広告:ここはグリーン・ウッド (第6巻) (白泉社文庫)
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■娘たちのタイ紀行(9)

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(C)Eriko Kawaguchi 2016-09-25
 
サクラが王子と抱き合う。そこに華香も飛びつく。華香が興奮してサクラの頭を叩いている。王子には強く抱きしめられている。玲央美も「良くやった」と言って背中を叩いている。
 
千里も駆け寄ってサクラに言った。
 
「クララ、これでクララは完全に復活したね」
 
サクラは王子の腕力で抱きしめられた上に、頭や背中を叩かれていて、声も出ないようだったが、千里に向かって微笑むと大きく頷いた。
 

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整列する。
 
「78 to 76, Japan won」
と審判が告げる。
 
プロツェンコと朋美が握手した他、モロゾヴァと千里も握手して、健闘を称え合った。
 
こうして日本はロシア戦で貴重な2勝目を挙げたのであった。
 

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千里たちはみんなで相手ベンチに行って挨拶する。マシェンナもすぐ意識を取り戻したようであったが、まだ座ったままでボーっとしていた。
 
その後、千里たちは観客席にも挨拶する。日本チームはみんな笑顔であるが、千里はふと鋭い視線を感じて、そちらに自分の視線はやらないまま「見た」。フランス人と思われる大柄な選手たちが厳しい視線でこちらを見つめていた。
 

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試合終了後、着替えて退出しようとしていた時に病院に行っている森山さんから連絡が入った。早苗は千里が言ったように骨には全く異常は無く、内出血も軽いので、湿布をしておけば治るだろうということであった。ホテルの方に戻りますと言っていた。早苗を明日の試合に出すかどうかは、明日の朝の様子を見て決めることにした。
 

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夕食の席で、サクラや王子が酔っているのでは?というくらい元気だった。王子は、日本出発前に留実子からもらったという《おちんちん》を部屋から持って来ていた。
 
「これどうやって使うんですかね?」
「これを取り付けるベルトのようなものがあるんだよ」
と千里は王子に教えてあげる。
 
「そうなんだ!」
「まあパンティの中に単純に入れておいたら、走ったりした時に落ちるかもね」
「ちんちんが落っこちたら大変ですね」
 
「まあサーヤは試合中にこれつけてて、審判から『君は男か?』と言われたことがある」
 
「やっぱ、やばいですかね?付けたまま試合に出てみようかと思ったんだけど」
「アクセサリーの類いを付けて試合に出るのは違反だよ〜」
 
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「ちんちんってアクセサリーなのか!」
 
王子たちがあまり騒いでいたので、その《ちんちん》は結局キャプテンの朋美に没収されてしまい、大会が終わったら返すと言われていた。
 
「ちんちん没収されちゃった」
「ちんちん無いから、もう女の子になるしかないね」
 

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この日の試合結果はこのようになった。
 
GrpA CAN 50-49 AUS / ARG 73-63 KOR
GrpB LTU 89-34 THA / BRA 86-76 CZE
GrpC FRA 82-38 MLI / JPN 78-76 RUS
GrpD ESP 89-35 TUN / USA 88-53 CHN
 
グループCは、今のところ何と日本が2勝で暫定1位、ロシアとフランスが共に1勝1敗だが、得失点差でフランスが2位、ロシアが3位となる。4位が2敗のマリである。
 
他のグループでは、ブラジルがチェコに勝っている。チェコは結構な強豪なのだが、ブラジルも頑張ったようである。アジア勢では、韓国はアルゼンチンに敗れて2敗、中国はアメリカに敗れて1勝1敗になった。
 

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25日。
 
監督は朝の早苗の怪我の状態を見て、今日は休ませることを決めた。
 
「済みません。こんな時に怪我してしまって」
と早苗は恐縮しているが
 
「いや、その分きっと入野(朋美)君と中折(渚紗)君が頑張ってくれるよ」
と監督は言った。
 
監督は今日は渚紗をポイントガードとしても使うつもりである。
 
「まあ二次リーグに向けての選手温存だよ。変に無理せず今日明日は身体をしっかり休めておいてね」
と副キャプテンの彰恵は言った。
 

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昨日、ロシアと日本の試合が激しい試合になり、結局日本が強豪ロシアを倒す金星をあげたことから、この日のフランスの選手たちはマジ100%であった。
 
最初からおそらくベスト5と思われる選手をスターターに並べた。こちらもある程度向こうが本気で来ることを予測して、それなりの覚悟で出ては行ったものの、全く歯が立たなかった。
 
