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■女子中学生・進路は南(4)

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女子3回戦が始まる。
 
千里の相手は試合開始早々、物凄い勢いで飛び込んできた。そして面を打つ体勢だが、千里は防御するのでなく回り込む。相手は面から胴打ち狙いに変える。「胴!」という声がするが千里の胴まで届かない。相手が体勢を立て直した所にこちらが「面!」と言って1本取る。
 
かくして相手の奇襲速攻攻撃は空振りとなる。その後、1分で2本目を取り、千里が勝利した。
 
清香の相手は開始早々から積極的に「面」「胴」「小手」とどんどん攻撃を仕掛けて来るが全く清香には当たらない、そもそも清香のフットワークに付いてこられない。相手が疲れて来たところで1本取る。それでも相手はどんどん攻撃してくるが、やはり当たらない、2分半ほどして相手の足がもつれかけた所に2本目を打ち込んで勝った。横綱相撲だった。
 
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でも向こうは遙か上位の相手にほんとに積極的に来た感じで気持ち良かった。佐賀の松永さんという人だった。試合終了後握手して「頑張ってね」「はい。凄いですね。優勝してください」「うん。そのつもり」と笑顔で会話を交わした。彼女はこの対戦で何か学んだはずである。
 

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公世はまた例によって性別の確認から始まる。しかし試合が始まると1分以内に2本取って勝った。白い道着、見た目が女子にしか見えず、声も女のような声なので男と思えというほうが無理である。それで無意識に手加減しようとして、あっけなく負けてしまうというパターンである。
 
桐生君は物凄く強い敵に当たりここで敗退である。
 
3回戦が終わってBest16が揃った。
 
女子のほうではここに残っている中で各都道府県大会を2位で出て来た人は福岡代表と北海道代表のみである。実は強豪県の長崎2位が2回戦で千里に敗れている。男子の方は全員1位で出てきた人ばかりである。
 

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女子4回戦が始まるが千里は2:10, 清香は1:50 で2本取り勝った。
 
男子4回戦が始まる。
 
公世の相手・奈良の葛城君は「何で女が・・・」と思ったものの「女であってもここまで勝ち上がってきた相手だ。無茶苦茶強いに違いない」と思って対戦した。
 
公世は自分と相手の間合いを正確に把握する。そしてギリギリ小手が成立する距離で竹刀を突き出した。「小手あり」の声がある。向こうはこの距離から小手を取られるとは思ってもいなかったようである。
 
ゴールド千里ちゃんとの真剣での稽古でこのあたりの精度が正確になってるなと思う。
 
葛城君は1本取られたので、猛烈に超本気になる。強烈な面が来るのを公世は思わず竹刀で受け止めた。バキッという変な音がする。今のはまともに面で受けてたら脳震盪を起こしかねなかった。
 
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しかし相手のそのかなり無茶な面打ちは隙も生み出す。公世は身体を入れ換えざまに胴で1本取り、それで勝った。公世もこれで準々決勝進出である。
 

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礼をして下がってから岩永先生が言う。
「工藤さん竹刀見せて」
「はい」
「折れてる」
「えー?」
「もう1本竹刀あったかな」
 
「あります」
と言ってセーラー服姿の由紀がもう1本の竹刀を出す。
 
「この折れたのは潮尾さんが管理して」
「はい」
 
「今の折れました?ごめんなさい」
と葛城君が謝っていた。
「しかし女子とは思えない強さですね。彼女になって欲しいくらい」
とも仮は言っていた!
 
(公世にもプロポーズ殺到する予感)
 

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しかし、これで千里・清香・公世、全員Best8で、3人とも表彰式に出ることが確定した。
 
福岡2位の山口さんが敗れたので8人に残ったのは、清香以外全員都道府県1位の人となった。
 
大会はお昼休みとなる。由紀・詩歌がお弁当を確保してくれていたので、みんな食べる。
「千里も公世も、去年はお昼を食べなかったね」
「まあ去年よりは少し精神的な余裕があるかな」
「ここまであまり強い相手に当たってないよね」
と清香も言っている。清香は今年もお弁当2個に加えてケンタッキーのチキンを4本食べている(去年より多い気がする)。
 
千里も公世もお弁当を半分は残した。
 
「それ残すの?」
と清香が訊く。
「だったらちょうだい」
「いいけど」
 
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それで清香は弁当2個+チキン4本に加えて、千里の弁当の残りも、更に公世の弁当の残りまで食べちゃった!
 

