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■夏の日の想い出・郷愁(10)
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目次 8
時間索引 #
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この日は朝8時の飛行機に乗るので6時頃、ラウンジで朝食を取っていたら、雨宮グループの作曲の管理をしている新島鈴世さんから電話がある。
「朝早くから済みません。千里ちゃんが、今日はこの時間帯でないとケイさんと連絡が取れないと言われたもので」
と彼女は言っている。
「ええ。もう少ししたら飛行機に乗る所だったんですよ。午後からは音源制作に入る予定でした」
と私は答える。
「琴沢幸穂が書いて送って来た曲が、多分ローズ+リリーに合うと思うから、照会してみてくれと言われまして」
そういえば琴沢幸穂の曲のアレンジは千里がしているんだった。彼女はまだ作曲能力は戻らないものの、編曲ならできると言って、どうも多産型っぽい琴沢の作品の編曲で“リハビリ”しているっぽい。
(実際には琴沢幸穂は千里2+3で、編曲をしているのが千里1。一方千里1は自らも《埋め曲》レベルの曲は月産5曲ペースで書いており、これの編曲は《たいちゃん》がしている。こちらは原則として東郷誠一名義で発表される)
出先なのでということで、軽いmp3で送ってもらった。気に入ったらCubaseのデータを送るということである。
『銀色の地平』という雪景色を歌った歌である。物凄く透明感のある曲に仕上がっている。千里のアレンジはフルートをフィーチャーしているが、ここは龍笛の方がもっと透明感が上がるという気がした。音源ライブラリの中にあまりきれいな龍笛の音が無かったので、いっそのことフルートの音色を設定したのかもという気もした。
政子が
「どんな曲?」
というのでヘッドホンを渡して聞かせる。
「きれいな曲だね」
「やはりこの琴沢さんって凄いよ。まだ学生さんというのが信じられないほど熟練を感じる」
「これも一緒に入れない?」
と政子は言う。
「ん?」
「青い豚の伝説、青い浴衣の日々、青い恋、そして銀色の地平」
「悪くないかもね」
「CDのタイトルはブルーシルバーで」
「いや『青い豚の伝説』でいいよ。それが一番インパクトがあるし」
と私は言った。
10時すぎ、私と政子が羽田に戻ったら、到着ゲートの所にTKRの松前社長と★★レコードの加藤制作部次長と氷川さんがいるのでびっくりする。
「ケイちゃん、カウントダウンライブやるよ」
「え〜〜〜!?」
昨年、一昨年とローズ+リリーのカウントダウンライブをしたのだが、今年は『郷愁』の制作が酷いスケジュールになり、私も、とてもそんな所まで考え切れていなかった。
「村上社長に訊いたら、そちらで適当にやってと言われたから適当にやることにした」
などと加藤次長は言っている。
「場所はどこですか?」
「今年は博多ドームを使う」
「ドーム会場ですか!?」
取り敢えず氷川さんの運転するシーマ(社用車)で恵比寿に移動して、私のマンションで話を聞くことになった。私は七星さん・鱒渕さん・風花も呼んだ。近くに居た風花と鱒渕さんは私たちがマンションに着いた時、もう中で待っていた。七星さんも10分ほどでやってきた(3人ともここの鍵を持っている)。
居間の円卓応接セットに案内するが、席順はこのようになった。
松前−氷川−七星−マリ−ケイ−風花−鱒渕−加藤−(松前)
氷川さんと加藤さんの間に松前さんが入り、ふたりは目を合わせないので、昨年夏の、氷川さんによる加藤次長レイプ未遂!?事件がまだ尾を引いているのかなという気もした。
「一昨年が北陸新幹線の沿線、昨年は東北新幹線方面だったから、今度は九州新幹線方面ということで計画していたんだよ」
と加藤次長が言う。
「なるほどー」
「企画は6月頃から始めていたんだけど、実は最初の予定は熊本だったんだ」
「あら」
「それで夏の時点で熊本県内の菊池温泉・山鹿温泉・玉名温泉・黒川温泉・湯の児温泉・湯の鶴温泉などで合計5000人、佐賀県の嬉野温泉・武雄温泉などに4000人、合計9000人枠を確保していた。これ全部男女別というか正確には性別を男・女・MTF/MTX・FTM/FTXと4種類に分類した上での相部屋の前提ね。でも、その後で君たちのスケジュールが恐ろしいことになってきたんで、僕はヒヤヒヤしてた」
と加藤次長は言う。
9000人枠のキャンセル料を払うなんてことになったら、考えるに恐ろしい。お金の問題だけでなく、社会的な批判まで浴びそうである。
「実は去年の熊本地震で熊本県内にはかなり損傷を受けて閉鎖したり建て替えになった商業施設が多くてね」
と加藤さんは言う。
「その中で、熊本市近郊のショッピングモールが、結構痛んでいたんで、今年秋から解体を始めて、2018年秋くらいに新しいビルを建ててリニューアルオープンするという情報があって、僕たちはそこの所有者に接触した」
「あぁ」
「それで予定では2017年末の時点で更地になっているはずだったんで、カウントダウンライブに貸すのは構わないと言ってくれていた」
「ええ」
「ところがそこが建て替えの作業前に倒産してしまって」
「あらぁ」
「それで解体工事もできないまま現在放置されている」
「さすがに解体工事までこちらではできませんね」
「担保権とかの関係も難しくなっているみたいだしね。それで僕たちは9月になってから代替の場所を探し始めた。しかし5万人の観客が入る場所というのは、なかなか無くて」
