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■女子中学生・進路は南(25)

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10月2日(日).
 
物凄く早い日程だが、札幌SY高校の特待生枠入試が行われた。福川司はこの入試にS中の女子制服を着て出て行き、実技と面接の試験を受けた。
 
また司に刺激されて自分もSY高校に行こうかなと考え直した前河杏子は8・9月に4回にわたるセミナーを受講し、課題もきちんと提出し、10月9日の試験を受けた。杏子も実技を見てもらって「司ちゃんと2本柱で行ける」と言われた。
 
司が小さな身体を全身バネのように使って投げてくるタイプなのに対して杏子は男性のピッチャーのように長身から剛速球を投げ降ろしてくるタイプなので
 
「この2人はタイプは違うけど、どちらの球も打ちにくい。男でも簡単に打てない」
と高い評価を受けた。
 
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2人とも合格した場合は今月中旬に通知されるはずである。
 

10月17日(月).
 
司と杏子に札幌SY高校から合格通知が届いた。これで2人は来期は高校女子野球で活躍することになった。
 
司の親友・雅海は
「司ちゃん凄ーい。おめでとう」
と祝福したが
「雅海ちゃんもSY高校に来ない?」
と誘った。
 
「ぼく野球とかできないよー」
「別に野球する必要は無い。普通に女子高生すればいいよ」
「あっそうか」
 
それで雅海は一般入試でSY高校を受けることにしたのである。雅海の場合、どっちみち公立には通らないのでどうせ私立に行くなら札幌でもいいかなと思った。母に相談してみたら
「留萌にいたらいつまでも“元・男だった女”と言われる。いっそ誰も知らないところに行くのもありかもね」
と言われた。
 
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「それに司ちゃんと同じ高校なら心強いじゃん」
「ぼくチア部に入ろうかな」
「いいんじゃない?ダンスは得意だもん」
「そうだよね!」
 

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10月17日(月).
 
“千里”ときーちゃんはコリンを連れて姫路に飛んだ。
 
千里に学校を休ませて?月曜日に行ったのは実は平日でないと法務局が開いてなくて登記の移転ができないからであった。
 
きーちゃんは、千里とコリンが車(小春のカローラ)に乗ったところで
「あ、ちょっと忘れ物」
と言って家の中に戻り、自分の2番エイリアス(ルミナ)を呼び出した。
 
これは本来釧路に住んでいて田中音香の妊娠、またハイジ絡みなどの作業をしていた子で、これまで千里にはあまり関わっていない。3番は函館にいる。
 
「ちょっと姫路に行ってくるから、お留守番お願い」
「お留守番って何すればいいの?」
「何か私もよく分からないけど誰かから連絡がある可能性がある気がするのよね。だから電話番。それと妊娠中のハイジの所にも時々顔を出しといて」
「ちょっと待って。何日留守番するのよ?」
「分かんない」
「ちょっとー!」
 
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それできーちゃん(貴子1)は車に戻る。コリンは貴子と千里(*22)を乗せて新千歳まで行った。
 
旭川空港から伊丹空港に直接飛ぶ便が無いこともあるが、帰りが遅くなった時に新千歳に車を駐めていたほうが、柔軟な対応ができるからである。そして下記の便に乗った。
 
新千歳空港11:45(ANA774)13:35伊丹空港
 
(*22) 朝御飯の後で千里Gと入れ替わっている。
 

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伊丹空港(大阪国際空港)で貴子は千里たちを待たせておいて、6番エイリアス(アンナ)から品川ナンバーのベンツSクラスを受け取る。
「メルシ、メルシ」
「あんたも“自分使い”が荒い」
「それはお互い様で。アンナちゃんの用事もしてあげてるじゃん」
「関西で何かミッションするの?」
「こっちに引っ越すかも」
「へー。本州に戻るのは150年ぶりくらいだね」
「ああ、函館戦争以来、北海道に居着いてたからなあ」
 
「そうだ。あんた旭川で1000人の男の娘を女の子に変えたという噂があるけど」
「1000人も変えてないよぉ」
「私にもそれ伝授してよ」
「おっけー」
 
それでノエルはアンナ・マリアに性転換させる術を伝授した。
 
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「ノエルには負けるけどこれで100人の男の娘を女の子に変えちゃお」
「ああ、横浜だとたくさん患者さん(←「いけにえ」と読む)が居そうね」
 

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この車を運転して千里たちの所に戻る。
「なんか凄い車ですね」
「友だちのを借りた。乗って乗って」
 
