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話し合いが終わった後で宇田先生は言った。
「村山さんさあ、直接連絡がしたい時があるから、できたら携帯を持っててくれない?」
「分かりました、用意して番号とアドレスをそちらにお知らせします」
「うん」
「お母ちゃん、電話代とかは多分自分で払えると思うから携帯ショップに付き合ってくれない?」
「うん」
それで千里(U)は父をパチンコ屋さんに放置して!母・小春と一緒にボーダフォン(*36)のショップに行ったのである。
「ここ携帯ショップなの?ボーダフォンってあまり聞かないけど私のドコモの携帯ともつながる?」
と母はとても心配顔である。
「大丈夫ですよ。ボーダフォンはイギリスの携帯業者で世界でつながりますから(*37)」
「ならいいけど」
小春が千里たちをボーダフォンのショップに誘導したのは、黄色がドコモ、赤がauを使っているので青は別のキャリアにしようとしたためである。
小春はコリンと話し合っているが、もちろんコリンはGの意向を受けている。
「携帯をお求めですか」
と店員さんが笑顔で寄ってくる。
「娘が(と津気子はわざと言った)今度の春から高校なので、携帯を買ってあげようと思って」
と津気子は言った。
“娘”と言われて、この千里は少し頬を赤らめた。娘と言われるのが嬉しいのだろう。
「今若い方に大人気の“着ぐるみ携帯”は如何ですか?」
と言って見せられる。
「何これ!?かわいいー!」
と千里は声を挙げた。
「携帯の・・・おもちゃ?」
と津気子は訊く。
「いえ、携帯を着ぐるみの中に入れておけるんですよ。でもちゃんと着ぐるみを着けたまま使えるしボタンも押せるんですよ」
と着ぐるみを開いてみせる。
「なんか可愛いね」
と津気子も気に入ったようである。
「これになさいますか」
「この着ぐるみはおまけですか?」
「いえ、すみません。997円になっております。おまけの着ぐるみはこちらです」
とそちらも見せられるが、さすがにオマケのはあまり楽しくない。
「997円くらいならいいかな」
「千里、赤い牛さんとは、青い携帯ボディが似合うよ」
と小春はたくみに青を買わせようと誘導する。
「そうだね。青にしようかな」
ということで、千里U(実質Bw)は、東芝製2G携帯のV501T(Blue) をお買上げになったのであった。端末代・着ぐるみ代は千里が払った。毎月の使用料金は千里名義の口座から引き落とすことにした。
この携帯の電話番号とメールアドレスを、千里は宇田先生の携帯にメールしておいた。
「この携帯に取り付けた鎖は何?」
と千里は訊いた。
「あまり気にしなくていいよ」
と小春。
実はアースである!
千里はそもそも静電気が凄いが、特に青の静電気は酷く1年生の時も携帯音楽プレイヤーと学校の技術の時間にテスター!を壊している。バスケの24秒オペレータをやらせたら24秒計が壊れたこともある!(高い機械なのに)
村山家では家電のパネル操作は千里以外の人がするルール。
(*36) J-Phoneは筆頭株主の日本テレコムがイギリスのVodafoneの傘下に入ったことから2003年10月に社名・ブランド名をVodafoneに変更した。
しかしボーダフォン日本法人は2006年3月、ソフトバンクに売却され、ブランド名もソフトバンクに変更された。この時代は非常に短命だったボーダフォン時代である。
(*37) この時代は旧式(2G)のPDC方式から新型のW-CDMA(3G)への移行期だが、Vodafoneの3G基地局の普及が遅れ、全国の主要都市以外では3G携帯は全く使えなかった。そのため当時のCM文句をもじって「世界で使えて自宅は圏外」などと言われた。
千里が買ったV501T(2005.7発売)は旧式のPDC方式なので、まだ使える。
津気子は千里が旭川に出た場合の下宿先として美輪子のアパートではどうかと提案した。津気子としては、夫(武矢)の母である天子より、自分の妹の美輪子のほうが話しやすいという問題もあった。また津気子は天子に約束していた額の仕送りをしていない後ろめたさもあった。ただし実際は千里が武矢名義で毎月送金していた(前述)。
「下宿先、美輪子おばさんがいいなら私はそれでいい」
と千里(U)は言う。津気子も美輪子と電話で話して、千里は旭川では美輪子の所に下宿することが決まった。
一方天子は千里(R)から“姫路”に行くと聞いて
「寂しくなるねー」
と言っていた。
「お祖母ちゃんも一緒に姫路に行く?」
今建設中の家にはまだ2人収容できる。
天子は少し考えた。今自分の生活は千里からの送金に支えられている。千里と同居した方が、少しは千里の負担も小さくなるだろう。
「あんたがどうしても来てと言うなら行くけど、できたら私はこの町(旭川)を離れたくない」
「それでいいと思うよ」
と千里も優しく微笑んだ。
天子は1960年の結婚以来、45年間、旭川に住んでいる。特に目が見えないと新しい町に住むのは不安というより怖いだろう。言葉も全然違うし。
10月31日(月).