「まあそうですよね」
「それで結局博多ドームを使うことにした。ここが偶然にも12月30-31日の2日間空いていたんだよ」
私は疑問を感じた。
「1月1日は?」
「アクアのライブがある」
「わっ」
「アクアのライブは1日の午後からだから、午前中にステージのセットを変更すればいい。座席はそのまま。乱れている所を治すだけ」
「いいかも知れないですね。でも1日からお仕事のスタッフさんたち大変!」
「でもそういうのが好きな人たちもいるしね」
「それはありますね」
「会場が変更になったけど、熊本県内の温泉は菊池温泉1:40, 山鹿温泉1:30, 玉名温泉1:30, 黒川温泉2:00, 湯の児温泉2:30, 湯の鶴温泉3:00で、これは許容範囲と考えることにした」
「3時間が許容範囲ですか!?」
「夜行バスと翌日の温泉のセットと考えれば悪くは無い」
「確かにそういう考え方はありますね」
「1月1日の夜も泊まって2日の午前中にチェックアウトだし」
「1日の午前中にチェックアウトでは辛すぎますよ」
「佐賀県の方はかえって近くなって、嬉野温泉1:30, 武雄温泉1:20。これに急遽、佐賀県の古湯温泉1:30, 唐津温泉1:00, 福岡県の二日市温泉30分、原鶴温泉1:00, 脇田温泉1:00、更に大分県で福岡から1時間半で行ける湯布院、2時間で行ける別府温泉、2時間半で行ける長崎県の雲仙・島原・小浜の各温泉、と照会して、これらで合計8000人分の枠を確保した」
「凄い」
「だから押さえた温泉枠は17000人分。更に福岡と北九州をはじめ福岡県内の各都市、熊本・唐津・下関など福岡から直結感のある都市のホテルを頑張って押さえてこれが20000人分。合計37000人分の宿泊を確保した」
「結構確保できましたね」
「場所がいいだけあって去年以上に確保できた。実は福岡近郊の人が別府とか湯の児とか小浜温泉とのセット券を買ってくれることも期待している」
「ああ。それは需要ありますよ」
「これで足りない分は昨年と同様に体育館に簡易ベッドを並べて対応する。これも現在福岡県内、20の体育館が協力してくれることになっていて、この20個で約6000人収容可能。これで宿泊セットで申し込む人はほぼ全員どこかに泊めることができると思う」
「あの体育館での宿泊は昨年けっこう好評だったみたいですね。何といっても安いし」
「そうそう。地元の商店街とかでも特需だったようだし」
「そちらもお正月が無くなりますけどね」
「昨今不況だから、屋台出してくれる所に準備金を事前に渡したりしたので助かったみたいだよ」
「でもこれ実はアクアのドームツアー告知前だったから確保できたんだよ」
「あぁ・・・」
「チケットはいつから発売ですか?」
と私は尋ねた。
「明後日の土曜日、10月21日に告知して、発売は翌週の10月28日から。実はアクアのツアーと同時発表なんだ」
「わぁ、明後日発表ですか!」
「ちなみに明後日、ローズ+リリーのシングルとベストアルバムの発売も告知するから」
私は加藤さんたちに言った。
「実はそのシングルの中身を差し替えたいんですが」
と私が言うので、加藤さんも氷川さんもびっくりする。
「どういうのに差し替えるの?]
と松前さんが訊くので、私は入れたいと思っている4曲を私がその場でキーボードを弾きながら試唱してみせた。
「青い豚の伝説、いいね」
「インパクトがありますでしょう?」
「うん。Four Seasonsはきれいな曲ばかりだけど、やや訴えるものは弱いような気もしていた。こちらの方が絶対いいと思う。その曲のデモ音源を明日の夕方までに作れないかな? 21日から流す予定だったCMを差し替えるよ」
「作れると思います。本番音源は差し替えになると思いますが」
「うん。それでいい」
それで七星さんが青い豚の伝説の私が書いた手書き音符をスターキッズのメンバーにすぐFAXした。
「差し替えるとなると、こういうスケジュールでいいですか?」
と氷川さんが確認する。
「10月30日(月)の朝一番に和泉さんたちの方で進めてもらっているベスト盤のマスターをプレス工場に納入します。祝日前の11月2日(木)夕方18時までに新しいシングルのマスターを納入。11月15日(水)に両者を同時発売します。『Four Seasons』はどうします?それも制作しますか?」
「作りましょう。それは『郷愁』の制作に割り込ませる形で12月半ばくらいまでに制作して2月くらいの発売、そして『郷愁』は11月から3月まで4ヶ月の制作期間で5月くらいの発売ということで」
「ゴールデンウィーク前に発売できるといいんですが」
「3月中にマスターを完成させたら行けますよね?」
「予めその日付を予約して前金も払っておけば行けます」
と氷川さんが言うと
「じゃ、その方針で進めよう」
と加藤さんが言った。
「しかし12月31日が私たちのカウントダウンライブで、1月1日がアクアのニューイヤーライブですか」
「福岡の年末年始はもうローズ+リリーとアクアで埋め尽くされますね」
と七星さんが言う。
「結果的に他の用事で福岡に来ようという人は、11月以降に予約しようとしても、全然宿泊が確保できなくて困るかも知れないけど」
「確かに!」
「うちは原則として各旅館・ホテルのキャパの3割までしか押さえてない。一部『いっそのこと全館貸し切って欲しい』と言われた小規模な旅館以外ではね。でも残りの大半が明後日以降、アクアのファンに押さえられてしまうかも知れない」
と松前さんが言う。
「まあそうなるでしょうね」
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