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■夏の日の想い出・郷愁(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2017-12-03
 
埼玉県某市で貸し切ったマンション&仮設スタジオ《仮称・郷愁村》には、苗場から移動してきたメンツと、苗場には行かずにここから参加した組があった。
 
ヴァイオリン奏者8人は、31日(月)のお昼に最寄りの新幹線K駅に集合し、そこからマイクロバスで郷愁村に入ってもらった。
 
苗場に参加していなかった人で、青葉の友人のクラリネット奏者・上野美津穂さんは午前中の新幹線でK駅に出てきた。またバレンシアのメンバー山本心亜と安田礼美もこの日東京から新幹線でK駅に移動。ヴァイオリン奏者と一緒に郷愁村に入る。
 
逆に苗場には参加していた青葉は、まだ大学の試験の途中ということで30日の夜にいったん金沢に戻った。試験が終わってから8月3日に再度来るということであったので、私は青葉の担当楽器である龍笛が絡まない曲から制作を開始した。
 
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最初に制作したのはゴールデンシックスから提供された軽快なナンバー『斜め45度に打て』である。これは昭和40年代のテレビは古くなるとしばしば同期が乱れて、画面が斜め線の並んだ状態になってしまい、その時、テレビの上面を“空手チョップ”(力道山やジャイアント馬場が使用したプロレス技)をするかのように掌を開いた状態で、斜め45度に軽く打つと治る、という都市伝説があったことに由来する。
 
実際には昔のテレビは現在のように基板にICをプリントしていくのではなく、真空管をはじめとする様々な部品をハンダ付けで繋いで作られていたので震動で接触不良部分がちゃんと通電して一時的に治ったように見えるというだけのことであり「治った」状態には持続性が無い。なお60度が良いという説もあった。
 
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この曲は、ほぼスターキッズの基本構成で作られており、間奏と後奏にフルートの多重奏が入るので、その部分は田中世梨奈・久本照香と風花の3人で吹いてもらった(七美花の方がうまいが、上手すぎて田中・久本と合わない!ので風花にお願いした)。
 
この曲は7月31日から8月2日まで掛けて制作した。
 
「3日間で作ったにしては良い出来だ」
と見学に来ていた和泉が言った。
 
「漫画家さんが16ページの原稿を作る時、最初に表紙に漫画のタイトルと第○話という文字を書いて『1ページできあがり』と言うらしいよ」
 
「それで16分の1はできた、と自分を奮い立たせる訳ね」
 
しかしこんな会話ができたのは、この日までであった。
 

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8月3日の昼過ぎ、青葉から霊関係のお仕事の関係で東京入りが遅れるという連絡が入る。どのくらい遅れるのか尋ねてみたのだが、青葉は口を濁す。それで千里の後輩の巫女で龍笛のうまい林田風希さんに連絡を取ってみたのだが、運転免許を取るための合宿に入っているということであった。
 
私は千里に連絡を取ってみた。すると彼女は青葉が関わっている事件も把握しているようだった。
 
「青葉は今抱えている案件で8月中旬くらいまで掛かると思う。更にその最中に別の事件に巻き込まれてしまって、最終的にフリーになるのは12月になると思う」
 
「それでは間に合わない!」
 
「去年の春のツアーに参加した謎の男の娘さんが平日の午前中、6時から12時くらいまでなら稼働できると思うんだけど、彼女じゃダメ?土日は朝から晩までOK」
 
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「それでいい。頼みたい。6時では誰も起きてないから、8時から12時か13時くらいとか頼める?」
 
「13時までならいい。彼女は実はバスケット関係者なんだよ」
「あぁ」
 
「それで午後はチームの練習があるので出られない。でも今の時期はまだリーグが始まってないから土日は全部稼働できる」
 
「助かる。でも午前中こちらで音源制作に参加して、練習に間に合う?」
「13時に音源制作から上がれば、K駅までバイクで走ると距離7kmだから10分程度で到達できる。13:33の新幹線に間に合うから、それで練習場に行けば間に合う」
 
「申し訳無い!交通費・ガソリン代は全部出すから」
「OKOK」
 

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それで翌8月4日朝8時、謎の男の娘さんは来てくれたが、昨年春のツアーと同様プロレスラーが被るようなマスクを付けて、青い塗装のヤマハYZF-R25に乗ってやってきたので、びっくりする(ヘルメットはちゃんとつけてる)。
 
「このバイクは千里さんが青葉ちゃんから借りてきたんですよ。あの子今は1300ccに乗っているから」
「へー!そんな大きなバイクに乗っていたんだ!」
 
「でも、あくまでお顔は内緒なんですね?」
と七星さん。
 
「私のスペック上、顔は開示できないことになっているので」
「楽器が演奏できれば、顔も性別も関係無しでいいですよ」
「はい、それでお願いします。私の性別も謎ということで」
「分かりました」
 
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彼女にもマンションの部屋を1つ割り当て、鍵を渡した。
 
「ありがとう。練習が終わった後、こちらに戻って寝ているかも」
「食事なども管理人室に言ってもらえば、冷凍のお弁当とか牛丼とかもチンして渡せますので」
「了解〜」
 
実際には彼女は毎晩1時半くらいに戻って来るようであった。終電で戻って来たにしては遅すぎる時間なので、コンビニなどで食糧を調達してから戻って来ているのかな?と私は考えた。
 

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それで8月3日から始めた『青い浴衣の日々』には七美花の笙と、謎の男の娘さんの龍笛を入れることができて、かなりスムーズに音源制作は進んだ。謎の男の娘さんは土日はフル稼働できるということで、8月5日は丸1日参加してもらえたので、これでかなり良い出来になった。
 
