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火曜日、午後の授業は数学と理科であった。つまりどちらも千里Tが出る。それでTはお昼休み、給食を食べたあとで図書館に行こうかと思って教室を出た。実は午前中の授業でRが消えたので、その後Tを送り込み、Tは学校に来るなり給食を食べた。
廊下を歩いていたら数子と遭遇する。
「あ、千里、バスケの練習に来てくれたりはしないよね?」
「ああ、行こうかな」
それでこの日から千里Tが女子バスケ部の練習に出るようになった。女子バスケ部はサブ体育館で練習しているので、メイン体育館で(卓球部の)練習をしている玲羅とは遭遇しない。また練習が終わると、GまたはVの手によって、旧早川ラボ(に置かれた管理室)に転送されていた。
GとVは“この千里”を村山家に帰すのは色々問題があると考えていた。
一方、千里Sの方だが、
「やっと夏休みの宿題終わったぁ」
と言っていたら、目の前にコリンはどーんと教科書と問題集を積み上げる。
「千里、1年くらい休んでたから2年生の勉強が全然できてないでしょ。これを仕上げよう」
「こんなに〜〜!?」
ということで、この千里は取り敢えず平日は1日中勉強をしていて、土日にはQ神社でご奉仕するパターンとなった。
コリンは旧早川ラボの千里Tにも同様の問題集を積み上げてTが悲鳴を挙げていた。
8月31日(水).
この日、新早川ラボに清香は来なかった。体調でも悪いのかなと思い、千里は勾陳を召喚して、彼を相手に稽古をした。
稽古が終わった後で勾陳がもじもじした様子で(ちょっと可愛い)
「あのぉ、千里さん何かお忘れ物は?」
などという。
勾陳らしくない。彼はいつもタメ口である。“千里さん”なんて言わない。いつも“千里”と呼び捨てである。
「何だっけ?」
「あのぉ、私の睾丸をできたら返して頂けないかと」
「ああ、忘れてた」
と言ってから千里は言う。
「お前の睾丸はこのまま永久に無いほうが世の中のためという意見が大勢なのだが」
「そんなこと言わずに返してくださいよぉ」
「二度と悪いことしないと誓うか」
「誓います」
「だったらちょっと待ってろ」
それで千里はP神社深部(ここはP大神のほかは特に認められた者以外は入れない)にある千里の私室に行くと、ライブ保存キットに入れられた勾陳の睾丸を取った。
千里Rが神社深部から出て来た時、ちょうど外から戻ってきた翻田宮司と遭遇する。
「あ、どうもご無沙汰してます」
「ご無沙汰??」
だって千里ちゃん毎日神社に来てるじゃん。
「どこか出ておられたんですか」
「うん。ドライブ用のめがねを新調したんだよ」
「へー。どんなのですか」
「これなんだけどね」
と言って宮司は眼鏡ケースを開けて取りだしてみせた。
「へー。わりとおしゃれなデザインですね」
「いや、運転免許の更新の期限が明後日だけど、これまで2回落ちてるからね。やはりメガネも新しいのに換えてみようと思って」
「へー。通るといいですね」
と言って千里Rはそのメガネを手に取り見ていた。
千里Rは宮司と別れて(新)早川ラボに戻る。
「では大和光貴よ、私に二度と刃向かわないと誓うか」
「はい誓います」
と言いながら、勾陳は『俺の本当の真名はバレてないな』
などと思っている。千里は実際は彼の真名を呼ぶのは本当にこらしめるべき時と思っている。
「だったら、そこに横になれ」
彼が横になるので、千里は彼の服を下げて股間を露出し、睾丸を返してやった。
「嬉しい」
「次刃向かったら睾丸じゃなくて首を切るからな」
「絶対刃向かいません」
太陰が「返さなきゃいのに」と言っていた。
9月1日(木).
旭川家庭裁判所から司の性別修正を認める通知が届いた。司の母はそれを学校に提出。司の学籍簿上の性別を正式に女子に修正してもらった。
司は既に女子34番の生徒手帳を使用している。
千里GとVは、TとSの“強さ”について実験してみた。2人を30m以内になるように誘導したら、千里Tの方が消えた。ただしこの2人の場合30mでは消えず10mまで近づいてやっと消えた。
また2人ともRに消されることも確認した。これは30mで消える。つまりR>S>Tのようである。
「多分TはYの要素が強くて、SはBの要素が強い。B>Yだから、それが反映されて、S>Tになるんだと思う。ただ2人の強さが僅差だから10mまで近づかないと消えないのかも」
「難しい」
「だけどTとSで合わせてTS:Transsexual (性転換者)だったりして」
「じゃ次はSTの次でUだな」
「Unisexね」
9月2日(金).