藤井忠雄さんから清香の父への2000万円の融資が実行された。このお金は当然破産管財人さんの管理下におかれる。そしてまずは8月末で解雇された漁船員さんたちの“労働法規に定められた1ヶ月分の給料”(*38) として支払われた。
船は買い手がつかなかったものの、土地と家屋は年内に競売が行われて債権者の地元銀行が自己落札した。そして退職した漁船員さんたちに年末ギリギリに退職金が支払われ、みんな「助かった」と泣いていたという。
船は最終的に解体してスクラップとして売却され、破産手続きは廃止(*40)された。3月には残りの債務の免責(*39) が「決定」し、お父さんは4月には自由の身となった。
(*38) 本来解雇は30日以上前に予告して解雇せねばならず、事前の予告無しに解雇した場合、解雇した先30日分の給与を支払わなければならない(労働基準法第二十条)。例外は解雇される労働者に責任がある場合、また天災事変などにより事業の継続が不可能になった場合のみ。
会社破産による整理の場合、退職金は優先度が落ちるが、給与は他の債務より優先される。
(*39) この破産・免責により、清香の父が忠雄さんから借りた2000万円も免責になってしまうので、このお金は返さなくてよい:返してはならない。返すと偏頗弁済といって破産法違反になる。むろん忠雄さんはそれを承知で融資した。
なお免責は「決定」の1ヶ月後に「確定」する。
(*40) 破産の手続きを終了することを「廃止」と言う。正確には「破産財団の廃止」である。
10月31日(月).
この日付けで、武矢たちの船・第7$$丸は廃船となり、乗組員は全員解雇された、廃船の方針は10月10日には決まっていたものの、解雇をこの日まで待ったのは、船員さんたちに“11月分”の給料まで満額で渡してあげるためである。
(労働基準法に定められた解雇後30日分の給与まで払う)
こういうことをしてあげられる分だけ、どうも清香の父の船より少しだけマシな状況だったようだ。退職金は11月末までに払うと言って、全員の了承を得ている。
予め転籍の話が決まっていた若い船員さん2人は第8&&丸という船に移籍になり、実はもう先週からそちらに乗り込んでいる。
船に関しては、事故で航行不能になったことから保険会社は全損とみなした。それで保険金がいくらか出るらしい。その保険金が入金したらそれを原資にみんなの退職金を払いたいと船長の鳥山さんは言っていた。
第7$$丸の場合、これがとても運が良かった。単純な廃船だと船は二束三文でしか売れない。
保険会社はこの船のGPS、ソナー、通信設備がとても新しいことから、これが高値で売れる:残存価値が高いと判断したようである。実は網も結構な値段で売れたらしい。
「ああ、間違っちゃった!」
と母は言った。
「どうしたの?」
と彼は訊いた。
「通販でパンツ3枚セット3つ頼んだんだけど、XL頼んだつもりがMだった」
「返品交換してもらえば?」
「それが返品不可最後の決算セールだったのよねぇ」
「ありゃ」
「そうだ?あんた穿かない?これどうやっても私には入らない」
彼はドキッとした。女物のパンツ?
穿きたーい。
でも穿いていいのかな・・・・
「もらおうかな」
「うん。じゃこれあげる」
と言って、母は“スタンダードショーツ・3枚セットM”を3パック渡してくれた。
部屋に帰ってから穿いてみる。
すごーい。邪魔な物がついてない股間にピッタリフィットする。これって、お股に余計な物が付いてない人のための下着なんだ!
