[*
前頁][0
目次][#
次頁]
公世が天野道場から戻ってくる。彼が布団に入ったのを見て千里Goldが帰ろうとする。そこを廊下で千里Rが手を掴んで停めた。
「きゃっ。なんだRか。さすがだね。私を停めたのはGとRだけだよ」
「公世を連れてどこ行ってたの?」
「旧天野道場の建物。今は旧早川ラボの土地に置いてる」
「へー」
「きみちゃんがお風呂に入れないと大会に影響するから、入浴させてあげただけだよ」
「きみちゃんを女の子に変えたりしてないよね?」
「私は何もしてないよ。きみちゃん、生理が出てくるのに一時的に女の子になってたみたい。でも生理は終わったから、朝までにはきっと男の子に戻ってるよ。私は去年も公世ちゃんが何故か女の子になってたのを男の娘に戻してあげたよ。私はわざわざ不利になる女子への変更とかしないよ」
「だったらいいけど」
「お風呂のついでに少し稽古もした」
「ああ」
Rは考えた。
「私も連れてってよ。ここ数日練習できなくてイライラしてた」
「私じゃRの相手は務まらないよ」
「清香も連れてきて」
「あーなるほと」
わざと濁点を付けなかったなとRは思った。
それで千里Goldは千里Rを連れて旧天野道場の建物に行く。
「今清香を連れてくるね」
「うん」
Rが道場を見回すと、なぜかバスケットのゴールが置いてある。誰かバスケットの練習に使ってるのかなあと思った。
連れて来られた清香は目をパチクリしてる。寝ていたようだ。
「ここは?」
「天野道場だけどこれは夢だよ」
「ああ、やはり夢なんだ?」
「清香、少し稽古しようよ。ここ数日まともにできなくてイライラしてた」
「よしやろう。私もイライラしてた」
千里Goldが2人に竹刀と防具を渡す。各々の部屋から持って来たものである。
「なんでもうひとり千里が居るの?」
「これ夢だから」
「あ、そうか」
それで2人は深夜の天野道場で思いっきり稽古した。時々休憩しては千里Goldが出してくれるお茶を飲んだり、ケーキを食べたりした。清香のリクエストでファミチキも用意した。
午前3時頃。
「ふたりともそろそろ寝た方がいい。明日の試合に差し支えるよ」
「そうだな」
ということで、シャワーで汗を流す。清香はシャワーでいいと言ったが、千里Rはお風呂に入らせてもらった。夏なので公世が入った後、あまり湯温は落ちてなかった。
(セペはもう千里Gold elder (Ain Soph Aur ooo limitles light) が片付けてあげている。そして千里Rの後で千里Gold middle (Ain Soph oo infinity) が入った)
それで千里Rは旅館に帰って“浴衣を着て”ぐっすりと熟睡した。一方、清香はシャワーを浴びると、
「少し疲れたかも」
と言って、身体を拭いただけで、そのまま布団に潜り込んで寝た。
千里Gold "younger" (Ain :o or zero) が(寝てたのを起こされて用事を言い付けられたので)ぶつぶつ言いながら、清香の服と竹刀・防具を宿まで持っていってあげた。
翌朝、目を策した詩歌は言った。
「何で清香先輩、裸で寝てるんです?」
「ああ、オナニーした後そのまま寝たかも」
この人ならありそうだと詩歌は思った。
ところで、8月19日(金)、玲羅は最近神社で仲良くしてる貞美に誘われて彼女たちの家に行った。
「もしかしてここに姉妹2人だけで住んでるの?」
「性転換して兄弟になってもいいけど」
「紀美(きみ)さんは男の子でも行けるよね!」
「うん。よく男の子に生まれたかったと言ってる」
「ああ、そんな感じがする」
しかし貞美は、この家、千里さんから借りているのにその話を玲羅ちゃんは聞いてないのかなあと疑問を感じた。
2人でおやつを食べながらおしゃべりしたりゲームしたりして遊んでいたら、やがて紀美が帰って来る。
「お帰りなさい。お邪魔してます」
「玲羅ちゃん、いらっしゃい」
それで紀美もおゃべりに加わる。そのうち17時になる。
「玲羅ちゃん、もし良かったら夕ご飯も食べていく?」
「あ、ぜひいただきまーす」
こんな所で遠慮する玲羅では無い。
それで紀美はカレーを作り始めた。
「ああ、カレーなのね」
「そそ。うちはお父さん(高木東治 1962)が若い頃海上自衛隊で護衛艦に乗っていたから、金曜日がカレーなのよねー」
「あ、うちもお祖母ちゃん(天子)のお兄さん(彩友十四八)が海上自衛隊に居たから(*2)、その伝統でうちも、叔父さん(弾児)とこも金曜日がカレーなのよ」
と玲羅は言う。
「金曜日はカレーっていい習慣だと思うなあ」
と紀美は言っている。
(*2) 十四八は少年兵として海軍に入り、戦後は一時期岩見沢で農業をしていてその頃、天子も一緒に暮らしていた。金曜日カレーという習慣はその頃始まった。
なお日本海軍で金曜日カレーの習慣ができたのは、船は日曜だからといって全員休むわけには行かず、海兵には基本的に休日というものが存在しないので、曜日感覚が分からなくならないように金曜日にカレーを食べて週の認識を持てるようにしたためである。
それで玲羅が紀美の作ったカレーを頂くと美味しい!
