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■夏の日の想い出・郷愁(33)
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(C)Eriko Kawaguchi 2017-12-25
尾藤教授の編曲は1月15日(月)に仕上がった。いったん金曜日に出来上がったのだが、それを見て私は若干の修正依頼をした。
「なるほど!そうだよね」
と教授もその指摘に納得したようで、土日掛けて修正してくれた。
「今回は僕自身凄く勉強になったよ」
と教授は言っていた。
そしてこの曲の収録は、1/22-28 の一週間で収録をおこなった。最初平日の22-25日はスターキッズのみでの演奏でだいたい完成させる。そして26日(金)には休日組の『ふるさと』を完成させた上で、27-28日に♪♪大学の学生オーケストラのピックアップ・メンバー(人選は尾藤教授がしてくれた)が郷愁村に来てくれて、ここで収録を行った。
「このスタジオ広い」
とオーケストラのメンバーが言う。
「何も無い所に建てたスタジオなんで、広く面積を取れたんですよ」
と私は説明した。
上手な人ばかりなので、ほとんど1発で合ったようにも思えた。
しかし私は簡単にはOKを出さなかった。私は最初の演奏の問題点を幾つか指摘する。私が1度聴いただけなのに、各パートの細かい問題を話すので、オーケストラメンバーも、こちらを見直した感があった。
特に私がヴァイオリンやクラリネットなどで「こんな感じ」などと言って実際に演奏してみせたりすると結構表情が変わっていた。
最初はやはり単純な出張演奏のバイト程度のつもりで出てきていたのだろうが、マジでこの曲を演奏するぞという雰囲気になってきた。
夕方18時でいったん今日の練習を打ち切り、宿舎に入ってもらう。この日の夕食は、若葉がムーランのフレンチの車を郷愁村に持って来て提供したので上等のフレンチを味わうことになり、メンバーから歓声があがっていた。
もっとも近藤さんとかは「俺は和食がいいんだけど」などと言って、若葉に牛丼を作ってもらって「鴨のなんちゃらとかより、こっちが美味しい」と言って酒向さん・月丘さんと3人で自主的に持ち込んだビールを飲みながら、デイルームで食べていた。
28日の朝は、用意したバスに乗って、予め借りていた、K市の市民会館に移動した。そしてここのステージの真ん中にスターキッズ、その左右にオーケストラと並び、私とマリが前面に立って、ここで『郷愁協奏曲』を生演奏した。
この様子を撮影してPVの一部に利用する(今回のピックアップメンバーには最初から映像撮影もあることを説明して顔出しOKの人のみで構成している)。
郷愁村に戻ってからまた真剣な感じで練習が続く。一度ステージで演奏したのが刺激になって、このスタジオでの練習でも全員進歩が見られた。それでも私や尾藤先生の指示の声が飛ぶ。
そしてお昼を挟んで午後から実際に録音に入った。そして5回収録した中で、私・七星さん・アスカ・尾藤先生の4人で検討した所、その中の4回目の演奏がいちばん良かったということになり、それを採用することになった。
OKが出た時、メンバーの間に歓声があがっていた。
こうして紆余曲折あった『郷愁』の収録曲は全て録音し終わったのである。
大編成での録音になったので、ミックスダウンには3日下さいと担当の中道さんから言われた。これには七星さんが付き合ってくれる。そのあとマスタリングをして来週頭くらいにやっと『郷愁』のマスターが完成するはずである。一部のPV録画・編集も残っているものの、私たちは28日の夜、郷愁村のデイルームで打ち上げをした。
参加者は私とマリ、スターキッズ&フレンズの7人、氷川さん、秩父さん、風花、妃美貴、美野里、詩津紅、千里、そして郷愁村の村長!?倫代である。今回の郷愁協奏曲の収録に参加していなかった人もいるのだが、呼び出して!参加してもらった。
大量のお肉を持ち込んで焼肉パーティーにする。ビール、日本酒、ワイン、スコッチウィスキーと用意したし(自宅マンションから大量に持ち込んだ)、政子の希望でケーキやクッキーなどもたくさん調達している。
「足りなくなったら買いに行って来ますから」
と妃美貴が言っている。
最初に私がみんなに今回本当に苦労を掛けたことを謝り、更に氷川さんが、レコード会社の方針に振り回されてしまったことを謝ったので
「なんかお詫び大会になっている」
という声があがった。
近藤さんが音頭を取って乾杯して、その後、倒れない程度に自由に食べて飲んでということにする。後、眠くなった人は自分の部屋に帰って寝てねということにした。結果的にはオールナイトになる人たちも出そうである。
「結局収録には5ヶ月掛かっているね。夏にやったのも含めて」
と酒向さんが言う。
「夏にやったのは結果的には準備運動というか、初期練習みたいな感じになりました」
と七星さんは言う。
「うん、あれが無かったら11月以降の録音のひとつひとつにもっと時間が掛かったと思う」
と鷹野さんも言っていた。