それで貴子は千里とコリンを乗せて予め目を付けておいた不動産屋さんに行った。千里はセーラー服だが、貴子は広井ユキ子のオートクチュールのレディススーツ、コリンにもエルメスのレディスビジネススーツを着せている。
 

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ふらりと入ってきた感じでご相談コーナーに座り、係の人(男性)に言う。
 
「来春からうちの娘が姫路で暮らすので、適当な土地が無いかと思いまして。あまり広くなくていいですから」
 
担当者(男性)は何か高そうな服を着てる奥様だなと思った。秘書?も良い服を着ている。それで言ってみた。
 
「広くなくていいと言いますと80坪くらいでしょうか?」
「あら、それではさすがに狭すぎて家が建てられないじゃん。400坪くらいかしら」
「ああ、なるほどですね」
 
と言ってから千里を見る。セーラー服を着ている。今中学生だろうか。
 
「えっと、お嬢様は今度高校進学ですか?」
「ええ。この子が来春からH高校に通うことになったので、通学に便利な場所に家を建てようと思って」
と貴子は言う。
 
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その言い方で不動産屋さんはこれはかなりの上客のようだぞと思う。今の時期に入学が決まったということは、何かの特別推薦生だろう、スポーツとか音楽とか特殊な条件、たとえば大きな大会で上位になったとかで、早々に合格が出たものだろう。担当者は客の言葉使いから、関東方面から来たのかなと思った。
 
しかし80坪を狭いと言うとか、着ている服も高そうだし、上司に任せた方がよいと判断する。
 
「ちょっと失礼します」
と言って奥の方に行き、副店長に相談する。副店長はチラッとお客様用駐車場を見た。大きなベンツが駐まっているのを認識する。
 
副店長は笑顔で出て来た、
 
「お嬢様がお暮らしになる適当な400坪程度の物件でH高校に通いやすい所ですね」
「ええ」
「お母様は同居なさいますか」
「基本的にはこの子とブテユエ(と言ってコリンを見る(*23))、それにシェフと掃除人くらいかしらね。私は時々様子を見に来るだけ」
 
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「なるほどですね」
と言って副店長は頭の中で人数を計算する。つまり最低5部屋。客間も入れて6-7部屋程度が必要だ。しかしその程度なら70-80坪程度で済みそうである。なにか面積を食うものを造るのだろうか?それとも広い庭が欲しいのか。
 
(*23) ブテユエとは執事のこと Bouteiller, イングランドのバトラーに相当する。フランス語では男女問わずこう言う。
 

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「しかしこの広さなら・・・」
と副店長は考えてから思いついた。
 
「H高校からは4kmほど離れてしまうのですが、昼間ならお車で10分、朝の時間帯ならバスで20分ほどの所に、350坪ほどの土地があるのですが4000万円で如何でしょう?結構、幹線に近い割りに風光明媚ですよ。最寄りのスーパーまでは徒歩7分です」
 
地図を見ると、貴子が予め目を付けていた所より学校に近い。図面を見せてもらうと、図面上は40m×32m(約380坪)の土地である。
 
「ここは何か建っていた所ですか」
「実はスーパーを建築しようとしていたのですが、建設中に計画が白紙になって建設途中で放棄されたんですよ。一応作りかけだった建物は全部崩して売りに出ているんですけどね」
 
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「下水道は?」
「来てます。ガスはプロパンです」
 
「ガスは使わない方がいいかな。ここ地目は?」
「宅地です」
「都市計画は?」
「第一種住居地域です(*24)。住居“専用”地域ではないので多少の音が出てもそれほど苦情は出にくいと思いますよ」
 
副店長は娘がわりと細い体付きなのでスポーツ特待生より音楽特待生か何かかと思い、ピアノやバイオリンなど楽器の音を立てることを考えた。身体が細い割りに腕が太いのもバイオリンなどを連想させる。バイオリニストの腕や指はスポーツ選手並みである。広い敷地はあるいは音楽練習室を建てるつもりかも。
 
「現地を見せてください」
「ご案内します」
 

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それで行ってみると、“元”新興住宅地のようである。結構町外れで確かに良くいえば風光明媚、悪く言えば寂しい地域である。この付近一体が開発されたのは恐らく20-30年前と見た。
 
この住宅地は山の斜面に広がっており、元々は200戸くらいの家が建っていたのではないかと思われた。斜面に沿って段差を付けて宅地が造られているので、お隣とは段差または道路で区切られており、1戸1戸の独立性が高い。同じ道路に面しているお隣さん同士でも、間に幅2mほどの歩道が設けられており、敷地と敷地が直接接していない(防火対策を兼ねる)。
 
