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■夏の日の想い出・郷愁(25)

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(C)Eriko Kawaguchi 2017-12-22
 
「それではこれより本物のローズ+リリーを迎えて、後半のスタートです」
 
と川崎ゆりこが言うと、スターキッズと美野里が走り込んで来て、楽器の所に就く。すぐに酒向さんがドラムスを打ち始め、後半《Rhythmic Time》の最初の曲『青い豚の伝説』を演奏しはじめた。
 
ステージのバック、およびアストロビジョンにこの曲のPVのアニメが流れ、歓声と拍手が起きた。
 
とても楽しい曲である。この曲は基本的にスターキッズの基本構成で演奏しているが、このステージでのアレンジでは、月丘さんにマリンバを打ってもらい、キーボードは美野里が演奏している。今日の後半はこのパターンでの演奏が多くなった。
 
なお、私たちの後半の衣裳は振袖風の衣裳である。外見上は振袖のように見えるが実はワンピース型になっていて、頭からかぶる服である。またステージ上で動きやすいように、下半身は多数のプリーツが入っている。もちろん色はマリが白で私が赤である。
 
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最近のローズ+リリーのライブでは定着しているように、前半はアコスティック・タイム、後半はリズミック・タイムという設定にしている。前半は弦楽四重奏(Vn,Vla,Vc,Cb)ベースに電気楽器もドラムスも使用せずに演奏するが、後半はエレキギター、エレキベース、ドラムスを使って電子キーボードもバリバリ使用する。
 
次の曲『青い浴衣の日々』では、青い浴衣を着た女性たちが演奏中、ステージの前を横切っていったが、これは和楽器奏者の内、若い恵麻・鹿鳴・明奈・美耶の4人である。実は和楽器奏者は前半だけで一応出演終了なのだが、ここはこの4人のサービスショットであった。
 
この後は、いくつかの曲でお手伝いしてくれる明奈を除いた5人の和楽器奏者は、もうあがって里美伯母の家になだれ込んで泊まる予定と聞いている。
 
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次の『フック船長』は、アルバムに収録したバージョンでは多数の金管楽器・木管楽器を使用して演奏しているのだが、今日のライブではキーボードで代用している。それでキーボード奏者を月丘さんと美野里・青葉と3人入れて、これらの楽器の音をキーボードで出している。なお、メトロノームは明奈に入れてもらった(青い浴衣のままである)。
 
次の『村祭り』では《和ドラム》を酒向さんが打ち、神楽鈴をゆま、シャモジを明奈が演奏している。この曲の間奏に入る《囃子用篠笛》は音源制作の時と同様に風花に入れてもらった。音階になっていない楽器なので、慣れていないと、音感が邪魔して吹いていて不安になってくる。それで、これは誰にでもは頼めないのである。
 
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ここで少し長めのMCを入れて上で少しスローな曲『冬の初めに』を演奏した。(本当の)作曲者自身、千里のフルートをフィーチャーしている。
 
次は一転して軽快なナンバー『斜め45度に打て』であるが、この曲では明奈にトライアングルを打ってもらった。テレビを叩くようなタイミングでトライアングルを鳴らすのである。
 
そして昔のグループサウンズのような曲『お嫁さんにしてね』では、明奈に今度はハーモニカを吹いてもらった。
 
明奈の出番はここで終了で、ここであがって、自宅に戻るはずである。
 

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いよいよクライマックスに近づいてくる。私は時計と進捗予定表を確認しながらMCを入れて時間調整をしていた。
 
『Heart of Orpheus』を演奏する。この曲にはヴァイオリンを4人いれた他、いくつかの楽器が二重化されている。サックスが七星さんとゆま、フルートが世梨奈と千里、クラリネットが詩津紅と美津穂である。キーボードも美野里と月丘さんで弾いていてマリンバを省略している。
 
なおヴァイオリニストは多くの曲で人数だけ指定しており、負荷が分散するように、交代で出るようにしていた。一応、ヴァイオリニストさんたちには何かあった時のために全ての曲を演奏できるように練習してもらっている。
 
その後『雪の恋人たち』を演奏するが、これはほぼスターキッズの基本構成で演奏する(但しキーボードを美野里が弾き、月丘さんはヴィブラフォン)。これに青葉に鈴を振ってもらった。
 
