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表彰式が終わったのが21時すぎで、ホテルに戻って22時から晩ご飯であった(ほぼ夜食)。それが終わったのが23時くらいだったのだが、サクラや王子が何か話している。そしてサクラがこちらをチラリと見るので寄っていく。
「千里、おかまショーって何時頃までやってるかな?」
とサクラが訊く。
「なぜ私に訊く!?」
「いや、何となく」
「10時か11時くらいまでじゃない?」
「昼間はやってないよね?」
「夕方から夜までだろうね」
「じゃ見られないかなあ」
「そういうのこそ、アミさんに訊いてみよう」
「そっかー」
日本チームのお世話係のアミさんは監督や代表に挨拶して、今日はもう帰ろうとしていたのだが、それをサクラが呼び止めた。
「確か夜中2時くらいまでやってた所があったはずです」
と彼女が言う。
それで電話して営業時間を確認してくれたら、確かにそこは2時まで営業しているということであった。ショータイムもあと1回、夜中の0時からあるらしい。
「じゃ行きましょう!」
なりゆきで千里も付いていくことになる。
盗難とかの危険があるので、大金は持たないこと、貴重品は持たないこと、と言われたので、3人は全部百合絵に預けていたが、サクラが物凄い厚さの福沢諭吉さんを預けるので「いくら持って来たの〜!?」と言って呆れていた。
アミさん、千里、王子・サクラ・華香の5人でタクシーに乗ってそのお店に向かおうというので、タクシーを呼び、出ようとしていた所で、アミさんに篠原監督が声を掛けた。
どうしよう?とアミさんが迷っている様子だったので、千里は
「こちらは私がこの子たちがハメ外しすぎないように見てますから」
と言う。
「でしたら、お願いします」
と言い、アミさんはタクシーに千里たちを乗せて運転手に何かタイ語で言った上で、監督の所に行った。
それで4人でタクシーに乗ってそのお店に出かける。日本語のできる運転手さんで、お店に入っていく道の所で停め、
「そこの通りをまっすぐ入って行って、突き当たりの右側ですから」
と日本語で教えてくれた。
「ありがとう!」
「タクシー料金はご覧の通り、61バーツです」
とメーターを指さして言う。
「はいはい」
と言ってサクラが料金を払う。
「あ。細かいのが無いから、70バーツで。おつりはいいです」
と言ってサクラは50バーツ札と20バーツ札を出した。
「ありがとう!」
と言って運転手さんは受け取った。
それで降りて一緒に通りをまっすぐ進み、突き当たり右手を見る。派手な看板もあり、すぐに分かった。
日本人観光客も多いようで、フロントの人は日本語もできた。ワンドリンク付き1人600バーツ(1680円)のチケット制ということであった。バーツに両替しすぎてまだたくさんあるというサクラが4人分まとめて払い、後で日本円で精算することにする。
席に着いてから千里が訊く。
「いっぱい両替したの?」
「まだ5万バーツ(14万円)くらいある」
「なぜそんなに両替した!?」
1バーツは日本円で2.8円なのだが、実際の貨幣価値的には1バーツ10円くらいの感覚がある。
「いやあ、おやつ買うのにいるかなあと思って」
とサクラ。
「実は僕もまだ1万バーツある」
と華香。
王子は最初から全くお金を持っていなくて、みんなから借りまくっているようだが、誰からいくら借りたかを全然覚えていないようでもある。
「これ日本円に戻せるかな?」
「戻せるよ。町の両替所でやってくれる。バーツへの両替はどこでしたの?」
「アミに教えてもらったスーパーリッチって所」
「そこで円への両替もできるよ」
「安心した!」
千里たちが席に着いてから7-8分ほどしてちょうどショーが始まった。
多数のニューハーフさんたちが出てきて、歌や踊りのショーを繰り広げるが、さすが有名店だけあって、出演しているニューハーフさんたちが美しい!そして歌も上手いし、踊りも上手い。かなり練習していることを思わせた。
「この歌は口パク?」
と華香が訊く。
「あの青いドレスの美人さん、それと黄色いドレスのやや微妙な人は生歌。赤いドレスの子と紫のドレスの子は口パクだった」
と千里は言う。
「そういうのよく分かりますね」
と王子が感心している。
「スピーカー通して聞こえてくる声では区別つかないけど、本人の口元から出ている声で分かるよ」
と千里は言う。
「凄い」
「よくそれを聞き取れるね」