翻田常弥が物凄く嬉しそうな顔をして帰ってきたので菊子は尋ねた。
「どうでした?」
「通ったよ!免許更新できた」
「良かったわねえ」
「メガネを作りなした甲斐があった。1回目ではダメだったけど『もう一回挑戦してもいいですか』と頼んで再度検査してもらったら合格した」
「へー。やはり田舎の警察は優しいね」
「やはり田舎じゃ車が無いと生活できないから少し優しくしてくれてるのかも。ても証明写真が酷い」
「あらあら。でも写真で運転するわけじゃないからいいじゃん」
「これで和弥がここに来てくれるまでは頑張れる」
(ほんとに来てくれたらいいね)
「でも善美さんは?」
「もちろん運転をお願いする。自分ひとりで乗ってる時ならまだいいけど、巫女さんとかを乗せて運転してる時に事故ったら申し訳無いから、仕事中はしっかりした人に運転は任せるよ」
「それがいいわね」
この日はその善美、千里(実は星子)、玲羅、高木姉妹などにも
「良かったですね」
とお祝いしてもらった。
宮司は善美に、自分の免許は更新したけど、仕事での運転は全部善美に頼みたいと言い、善美も了承した。
9月2日(金).
武矢たちの船は帰港したが、相変わらず船長や武矢たちの表情は厳しかった。
船長がみんなを集めるので、とうとうダメか?
と思ったら違った!!
「台風14号が接近しています。気象庁の予報だと来週半ばに北海道を直撃しそうです。それで来週は休漁とします。次の出港は9月12日です」
津気子はホッと胸をなで下ろした。
廃船の通知でなくて良かった!時間の問題という気はするけど。
千里Gと千里Vは話し合った。
「ヤバいよね」
「ヤバいよね」
「これ以上“千里”が帰宅しないわけにはいかない」
「誰を帰す?」
候補はR、S、Tである。
「お父ちゃんが1週間家に居るということは、女子制服で出掛けて帰ってくる千里は家に帰せない」
これまでは、月曜日に武矢が出港した後で千里が学校に出掛け、金曜日に武矢が帰宅する前に千里が帰宅していたので、千里が女子制服を着ていても問題無かった。
「帰すのは千里Sしかありえない」
とGとVは結論づけた。
現在現れている3人の千里の中で唯一、千里Sのみが自分が戸籍上は男だと思い込んでいるのである。
それでGとVはコリンを使ってSを“帰宅”させることにした。
「千里、だいぶ集中して勉強したけど、週末だから家に帰ろうか」
「あ、そうだね」
それで千里Sはコリンが運転するカローラ(小春の車)で村山家に帰宅したのである。
「私長いこと家に帰ってない気がする」
「まあ勉強も頑張ってたしね」
「そだね」
千里Bの帰還は昨年の4月以来で、1年5ヶ月ぶり。また“千里”が村山家に戻るのも7月19日以来45日ぶりである。
「ただいまあ」
と言って千里は自宅に戻った。
母はやっと戻って来たか!と思ったが玲羅は「このお姉ちゃんはどのお姉ちゃんだ?」と疑問を感じた。腕時計を見ると黄色地に青い星模様である!
もしかして黄色と青が合体した?
