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■娘たちのタイ紀行(19)

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第3ピリオド。
 
日本は江美子/千里/渚紗/玲央美/王子 というメンツで出て行く。
 
この相手には中に入って得点は無理と諦め、遠距離砲でどんどん攻めようという作戦であった。
 
この作戦はある程度うまく行った。スリーが撃てる選手が3人入っているというのは、カナダも防御のしようがない感じであった。
 
それでこのピリオドは14-21と日本が7点リードすることに成功する。
 
ここまでの総得点は59-44である。
 

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第4ピリオド。
 
先のピリオドで日本がカナダを上回ったことから、相手は気合いを入れ直して出てきたようである。円陣を作って「Fight! Fight!」と言っていた。日本も同様に円陣を作って「頑張るぞ!逆転するぞ!」などと言って出て行く。
 
コートに出て行く時、玲央美は千里に言った。
 
「このピリオド、私はゲーム全体は見ないから」
 
千里は頷いた。
 
つまり玲央美はケイト・クラークだけを相手にするつもりなのである。
 
カナダがミッチェルのドリブルで攻め上がってくる。玲央美はピタリとケイトに付いている。カワスキーがスクリーンを仕掛ける。カワスキーに付いていた王子とのスイッチを狙ったものだが、玲央美は「通過!」と王子に声を掛けるとそのまま王子とカワスキーの狭い隙間を巧みに通過してケイトを追いかけた。
 
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玲央美は体格は大きいものの、決して太ってはいないので出来る技である。
 
結果的に玲央美はまだケイトの前に居る。ケイトが玲央美の右を見る。
 
次の瞬間、本当に右に突っ込むが、玲央美は美しくボールをスティールした。
 
すぐに反対側に居る千里に送り、千里が朋美に送って朋美が速攻する。その朋美を千里が全力疾走して追い越す。
 
朋美から再度千里にパスが行く。俊足のマリー・クラークが千里の前に回り込むが、それより早く千里はスリーを撃った。
 
入って59-47.
 

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この後も、玲央美は何があってもケイトを追いかけていった。ポイントガードのホワイトが逆サイドを使って攻めていても、玲央美はそちらを全く見ずにとにかくケイトを追いかける。
 
そしてケイトはそういう玲央美の姿勢に応えて積極的にホワイトにボールを寄越せと言っていた。
 
ケイトとしても、この相手は叩いておかないとやばいと考えたのだろう。
 

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ふたりの対決は最初の1回こそ玲央美がケイトからスティールに成功したものの、その後はさすがにケイトも警戒して簡単にはボールを奪われない。しかし簡単には玲央美の防御を突破できない。
 
逆に日本が攻める時もケイトは玲央美をマークして、玲央美を停める。それでも玲央美は何度かケイトを抜いて、美しくゴールを決めた。
 
一方、玲央美と逆サイドでは千里が相手のシューティングガード・アイミと対決していた。
 
千里も第1ピリオドでは、まともに勝負ができなかったものの、このピリオドでは相手のコンビネーション・プレイに惑わされずにうまくアイミの攻撃を抑えていった。千里の場合、全体の選手の動きを把握して、相手が移動する場所を予測して回り込んでしまうので、結果的にアイミはこちらのトラップに引っかかった形になり、
 
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「What!?」
とか
「Unbelievable!!」
 
などと声を挙げて、彼女が困惑する様子も何度か見られた。
 
結果的にこのピリオドでは、アイミは全くシュートが撃てなかった。一方千里はスリーを5本も放り込んだ。
 

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やがて試合終了のブザーが鳴る。
 
最後にボールを持っていたマリー・クラークが遙か遠くのゴールに向かってボールを投げたものの、バックボードにも届かなかった。
 
整列する。
 
「74 to 67, Canada won」
と審判が告げる。
 
しかし勝ったカナダにも、負けた日本にも笑顔は無かった。
 
ケイト・クラークが厳しい顔で玲央美を見つめ、玲央美も見つめ返していたが、審判が寄ってくると、両者とも笑顔に切り替えた。ついでに握手した。
 
しかし第4ピリオドだけ見ると15-23である。
 
日本は後半を29-44と大きくリードしたが、前半に大差を付けられたのが効いてこの試合を落としてしまった。
 

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「ねえ。この試合、あと少し頑張ったら勝てなかったかな?」
と百合絵が言うが
 
