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■夏の日の想い出・郷愁(6)

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8月17日(木)、参加者が戻ってくる。
 
和楽器をフィーチャーした曲を優先することにして『刻まれた音』の制作を始める。和楽器の場合、そもそも洋楽器と和楽器の音程が異なっている問題があり、音が美しく響き合うポイントを見い出すのに時間が掛かる。結局この曲の制作は21日まで掛かってしまった。
 
「まだ完成していないと思う」
と風帆伯母から言われる。
 
「でも制作時間が無いです」
と七星さんが言う。
 
議論の結果、この音源はいったんここで留保して、時間の余裕ができたら後で再度調整するということにした。風帆伯母はかなり不満そうであった。
 
しかしこの「いったん留保」がその後に制作した全ての曲で起きていくことになってしまった。
 
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8月31日(木).
 
当初の予定ではこの日までに全ての録音が終わっていなければならなかったのだが、ここまでできた(ことにした)のは5曲である。
 
9月以降は参加できない人も出てくる。
 
風帆伯母は私に言った。
 
「こういう品質の音源制作にはこれ以上協力できない。契約は守らないといけないから今日までは参加していたけど、この後、若山一派は全員引き上げさせる」
 
「分かりました。本当にごめんなさい」
 
それで和楽器奏者は、龍笛担当の謎の男の娘さん以外全員引き上げてしまう。謎の男の娘さんは、リーグが始まるのが9月下旬ということで、9月15日までなら付き合ってくれるとということであった。
 
「和楽器パートどうする?」
と鷹野さんが訊く。
 
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「無しで制作するしかない」
と七星さん。
 
「それでは音の響きが足りない」
「でもどうにもならない」
 

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ヴァイオリニストに関しては、9月以降参加できない人の代替をアスカが手配してくれたので、何とか8人体制を維持できた。しかし第1ヴァイオリンの田中成美さんは女子高生で学校が始まってしまうので無理ということだったので、代わりに私が弾くことにした。彼女のレベルのヴァイオリニストは、さすがに簡単には確保できないのである。
 
「でもヴァイオリンまで冬が弾いていたら、冬は疲れて歌唱にも影響が出る」
と和泉から指摘されるが、代替策が無い。
 
そして9月15日が来たが、まだ録音は終わらなかった。何とか最後の曲の録音を私が「これで完成ということにしよう」と言ったのが9月18日(月)の朝であった。
 
「だったらこれでミックスダウン、マスタリングの作業を始めるよ」
と氷川さんが言う。
 
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「お願いします」
と私は力なく答えた。
 

氷川さんと七星さんが話し合い、PVの映像でロケなどをしなければならない部分にはケイとマリは出演させないことを決めた。あちこちで他の俳優さん・女優さんを手配してイメージビデオ的に撮影し、スタジオで演奏しているケイとマリの映像と合わせ付けていく。不満のある制作方法だが、疲れたような顔のケイとマリを映すよりマシという決断だった。
 
私は9月下旬はミックスダウン、マスタリングをしてくれる技術者さんに付いて、その内容のチェックや指示などをしていた。
 
「本当にこれでいいんですか?」
と技術者さんが言うのを
「すみません。それでお願いします」
と言って無理に進めた。私は罪悪感で心の中がいっぱいになった。
 
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音源のマスターは10月3日(火)に完成した。すぐにPVの編集に入るが、そちらは私が疲労のピークに達しているということで、七星さんが見てくれることになった。
 

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10月7日(土).
 
私はその日“政子に起こされて”、佐良さんの運転するエルグランドに乗り、佃島(つくだじま)に向かった。
 
ここ2ヶ月ほどの体力的、精神的な疲労が激しくて、正直寝ていたかったのだが、最近アクアのCD制作の度に関係者の誰かが大きなトラブルに見舞われているというので、一度お祓いに行って来ようということになったのだそうである。それで私たちもアクアの関係者ということで、政子が張り切って参加を決めてしまった。
 
参加するのは、アクア本人と山村マネージャー、アクア専任の影武者・リハーサル歌手でもある今井葉月、事務所社長の秋風コスモスと副社長の川崎ゆりこ、それにやっと退院した前マネージャーの鱒渕さん、わざわざ富山から出てきたアクア・プロジェクトのプロデューサー青葉、ディレクターの和泉、私と政子、それに丸山アイと運転手の佐良さんという12名である。
 
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「エレメントガードの人たちとかは?」
と私が訊くと
 
「9日に回る」
と和泉が答える。
 
「今日だけじゃないんだ!? 千里とかも?」
「千里は11日」
「3回もやるんだ!?」
 
「関係者が多すぎて、まとめて回っていたら目立ち過ぎるし、ファンが騒いだりしてまともな参拝にならない可能性があるから、日程を3つに分けたんですよ。その他に映画関係者が来週行くらしいです」
とコスモスが説明した。
 
「4つに分けるのか!でも他の3日程はアクア抜きで回る訳?」
「それはあまりに間が抜けているからアクアは毎回参加します」
 
「大変だね!」
 
「だからボクはバスガイドさんの気分です」
などとアクア本人は言っている。
 
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「バスガイドさんの衣裳つける?」
「それは勘弁してください」
 
しかし翌日政子はミニスカの可愛いバスガイド・コスチュームを調達して、§§ミュージックに持ち込んだらしい!
 

