組んでいる。ワルツが兄と見つめ合うシーンもあるのだが、照れてしまって、撮影が終わった直後双方とも吹き出した、などと言っていた。
周囲に映っている生徒は多くが§§プロの研究生たちであるが、石川ポルカも出ていた。彼女は第4回ロックギャル・コンテストの優勝者である。また先生役で青葉と丸山アイに出演してもらっている。
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