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■娘たちのタイ紀行(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2016-09-24
 
10時にホテルを出て会場に向かう。
 
ここは日青ユースセンター(Bangkok Thai-Japan Youth Center)と言い、現在のタイ王室(ラッタナコーシン朝)が1782年に設立されてから200年経ったのを記念して、建てられたスポーツ施設で1982年4月3日にオープンしている。
 
サッカースタジアムはタイ・プレミアリーグに所属するバンコク・ユナイテッドFCのホームグラウンドにもなっている。今回千里たちが使用するのはそこの体育館の方であるが、外装を直しているのか、屋根に青いビニールカバーの掛かった部分もあった。
 
千里はそのビニールカバーの掛かった部分に何か不穏なものを感じた。
 
『ね、ね、まさかあの付近に何かいる?』
と千里が訊くと
 
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『千里、あれが見えないのか?』
と《こうちゃん》が呆れたような顔をした。
 
『え〜。だって私、幽霊とかも見たことないし、霊感も無いし』
と千里が言うと、後ろの子たちは何だか顔を見合わせていた。
 
眷属たちは千里が冗談を言っているのか、マジなのか判断に迷ったのである。ちなみに霊感のある玲央美はそちらを極力見ないようにしていた。マジで霊感が無い王子でさえ、何かを感じたようでキョロキョロしていた。
 

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千里たちが会場に着いた時はオープニング・セレモニーが行われていた。高居さんと篠原監督は出席しているものの、椅子に座っているだけであり、フロアではタイの女子高生たちによるパフォーマンスがおこなわれていた。
 
千里たちはそれをチラッと覗いただけで、今日の控え室に行き準備運動などをしながら気持ちを集中して行く。
 
11時にFIBAの人が来て、王子の性別検査の結果を渡していった。むろん王子は完全に女性であり、参加資格に問題はないと書かれていた。
 
「いやぁ、あんたは男だと言われたらどうしようかと思った」
と王子は言っているが
「キーミンは充分男でもやっていける気がする」
などとサクラや華香などからは言われている。
 
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「男だってことになったら、せっかくタイに来ているし性転換手術して男になって帰国する手もあるかもね」
 
「性転換手術って女から男にもなれるんですか?」
「そういう手術もしてるよ」
「へー。やはりちんちん付けるんですか?」
「もちろん。但し、おっぱいは取るよ。子宮や卵巣も取るよ」
「うーん。卵巣は無くてもいいかな。生理面倒だし、あまり子供産む気無いし。むしろ、ちんちん欲しい気もするなあ」
「じゃ性転換する?」
「でもちんちんって、誰かから移植とかするんですか?」
「腕の皮膚を利用して作る」
「腕なんですか?」
「あれも、もう1本の腕のようなものでしょ?」
「おぉぉぉ」
「凄い場所に生えてる腕だね」
 
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「でも実は私、男の子からラブレターもらったことはないけど、女の子からは過去に10回くらいラブレターもらったことあるんだよね。バレンタインは毎年もらうし。今年は学校やめたのに、実家にいくつも郵送されてきたらしい。写真だけメールしてもらって、中身は友達に配ってもらった」
 
などと王子は言っている。彼女は1月に倉敷K高校を辞めた後、1度も実家に戻っていないらしい。今回もアメリカから帰国したら合宿所に直行である。別に親とうまく行っていないとかではなく、単に面倒くさがっているだけのようではあるが。
 
「女の子が好きなの?」
「デートしてあげたことはあるけど、私は女の子を恋愛対象にはできないと言っておいた」
 
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「きみちゃん、どういう男の子が好きなの?」
と彰恵が訊くと
「それは私よりバスケが強くて、お金持ちで頭が良くてイケメンで」
などと言っているが
 
「そんな人は居ない」
とみんなから言われている。
 
「キーミンよりバスケの強い男の子自体が、かなり少ない気がする」
とサクラは言う。
 
「レオさんとかはどうなんですか?」
「私はバスケが恋人だよ」
と玲央美は言う。
 
「おぉ!」
 
「恋愛をしているっぽいサンは?」
「いや、サンは恋愛というより、実際には既に結婚しているんだよ」
 
千里が頭を掻いていると江美子が指摘した。
 
「サンが煮え切らないのは、彼氏が自分よりバスケ弱いからだと思う」
 
「うーん。。。今のところはまだ一応勝負になるよ」
と千里は言った。
 
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11:30。第1コートでAグループのカナダ・韓国の試合が始まった。それから30分遅れて12:00に第2コートでCグループの日本・マリの試合が始まる。日本はこのようなオーダーで臨んだ。
 
PG.鶴田早苗/SG.村山千里/SF.佐藤玲央美/PF.鞠原江美子/C.熊野サクラ
 
「空気が読める」メンバー中心である。サクラをここに入れたのはまだ完全ではない彼女に少しでも試合感覚を取り戻させるためである。
 

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ティップオフは長身のマリの選手が取り、攻めて来る。マンツーマンで守る。相手選手がシュートするが外れる。日本の攻撃になる。向こうはゾーン気味に守っている。おそらくは一次リーグで唯一勝てる見込みのあるのは日本と見てこの試合に全力を掛けるつもりなのだろう。
 
朋美からパスが来る。ここはスリーポイントラインの外側である。千里の中に《すーちゃん》が入る。《すーちゃん》が千里の身体を使って撃つ。
 
入る!
 