たまに「落ち担当」の太った人とか、おっさんが無理矢理女物の下着を着けてるようにしか見えない人が出てきて、コミカルな演技で笑いを取ってくれる。
ショーは30分ほどで終了した。
「いやあ、楽しかった楽しかった」
「きれいな人が多かったね〜」
「あんなにきれいになれるんなら、僕も性転換して女の子になってもいいかなあ」
などとサクラは言っている。
「バンコク市内にも性転換手術してくれる病院、たくさんあるよ」
と千里は言っておく。
ショーが終わった後は、余韻を楽しみながらソフトドリンクを飲みつつ少しおしゃべりする。ニューハーフさんたちが客席を回ってくるので、千里が目を付けていた青いドレスの美人さんに千里が片言のタイ語で
「コーォターイループ・ドゥアイカン・ダイマイカー?」
と訊くと
「写真、いいですよ」
と向こうはきれいな日本語で答えてくれた。
それで近くに居た別のシルクハットにショーガール風の衣装のニューハーフさんが華香のカメラで、4人と青いドレスの人が並んでいる所を写真に撮り、次いで、そのニューハーフさんと4人が並んでいる所を青いドレスの人が撮ってくれた。2人に40バーツずつチップを渡した。
写真は後でシェアすることにする。
1時近くなったので帰ることにする。
お店を出て通りを歩き、道路の所に出る。客待ちしているタクシーがあったのでドアをトントンとすると開けてくれた。後部座席に王子・華香・サクラ、助手席に千里が乗り込む。
千里が「**** Hotel」と言うと、運転手は頷いて車を出す。4人でさっきのショーのことであれこれ話している内にタクシーはホテルの前に着く。
「Thank you. How much?」
とサクラが尋ねた。
「Four hundred bahts, sir」
と運転手は言った。
ああ、サクラは男と思われたなと千里は思う。
いやちょっと待て。400バーツは高すぎないか?と思ったら、隣に座っていた華香が言う。
「But there displayed sixty three bahts」
と言って、メーターを指さす。
運転手が「オイ!?」みたいな感じの声をあげる。
なるほど〜。運転手はメーターを倒さずに料金を言い値でぼったくろうとしたんだなと千里は想像する。後ろで《いんちゃん》がVサインをしている。どうも《いんちゃん》が勝手にメーターを倒してしまったようだ。
運転手は首をひねりながらも、
「Sorry, I mistake」
などと言いながら、
「Sixty three bahts, ma'am」
と言い直す。どうも華香は女に見えたようだ。
それでサクラがメーター通りの料金を払い、4人はタクシーから降りた。その後、4人でサクラと王子の部屋に入り、1時間くらい残っているおやつと飲み物を片付けながら、おしゃべりした
翌8月3日の朝食の席に、サクラ・王子の姿は無かった。おそらく疲れて寝ているのだろう。華香は起きてきていたが、まだ眠そうだった。
午前中は玲央美・江美子・彰恵・桂華と誘い合って、ホテル近くのスーパーにお土産を買いに行った。
「千里、このあと私たちは元の時間に戻されるんだよね?」
と玲央美が小声で訊く。
「そうなると思うよ〜」
「じゃここで買ったお土産は、P高校の宿舎に持ち帰ることになるんだろうか」
「まあそれもいいのでは」
5人は「食べ物がいいかね〜」と言い、桂華はエレファント・チョコレート、江美子はルークチュップ、彰恵はコアラのマーチのタイ限定品を買っていた。千里と玲央美はさんざん迷ったあげく、玲央美はタイカレーの缶詰を多数、千里は美人のタイ人女性の絵が印刷されているジュースを多数買った。
「それ何のジュース?」
「うーん。タイ語は読めないからなあ」
「女性が書かれているから、女性を粉砕してジュースにしたとか」
「んな馬鹿な!?」
「あるいは飲むと女の子になれるジュースとか」
「そんなの普通のスーパーに売ってないよ、たぶん」
「しかし女の子になりたい男の子の多い国だからなあ」
「なんだ、裏に英語でも書いてあるよ」
と玲央美が言う。
「あ、ほんとだ」
「Peach juice, Mango juice, Passion-fruit juice, Pomegranate juice. "Pomegranate"って何だっけ?」
「ザクロだよ」
「ザクロは珍しい」
「ザクロはイソフラボンがたっぶりだから女性的になれるかも」
「まあ含有率高いよね」
「しかし、わざわざ重たいものを」
と彰恵が言う。
「確かにそうだ!」
と千里は今気づいて言った。
「まあ鍛錬だな」
と江美子。