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昼休みの最中に今度は千里・沙苗・公世・由紀の4人でトイレに行く。千里と公世は控え場所で袴を脱いでブルマになっており、沙苗と由紀はセーラー服である。もちろん4人で一緒に女子トイレに入り、何のトラブルもなく用を済ませた。
 

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昼休みが終わって女子の準々決勝が始まる。千里も清香もここまでは3割くらいの力で戦ってきたのだが、ここからは半分くらい解放する、
 
千里の相手は福井の坂口さんである。物凄く強烈なオーラをまとっており、強そーと思う。でも千里には相手の動きが凄くゆっくりに見えた。相手の面打ちで隙ができたのを回り込んで、相手が向き直った所に面を打ち込む。
 
更にこちらが動き回るのに相手の体勢が付いてきてないので、1テンポ待って向こうが焦っているふうの所にまた面を打ち込み2本勝ち。4回戦より早い1:40での勝負だった。
 
清香は愛媛の広瀬さんとである。かなり強烈な相手で清香が1本取った後、巧みな小手で1本取り返した。今大会で清香から1本取ったのはこの人が初めてである。しかし終了間際、清香の美しい面が決まり清香が2本勝ちした。
 
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続けて男子の準々決勝が始まる。公世の相手は大阪の青木君である。彼も常に動き回るフットワークの使い手である。彼はこちらが女といっても全く手加減しない。最初から全力モードである。瞬間的な踏み込みからまず1本取られる。公世も1本取られたのはこの大会これが最初である。しかし終了間際に相手が一瞬時計を見た所に、正確に小手を取れるぎりぎりの距離から打ち込んで小手で1本取り、延長に入る。
 
僅かな油断から1本取り返されたので向こうはかなり気合が入っている。なかなか隙を見せない。竹刀同士がぶつかり、一瞬、鍔迫合い(つばぜりあい)っぽくなるが、審判に声を掛けられる前に別れる。これが2度あった。どうも向こうは接近戦がわりと好きなようである。
 
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こちらが少し隙を見せる。するとそこに面打ちが来る。こちらは来るのを予想していたので、それをかわして返し胴で1本取る。
 
それで公世が勝った。
 
礼して下がったあとで相手が言った。
 
「君、ほんと強いね。女に負けたのは姉貴以外では初めてだよ。恋人にしたいくらい」
 
やはりプロポーズ殺到!?
 
これで3人とも準決勝進出。Best4である。
 

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S中の控場所に戻ってきてから沙苗が言う。
「こうせい君、竹刀見せて」
「うん?」
 
沙苗はその竹刀を指ではじいたりしている。
「折れてる」
「嘘!?」
「ほら、ここを指で弾いた時の音がおかしい」
 
岩永先生も確認する。
「ほんとだ。これ折れてる」
「うっそー。もう予備が無いのに」
 
「多分何度も鍔迫合いした時に折れたんだよ」
「どうしよう。私のは男子の竹刀としては使えないし」
と沙苗が言う。
 
男子の竹刀規格のほうが厳しいから、男子規格の竹刀は女子の試合でも使えるが、女子規格の竹刀では男子の試合に出られない。
 
だいたい公世が自分の竹刀を紛失?するから悪い。公世の竹刀2本、由紀の竹刀2本の合計4本が全部駄目になるという事態は想定外であった。
 
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困っていた時、近くに座っていた桐生君が言った。
「工藤さん、良かったら僕の竹刀を使いませんか?」
「ほんと?助かる」
 
それで公世は4回戦、準々決勝で竹刀を1本ずつ折ってしまい、準決勝には桐生君の竹刀を借りて出ることになったのである。
 
「ただ僕のはカーボンだから感触が違うかも」
「大丈夫。普段の練習では両方使ってるから」
「さすがですね」
 

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女子の準決勝が始まる。千里はこの試合には70%くらいの力を解放した。下位の試合であまり力を解放すると相手を殺しかねないので控えているのである。
 
森田(京都)┳┓
木里(北海)┛┣
島根(兵庫)┳┛
村山(北海)┛
 
千里の相手は兵庫の島根さんである。彼女もフットワークの使い手である。千里にしても島根さんにしてもお互い相手の攻撃のタイミングが読みにくい。そして瞬間的に攻撃されても、かわしたり、間に合わなければ防御したりするので相手の1本は決まらない。こちらの攻撃も相手にうまく防御される。
 
この人かなりレベル高いなと思う。
 
実は剣道雑誌が千里・清香とともに優勝候補に挙げていた人である。
 
このまま時間切れ・延長かと思った時、相手に一瞬隙が出来た。
 
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罠だと思った。
 
それで千里は敢えて彼女の反対側から強引な攻撃をした。
 
相手が「え〜っ?」という声を挙げた。
 
千里の面が決まって1本。千里が勝った。でも千里はこの人は“実戦”で鍛えられている人だなと思った。
 
これで千里は決勝に進出した。
 

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でも千里の竹刀が折れていることを沙苗は指摘した!
 
それで千里は2本目の竹刀で決勝に臨むことになる。
 

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清香の相手は京都の森田さんである。物凄い強い相手だと思った(向こうもそう思ってる)。相手の激しい攻撃がどんどん来るが、清香は冷静に受け流していく。受け流しながら「こういう流れだと判定になったら向こうが勝つかもね」と思う。しかし清香は“相手の息”を読んでいた。
 
2分半ほどになり、相手がさすがに疲れて来た瞬間。
 
清香は一瞬の踏み込みから小手を取った。
 
1本。
 
これで清香が勝った。
 

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試合後、沙苗が
「清香ちゃん。その竹刀見せて」
というので見せると、折れているという判定!
 
