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■夏の日の想い出・郷愁(30)

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妃美貴が運転するプリウスはR500/R212/東九州自動車道を通って北九州空港に向かった。
 
ここで風花が助手席に乗り、後部座席の右側(運転手席後ろ)に私、左側(助手席後ろ)に千里が乗る。妃美貴は持参のポータブル・カーナビに入れた音楽を結構なボリュームで流していた。
 
つまり私と千里が密談しても妃美貴と風花にはほとんど聞こえないようにという配慮をしてくれているのである。もっとも妃美貴も風花も口が硬いので万一何か聞こえても絶対に誰にも言わないであろう。
 
私はまず『郷愁協奏曲』のことを話した。
 
「あの後、少しぼーっとしながら考えていたんだけど、提示部でスターキッズ、展開部でオーケストラ、再現部で双方の合奏というあの構成がいいと思う」
 
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「うん」
 
「ただ和音については、再現部の和音は元のままにして、提示部と展開部は千里が修正してくれた形にしようかと思うんだけど」
 
と私は言った。
 
「なるほど」
 
「『郷愁』という名前の通り、昔懐かしい音を提示するには千里が変更したようにシンプルな和音を使った方がいい。でも最近のローズ+リリーの音楽につなぐには、再現部の所に千里がいう所の《グリーン・ノート》を使いたいと思ったんだよね」
 
「うん。それでいいと思うよ。だったら、私が渡したUSBメモリーの中にwominaというフォルダがあるから、その中に入っているCubaseのプロジェクトデータを使って」
と千里は言う。
 
「それも作ってたの!?」
「だって、冬がそのあたりを決めてから、編曲者の所に持ち込むまで時間があまりないと思ったからね」
「つくづく用意がいいね!」
 
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「ちなみにwotomeのフォルダには、提示部だけ単純和音で、展開部と再現部が複雑和音のもの、ominaのフォルダには全て複雑和音で、冬が書いたデータから提示部のオーケストラをスターキッズに単純変更したものが入っているから」
 
「参った、参った。だったらそのwominaを使わせてもらうよ」
「うん。そのあたりは適当に」
「ところで、wominaとかwotomeとかominaってどういう意味?」
「古語で女を表す言葉だよ。昔は女を表すのに、若い方から wotome, womina, ominaと言ったんだよね」
 
千里はメモ用紙にローマ字を書きながら説明する。
 
「へー!」
「wominaは英語のwomanと似ているけど、偶然の一致で無関係だと思う」
「そういうのも面白いね!」
 
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「ちなみに男は若い方から wotoko, woguna, okina。男の娘はwoginaかも。vaginaと似ているけど、偶然の一致」
 
「昔も男の娘っていたんだっけ?」
「昔からいたと思うよ〜」
「そうかもね」
「髪もミヅラじゃなくて島田に結って、貫頭衣とか着ちゃって」
「島田って昔からあったの?」
「古墳島田といって、髪を折り返して、根本を鉢巻きで留めるやつ。火山の噴火のようにも見える」
「ああ!あれか!埴輪とかでそういう髪型があるよね」
「そうそう」
 
私の頭の中に弥生時代の男の娘のイメージが一瞬見えた気がした。そういう子って、ひょっとしたら男女双方から人気だったかも!? きっと昔はそういう子は有力者の妾とかにしてもらっていたんだろうなあ。普通の女の子より女らしいとか言われて。睾丸は潰すか切り落とすかしていたかも?馬や牛の去勢と同じじゃないかな。陰茎を切り落としたら半分くらい死んでたろうけど、睾丸だけなら慣れた人が手当すれば、そう簡単には死ななかったと思う。
 
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「あれ?もしかして、ヲトメの対義語がヲトコ?」
 
「そうそう。そのあたりが後世には混乱してしまったみたいね。だから、倭建命(やまとたけるのみこと)は、ヤマトヲグナという別名もある。大和(やまと)の男って感じだよね。でも女装できたんだから、むしろ可愛い子だったかもよ」
 
私はその時、唐突に新しい曲のイメージが湧いてきてしまった。
 
「はいどうぞ」
と千里は五線紙とボールペンを渡す。
 
私は目を丸くしたが
「ありがとう」
と言って、その五線紙に今思いついたメロディーを書き始めた。
 

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その曲を書き上げた後で、私は千里に気になっていたことを訊いてみた。
 