「紀美さん、料理上手いんだね!」
「お姉ちゃんはあまり外食しない代わりに料理はわりと上手いんだよね」
「外食ってあまり美味しくないじゃん」
と紀美は言っている。
紀美に言わせると、ファミレスとかは「安くて不味い」、料亭とかは「高くて不味い」らしい。
「料亭なんて見たこともない」
と玲羅。
「でもこのカレー、うちのお姉ちゃんが作るカレーと似た味だ。バーモントカレー甘口だよね」
「そうそう。ガラムマサラ加えてるから、中辛くらいの辛さになってるけどね」
「うちのお姉ちゃんもガラムマサラ入れるんだよ。バーモントカレーの中辛より甘口にガラムマサラ入れた方が好みだって」
「ああ、それは千里ちゃんと意見が一致するな」
と紀美は言った。
ただ千里のカレーとの最も大きな違いはお肉である。千里は豚肉を使用するが、紀美は関西の一般的な習慣でカレーのお肉は牛肉である。それ以外はかなり味が近い。
「ねえねえ、来週このカレーを倍の量で作って半分もらえない?お金は出すから」
「いいよ」
それで翌週は玲羅が紀美に1000円払い、作ったカレーの半分をもらうことにした。これで千里が来春留萌を離れた後の村山家のカレー問題は最終的な解決を見るのである!
8月20日(土).
この日は男女の個人戦がある。
個人戦の代表は47都道府県から2人ずつと、地元の三重県から更に2人選ばれており、全部で96名である。会場となる伊勢市サンアリーナは剣道の試合場を最大18個取れる(メインアリーナ12 サブアリーナ6)ので実際には16個取り、このように対戦させていく。
_9:30 女子1回戦64->32 (96->64)
_9:50 男子1回戦64->32 (96->64)
10:10 女子2回戦 64->32
10:30 男子2回戦 64->32
10:50 女子3回戦 32->16
11:00 男子3回戦 32->16
11:10 女子4回戦 16->8
11:20 男子4回戦 16->8
11:30 (休憩)
12:30 女子QF 8->4
12:40 男子QF 8->4
12:50 女子SF 4->2
13:00 男子SF 4->2
13:10 女子決勝 2->1
13:20 男子決勝 2->1
14:00 表彰式
例によって代表96名の内、64名は1回戦から、32名は2回戦からである。各都道府県を2位以下で通過した人はもれなく1回戦からであるが、1位で通過した人がどうなるかは抽選次第である。今回千里も清香も揃って1回戦からであった、公世は2回戦から、桐生君はもちろん1回戦からである。
今日の朝御飯は、御飯に味噌汁、玉子焼きに焼き海苔、トンカツだった。
「勝つ(カツ)ように、というやつだな」
「よくお母さんが試験の前とか大会の前に作ってくれてた」
と由紀が言うが
「そういう記憶は全く無い」
と千里。
「でも公世は遅いな」
「お声をお掛けしたのですが、熟睡しておられるようでした」
と由紀が言う。
「遅刻して失格なんてことになったら目も当てられないから起こすか」
それで朝御飯が終わった後で3人で部屋に戻る。沙苗が
「こうせい君、こうせい君」
と言って揺り動かして起こした。
作者も時々忘れているが“きみよ”とか“きみちゃん”と呼ばれている公世の名前は本当は“こうせい”と読む。この読み方をするのは多分長い付き合いの沙苗だけ。
なかなか起きなかったが公世は何とか起きた。
「目が覚めた?」
「熟睡してた」
「取り敢えずトイレ行ってきなよ」
「うん」
それで公世はトイレに行った。ぼーっとした状態で便器に座りおしっこをする。
ん!?