「今回費用もとんでもなかったでしょ?」
「Flower Gardenなんて1億でできたんだけどなあ」
と私も嘆くように言う。
「このあとCMとか流す費用がまた数千万でしょ?」
「そうなんですよ。あれがいちばん高い」
「来年は10億掛かったりして」
「色々見直すべき点があると思うんですけどね。さすがに今回はお金を掛けすぎましたよ」
と私は言った。
「だけどこの郷愁村は良かったですよ」
と、フレンズの香月さんが言う。
「これまでは集中して制作に入る時は都心のホテルに泊まり込みだったけど、ホテルって色々不自由な所も多いんですよね。結局色々余計な費用も掛かるし」
「それはあるかもですね」
「郷愁村は自分の別荘感覚で使えたから、ずっと個人的な荷物を置いていたし」
「まあスターキッズ&フレンズとか、私たちや風花・詩津紅・妃美貴・美野里・氷川さんといったあたりは、もう部屋を固定して、空いていてもそこは他の人には貸しませんでしたからね」
「それで撤収するのに“お引越”が必要な人もあるようだ」
「いっそここに住みますか?家賃は共益費込み月6万でいいですよ」
「一瞬考えてしまった」
「いや、さすがに他の仕事に行くのに大変すぎる」
「駅まで行くのに車が必要ですからね」
「何かバイクで通勤していた人もいたね」
「うん。確かにバイクは便利なんだ。ラッシュ関係無いし」
「雨の日以外はいいよね」
「ホテル暮らしだと、食事が外食とコンビニばかりになるのも嫌だったね。結局おなかいっぱい食べられないし」
「今回は自炊していた人もいたね」
「初期段階で要望が出たんで、IHヒーターとそれ対応の鍋・フライパン、フライヤー、ホットプレート、電気炊飯器・オーブンレンジ・オーブントースター・電器ケトルを全室に導入したんですよね。お米も希望者には米びつで配布したし。食パンとチーズ・ハム・ベーコンと牛乳・ヤクルトも毎朝希望者に配給したし」
「そのあたりは倫代ちゃんにお世話になった」
「力仕事はうちの旦那ですが。でも私は楽しかったですよ。凄いハイレベルな音源制作を見学させてもらったし」
と倫代は言っている。
「後から各部屋に配布された昔風のトースターも面白かった」
「あれ結構ハマった」
「妃美貴ちゃんは大地を守る会をここに届けさせていたね」
「だってどうしても野菜が不足するんですよ」
「ところで次のシングルはいつ頃?」
という質問が出る。
「アルバムのリリース日が今の状況だと、2月に海外版の歌唱収録をして、国内盤が3月28日・水曜日、海外版は5月上旬くらいに考えているので、次のシングルは6月くらいに出るといいかも知れません」
と氷川さんは言う。
「じゃその音源制作は3月かな」
「そんなものでしょう」
「次のシングルに入れる曲とかはだったら2月くらいに書いてもらえばいい感じかな」
その時、政子が発言した。
「こないだの曲を入れようよ」
「うん?」
「『アギトとオウガ』だっけ?」
「そのタイトルも面白いけど、書いたのは『をぐなとをみな』だよ」
と私は言う。
「どんな曲?」
という質問があるので、私はパソコンを開けて、まだCubaseのプロジェクトの状態でmp3にも落としていない曲を再生しながら歌ってみせた。
その場がシーンとしていた。
あまり出来がよくなかったかな?と私は思ったのだが
「これいい!」
という声があちこちからあがる。
そして氷川さんが言った。
「この曲、『郷愁』に入れません?」
「え!?」
「これを先頭曲にしようよ」
「そうそう。それで『郷愁協奏曲』がラスト」
「え〜〜!?」
「やはり先頭曲は本当のマリ&ケイ作品がいい」
みんなは『郷愁協奏曲』を丸山アイの代作と思っている。しかしみんなに言われてみると『をぐなとをみな』は『郷愁』のトップにふさわしい作品かもという気がしてきた。日本民族の郷愁という感じである。
それでいったん決まっていた曲順を変更することにした。
金曜日の段階でスターキッズ、私とマリ、氷川さんの8人で打ち合わせていったん次のように曲順を決めていた。
『郷愁協奏曲』
『同窓会』
『刻まれた音』
『トースターとラジカセ』
『斜め45度に打て』
『セーラー服の日々』
『靴箱のラブレター』
『硝子の階段』
『お嫁さんにしてね』
『携帯の無かった頃』
『フック船長』
『ふるさと』
ここでこの『をぐなとをみな』をトップに置いて、『郷愁協奏曲』を『ふるさと』の後に置こうという話である。
「そしたら13曲にする?」
「いや、どれか1つ外そう」
「どれ外す?」
すると七星さんが
「『携帯の無かった頃』を外しましょう」
と言った。これはマリ&ケイ名義だが、七星さんが代作した作品である。
それで私は言った。
「でしたら『携帯の無かった頃』は本来の七星さん風の編曲に戻して、次のシングルに入れましょう」
すると千里が言った。
「じゃ、それを私が《あたかも七星さんが書いたような作品》に改変するよ」
「じゃよろしく」
と私は言った。
七星さんはちょっと呆気にとられていた。
この作品は元々七星さんが《ケイ風》に書いた作品なので、オリジナルに戻しても七星さんっぽくないのである!