それはもう大学生と小学生の試合という感じである。
 
千里はプレイしていて頭が空白になる思いだった。マッチアップは全部止められてしまうし、向こうの攻撃を全く防げない。スピード、パワー、テクニック、どれひとつ取っても全然かなわない感じだ。
 
それで一時は点数が14-0という恐ろしい状態になった。
 
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千里、玲央美、王子といった中核が相手に全く歯が立たず翻弄されているのを見て監督は、彰恵・百合絵・江美子といった、いわばソフトタイプのプレイヤーを投入する。彼女らは監督から指示を受けて、相手とあまり接近しないようにしてプレイした。1on1は絶対に負けるのでそういう状況にならないようにする。相手が近づいて来たら早めにパスする。ゴールから4m程度の所まで来ていたら外れてもいいからシュートする。
 
それで日本は何とか持ち堪え、前半を43-25というスコアで終えることができた。
 

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後半。渚紗をポイントガードに使い、玲央美をシューター、フォワードに桂華と百合絵という構成で出て行く。桂華も百合絵も今回のチームでは予備選手に近い使われ方をしているものの、ふたりとも体格が良いので、大きな外国人選手にもあたり負けない。加えてふたりとも緩急の使い分けがうまいタイプである。それで、第3ピリオドは彼女らの活躍で24-20という随分まともなスコアで終えることができた。もっとも、点差が開いているので、向こうもそろそろこのあたりで良いだろうと思ったようなふしもあった。
 
第3ピリオドまでの合計は67-45。実に22点差である。
 
そして千里は第4ピリオド出て行った。
 

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千里はこの試合スターターに名前を連ねたものの、相手の圧倒的な実力にねじ伏せられてしまい、全くいい所無く引っ込むことになってしまった。その後、他のメンツが黙々と戦うのを見ていた。
 
第2ピリオドも第3ピリオドも声が掛からなかったものの、千里はフランスチームのひとりひとりの動きを頭の中で把握しようとしていた。
 
出て行く時に監督から言われたこと。
 
それは「試合のことは何も考えなくていい。ひたすらスリーを撃て」ということばである。
 

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オルタネーティング・ポゼッションが日本なので、こちらから攻撃を始める。朋美からパスが来る。何も考えずに撃つ。
 
入る。
 
この一連の動作の間、千里はフランス選手を全く見なかった。
 

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相手が攻めて来る。
 
向こうのポイントガードが一瞬8番の選手を見たような気がした。しかし彼女はそのままドライブインの姿勢を見せる。千里は半ば無意識に走り出していた。
 
ボールが8番の所に飛んでくるが、千里がギリギリで途中カット。
 
弾かれたボールに必死で追いついてそのままドリブルに変える。全力で走っていく。スリーポイントラインの手前で止まる。
 
そして撃つ。
 
入る。
 
この千里の連続スリーで点数は67-51となった。
 

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その後も千里はひたすらスティールを試み、自分がボールを持ったら、とにかく撃つ。
 
それで第4ピリオドの残り4分まで行った所で千里は5本のスリーで15点奪い、玲央美の4点も加えて19点、一方フランスはその間に8点しか取れず、スコアは75-70と、あっという間に5点差に迫った。
 
この間、千里がどんどんスリーを入れるので相手はブロックに来るのだが、この日の千里は巧みに相手選手のいない場所に移動してはボールを受け、受け取るとほとんど時間の溜めを作らずに撃っていたので、相手はブロックが間に合わない感じであった。また向こうはスピードはあるものの、瞬発力では今日の千里が上回っていた。
 
ここでフランス側は「センター5人」という天井チームで攻勢を掛けてきた。フランスチームにはセンターとして登録されている選手が6人もいるのである。「上空」でボールを運び、立て続けに3つゴールを決めて81-70と突き放す。しかし千里と玲央美が1本ずつスリーを入れて81-76と5点差に戻す。
 
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フランスが攻めて来る。相手は背の高さと体格で強引に入り込んでくる。ぶつかり合いが生じるがこちらも気合いが入っているので平気だ。相手のシュートが外れる。しかしリバウンドを取って叩き込む。83-76.
 