「無理」
と彰恵は言った。
 
「今日私たちは、カナダに勝てるなんて、ほとんど思っていなかった。無欲だったから、ここまで善戦したんだと思う」
と彰恵。
 
「同感。勝とうと思っていたら、もっと大敗していたと思う」
と江美子。
 
「じゃどっちみち勝てなかったのか」
「まあ勝てる相手じゃなかったね」
「ロシアに勝ったのはあくまで奇跡だから」
 
「思えばそのロシアに1勝しただけで、ここまで来れたんだから凄いね」
「普通に勝ったのはマリと中国だけで、あとはフランスもスペインも僅差だけど負けたからね」
 
「大会ではどこで勝つかが重要なんだよ」
と彰恵は言った。
 
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「でも明日は勝とうよ」
と玲央美は言った。
 

この日の試合結果。
 
11位決定戦はアルゼンチン、9位決定戦はフランスが勝ち、9-12位の順位はこのようになった。
 
9位フランス 10位ブラジル 11位アルゼンチン 12位中国
 
もうひとつの5-8位のクラシフィケーションはチェコが勝った。この結果明日の5位決定戦はカナダ対チェコ、7位決定戦は日本とリトアニアで争われることになった。
 
準決勝は、USA 82-50 AUS / ESP 67-45 RUS
 
となり、決勝は再度スペインとアメリカで争われることになった。スペインは今大会ここまで全勝、アメリカはそのスペインに1つ負けただけである。当然アメリカはリベンジに燃えている。
 

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この日、大阪の大阪市中央体育館でインターハイ女子準々決勝の4試合が行われた。愛知J学園が旭川N高校に勝ち、東京T高校が福岡C学園に、札幌P高校が大阪E女学院に、岐阜F女子校が愛媛Q女子校に勝って、各々準決勝に進出した。千里も試合結果を南野コーチからのメールで知り「残念でした。ウィンターカップに向けて頑張って下さい」というお返事を打っておいた。
 
実はこの南野コーチとのメールのやりとりは前の時間の中でも千里はしている。その時と全く同じ文面のメールが来たので千里は不思議な気分だった。ここで自分が前の時間の中で書いたのと違うお返事を書いたらどうなるんだろう?と思ったものの、そういうのは怖そうなので止めて、全く同じ文面のお返事をした。
 
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そういうタイムパラドックスを起こすような行為をした場合どうなるかについては、千里の時間管理をしている《いんちゃん》も分からないと言っていた。少なくとも自分でも疑問に思うほどのパラドックスは起こさないように気をつけた方がいいと思うと《いんちゃん》は言った。
 
SFとかなら私の存在自体が歴史から抹消されちゃうよなぁと千里は思う。
 

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「まあ後輩たちの勝負結果についてはお互い恨みっこなしということで」
と岐阜F女子校出身の彰恵が言っている。
 
そのF女子校に敗れたQ女子校出身の江美子が隣で苦笑している。
 
「準々決勝以降は強豪同士の潰し合いだからね」
「たまにシード権取れなかった所が下の方でぶつかる場合もあるけどね」
 
「今年は山形Y実業が3回戦で愛媛Q女子高に当たって消えてしまった」
「昨年Q女子校が3回戦で消えたからね」
「去年はどこと当たったんだっけ?」
「札幌P高校」
と江美子。
 
「一昨年、うちは道予選で負けてインターハイに出られなかったから昨年はノーシードだったんだよね」
と玲央美。
 
「ノーシードから優勝したのは偉い」
 
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「でも一昨年、レオはインターハイに出られなかったからU19世界選手権に参加したんだよ」
「ああ」
「今年のきみちゃんみたいなものか」
 
