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■娘たちのタイ紀行(26)

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朋美は夏休み期間中、早苗の所属する山形D銀行にお邪魔してそちらの練習に参加させてもらうと言っていた。
 
「悪いこと言わない。あそこの寮はやめといた方が良い」
と玲央美が言う。
 
「やはりあそこ出た?」
と早苗。
 
「千里が毎晩除霊していた」
「うーん。じゃ、私んちに泊まる?」
「それでもいいよー」
「同棲だな」
 
「それでもいいよー。私処女じゃないし」
と朋美。
「私、まだ処女なんだけど」
と早苗。
「ひと夏の体験になるかな」
 

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彰恵と百合絵は名残惜しいねと言って、今日一日一緒に遊んでから帰るということだった。
 
「そちらもデートか」
「うーん」
「私は彰恵と結婚してもいいけど」
「ちょっと待ってくれ」
 

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みんなと別れてから千里は天津子に連絡を取った。
 
「天津子ちゃん、ネックレス持ち帰ったけど、どこで渡せばいい?」
「今東京ですかね?」
「そうそう」
「明日、東京に行って受け取りましょうか?」
 
それは困る。千里は今の時間の流れの中には今日までしかいられないのである。といって郵送などができる品物ではない。眷属に届けさせる手はあるが、あまり自分の眷属を他人には見せたくない。
 
「それがまた合宿とかに入らないといけないんだよ。何とか今日中にどこかで受け渡しができないかなあ」
 
「うーん。。。。千里さん、青森か岩手には来られませんよね?」
「盛岡か八戸までなら行けるかも」
 
この時代は東北新幹線は八戸までしか通っていない。
 
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「でしたら盛岡まで出てこられます?電車賃は私が出しますので」
 
「ちょっと待ってね」
 
千里は時間を調べた。今14時である。今から東京駅に行けば14:40の新幹線に乗れる。盛岡に着くのは17:52。それで天津子にネックレスを渡してそのまま東京にとんぼ返りする。18:41盛岡発で東京に21:08に到着する。
 
「行けるよ。今から行けば17:52に盛岡に着く」
 
「あぁ。。。。ごめんなさい。私今面倒な場所にいるので、盛岡に出られのは21時頃になるんですよ」
 
それで調べてみると、21時過ぎに盛岡を出て東京に戻ってくる便は無い。
 

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「困ったなあ」
と言っていた時、隣に居た玲央美が言った。
 
「千里、車で盛岡まで往復したら?」
「あっそうか!その手があった」
 
車であれば遅い時間に盛岡を出ても朝までに戻ってこられるはずである。
 
「じゃ車で往復するから、22時くらいに盛岡駅というのではどう?」
「はい。それでは22時に盛岡駅で。ガソリン代・高速代は出しますから」
「サンキュ、サンキュ」
 

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交代のドライバーがいた方がいいだろうから自分も付いていってあげるよと玲央美が言うので、一緒に車を置きっ放しにしていた北区のナショナル・トレーニング・センターに移動した。
 
「それに私、千里にくっついてないと、元の時間に戻れないかも知れないし」
「うん。明日の朝までふたり一緒にいた方がいいよね」
「そのセリフ、凄い誤解を招くね」
「ん!?」
 
顔パス!で合宿所に入る。
 
「ところで王子の借金は清算したけど、私たちが藍川さんから借りたお金はどうすればいいんだろう?」
「たぶん元の時間に戻ってからの精算になると思う。こちらではキャッシュカードは使えないみたいだから」
「うん。使えなかった。でもクレカは使えた」
「クレカはタイムパラドックス起こしにくいからね。たぶん1月の請求になる」
「なるほどー」
 
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千里たち以外にも何人かここに荷物を置いていたようで、構内で渚紗・華香とも遭遇した。
 
「千里。今回の世界選手権は凄く刺激受けた。私頑張って練習して、来年のアジア選手権ではスターターを奪い取るから、よろしくね」
と渚紗は言った。
 
「うん。私も奪われないように頑張るよ」
と千里は笑顔で言って彼女と握手した。
 
彼女は現在、茨城TS大学に在学しており、彰恵・桂華のチームメイトである。
 
その3人とは、元の時間の千里たちが数日後にシェルカップで対戦することになる。
 

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「華香はここまで大学の授業ほとんど出てなかったんでしょ?大丈夫?」
と華香にはこちらから声を掛けた。
 
「卒業が1年伸びるのは確実だけど、3年半後に中退する手もあるかと思っている。大学卒業の資格が必要な所に就職するつもりはないし。大学生であるという状況を4年間キープできれば問題無い」
「なるほどー」
 
「仮面浪人ならぬ仮面大学生だな」
 

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事務所で声を掛けてから駐車場の方に行こうとしたら、顔見知りの事務の女性が寄ってきた。
 
「村山さん、メッセージが届いてましたよ」
と言う。
 
何だろうと思い、受け取ると藍川真璃子からである!
 
