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■夏の日の想い出・郷愁(14)
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『縁台と打ち水』は、三味線と和太鼓をフィーチャーしている。三味線は忙しい所を槇原愛にお願いした。和太鼓も妹の篠崎マイが打ってくれた。
曲の中にパチッ、パチッという音が入っているが、これは将棋盤に駒を打つ音と碁盤に石を打つ音の両方を使用している。この音は実際のプロの将棋棋士と囲碁棋士にお願いして打ってもらった音を収録して使用している。
この曲のPVは実際に郷愁村のマンション1階の掃き出し窓(床まである窓)のそばに縁台を設置し、打ち水をしている所、縁台で囲碁や将棋をしている所を撮影している。
ここで将棋を指しているのは私と青葉(ふたりとも小学生の頃、将棋をしていた。特に青葉は将棋部で東北大会だかまで行っていると聞いた)だが、私は長らくやっていなかったので、簡単に負けてしまった。どうも青葉も途中で手加減し始めた感じもあったのだが、局面が挽回不能だった。
「香落ちで再戦する?」
と七星さんに訊かれたが
「いや、これは多分4枚落ちくらいにしないと、勝負にならないし、対戦中の表情とかが撮れていれば充分だと思う」
と私が言い、再戦はしなかった。実際観戦していて、かなり棋力があるっぽかった丸山アイが
「たぶん青葉ちゃんは初段レベル、ケイちゃんは3〜4級レベル」
と言っていたので、私が言った《4枚落ち》が本当に妥当だったかも知れない。
囲碁の方が凄いことになった。
囲碁を打ったのはマリと千里であるが、実はふたりとも段位の免状持ちである。マリが二段で千里が初段なのでマリが「石を置く?」と訊いたが千里は「一段差だから、置き石無し・コミ無しで私が先手でいい?」と言い、それで対決した。
(この場合、持碁(引き分け)になったら白勝ちとするルールである。囲碁は黒を持つ先手が絶対有利なので、最終的に獲得した目の数に、後攻の白が6.5目の“コミ”と呼ばれるハンディを加えた数で勝負とする。しかし対戦相手と実力差がある場合は、コミを使用せず、1段差なら下手が先攻、2段差以上の場合は段差に応じた黒石の“置き石”をして上手の白が先攻で試合を始める)
2人の対局は白熱した熱戦になった。マリも千里もかなりマジになっていたが、最後はマリが1目差で勝った。実は途中で千里が投了しようとしたのだが、七星さんが「映像撮りたいから最後まで打って整地して」と言ったので最後まで打ったのである。ちゃんと整地してみると、マリの1目差勝ちであった。
「私は負けたと思ってた」
とマリが言ったが、
「途中で全然かなわないと思った」
と千里は言っていた。
白の1目勝ちということは、これがコミありの対局なら白の7目半勝ちである。
ふたりとも対戦中の顔が物凄くマジだったので、PVの映像もいいのが取れたし、盤面も品質が良かった(と丸山アイが言っていた)ので、途中の攻防の所も、整地する場面も映像として素敵であった。私と青葉の将棋の盤面も使用したが「縁台将棋らしいヘボ将棋だね」などと鷹野さんは言っていた。
なお4人とも浴衣を着て撮影しているが、裏フリースのものを使用し、カメラに映らない所でストーブを焚いている。
着ていた浴衣の模様は、私は白地に赤のバラ、マリは赤地に白の百合、青葉は灰色地に青い柊、千里は青の地に黄色いヒマワリであった。
なおマリと千里の棋力について丸山アイは
「マリちゃんは4段の免状を申請してもいいと思う。千里ちゃんも3段を申請していいと思う。何なら誰かプロ棋士に打ってもらって段位認定してもらうといいと思うよ」
などと言っていたので、実際に持っている免状より高い実力をふたりとも持っていたようである。
「アイちゃんは免状持ってるの?」
「免状代がもったいないから申請してない」
「なるほどー」
アイは囲碁も将棋も六段クラスらしいが、免状を申請するには囲碁が216,000円、将棋が270,000円かかる。特に五段を持たずにいきなり六段を申請する場合は飛び付き料が掛かって、囲碁226,800円、将棋324,000円となる。高額なので、実際に六段の実力があっても申請しない人は物凄く多い。
そういう訳で『Four Seasons』の音源制作は『青い豚の伝説』の制作の後から始まり、主として平日だけで次の日程で完成した。
11.06-09(月〜木) 『春の詩』
11.13-16(月〜木) 『冬の初めに』
11.20-22(月〜水) 『村祭り』
11.27-30(月〜木) 『縁台と打ち水』
この後は12月4-5日に最終的なミクシングとマスタリングを行い、5日夕方にはマスター音源が完成した。一方PVをまとめる作業は詩津紅・妃美貴の姉妹と風花の3人が中心に進めてくれた。また封入するパンフレットの制作も妃美貴がやってくれた。
全ての作業は12月10日までには完了し、すぐにプレス工場に持ち込んだ。発売は1月1日とすることにし、カウントダウンライブの会場でも、生写真付きスペシャルパッケージで販売することにした。
ところで郷愁村には11月3日(金・祝)から、丼屋さんがオープンした。
若葉が所有しているトレーラーショップのひとつをここに持って来て、制作をやっている期間の金曜午後から月曜昼までの限定で営業することにしたのである(営業許可は正式に取得した)。
といっても実際問題として、採算が取れるほど客が存在しないと思われたが、若葉はそもそも道楽でトレーラーレストラン《ムーラン》を経営(?)しているので、収支など全く気にしない。
それでも娯楽のない場所なので、自分の出番がない間、ここに来てコーヒーなど飲みながら、おしゃべりしているミュージシャンやスタッフが居て、ショップは常に客が居る状態になっていた。そもそもマリ自身がスタジオよりここにいる確率が高かった!