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「いよいよ押し迫ってきましたね。カウントダウンの時に眠ってしまわないように目の覚める曲を演奏しましょう。『ピンザンティン』!」
 
大きな拍手があり、お玉を取り出すお客さんがかなりいる。
 
ステージ上でも、詩津紅と妃美貴が演奏者にお玉を配る。
 
それで『ピンザンティン』を演奏する。
 
詩津紅と妃美貴はそのままステージの端で、野菜を切ってサラダを作るパフォーマンスをする。使用するドレッシングは例によって福岡のパスタ屋さん・ピエトロのドレッシングである。マリのお気に入りのひとつである。ピエトロの創業者・村田邦彦さんは残念ながら今年の4月に亡くなったのだが、いつも株主総会の懇親会では社長自らドレッシングをその場で手作りし、参加者にサラダを振る舞うパフォーマンスをしていた。明奈の母・里美がピエトロの株主になっていて、何度か食べたらしい。
 
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この食の讃歌を歌った所で、私は会場の時計の数字を見ながらMCをする。
 
「それでは次は今年2017年最後の歌です。『雪を割る鈴』」
 
拍手が起きて鳴り止むのを待ちつつ、私は時計を見ている。そして酒向さんに合図し、酒向さんがゆったりとしたペースでドラムスを打ち始める。
 
ステージ下手からサラファンを着た女性(?)2人が出てくる。
 
それが後半始まりの時にパフォーマンスをしたローザ+リリンであるのを結構な観客が認めて拍手を送ってくれる。隣同士顔を見合わせて笑っている客もある。
 

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この曲には多数の楽器が入っている。フルートが世梨奈、クラリネットが詩津紅、篠笛が青葉、テナーサックスがゆま、更にヴァイオリンも9人入れているが、この他にこの曲で肝ともいうべき楽器が、実はバヤンとバラライカである。
 
今回、バラライカはスターキッズ・フレンズの宮本さんに、バヤンは千里にお願いした。
 
以前のライブでは線香花火の2人にこの特殊な楽器を弾いてもらったのだが、今回は動き出したのが遅かったため、2人は年末年始の予定がふさがっていた。
 
「ごめーん。そちら物凄いことになっているみたいだったから、とてもカウントダウンなんて出来ないだろうと思って、他の予定入れちゃった」
とエツコは私に謝っていた。
 
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確かにあの状態では、こちらに声を掛けるのもためらわれたであろう。それで誰か他の演奏者を調達するか他の楽器で代替するかという線で検討した。
 
バラライカは形が三角で、三弦の撥弦楽器である。ギターが弾ける人なら、割と弾きこなす。特にフライングVのような三角形のギターを弾いたことのある人なら違和感も少ない。宮本さんがフライングVの経験者だったので、彼に頼むことにし、実際の楽器を貸与して10月下旬から2ヶ月間、練習してもらった。宮本さんは日本在住のロシア人のバラライカ奏者さんに入門して練習してくれた。
 
バラライカ以上に困ったのがバヤンである。アコーディオンの一種だが、演奏はボタン式なので、そのボタンの配列を覚えないと演奏できない。外見は普通のボタン式アコーディオンに似ているが、このボタン配列が西欧式のものとは異なっていると聞いていた。
 
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私はバヤンを弾ける人を何人か探したのだが、ローズ+リリーの音楽を理解して参加してくれるような人を見つけることができなかった。そんなことをしている内にもう時間も無くなってきたし、私は普通の鍵盤式アコーディオンで代用することも考えた。
 

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それで誰に頼もうかと考えていた時に、ちょうど千里が来た。
 
千里はこの時、七星さんが書いた『携帯の無かった頃』をまるで私が書いた曲のように調整してくれて、その譜面とデータを持って来てくれたのである。
 
「ありがとう。助かる」
と言ってから、それを受け取った時、私はふと思った。
 
そういえば千里は横笛もベースもできるけど、キーボードも割とできるよなと思う。それで私は訊いてみた。
 
「千里、アコーディオンは弾いたことある?」
「アコーディオンなら、花野子(ゴールデンシックス)が得意」
「カノンか!」
 
「花野子の叔父さんだったかが、古いドイツ製のアコーディオン持っててさ。これ使ってみようと言って借りてきて・・・あれ返したのかなあ。あのバンドは楽器を誰かから借りてきて、借りっぱなしが多いから」
 