千里も驚くが、《すーちゃん》も驚いているようだ。
 
『入ったね』
『びっくりしたー。入るとは思わなかった』
 

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「千里スリー撃たない予定だったのでは?」
と玲央美から小声で言われたが
 
「外すつもりだったのに入っちゃったんだよ」
と千里が言うと
「ほんとに不便な人だ」
と言われた。
 
こちらは八分くらいの力で戦い、向こうは全力なのだが、実力差はどうにもならない。開始10分で4-13である。千里と玲央美を下げ、渚紗と彰恵を入れる。このピリオドは結局10-22で終了した。
 
第2ピリオドは控え組中心で出て行くが、今日の試合は手加減しようという話を聞いていない王子やサクラがどんどん点を取る(点数は取らなければならないので都合が良い)。サクラもリバウンドを取る感覚がかなり戻って来ている感じだ。
 
千里は第3ピリオドの前半でも出たが、2ポイント・3ポイントともに今日の千里のシュートは精度を欠き、この日は11点しか取っていない。スリーは最初に『偶然』入ってしまったものだけである。
 
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結局この試合は85-35で日本が勝利した。得点は王子がひとりで36点も取る大活躍で、得意そうな表情であった。試合後には日本のバスケット雑誌の記者がインタビューしていたが、王子は嬉しそうに語っていた。
 

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この日の試合結果は下記である。
 
GrpA CAN 73-28 KOR / AUS 75-51 ARG
GrpB BRA 104-45 THA / CZE 84-62 LTU
GrpC JPN 85-35 MLI / RUS 54-46 FRA
GrpD ESP 90-86 USA / CHN 86-60 TUN
 
日本と同じグループCの第2試合ではロシアがフランスを破った。これで多くの人はもうグループCの残り試合は消化試合と思ったであろう。普通に考えると1位ロシア、2位フランス、3位日本、4位マリ、で確定である。ネットを見ていた彰恵は「試合をやる前から1位と2位の順序以外は確定してるなんて書いてあったよ」と言っていた。
 
グループDではスペインが接戦の末アメリカを破っている。千里たちは結果を聞いて驚いた。スペインは殊勲の星である。アジア勢では中国はチュニジアに勝ち、韓国はカナダに敗れている。
 
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天津子はその場所に行くと見上げるようにして
 
「こら、あかん」
と言って取り敢えずその日は帰ることにした。
 
タクシーを呼び止めて乗って「フワランポーン・ステーション」と英語で告げる。座席で携帯を取り出し千里に掛けた。
 
「千里さーん。今日明日とかパワー借りられます?」
「ごめーん。明日はロシア戦で、今回の大会でいちばんだいじな試合なんだよ。だから今日もそれに向けて練習するから勘弁」
「明後日は?」
「明後日もフランス戦で。26日は休養日だから使ってもいいよ」
「じゃ26日に貸してください」
「OKOK。できたら時間は前もって教えてね」
「はい。そうします」
 
その後天津子は日本国内にいる姉弟子の桃源と少し話し、そのあと今回の事件のクライアントの鈴木さんと話した。
 
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やがてフワランポーン駅に到着するが、その時初めて天津子はメーターが倒されてないことに気づいた。
 
「料金はいくら?」
とわざと英語で尋ねる。天津子は実はタイ語も結構できるが、ここは喧嘩になるのは必至とみて英語を使った。
 
「300バーツ(840円)です」
と運転手は英語で答える。
 
(2009年7月のタイバーツ相場は2.8円くらいである)
 
「それはあり得ない。だいたいなんでメーター倒してないのさ?」
「この区間はよく乗せてますからね。だいたい350バーツくらいするんだけどあんた美人だから300バーツに負けときますよ」
 
運転手も英語で言い返してくる。発音もまあまあである。
 
「女子高生だと思って甘く見てんじゃないよ。こないだここ乗った時は40バーツだったよ。40バーツにチップ少し足して50バーツ(140円)あげるから」
と言って天津子はお金を渡そうとする。
 
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バンコクのタクシーの相場はだいたい4kmで50バーツ、10kmで80バーツくらいである。
 
「それはさすがに無茶。それタクシーじゃなくてトゥクトゥクじゃないの?」
と言って運転手は受け取りを拒否する。
 
「あんたね。優しく言っているうちに受け取って降ろさないと、ただじゃ済まないよ」
と天津子がきつい表情で言う(実を言うと、運転手には見えていないものの、《チビ》が運転手を威嚇しているのである)。
 
すると運転手はビクッとしたようである。おそらく何かを感じ取ったのだろう。
 
「分かりました。それでいいです」
と言って、天津子が渡した50バーツを受け取って彼女を降ろしたものの
 
「本当はこの区間80バーツくらいするのに・・・」
とぶつぶつ文句を言っていた。
 
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7月24日。
 
千里たちは朝食前に1時間ほど軽い練習をしたが、その練習を始める前に篠原監督が全員を集めて言った。
 
「今日はロシアとの試合だが、ここでみんなに言うことがある」
 
ここで言葉を切って、あらためて全員の顔を見回す。そしておもむろに次の言葉を笑顔で言った。
 
「今日は勝つつもりなので、よろしく」
 
一瞬、渚紗・百合絵・桂華など、今回の「作戦」を聞いていないメンツの顔に不安がよぎる。勘の良い桂華などは昨日手を抜いていたことに気づいたかも知れないが、百合絵などはマジで心配していた雰囲気だった。
 
ところがここで王子が
「昨日が85対35だったから、今日は105対25で行きましょう」
 
と言う。
 
「うん。そのくらい行こうか」
と高田コーチも笑顔で言い、それでみんな笑顔になった。
 
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それから練習を始めたのだが、千里がスリーを百発百中させるので
 
「昨日は調子悪かったみたいだけど、今日は行けそうだね」
と渚紗が言った。
 
「うん。昨日はごめんねー。今日は頑張るから」
「まあ、千里が調子悪かったら、私がスターターの地位をぶんどるだけだから」
「まあお互い頑張ろう」
 

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