《千里ちゃん、玲央美ちゃん、お疲れ。7位とスリーポイント女王、アシスト女王、おめでとう。インプレッサに2人で乗って盛岡まで行って》
とある。
 
「このメッセージいつ来たんですか?」
「皆さんがタイに出発なさってすぐ頂いたんですよ。タイに転送した方がいいかなと思ったのですが、メッセージを持って来られた方は、帰国後でいいのでとおっしゃったので、そのまま預かってました」
 
つまり、今回の成績を藍川さんは千里たちが出発する前に知っていたことになる。それは要するに7月の藍川ではなく、12月の藍川なのだろう。
 
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「ちょうど良かったね。これ名古屋に行ってとか言う話だと困ってた」
と玲央美。
「うまい具合に出来ているみたい」
と千里。
 
千里はこういう予定調和になることが多いのだが、そのことを千里自身はあまり意識していない。
 
「あ、盛岡行ったら、わんこそばでも食べようか」
「レオってもう食事管理してないんだね?」
「うん。疲れた」
「それもいいかもね〜」
 
恐らく高校時代はお母さんとの確執などもあって、自分を厳しく縛っていたのだろうが、どこかで開き直ってしまったのだろう、と千里は思った。
 

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旅の荷物をインプレッサの荷室に積み込む。そして、千里が運転席に座り、玲央美は後部座席に行って、シートベルトをしたまま座席を大きくリクライニングさせ、乗せている毛布もかぶって仮眠した。
 
2時間交代で運転しようということにしていたので、那須高原SAで玲央美に交代、前沢SAでまた千里に交代し、20時頃盛岡ICを降りた。
 
「じゃレオちゃんの要望に従ってわんこそばを食べに行こう」
と千里は言い、盛岡市内でわんこそばをやっているお店に行く。
 
お店に入ろうとした所で、バッタリと見たことのあるような外人さんに出会う。
 
「マドモワゼル・ナミナタ・マール?」
「ムラヤマ・チサトさん?サトウ・レオミさん?」
 
どうも日本語で通じるようだというので以後は日本語の会話になる。
 
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「おそば食べるの?」
「私たちわんこそば食べに来た」
「おお!じゃ一緒に食べません?以前別の店で挑戦した時は98杯でギブアップして認定証もらいそこねた」
 
「マールさんが認定証に届かなかったとは、なかなか手強いな」
 

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それで3人で一緒にお店に入る。
 
「えっと・・・」
と言ってお店の人はどうもこちらの性別で悩んでいるようなので、千里は笑顔で
 
「わんこそば、女性3人で」
と言った。
 
「あ、3人とも女性の方でしたか」
とお店の人は言って
「女性の方でしたら、お試し15杯コースというのもありますが」
と言う。
 
「いえ、食べ放題コースで」
と言ってチケットを買って中に入る。
 

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「マールさん、今どこのチームにいるの?」
と千里は席に着くと彼女に聞いた。
 
ナミナタ・マールは岩手D高校に来ていたセネガルからの留学生である。千里たちと同じ学年だったので、もう高校は卒業したはずである。
 
「岩手県内の**大学にいるんですよ」
「おお。だったら今年はインカレですね」
「うーん。出られたらいいですけどね」
「マールさんが活躍すれば行けるでしょ」
と千里は言うが、彼女は何だか考えているようである。
 
「ムラヤマさんはどちらのチームですか?」
「私はクラブチームに入っているんですよ。千葉県の方なんですけどね」
「へー」
「あそこは実質昨年出来たようなチームだよね」
と玲央美が言う。
 
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「うん。それ以前の歴史もあるけど、ほとんど休眠状態だったから」
「そういう新しいチームいいですね」
とマール。
 
「玲央美の所なんて、まだ設立前だ」
「新しくチームを作るんですか?」
「まあ乗っ取るといった方がいいかな」
「凄い。そちらもクラブチームですか?」
「私の所は実業団」
「へー」
 

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