プライバシーに配慮した団地設計だ。(少し下の図面参照)1区画の面積も50-60坪と広め。やや高級な住宅街を目指したのだろう。建っている住宅は各々デザインがまちまちなので、建て売りや建築条件付きではなく土地だけの販売だったようである。
 
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しかしかなり空き地が多い。あるいはバブル崩壊でローンを返せなくなって退去した人の土地だろうか。千里たちが案内された所は、この住宅地の中段の端にあり、6軒分くらいをぶちぬいて広い土地を確保した感じだ。
 
住宅地の中心付近にスーパーを造るという考えは悪くない気がする。なぜ計画中断したのだろうか。そもそもここにスーパーを作るつもりで第1種低層住居専用地域ではなく、第一種住居地域にしたのだろう(*24) (*35).
 
一応団地の入口の所には広い駐車場を持つコンビニ(セブンイレブン)があった。幹線道路沿いでもあるし、近くに他に店が無いようなので、きっと繁盛してるだろうなと思った。
 

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(*24) 第1種低層住居専用地域だと、基本的に住宅しか建てられない。住宅を兼ねた、ごく小規模のお店が建てられる程度である(学校・老人ホームなどは可)。いわゆる“閑静な住宅街”だが、利便性が低い。
 
第一種住居地域なら床面積3000m2以下のお店まで建てられるので、結構利便性が出るが、静寂性は劣る。住居専用地域はあまり音を立てると顰蹙を買うから概して若い人や子育て世代には住みにくい。
 
橘丘新町は現時点で“閑静な”というより“閑散とした”住宅街である!
 

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(青い線が域内道路)
 
千里たちは車を降りてみた。
 
「ああ、なるほどね」
と千里は言ったが、きーちゃんは呆れていた。(詳細後述)
 
現在は土地のコンクリートだけが残されている。開店する前に建設中断したというだけあってコンクリート自体はあまり痛んでないようにみえた。
 

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きーちゃんはまずレーザーメーターで四辺を測定した。道路に面した部分が43mあるが奥側は40mしかない。奥行きは5〜6箇所測ったが、どこでも32mである。つまり面積は41.5×32=1328m2=402坪程度である。
 
一方、副店長は貴子がレーザーメーターなど出してきた段階で、この母親はただの上品な奥様じゃないぞと思った。
 
「お母さん、前の道路の幅を測って」
と娘の方が言う。
「あっそうか」
と言って母親は物件の前の道路の幅も測っていたので、副店長は感心していた。
 
「高さ規制の確認ですか」(*26)
 
「そうです。この道路は7mあるから、道路より1m後退すれば10mまでの
建物を建てられますね」
 
(8m×1.25=10)
 
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「よくご存じですね!」
と副店長は本当に感心している。
 

貴子が計測している間に千里は羅盤!で方位も確認した。
 
凄いもん持ってる。こいつら何者?と副店長は思う。
 
(シュテントウジのメンバー!) (*25)
 
「ここは道路側が西なんですね」
と娘が言う。
 
「はい。実は・・・」
 
住宅地は丘(山?)の斜面に広がっているのだが、そもそもこの斜面が、幹線道路を北上する向きに見て右側に広がっているのである。しかしここは開発地全体の北端にあるので、“北隣”の家からの斜線規制を考えなくて良い(*26).
 

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(*25) 駿馬・天野(敢えて“てんの”と読む)・桃源・順恭、で合わせてシュテントウジ。昨年10月以来、2ヶ月に1度程度、このメンツで普通の霊能者の手に余るような難しい物件の浄化や封印を手がけている。
 
普通の方位磁針でも用が足りる所をわざわざ羅盤を使ったのはただのハッタリ!そもそも千里はこんな道具を使わなくても方位が分かる。
 

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(*26) 建物の高さに関してはこのような規制がある。
 
(1)道路の向こう側の端から勾配125%で引いた斜線より下までしか建てられない。
 
(2)北側に隣接する土地との境界線から、5m立ち上がった線から始めて、勾配125%で引いた斜線より下までしか建てられない。
 
(3) 第1種/第2種低層住居専用地域では10mまたは12m以下(条例による)。
 
ここは“第1種住宅地域”なのでこの制限は無いが、千里が言っていたように道路からの高さ規制で結局10m以内に規制されるのでマンションの建築は不可。
 
密集した住宅地に建てられた建物の北側が不自然に斜めの形に切れていたりするのは(2)の規制に掛かるためである。
 

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