「千里さ、ここだけの話、細川さんとはその後どうなってるの?」
「そうだなあ。冬にはこれを見せてあげよう」
と言って千里はバッグの中からビニール袋に包んだ体温計のようなものを取り出した。
 
私はしばらくそれを見ていたが、驚いて言った。
「これ妊娠検査薬?」
「そうそう。プラスになっているでしょ?」
「まさか、千里、貴司さんの子供を妊娠したの?」
 
「京平を妊娠した時と同じだよ。妊娠しているのは私の子宮だけど、その子宮は別の女性の身体の中に入っている」
 
「別の女性って、阿倍子さん?」
 
「それが阿倍子さんではないから困ったもので」
 
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「まさか奥さん以外の女性を妊娠させた訳?」
 
「浮気するならするでさぁ、なんでちゃんと付けないかね?」
と千里は呆れたように言っている。
 

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「それどうするの?」
「彼女はそのまま産むと思う。産んでもらわないと困るけどね。ここだけの話。今その女性のお腹に入っているのが、深草小春の肉体だよ」
 
「・・・8月にローズ+リリーの音源制作に協力しくれた深草さん?」
 
「あれはまだ生まれる前だったんだよ」
「え〜〜!?」
と声をあげてしまったが、そういえば以前、貴司さんは言っていた。京平君とは生まれる前から会っていてバスケを教えていたのだと。では小春さんも生まれる前から活動していて、ツアーや音源制作で龍笛を吹いてくれたのだろうか?
 
千里の周囲ではしばしば因果律が崩壊している気がする。千里がよく予定調和を起こすのはたぶん先に結論を見ているからだ。もっとも、千里がいつか言っていた話では「時系列」が混乱しているだけで「因果律」は崩れていないというのだが。性転換にしても、千里はどう考えても性転換手術を受ける前に既に女性の身体になっていた。性転換手術を受けたのは大学4年の時なのに、その手術の結果女性の身体に変わったのは高校2年の時だとも言っていた(蓮菜や花野子によると少なくとも高校1年より前という話なのだが)。
 
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それで生まれる前の小春さんが、龍笛を吹いてくれた訳??
 

「だから貴司は今月中にも阿倍子さんと離婚することになると思う」
と千里は言う。
 
「急展開だね?でもそれその妊娠していることになっている女性が貴司さんと結婚してしまうのでは?」
「うん。だからちょっと困っている」
と千里は本当に困っている風に言う。
 
「ついでに私も別の男性と結婚してしまうみたいだし」
「嘘!?」
 
「結婚式は3月の予定。その前にパスポートの関係で来月中に婚姻届を提出する」
「千里、いつの間にそんな人ができたの?」
「彼はね。本当は小春の思い人なんだよ」
「は?」
「だから私は自分の娘の代理でその人と結婚する」
 
「ごめん。もう私、分からなくなって来た」
「そうなんだよね〜。私も分からなくなっている。でも彼との結婚生活は今年の夏には終了するみたいだから、冬は私の結婚については何もしなくていいからね。ご祝儀も不要だし」
 
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「千里、まるで他人事(ひとごと)みたい」
「うん。実際に他人事(ひとごと)なんだよ」
と千里は言っている。
 

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「高校時代に習わなかった?電子をひじょうに短い間隔で並んでいる2つのスリットに向けて撃つと、電子はその2つのスリットを同時に通過するって」
 
「聞いたことはある」
 
「電子は別に分裂した訳でもないのに、2ヶ所に同時に存在するんだよね。人間も稀にそういうことがあるんだよ。ちょっとここに電話してみない?」
 
と言って千里は愛用のガラケーを私に渡した。
 
ガラケーを使っているのは私の周辺では千里と政子だけだ。ふたりとも強烈な静電気体質で、スマホが使えないと言う。
 
「これは・・・千里のアパートの電話番号?」
と私はその番号を見て戸惑うように言った。
 
「うん」
と千里は難しい顔をして言っている。
 
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私は首をひねりながら電話をしてみた。数回呼び出し音が鳴った後、つながる。
 
「はい」
と言う声がするが、千里の声である!?
 