(よく分かってる)
「あ、カレーの匂い。玲羅が作ったの?」
「紀美ちゃんが作ったカレーを分けてもらって着た」
「へー!紀美ちゃん。お料理するんだ?」
それで食べると美味しい。
「紀美ちゃん、料理うまいんだねー。これタマネギを10分くらい炒めてる。私は5分くらいしか炒めないのに」
「ああ、長く炒めてるなと思ってた」
「凄くまろやかだよ」
と千里は言っている。
千里はカレーを食べた後、台所の洗い物をする。その時、炊飯器が新しくなっているのに気付く。
「あれ?炊飯器買い直したの?」
津気子が戸惑うように言う。
「あんたが買ってくれたんだけど」
「そうだったっけ?」
21時頃奥の部屋に入って寝る。
「わっお布団が新しくなってる」
「・・・・去年の夏に新しいものになったんだけど」
と玲羅は言った。
「そうだったんだ!知らなかった」
つまりこのお姉ちゃんは、去年の夏以前以来、1年ぶりくらいに帰ってきたのかな、と玲羅は想像した。
翌日(9/3) 母は千里に小さい声で言った。
「ねえ、今月かなり苦しいのよ。千里少し助けてくれない?」
「え?お金?」
「うん」
「そんなの無理だよー。私がお金持ってるわけない」
と千里は言った。
それで津気子は、千里の経済的な事情が変わって、お金に余裕が無くなったのかなと思った。でも千里(S)は日曜日(9/4)の夕方、
「これ少しだけど、神社のバイトでもらったお金」
と言って母に3万円あげた。
「ありがとー。助かる。余裕ないのにごめんね」
と母は言った。
なお、この家の光熱費は千里(実際は小春)が管理している津気子名義の口座から落ちており、その口座にはGが毎月一定額を入金しているので、当面村山家の電気や水道が止められる恐れは無い。
これからしばらく(約1ヶ月)の千里たちの生活パターン
千里R:新早川ラボに清香と一緒に住む(以下に述べる)。数学理科以外の授業に出る。
千里S:村山家に住む。学校には行かず、旧天野道場の家に行き勉強してる。土日にはQ神社でご奉仕する。
千里T:旧早川ラボに住む。数学と理科の授業にだけ出る。バスケ部の練習に出る。
9月3日(土).
この日の新早川ラボの練習には清香が顔を見せた。
「おはよう。水曜は体調でも悪かった?」
と千里Rは言った。
「ああ、身体は平気なんだけど、ちょっと参った」
「何かあったの?」
「うちの父ちゃんが失業した」
「失業って、清香のお父さん船長さんだったよね?」
「廃船になった」
「え〜〜!?」
「漁獲高がどんどん減ってて、借金して何とか回してたらしいんだけど、8月26日(金)返済期限の借金を返せなかった」
「わあ」
「それで燃料買えないから事実上操業不能になって29日(月)の出港は無し。船員さんたちの8月の給料は何とか払ったけど、8月一杯で全員解雇して廃船」
「わぁ・・・」
「退職金を払わないといけないけど、払える見込みが無いらしい」
「なんかそれ他人事(ひとごと)じゃないよ」
「船はもちろんうちの自宅・土地も抵当に入ってるから、遠くない時期に差し押さえを食らう可能性がある。それで私は身の回りの品、剣道の道具、これまでもらった賞状やトロフィーの類いとかを持って今安藤先生の家に避難してる。家に居たら、差し押さえの時、それまで差し押さえられるから」
「そんなものまで差し押さえるの?」
「子供のランドセルやハーモニカ・積み木や絵本、ノートやテストの答案まで、とにかく家の中にある物は全て差し押さえられるらしい」
「そんなもの差し押さえたって金銭的な価値は無いのに」
「裁判所って血も涙も無いよね」
「それでこの後、どうするの?」
「父ちゃんは自己破産を申告した。それが認められたら何とかなる。家や土地は競売に掛けられるけど、家の中にあるもの全て差し押さえというのは免れる」
「認められたらいいね」
「でも私は安藤先生の家に居るし、小学生の妹は旭川の伯母ちゃんの家に預かってもらってる」
「ほんとに大変だね!」
「ところで安藤先生にあまり迷惑掛けてもいけないし、私、ここに住んじゃダメ?」
「いいよ!」
「千里とは結婚する約束したし、生活費はしばらく貸してよ」
「結婚する約束したんだっけ?」
「結婚してもいいと言ったじゃん」
「まあいいけどね。費用は気にしないで、ご飯はいくらでも食べてね」
「助かる。安藤先生の家ではご飯5杯くらいしか食べられなくて」
ああ、安藤先生も大変だなと千里は思った。
「でも安藤先生はどこか授業料の要らない高校を探してくれると言ってた」
「それきっとあるよ!全国大会で優勝した実績は大きいもん」
「その話がもし決まったら千里も一緒に来いよ」
「2人取ってくれたらね」
ともかくもそれで清香はその日から新早川ラボで生活するようになり、千里も付き合ってそこで寝泊まりするようにした。
とにかくご飯を作って、朝、清香を“起こす”人が必要だし!
ただし
「セックスしてもいいけど(してみたい)」
という提案は丁寧にお断りさせてもらった。
やはりこの子ビアンだよね?
一応寝る部屋は別にした!また自分の部屋に鍵を掛けるようにした!
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女子中学生・進路は南(10)