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■娘たちのタイ紀行(2)

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「じゃ手術頑張ってね」
「みなさんも試合頑張って下さいね。テレビとかで中継するかなあ」
 
「あ。えっとネットで速報くらいは」
「じゃ病院で頑張ってネット接続して見てよう」
 
千里が代表して連絡用に彼女と電話番号・アドレスを交換した。
 
「この子も性転換手術してるんですよ。だから連絡相手には最適」
「え?そうなんですか」
「千里もバンコクだっけ?」
「私はプーケット」
「だったら$$$病院ですか?」
「いえ。***病院という所なんですよ」
「うーん。知らない」
「最近できたんですよねー」
「へー。でも性転換して日本代表になれるんですね?」
「手術から一定期間経っているとOKなんですよ」
「なるほどー。いいなあ。私も女子選手としてオリンピック目指そうかな」
「何かスポーツなさるんですか?」
「ラクロスなんですけどね」
「オリンピックでやってましたっけ?」
「実は近代オリンピックが始まった初期の頃はあったんですよ」
「へー!」
「知らなかった」
「長いこと行われてないので、ぜひ復活をと運動しています」
「うまく行くといいですね」
 
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「ラクロスって男子と女子ではルールとかも全然違っていてほとんど別のスポーツなんですよ。でもずっと私女子のラクロスチームに入れてもらってプレイしてたんですよね。試合には出られないけど」
とジーナさんは言う。
 
「手術終わって2年すれば出られるようになりますよ。きっと」
と彰恵。
 
「そのあたり、もし色よい返事もらえなかったら、僕も口添えしてあげるよ。IOCの基準で性転換した後2年以上女性ホルモンを投与していればOKとなっているんだから各競技団体もその基準で考えてもらえるはずだし」
と高田コーチが言った。
 

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彼女に出国の時、揉めたりしませんでしたか?と尋ねたが、特に問題は無かったと言っていた。やはり、写真と本人が一致しているのがいいのかな、などとみんなは言っていた。
 
「千里は過去に入出国で揉めたことある?」
「ううん。一度も」
 
「もしかして完璧に女すぎる人は問題無いのかも」
「ああ、そうかも」
「逆に女装しているけど見るからに男という人も問題無いよね」
「うんうん」
 
「多分揉めるのは微妙な人」
「あぁ」
 
そういえば雨宮先生は過去に何度も入出国で揉めていると言っていたなあと千里は思った。
 

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なお、この日、元の時間の方の千里は19日0時に上島さんと雨宮先生をエスティマに乗せて東京の中野駅前を出発し、ひたすら東名・名神と走り、こちらの時間の千里が関空に来た頃は元の時間の千里は広島で休憩中であった。
 

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飛行機は11:45に関空を飛び立ち、15:35にタイのスワンナプーム国際空港(BKK)に到着した。日本との時差は2時間であり、バンコクの15:35は日本の17:35である。つまり5:50の旅であった。
 
取り敢えずホテルに入って夕食を取ろうと言っていたのだが、
 
ホテルのロビーで千里はタイ人っぽい女性に
「Is there Ms Murayama?」
と呼び止められた。
 
「I am Murayama」
と千里は答える。
 
彼女はタイ特有の合掌するポーズで「コンニチワ」というので、こちらも合掌して「サワディ・カー」と応えた。
 
「My name is Hattanadayasrada "Pattie" Rojanawat. I am a FIBA medical staff. Would you come with me to the medical check?」
「Yes?」
 
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と千里は高居代表と視線交換しながら承諾の返事をして、食事に行かないまま、その人に付いて行くことになった。
 

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この時点では千里はドーピング検査か何かと思っていたので、ホテルのトイレに行くのかと思ったのだが、女性はホテルの外に出て行ってしまう。
 
「Where we go?」
「King ****** Memorial Hospital」
「Oh!」
「Can you go?」
「Of course」
 
そんな大きな病院まで行くというのは驚いたものの、ドーピング検査に非協力的な態度を取ることは、そのままドーピングの疑いを掛けられるということでもある。ここはちゃんと協力的な姿勢を見せなければと千里は思った。
 
それにしてもお腹空いた!!
 

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それでパティさんが運転する車で、バンコク市内の王立大学病院まで行く。
 
そして夜の病院で3時間にも及ぶ検査が始まった!!
 
パティさんからは最初にカルテと紙コップを渡され、指示された番号の部屋に行ってくださいと言われただけである!
 
紙コップということはおしっこを取って来いという意味だろうなと思い、トイレを見つけて男女表示を見比べて、たぶんこちらが女子用だろうという方に入り、個室でおしっこを取る。
 
最初に7という数字の書かれた札をもらっていたので、7番の部屋に行けということかと考えそちらで提出する。血圧計などが並んでいる。検査室のようである。ここの係の人は日本語ができるようで
 
「最初に体重と身長を測ります」
と言って測定する。体重は着衣のまま測定して、衣服の分を目分量で引いていた。
 
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「脈拍と血圧を測りますね」
 
と言われる。それで左腕に血圧計、右手の人差指にパルスオキシメーター(脈拍・酸素濃度計)を付けられる。
 
それで看護婦さんが見ていたのだが首をひねる。
 
「脈拍が無い?血圧が無い?これ壊れているのかも」
と言って、別の血圧計とパルスオキシメーターを取り付ける。
 
「ゼロ?ゼロ?」
 
千里は看護婦さんが悩んでいるので、何だろうと思ったものの、あっ!と気づいた。
 
実はうっかり心臓が停まったままになっていたのである。
 
「あ、ごめんなさーい。心臓を動かしますね。もう一度測定してください」
と言った。
 
看護婦さんは「ウイ!?」と一瞬言ったものの、再度計り直してくれた。
 
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「血圧 72 110、脈拍 55. 低血圧ぎみですか?」
「はい。割とそうです」
 
それで看護婦さんも最初機器がゼロを示したことは忘れてくれて、再測定した数値をパソコンに入力していた。
 
なお千里にとっては心臓が停まっているのは別に異常ではない!疲れている時などは結構勝手に停まっていたりするが、今回は長旅で少し疲れたので、心臓も停まっていたのだろう!??
 