私はこの日の最終段階の録音を、七星さん・和泉と3人で改めて聴いて検討した。
 
「充分良い出来だと思います。時間も無いし、これはこれで完成ということにして先に進みませんか?」
と七星さんは言った。
 
しかし和泉は5分くらいたっぷり考えてから言った。
「あと1日続けよう。これは私は96%の音だと思う。ちゃんと100%にしてから進みたい」
 
「でもそのペースで進めると、月末までに10曲間に合わないですよ」
「たとえそうなったとしても、ここまで出来ているものはきちんと完成させた方がいいと思うんです」
 
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3人でしばし議論をした。念のため再度音源を聴いてみる。
 
「誰かニュートラルな頭の人に聴いてもらおうか」
と私は提言した。
 
それで深夜で申し訳無かったのだが、浜名麻梨奈に電話してみる。彼女はまだ起きていたようである。電話を通してでは分からないからmp3で送ってくれというのでデータを変換してメールする。
 
5分後に電話が掛かってくる。
「あと2日は練るべきだと思う」
と彼女は言った。
 
「じゃ7日の午前中までやろうよ」
と和泉が言う。
 
七星さんはそれでも3分くらい考えてから言った。
 
「分かった。後のことは考えずに、取り敢えずこの曲を完全に仕上げよう」
 

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それで結局、私たちは8月6日(日)も朝から晩まで調整を続け、7日(月)の午前中まで掛けて和泉も「ここまで練ったら大丈夫かな」と言うレベルに到達した。
 
この後私たちは方針を変えることにした。
 
取り敢えず全曲スコア通りに演奏したバージョンをいったん収録したのである。この作業で7日午後から11日まで掛かる。それでいったんお盆休みとした。この後の作業は17日から再開する。
 
私と和泉、七星さん、それに氷川さんと近藤さんまで入れて私たちはお盆の間に話し合った。
 
本来和泉はローズ+リリーには関係無いのだが、私が判断能力を喪失していると心配して、この会議に割り込んで来た。
 
「どう考えても間に合わない」
というのが全員の一致した意見である。
 
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「取り敢えず完成と言えるのは最初に作った2曲だけど、これは割と易しい曲だった」
「全曲いったん録音してみて分かったけど、難しい曲は、やはり各演奏者が弾きこなすの自体で時間が掛かると思う」
 
「だけどスケジュールを延ばすことは許されない」
 
「逆算してみましょう」
と氷川さんが言う。
 
「求められたのは『11月上旬』の発売です。上旬というのはいつまでだと思いますか?」
「11月10日じゃないんですか?」
「11月10日は金曜日なんですよ。ですから、CDの発売日は水曜日が良いからと言って11月15日(水)に発売すると主張します」
と氷川さんは言う。
 
「うーん・・・・」
 
「一方録音が終了した後に掛かる時間を考えてみましょう。録音が終わった後で最終ミックスダウンしてマスタリングしてで通常は半月。一方ミックスダウンが終わったものから順次PVを撮影します。これが10曲なら最低でも20日掛かると思います。この撮影した映像をマスタリングが終わった音源と合わせてPVの編集をします。この作業がどんなに頑張っても半月掛かります。そこからDVDのマスターを作ってプレスに回し、常識的に考えてどんなに急いでもプレスには半月。ですからCD/DVDのセット版を発売できるのは、録音終了の2ヶ月後です」
 
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「ということは?」
 
「録音終了が9月15日(金)、音だけのマスターの完成が9月末というのが限度だと思います。PV用映像撮影のリミットが9月25日(月)の朝一番くらい」
と氷川さんは言った。
 
「それプレス工場にかなり無理を言わないといけないですよね」
「最初から話を通して前金を割り増しで払っておけば、スケジュールを空けてくれると思います。海外のプレス工場を使う手もあります」
 
「その代わり、万一スケジュール通りにマスターを入れられなかったから、数千万円レベルの違約金が発生する」
「仕方ないですね」
 

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「今氷川さんがおっしゃったスケジュールまで延ばしましょう。どんなに納期が厳しくても、一度でも品質の悪い商品を発売してしまったら評価は地に落ちます。品質か納期か究極の選択を迫られたら納期を選ぶべきです」
と和泉は言った。
 
「納期?」
「あわわ、品質!」
 
和泉もかなり煮詰まっている(誤用)である。
 
「そのあたりがテレビ放送とか雑誌の掲載とかだと、納期を選ばざるを得ない場合もあるけどね」
と近藤さん。
 
「まあそれで落書きが雑誌に載ったり、テレビの放送に流れたこともかつてはありましたけどね」
と七星さん。
 
「そういう訳で8月17日から9月15日までの30日間で残り8曲の制作を頑張ろう」
「平均して3.75日か。。。」
「厳しい」
「最低でもその倍の時間が欲しい」
「いやこの後はハイレベルの曲が多くなる。3倍欲しい」
 
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「でもこれ以上延ばすと発売に間に合わない」
 
私たちは重苦しい雰囲気に沈んだ。
 

9月以降まで制作期間を延ばした場合、演奏者が確保できないという問題もあった。この《郷愁村》は5月に契約して念のため今年いっぱい12月まで8ヶ月間借りている。しかし演奏者は8月いっぱいの拘束ということで契約している。学生さんは9月以降の平日は出てこられないし、それ以外の人でも9月以降は別のスケジュールを入れているだろう。
 
そこで現在参加している人に9月上旬の参加の可否を尋ねると共に出られない人があった場合、その代替演奏者の確保を至急おこなうことにした。この作業は氷川さんがやってくれることになった。
 

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