「明けましておめでとう。冬子です」
と私は言ってみた。
 
「ああ、冬、明けましておめでとう。去年の後半はほんと何にもできなくてごめんね。KARIONにも全然曲が提供できてないし。取り敢えず編曲だけでも頑張るからね。『青い浴衣の日々』とか『硝子の階段』とかの編曲うまくできてたかなあ。もしあのレベルでいいなら、いつでも頑張るから言ってね」
 
と電話の向こうの千里は言っている。
 
「うん、無理しないでね。編曲してもらえるだけでも助かっているよ。ゆっくりとリハビリに励んでね」
と私は言った。
 
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「そうだ。誰にも言わないつもりだったんだけど、私結婚することになっちゃって」
「ほんと?おめでとう!どんな人なの?」
「千葉の建設会社に勤めている人。正直まだ自分でもピンと来ないんだけど。熱烈にプロポーズされちゃって」
「いいんじゃないの?」
「でもあまり仰々しいことしたくないし、あまり招待客も入れないつもりだからご祝儀とかは無しにしておいて」
「うん。まあいいけどね。じゃお花でも贈るから、結婚式の日と会場を教えてよ」
「分かった」
 
それで千里は結婚式場の名前と結婚式の日を教えてくれた。私はそれをメモした。
 
「3月に結婚式あげた後、新婚旅行に行ってくるから、その間は一週間くらい仕事ができないけど」
「いや、新婚旅行くらいはゆっくり休まなきゃ」
 
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そんな会話をして、私は電話を切った。
 
そして考えた。
 
が、分からない!
 

「今電話に出たのは本当に千里?」
「千里だよ」
「電話に出たのが千里なら、ここにいるのは?」
と私は隣に居る千里に訊いた。
 
「私も千里だよ。まあそういう訳で本当に他人事(ひとごと)なんだよ」
 
「千里って双子かなんかだったんだっけ?」
 
「スリットを通過した電子は、通過した後は確実に1個に戻っている。だからこれはあくまで一時的な現象だと思う。私はあくまで貴司の妻だよ」
 
と言う千里はいつの間にか左手薬指に金色の結婚指輪をつけていた。
 
「その指輪は貴司さんとの結婚指輪?」
「当然。ちなみに今電話に出た千里は信次さんから婚約指輪をもらった。結婚指輪も一緒に作ったんだけど、これは結婚式当日に交換する」
 
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私はまた考えた。
 
「ねえ、もしかして7月に事故にあったのが、今電話に出た千里で、私の目の前にいる千里は最初から元気なままだったりして?」
 
「うん。そういうこと。混乱するから、あまり人には言わないようにしているけど、何人か、言わずにいるとよけい混乱が起きそうな人にだけ打ち明けている」
と千里は言った。
 
「どうしたら、そういうことになる訳〜?」
「4月に落雷に遭った時に分裂しちゃったみたいでさ」
「え〜〜!?」
 

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「冬にはこの名刺もあげておこう」
と言って、千里が出した名刺を見て、私は仰天した。
 
そこには
『作曲家・琴沢幸穂』
と書かれていた。
 
「これ知っているのは、コスモスと青葉だけね。今電話で冬と話した千里が回復するまで、私はこの名前で作曲活動をする」
 
「酷い。完璧に騙された」
と私は腕を組んで言った。
 
「でも落雷で人間が分裂する訳〜? 千里って人間だよね?神様とかじゃないよね?」
「青葉は神様かも知れないけど、私は人間だよ」
「ほんとかなあ」
 

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「あと私が複数存在していることは、貴司のお母さんと、うちの玲羅も知っている。千里の結婚を説明するためにやむを得ず打ち明けた」
「貴司さんは?」
「言ってない。貴司は当面放置。私自身ちょっと怒っているから」
「ああ」
 
「ちなみに琴沢幸穂(kotosawa sachiho)は細川千里(hosokawa chisato)のアナグラム」
「うっ」
 
「だから琴沢幸穂に連絡を取りたい時は私に直接連絡していいよ。これは、あくまで1人の千里に戻るまでの一時的な処置だから。今冬が電話で話した千里は事故のショックで色々なものを忘れている。もっとも編曲とかは私より正確かつ高速にやるから、その用事ではどんどん使ってやって」
 
「それリハビリにもなるよね?」
「うん。凄くリハビリになる」
「だったら使わせてもらおう」
 
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「あの子が今忘れている物事を全て思い出して、作曲能力やバスケット能力も元に戻った時が私たち3人がひとつに戻る時だと思う」
 
と千里は厳しい顔で言った。
 
「そうか!事故にあって代表落ちした千里と、日本代表に復帰した千里は別人だったのか!」
 
「実はそうなんだよ。いくら私でも、わずか10日でそんなに回復する訳が無い」
 

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■夏の日の想い出・郷愁(30)

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