それに女の子のパンティって可愛い!星模様とか、水玉とか、ボーダー柄とか、このタータンチェックとか凄いおしゃれ。レース使いも可愛いし。男のパンツとか全然可愛くない。こんなのいつも穿いてる女の子ってずるいよ。
彼はとても快適で可愛い下着を入手して、嬉しくてたまらなくなった。そして学校にもその下着を着けて行った。ただし体育のある日は、それをクラスメイトに見られないように、ショーツの上にボクサーを重ね穿きして行った。
10月31日(月).
千里Uは学校で留実子に言った。
「私もサーヤもN高校さんにとってもらえるみたいだけど、入学までにはまだ5ヶ月あるからさ、少し練習しない?」
「ああ、いいね!バスケ部の活動も終わっちゃって身体動かせなくて寂しかった」
北北海道大会で女子バスケ部から3年生は引退し、現在は2年生の雅代が中心になって活動している。正部員は2年生3人しか居ない!が3人でシュート役・妨害役・返球役などと回して練習しているようである。
留実子と一緒に鞠古君も練習したい(デートなのでは?)ということだったので放課後3人で旧早川ラボに行った。
C町バス停から約1.5kmの上り坂ジョギングで到達する。3人ともこのくらいの上り坂を走るのは平気である。
「結構山の中に入るね」
「ヒグマがよく出るみたいだから気をつけてね」
「そんなのどうやって気をつければいいの?」
「私と一緒なら大丈夫だよ」
留実子が頷いていた。
旧天野道場(元は墨野道場)の建物の中にバスケットのゴールが置かれている。
「ここで2人は1on1、ひとりはシュート練習。5分交替」
と千里。
「それめっちゃハードな練習という気がする」
と鞠古君。
「だからいいじゃん」
と千里(U)。留実子もワクワクした顔をしている。
「汗掻いたら管理人室のシャワーで汗流すといいよ。みんな女の子だから気楽だし」
「ぼく男だけど」
「でもちんちん切ったんでしょ?」
「腫瘍の出来たところだけ切って前後を繋ぎ合わせたんだよ!だからちんちんあるよ」
「そうだったっけ?」
「トモ、高校に入る前にちんこきれいに切ってもらって女の場所から小便出るようにしてもらって、完全な女になる手術受ける?」
「やだ」
俺が女になろうかなと言ったら殴るくせに、と鞠古君は思っている。
「どう思う?」
とVはGに尋ねた。
「凄いハードな練習してるね」
「Bの体力では無理な気がする。一番体力のある、るみちゃんでもへばってるのに」
「30分に1回休むようにしたからね」
「ひょっとしたらシュート練習をBwにやらせて、マッチング練習はBsとY1がしてるのかも」
「3人で5分交替かぁ!」
「ビクトリアも練習に入る?」
「やだ、あんなきついの」
千里は玄武と青龍に命じてすきま風が入らないようにテープで塞ぎ、またストーブも入れてあげた。彼らが来る30分前に火を入れる。
なお、旧早川ラボに置かれた管理人室のほうにはシャワーの他に冷蔵庫などもあり、食材なども置かれているので、お腹が空いたら適当に冷凍食品をチンしたりして食べていた。ここの食料は千里Vが適当に補充・交換しておいた。
カップ麺もよくはけた!!
「調理器具がひととおり揃ってるんだね」
「2人のスイートホームにしてもいいよ」
「ヒグマに食われそうだからやめとく」
しかしそれで平日も休日もだいたい16時半−18時半くらいにこの3人でバスケットの練習をするようになったのである。この練習は3人が旭川に移動するまで続いた。千里Vは玄武に命じて彼らが旧早川ラボにいる間のガードおよび往復経路のガードをさせた。また12月以降は除雪も命じた。除雪は玄武と青龍でやっていた。
「この区間は除雪されてるんだね」
「市がやってくれてるのかな」
などと3人は言っていた。この付近は市道ではあるが、沿線の住民が居なくなってしまったので除雪作業の対象外になっている(鈿女神社前まではしてくれる)。
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女子中学生・進路は南(30)