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この日は月島駅前に集合したのだが、いったん車を近くの駐車場に駐めて、歩いて住吉神社まで行った。拝殿前でお参りした。
 
駅前まで戻ってから3台の車に分乗して東京駅に向かう。その車内でエルグランドに同乗した青葉から言われた。
 
「今回の音源制作に参加できなくて済みませんでした。でもケイさん凄く焦燥してる。大丈夫ですか?」
 
「うん」
と答えたまま私は少し放心状態になっていた。
 
新幹線で新大阪まで移動し、レンタカーのマイクロバスに乗る。これが何だか豪華な仕様のバスであった。
 
「こんなマイクロバスもあるんだね〜」
「今日の参加者がワゴン車には乗りきらないのでマイクロバスにしたんですが、偶然、VIP仕様のバスが空いてて借りられたんですよ」
「確かにこれVIP仕様だよね!」
 
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このマイクロバスで住吉大社まで行き、ここでは昇殿してお参りをした。代表者のアクアだけでなく、参加者全員の名前が読み上げられ、全員玉串拝礼までした。私はここに参列していて、心が洗われるような気分だった。
 
その後、近くの和食の店でお昼を食べ、滋賀県の多賀大社(御祭神はイザナギ・イザナミで、天照大神の親に当たる)にお参りする。その後、伊勢に移動して外宮近くのホテルに泊まった。
 
ここで私は今日の参加者みんなから
 
「ケイの元気が無い」
と指摘された。
 
コスモスが
「やはりアルバムの進捗がよくないの?」
と訊く。
 
それに対して和泉が
「私は作り直すべきだと言っている」
 
と言った。そして私のパソコンを勝手に開けて、ハードディスク内にコピーしているマスター音源を再生した。
 
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音源は65分間再生されたが、再生が終わってから全員が言った。
 
「これはローズ+リリーの音ではない」
 
退院したての鱒渕さんは言う。
「全体的に未完成だと思います。これは音の素材をお鍋に入れただけのもので掻き混ぜ不足、煮込み不足です。これはお料理ではなく、素材のままなんです」
 
丸山アイは
「レコード会社と喧嘩しても、違約金払ってもいいから延期して作り直すべきだと思う」
と言った。
 
「私もそれを考えた。でもどうやって交渉しよう?」
と私は本当に困って言った。
 
するとアクアのマネージャー山村が言った。
 
「自分に任せてくれませんか?絶対村上社長を説得してみせますから」
 
彼女はこういうことも言った。
 
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「だいたいローズ+リリーって、マネージャーが居ない。細かいことまでケイが交渉している。その負荷のせいで、それでなくても厳しいスケジュールが更に厳しくなっている。交渉力のある専任のマネージャーを雇うべきです」
 
この時、政子が発言した。
「ケイはこの通りで、もう判断能力を失っています。ローズ+リリーのリーダーとして私がお願いします。山村さん、そのレコード会社との交渉をしてもらえませんか?」
 
「分かった。任せて。どのくらい延期すればいい?」
と山村さん。
 
「最低半年。だからこのアルバムは来年の3月か4月の発売」
と丸山アイ。
 
「よし。そのくらいの延期を呑ませてみせる」
と山村さんはは力強く言った。
 
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翌日はまだ暗い内からホテルの玄関に集合し、外宮まで歩いて行って参拝した。歩いて行く内に空が明るくなり始めた。いったんホテルまで戻り、荷物を持ってチェックアウトし、マイクロバスに乗って内宮に移動した。そして宇治橋を渡るところで日の出となった。
 
その美しい情景に感嘆の声があがっていた。
 
内宮にお参りしてきてから、駐車場で解散となった。
 
この後マイクロバスは名古屋駅に寄ってからレンタルした大阪まで回送するので名古屋駅・大阪方面に行く人はそのまま乗っていて、他に行く人は適当な所で降りて下さいとコスモスが案内した。すると丸山アイと青葉が宇治山田駅前で降りて別行動になるということであった。
 
そういえば丸山アイはアクアと何で関わっているんだっけ??
 
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青葉たちを降ろした後でバスは伊勢自動車道に乗り、名古屋方面に向かう。8時半すぎに名古屋駅に到着。大半の人がここで降りた。佐良さんとゆりこが大阪に行くということであった。政子が
 
「しのぶちゃん、休憩取りながら運転してね」
と声を掛けて降りていた。
 
名古屋駅で降りた私たちはそのまま新幹線に乗って東京に帰還した。鱒渕さんと葉月がみんなにお弁当とお茶を配っていた。
 
「私たちだけもらっていいのかな」
「佐良さんと副社長は途中のSAで朝食を取って休憩するとのことでした」
「早く降りたアイさんと大宮先生にも社長が朝食代を渡してましたから」
「さっすが」
 

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夏の日の想い出・郷愁(6)

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