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「えっと・・・」
 
「その時、私も少し練習したよ。あのバンドはひとつの楽器が弾ける人を必ず2人以上作っておくポリシーだから」
 
「面白いポリシーだよね。でも今回は多数の楽器を入れた合奏で使うから、最悪、左手までは使えなくていいんだよ。右手だけでも弾けたらいいんだけど」
 
アコーディオンやバヤンの右手はメロディー、左手は伴奏用のコードを演奏するようになっている。
 
「なんだ。右手だけでもいいなら、いっそ鍵盤式のアコーディオンを使えば、キーボード弾きなら誰でも弾けるんじゃない?私が大学生時代に練習したのはボタン式の方なんだけどね」
 
「わあ、ボタン式が弾けるんだ!?」
「でも、何の曲に入れるの?」
と千里は訊く。
 
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「雪を割る鈴なんだけど」
 
千里は一瞬考えた。
 
「あれは、確かバヤンを入れていたのでは?」
 
「そのバヤンを弾ける人が見つからないから、アコーディオンで代用しようかと。以前のライブでは線香花火のエツコに弾いてもらったんだけど、今回彼女は先約が入っていて」
 
「あの人、器用だからあちこちから呼ばれるだろうね。バヤンは冬が持ってるの?」
「サマーガールズ出版で買っている。これ日本国内の個体数は少ないみたいね」
 
と言って、私はマンションの楽器庫からバヤンを取り出しに行く。千里も付いてきた。
 
「バヤンはたしかこのあたりに・・・あ、これだ」
と言って、私はマジックでБаянと書かれた段ボールを持ち上げようとしたが持ち上がらない。
 
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「貸して」
と言って千里が持ち上げてくれたものの
 
「何この重たさは!?」
と言っている。
 
「凄い重量だよね。普通のアコーディオンの3倍くらいあるもん」
と私は言う。
 
「これ持って演奏するの?」
「重たいから、ふつう膝の上に置いて演奏する。ところが、ロシアのストリートパフォーマーは立って持ったまま演奏するんだな」
 
「これを!?」
と言って千里は呆れている。
 
ヤマハのアコーディオンだとだいたい4-5kgであるが、バヤンは14-15kgある。お米1袋半の重さである。コントラバスやチューバが10kgくらいで、それよりも重い。バヤンを立って持ったまま演奏する場合、一応ベルトで身体に固定するものの、かなりの重量感を感じながら演奏する必要がある。けっこうな筋力が必要だ。
 
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ともかくも居間に持って来て、箱から出してみた。箱の中に楽器ケースが入っており、そのケースから楽器を取り出す。楽器ケースにも楽器自体にもАккоという文字が入っている。メーカー名だろうか。
 
千里は楽器を膝に乗せて触っている。
 
「これ右手のボタンは私が練習していたアコーディオンと同じ配列だよ」
と言っている。
 
「え?ほんと?」
 
「右手のボタン配列って主な流儀が2種類あるらしいんだけど、私が練習したドイツ製のアコーディオンはこの配列だった。だからロシアとドイツは同じ方式なのかもね。日本で一般的に普及している配列とは違うみたいなんだけど」
 
「なるほどー」
 
後日、千里・風花と3人で色々情報を検索してみたら、ボタン・アコーディオンの右手ボタンの配列には、イタリア式(C型)とベルギー式(B型)があり、日本で普及しているイタリア式は、端の列から内側の第3列に向けて、C-C#-D/D#-E-F/F#-G-G#/A-A#-B と並んでいるのに対して、ベルギー式のアコーディオンやバヤンの場合は第3列から端に向けて C-C#-D/D#-E-F/F#-G-G#/A-A#-B と並んでいる。つまり1〜3列の配置が反転しているのである。
 
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(その他にノルウェー式とフィンランド式というのがあるが他国ではほとんど使用されない。ノルウェー式はBのバリエーション、フィンランド式(G型)はCのバリエーションである)
 
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