結局その場にいたメンツで翌日1月29日の夕方からそのまま郷愁村で録音作業をすることにした。譜面に関しては、千里(千里1)が1日でスコアを作ってくれたので、それをベースにスターキッズ&フレンズで演奏し、多少調整を掛けることにした。
演奏参加者は下記である。
AGt.近藤 Vn.鈴木真知子 Va.鷹野 Vc.宮本 Cb.酒向 Tp.香月 Fl.千里 Cla.詩津紅 Pf.美野里 ASax.七星 Marimba.月丘 箏.今田友見 KB.風花・倫代
友見は呼び出した! ヴァイオリンは真知子ちゃんに連絡したら、今月いっぱいならいいですよ、ということだったので参加してもらった。
そして演奏しながらの調整を始める前に私はみんなに言った。
「最近ちょっと感じていたんですが、私が書いた作品の場合、みなさん他の作家の作品に比べて、あまり意見を出してくれない気がしていたんです。私の作品の場合でも、遠慮無く意見を出して、直した方がいいと思った所はどんどん直していきませんか?」
近藤さんと鷹野さんが顔を見合わせていた。
「分かった。確かに少し遠慮があったかも知れないけど、どんどん意見を出すよ」
と近藤さんが言い、他のメンバーも頷いていた。
結局この曲は29-30日と調整を続け、31日になって完成の域に達した。31日の午後に数回録音していちばん良い出来のものを採用する。
「お疲れ様でした!」
「これで本当の終わり!」
それであらためて打ち上げをしてアルバム『郷愁』に関するアーティスト側の作業は完了した。
『郷愁協奏曲』のPVは、先日の市民会館で収録した生演奏の映像と、郷愁を起こすような風景の映像とのミックスで編集した。これは夏の間に★★レコードのスタッフによって全国各地で撮影されていた映像をかなり使っている。
新たに撮影したのは、主として東北地方で撮影した雪景色である。雪の中の初詣や十日戎などの様子、スキーやスケートをする子供たち、雪合戦(子供会に頼んでやってもらった)、かまくら、雪だるま、家が雪に埋もれて2階から出入りする様子(実は雪を重機で積み上げて撮影した)、などなど。
また沖縄で桜が開花したという情報で現地に飛び、早速その映像を撮影してきた。現地の社員や知人を集めて!花見の宴会もしてもらっている。実はそこにちゃっかり、木ノ下大吉先生も映っていたりする。秋にも紅葉の様子を撮影しておいたので、これで四季の映像を揃えることができた。
『をぐなとをみな』については、弥生時代の衣服を身につけて古い髪型にした俳優さん・女優さんたちに、寸劇を演じてもらい、それをPVとして構成した。女性は古墳島田の髪型に貫頭衣を着てもらい、男性は美豆良(みづら)髪で巻布衣を着てもらった(時代考証はやや怪しいが古代だという雰囲気は出る)。この髪のかつらや衣服は、衣装係の人が1週間で作ってくれた。感謝である。
政子の希望で大林亮平!にも参加してもらい、古墳島田に貫頭衣を着てもらった。政子は亮平に直接電話を掛けて出演OKを取っていた。ふたりの関係はどうなってんだ!?政子に訊いてみたのだが「別にデートする訳じゃないし」などと言っていた。
ちなみに亮平は着せられてから
「なんかこの衣裳、女っぽくない?」
と訊いて
「もちろん女の子の衣裳だよ。男の娘役だから」
と政子が言うので
「うっそー!?」
と叫んでいた。どうもそのことは言わずに呼び出したようだ。
「ちなみに撮影前に去勢手術受けてもらってもいい」
「遠慮しとく」
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夏の日の想い出・郷愁(33)