営業時間は10時から18時までで、14-15時の1時間はスタッフ休憩のため休業である。その時間帯は店舗自体には入れるがスタッフは応対しない。もっとも勝手に道具を使ってコーヒーを入れて、所定の料金を置いて行く客(?)も出てきたので、結局ドリップコーヒーについては、24時間セルフサービスOKということにして料金350円(ブルマンは500円)も自主的に用意した菓子箱を転用した料金箱に入れて行ってということになった。
(マリ・風花・七星・増渕・妃美貴の5人が合鍵を持ち、この中の誰かはお店に居る前提)
一応メニューは、牛丼、天丼、親子丼、カツ丼、スキヤキ丼、中華丼、天津丼、麻婆丼、カレーライス(辛口・中辛・甘口)、ハヤシライス、ロコモコ、ビビンバ、といった所に、ドリップコーヒー、カフェオレ、エスプレッソ、カフェラテ、それに紅茶である(ミルク・豆乳・砂糖は自由に追加可能)。
例によって丼物の具はファミレスチェーン・ブルーフィンのセントラルキッチンから配送してもらっている。
コーヒー豆は若葉の古巣であるメイドカフェ・エヴォンから分けてもらっているが、ブラジル・サントス、コロンビア、キリマンジャロ、スマトラ・マンデリン、ニューギニア・ブルーマウンテン!、ハワイコナ、モカブレンド、オキナワ!などと豆を揃えている。
(ニューギニアでもブルーマウンテンは栽培されているが、日本にはほとんど輸入されていない。日本に入ってきているブルーマウンテンはほとんどがジャマイカ産である。日本国内では沖縄や小笠原でコーヒーが栽培されている)
また紅茶は千里のツテでインドのタミール・ナドゥー州から直輸入している。タミール・ナドゥー州で生産されている紅茶はニルギリであるが、そこの窓口になっている業者がインド国内で買い付けたカナンデバンやアッサム、カングラ、ダージリン、隣国スリランカで買い付けたウバやディンブラも一緒に送ってくれている。実は最初仙台のクレールで使うのに輸入したのだが、結局若葉のお店でも使うことになった。
(若葉と千里は和実のお店・クレールの株主である。和実と千里は若葉のお店・ムーランの株主である。若葉と和実は千里の個人会社フェニックス・トラインの株主である。つまり実はこの3人はお互いに株を持ち合っている。若葉は私とマリの会社・サマーガールズ出版の大株主でもある)
それでここにはコーヒー豆・紅茶茶葉ともに各6〜8種類程度が用意されていた。
「嘘!?カングラがある!」
と紅茶好きのアスカが声を挙げていた。
「いや、カングラを知っている人自体が少ないみたいです」
とその時、たまたま来ていた若葉は言っていた。
「個人的にはダージリンよりこちらが好き」
とアスカ。
「知る人ぞ知る紅茶ですね。私も実は飲んでみてびっくりした」
と若葉は言っていた。
またそもそもここに詰めているスタッフがエヴォンのOGで、ラテアートを作るのもうまい。詰めている子によって作れるラテアートが違うので、それを楽しみにここに日々通うミュージシャンも出てきた。
「アリスちゃん、メイド服は着ないの?」
などとエヴォン時代のメイド名まで覚えている客が言う。
「あれはエヴォン用ですから」
「退職した時返した?」
「記念にもらいましたけど、ここでは着ませんよ」
「アリスちゃんのメイド服姿が見たいなあ」
「鷹野さんがメイド服着ます?」
「俺がメイド服着たら、みんな逃げて行くよ」
エヴォン出身の子がやっているので、メニューには無いものの実はオムレツ、オムライスを作るのも上手い子が多い。結果的にそれが《裏メニュー》化していたが、値段を当初その日詰めていた子がみんな適当に言っていたため、日によって値段が違うという事態が発生し、後で指摘されて慌てて話し合い、オムレツ200円、オムライス400円と統一したようである。
そんな訳でこの丼屋さんはまさかの黒字が出た!
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