残りは1分。
 
日本が攻めて行く。逆転するには8点が必要だ。尋常では追いつけない点数である。しかし日本は諦めていなかった。
 
できるだけ早く攻撃して点を取り、向こうからボールを奪い取り、また速攻更にボールを奪い取って速攻というのが必要だが、それをやるつもりでいた。
 
相手は千里のスリーを警戒してダブルチームを掛けて来た。この試合で千里の次に点を取っている玲央美にも相手のエースが張り付いている。結果的に相手の警戒がいちばん薄かったサクラにパスする。
 
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サクラはここまでリバウンドでひたすら負けて、自分自身に対して腹が立っていた。いくら格上の相手とはいえ、ここまで負ける自分が許せなかった。
 
ドリブルで中に進入して相手選手とぶつかりながらシュート。
 
入る。
 
しかし笛が吹かれる。
 

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判定はダブルファウルであった。
 
従って得点は認められる。
 
サクラとぶつかった相手選手の双方が手を挙げている。相手選手はこれが5つ目のファウルである。別の選手と交代する。
 
得点は83-78。残り46.2秒。
 
相手はゆっくりと攻め上がってきた。時間をできるだけ使ってしまおうという作戦のようだ。こちらはプレスに行くものの、向こうもそう簡単にはボールを取られない。
 
たっぷり20秒ほど使った所で中に侵入して来てシュート。
 
ボールはリングには当たった。つまり24秒計がリセットされる。残りは23秒である。
 
しかしボールはゴールには入らず落ちてくる。
 
サクラ、玲央美、相手の2選手がほぼ同時にボールに飛びつく。ここでフランスがボールを再度取れば、向こうの5点差勝利がほぼ確定する。
 
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一瞬相手選手がボールを取ったのだが、玲央美が弾く。そこに王子とフランスの別の選手が飛びつく。またもやフランス側が取ったものの、そこに走り寄っていた千里が弾く。
 
しかしその弾かれたボールを取ったのはフランス側であった。
 

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フランスがボールを取った以上、この後の時間、フランスはボールを回していれば良いことになる。
 
ところがその選手が味方にパスしようとした時、玲央美がその選手のユニフォームの端をつかんで派手に引っ張った。選手の手元が狂ってボールが転々とするものの、そのボールを押さえたのはまたフランス選手である。
 
しかし笛が吹かれる。
 
玲央美のファウルが取られる。
 
試合終盤でリードしている側が攻撃している場合、負けているディフェンス側のファウルは必ず取られるのである。いわゆるアドバンテージでは流さないし、こういうファウルは、正しい作戦上のファウルとして認められている。
 
そして、実は日本側はさっきのサクラのファウルがこのピリオド3つ目で、今の玲央美のファウルでチームファウルが4つ目になることから、この後、スローインではなくフリースローになる。
 
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残りは20.6秒。点差は5点。
 

相手選手がフリースローをする。
 
ところが1本目は外れてしまった。
 
フランス側は選手同士顔を見合わせている。
 
次のボール、わざと外してリバウンドを狙うか、きちんと入れるか迷ったのだろうが副将の人が「入れろ」という指示を出した感じであった。
 
2投目。きちんと入る。
 
これで84-78.
 
残りは20.6秒で止まったままである。
 
日本が速攻する。
 
フランスはこの攻撃を放置した。日本が得点すればフランスがスローインできるので全然問題無いのである。
 
千里がスリーを入れて84-81。しかし残りは15秒でフランスボールである。
 

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フランス側はゆっくり攻め上がろうとするが、日本はプレスに行く。これにフランスが意外に手こずった。相手パスを瞬発力で飛び出した彰恵がカットするも、転がったボールに飛びつくようにしてフランス選手が確保した。
 
この場合、彰恵は「ボールに触った」ものの「ボールをコントロール」はしていないので、フランスが引き続きボールを保持していることになり、8秒ルールのカウントは継続中である。
 
そうこうしている内に7秒になってしまう。フランス側はひとりの選手がドリブルで目の前の玲央美を突破しようとするものの、ここで玲央美は絶妙なフェイントで見事にボールをスティールした。8秒ルールが成立しそうなので焦って向こうも心理的余裕が無くなっていたのもあるだろう。
 
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玲央美が自らドリブルで攻め上がる。フランス側はこれを止めるべきかどうか一瞬迷ったようであるが、玲央美がスリーポイントラインの手前で立ち止まりシュートの姿勢を見せるので、慌てて止めに行く。
 
もう残り時間は5秒である。
 
玲央美はゆっくりした動作でシュートを撃った。
 
フランス選手は結局玲央美の近くで停止し、玲央美に触れなかった。うっかり玲央美の手などにぶつかり、バスケットカウント・ワンスローになる事態を避けたのである。
 
このあたりの判断が瞬時にできるのが、さすがに世界のトップレベルのチームである。
 

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