普通の人間は心臓が停止していると数分で脳に致命的な損傷が出るらしいのだが、千里は30分程度は心臓が停まっていても全然平気である(時々千里は自分は本当に生きているのだろうかと不安になる)。蓮菜が一度千里の血流をチェックしていたが、千里は心臓が停まっていても勝手に血液が流れているらしい!?
 
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「採血しますね。腕を出してください」
 
と言われるので、右腕をまくる。それで看護婦さんはゴムチューブを巻き付けて静脈を浮かび上がらせ、消毒して注射器を差して採血した。とても上手な人で、ほとんど痛くなかった。
 

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その後、
「次は23番の部屋に行って下さい」
 
と言われて23と書かれた紙をもらうので、23番の部屋を探して行く。するとここではお腹を出して何かパラフィンのようなものを塗られた上でエコー検査のような感じのことをされた。その後、様々な部屋に行っては、内科検診をされ、マンモグラフィー??をされ、婦人科検診!?(内診を含む)をされ、更に造影剤のようなものを注射されてMRIに放り込まれる。このMRIが物凄く時間が掛かり、1時間ほど掛けて検査されていた。
 
何の検査してるんだ〜?と思う。しかし最初の部屋で血圧などを測ってくれた人以外はみんな日本語は分からないようであった。千里はタイ語があまり得意ではないので(特に医療関係の言葉はほとんど分からない)、医師や看護師に尋ねようも無かった(英語で話してみれば良かったというのは後で思った)。検査室の番号を指示されて、そこに行くのみである。夜間で他に患者が居ないので、その部屋に行けば即検査された。
 
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最後の最後になってまた日本語のできる女性医師と面談する。
 
が何かの本を開いて、ひたすら質問攻めである。
 
「あのぉ、これ何の検査なのでしょうか?」
と尋ねたのだが、
 
「それは最後に説明します」
と言われてしまった。
 
結局心理テストのようなものを経て本当に最後に
 
「これであなたの性別検査は完了です」
と言われた。
 

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そうか!本当に私が女かどうか、国際バスケット連盟が直々に検査したのか!と、私はやっと思い至った。
 
しかし性転換者の検査をするのであれば、ここタイというのは絶好の地である。性転換者が多いので、医師が性転換者を見慣れているであろう。一部の性器を温存するなど変則的な手術をしている人のことも知っているはずだ。もっともいちばん重要なのは睾丸をどこかに温存していないかだろう。
 
そんなの無くて良かった!!
 
千里は女の身体で2年半生きて来ているし、実は小学5年生頃から様々な偶然の作用で女性ホルモン優位の状態にある。
 
「結果はFIBAに報告するとともに、あなた御本人にも通知したいと思いますが、それでよろしいですか」
 
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「はい、どうぞ」
と千里は答えた。こういう検査にも協力的でなければ、よけいな疑惑を招くだけである。
 
しっかし女子選手というものをするのも大変だ!!
 

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「性別再設定手術はどちらで受けられました?」
 
と医師は報告書にサインをして封筒に入れた後で千里に訊いた。この先は検査ではなくて雑談のようである。
 
「プーケットの***病院です。ちょっと待って下さい。手術証明書があったはずです」
 
と言って千里はバッグを探る。実はこの証明書は関空で待っている最中に、いつの間にかパスポートに“挟まっていた”ものである。2007年にインターハイ直前に東京で性別検査を受けさせられた時に美鳳さんからもらったものより、きちんとした雰囲気の証明書だが、困ったことにタイ語で書かれていて、千里には読めない。
 
美鳳さんの鉛筆の手書き文字で「性転換手術の証明書だよ〜ん」と日本語で薄く書かれていたのは千里が消しゴムで消しておいた。
 
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「ああ。あそこの病院か。ワンティー・スイップジェット、カラカダーコム、2549年だから日本語でいうと2006年7月18日の日付になっていますね」
 
と医師はテーブルに貼ってある換算表のようなものを見ながら言った。
 
2006年!?
 
実は日付までタイ語で書かれているので千里はそれも読めなかったのである。(カラカダーコムは7月。タイの紀元は西洋紀元より543年古い)実際に千里が「目が覚めたら女の子になっていた」のは2007年5月だが、その時に実際の性転換手術は2012年に受けるんだと美鳳さんから説明された。しかし現時点で様々な問題を矛盾無く説明するには、その2006年くらいの日付でないといけないのかもと千里は思った。
 
「でもこれはタイ語で書いてあるから、タイ国外では不便でしょう?」
「ええ。日本国内ではほとんど読める人がいないみたいで」
 
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「病院に照会して英語の診断書も書いてもらうといいですよ」
「そうですね。今度頼んでおこうかな?」
 
などと言いつつ、出羽の方角を見ると、美鳳さんが後ろ向いてる!わざわざ後ろを向いているというのが、何ともこちらを意識しているようだ。
 

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娘たちのタイ紀行(2)

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