「来年岡山E女子高がインターハイで優勝したりしてね」
「きみちゃん、来年はインターハイに出るんだっけ?」
 
「来年のアメリカで終業式が終わってから帰国する予定なんですよ。だからインターハイの出場権を後輩たちが取ってくれていたら、本戦に出るつもりです」
 
「それって熾烈なベンチ枠争いが」
「県大会が15人で出ていて、その内4人が脱落するわけか」
 
「いや、私より強い子が12人いたら、その子たちに出てもらいますよ」
「それはさすがに無理」
 

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その日の夜。千里が寝ていると
 
「これ、これ」
と呼びかける声がある。
 
寝ぼけながら千里が目を覚ますと、目の前にゴキブリがいる。反射的に近くにあった新聞紙を取って叩こうとした。
 
「待って、待って。僕、お使いなんです」
とゴキブリが焦ったように言う。
 
「お使い?ごきぶり大王の?」
「いえ。テンダッカ大王様なんですけど」
「あぁ」
 
こないだ体育館の屋根に居た、天津子の言う所のカマキリ親分さんかと思い至る。でも大王様だったのか!
 
それで千里はそのゴキブリに付いて出て行く。しかしカマキリ大王のお使いがゴキブリなのか、と千里は考える。まあ確かに分類上は親戚だけどね。
 
(カマキリ・ゴキブリ・シロアリが同じ網翅目である。カマキリは以前はバッタやキリギリスなど(直翅目)の親戚と考えられていたが現在は近縁種ではないことが判明している)
 
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千里はゴキブリに連れられて大きな湖のほとりに来た。千里は「俯瞰視点」からこの湖を眺めて、この湖の形自体が逆立ちしたカマキリの形をしていることに気づき、へ〜と思った。
 
(千里は自分の視点を自由に任意の場所に置く特殊能力を持っているものの、千里自身はそのことを特異なことだとは認識していない。ただし千里はこの力を試合中には使用しない)
 
大王様がここを追い出されたのは、天津子の話からすると、おそらく日本の明治時代後期か大正時代くらいなのではと考える。もっとも大王様にとっては、ほんの数日留守した感覚なのかも知れない気がする。
 
千里は頭の高さで合掌して大王に敬意を表した。
 
「先日は朕の帰宅に便宜を図ってくれて大儀であった」
「お役に立てまして幸いです」
 
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「何か礼を取らせようと思ってな。バッタ1000匹とかではどうじゃ?」
「もったいのうでございますが、あいにく私はバッタは食べませんので」
「なんだ、そうか。美味しいのに」
 
「陛下、人間には人間のものを与えるのがよろしいかと」
と高官っぽいカマキリが言う。
 
「そうか。何かいいものがあるか?」
「先日の**小螂の件で、この者の手下の神官が燃やしていたものがなにやら大事なものそうでした。それを返してやるのはどうでしょう?」
 
どうもカマキリ様は天津子を千里の部下と思ったようである。
 
「ああ。**小螂の件では迷惑を掛けた。何を燃やしたのであったか?」
 
「これにございます」
と言ってカマキリの高官は、人間の臓器っぽいものを3つ並べた。千里はゲーっと思った。千里は血を見るのは平気だが、この手のものは見て気持ちいいものではない。
 
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「こちらが肝臓、こちらが腸、こちらが男性器でございます」
 
見ると各々完全な形をしている。天津子は肝臓の一部、十二指腸、そして陰茎海綿体と睾丸と言っていた。しかし目の前にあるのは完全な形の肝臓、腸丸ごと、(小腸や大腸まである)そして完全な形の陰茎と陰嚢である。陰嚢の中にはおそらく睾丸も入っているのだろう。
 
どれも血がしたたっている!
 
まさか今誰かから切ってきたんじゃないよね!?
 
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