おしっこの出方が変だと思ったら、ちんちんが戻ってる!嬉しい!!男の子に戻れた!!
(多分男の子の身体に戻ったことで熟睡しすぎた)
念のためナプキンを交換してからトイレを出た。ナプキンは少し水分を吸収したようであった。きっとセペの水の残りだろう。
公世がトイレから出ると千里が言う。
「もう朝御飯行く時間が無いよ。めはり寿司買ってきたから」
「ありがとう」
それで急いで出掛けようとしのだが・・・・
「ぼくの道着が見当たらない」
「どうしたの?」
「でも昨日の練習の時は着てたよね」
「まさかその後、洗濯してまだ乾いてないとか」
公世はそれの常習犯である。
実は洗濯した昨日の道着は乾燥機に掛けて金色の千里が持っていたが、面白そうなので今様子を見ている。でも竹刀は深夜の練習でも使っていない。
「防具と竹刀も見当たらない」
「え〜〜!?」
「そこに替えの道着も入ってたはずなんだけど」
「昨日どうしたのよ?」
「どうしたんだろう。全然記憶が無い」
千里たちも一緒に探すが見当たらない。
「時間が無いよ。もう出ないと開始式に間に合わない」
と沙苗。
「先輩、ぼくの道着と竹刀を使ってください」
と由紀が言う。
「え〜〜?でも」
と公世が言うが
「いや、それしか無いと思う」
と沙苗が言い、公世は由紀の道具を借りることにした。
それで由紀の道着(当然白)を着る。
「きみちゃん、スポーツブラ貸そうか?」
と千里が言うと
「大丈夫。それはちゃんとある」
「へー!」
公世は女子用ショーツとスポーツブラを着け、その上にアンダーシャツを着てから白い道着を着たようである。下はブルマを穿いてから袴を着けた。これはトイレに行きやすいようにするためである。
着替え終わったので、由紀の防具と竹刀2本(男子用として検印が押されている)を持って、公世は千里たちと一緒に出た。沙苗と由紀はセーラー服を着ている。表彰式に同伴することになった時のためである。
由紀は学生服を着ても「何ふざけて学生服を着てるの?」と言われるのが確実なので、変な所で揉めないようにセーラー服を着ている。
それで旅館の送迎バスで会場に向かった。わりとギリギリに入場して、開始式に整列した。公世は
「君、女子は向こうに並んで」
と言われたが、
「僕は男子です」
とソプラノボイス!で言って、剣道連盟の登録証を示した。係の人は首をひねっていた。
でもすぐ後ろに並んでいる桐生君が、白い道着の公世を、ボーっとした感じで見詰めていた。
開始式が終わると試合が始まる。最初に女子1回戦だが、千里も清香も順当に勝った。次に男子の1回戦がある。桐生君は1本取られたもののその後取り返し、終了間際にもう1本取って勝った。これで不戦勝の公世を入れて全員Best64である。
女子2回戦が始まるが千里も清香も1分以内に2本取って勝った。男子2回戦が始まる。公世は例によって「今は男子の試合の時間だよ。女子の時間じゃないよ」と言われるが、岩永先生が剣道連盟の登録証を示して男子として登録されていることを示す。
相手選手は「なんで女が男子の部にエンリーしてるの?」と思う。相手は小柄だし、怪我させないように早めに2本取って決着を付けよう・・・と思ったが早めに2本取られて決着が付いた。
「なんて強いんだ!?男子の部に出たいわけだ」
と思った。
桐生君は他県の1位の人と当たり、早々に1本取られる。相手が猛烈な攻めをしてきて、防戦一方である。しかし終了間際相手は転んで竹刀を落として!もちろん桐生君が1本取る。それで延長に入る。延長に入っても猛烈な攻勢が続く。時間切れ間近、相手のやや荒い攻めが来た。
返し胴で1本取る。
それでこの強敵に桐生君は何とか勝った。
女子の2回戦があっている間に公世はトイレに行った。控え場所で袴を脱ぎブルマだけになろってトイレに向かう。
「あ、先輩、ぼくも一緒に行っていいですか」
と由紀が言うので、一緒に行った。
それでブルマ姿の公世と、セーラー服姿の由紀が一緒にもちろん女子トイレに入り、平和に用を達した。女子の試合があっている最中なので女子の利用者は少なく、すぐに終えることが出来た。
何のトラブルも無かった。