「嘘」
「先輩、決勝戦では私の竹刀使ってください」
と詩歌が言った。
 
それで千里も清香も竹刀を交換して決勝戦に臨むことになった。
 

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男子準決勝。
 
森田(京都)┳┓
工藤(北海)┛┣
進藤(長崎)┳┛
鈴木(兵庫)┛
 
公世の相手は京都の森田君である。試合開始前軽い確認がある。
 
「済みません。これ“男子”の準決勝ということでいいですか?」
 
実はどちらも対戦者が女子に見えたのである!
 
どちらも白い道着だし!!
 
「僕は男子です」
「ぼくは男子です」
 

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各々連盟の登録証を確認する。森田明理(めいり)君は女子の準決勝に出ていた森田月奈(るな)さんの双子の弟らしい。顔も結構似ている。しかし男女の双子で、双方とも全国大会の準決勝まで上がってくるというのは凄い。きっと普段姉弟でひたすら稽古しているのだろう。
 
確認の上で試合が始まる。公世はこれは自分より強い相手だと思った。こちらの攻撃はきれいにかわされる。向こうは闇雲に攻撃してくるタイプではなく、攻撃のタイミングを見計らって攻撃してくるタイプと見た。何度かかなり鋭い攻撃があるが、公世は相手の攻撃の間合いを正確に読んで回避する。
 
それで双方動き回るがなかなか攻撃に至らない。しかし攻撃する時はかなり際どい感じに見える。実際には公世はちゃんとギリギリの間合いで逃げている。
 
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しかし2分が経過した時、全く気配の無いところから相手の攻撃が来て、小手を取られてしまった。
 
公世は焦らない。攻撃できるタイミングを我慢強く待つ。時間切れ寸前、相手の面をかわして胴を取った・・・つもりが停められない。1本が成立しなかったようである。
 
そのまま時間切れ。
 
負けたぁ!
 
今年はbest4までだったか。昨年がnest8までだったから1歩進化したかな、と公世は思った。
 
両者開始線まで戻り、中段に構える。
 
それで主審の勝敗宣告を待つ。
 

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が・・・ここで副審のひとりが「待って」と言った。
 
「白の人、その竹刀を見せて」
と言うので森田君が見せる。
 
「これ女子の検印が押されてる」
「え!?」
 
ここで多くの人が思ったのが、お姉さんの竹刀と入れ替わっていた事態である。
 
「それ女子の竹刀?」
と主審が訊く。
 
「いやこの重みは男子の竹刀だと思う。赤の人、竹刀貸して」
「はい」
と言って公世が(桐生君から借りた)竹刀を渡す。ちゃんと男子の検印が押されている。
 
「ほぼ同じ重さだと思う。やはりこれは男子の竹刀ですよ」
「それなのに女子の検印が押されているの?」
 

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森田君の顧問の先生が出て来て弁明する。
「この子、顔立ちが優しいから女の子に間違えられることあるんですよ。それで誤って女子の検印を押されてしまったのかも」
 
岩永先生が言う。
「ああ、うちの工藤と同様ですね。工藤も外見が女の子に見えるからいつも女子の検印を押されそうになって本人が『男子の検印を下さい』と言うんですよ」
 
審判が協議する。使用した竹刀は確かに男子仕様の竹刀である。ただ検印の押され間違いと考えられた。
「やはり正しい検印を受けていない以上失格では」
「でも間違って女子の検印を押したのは運営のミスではないですか」
と向こうの顧問が食い下がる。
岩永先生が提案する。
「その竹刀は不正な竹刀ではないのだからあらためて男子の検印を押して再試合というわけにはいきませんか?」
 
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大会長まで出てくる。それで工藤側から提案のあった、検印を押し直して再試合という案が受け入れられた、
 

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ということで、森田君の竹刀を念のため計量した上で、男子の検印を押し直す。そして再試合となる。
 
あらためて緊張感のある試合になる。ただ彼の攻撃の精度がさっきより落ちたと公世は思った。検印間違いなどという事態で動揺して集中が乱れているのではという気がする。しかし公世の攻撃は正確である。このあたりはゴールド千里ちゃんとの真剣での稽古が利いてるなと思った。1分半で公世の絶妙な小手が決まる。
 
1本取られたので向こうは必死に攻撃してくる。でも精度が悪い。公世は相手の間合いを正確に把握していた。相手の面をかわして、向こうが向き直った所に面を打ち込んだ。これで2本となり、公世が勝った。
 
実力的には向こうが上だったけど相手の精神集中の乱れで勝てたと思った。
 
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女子中学生・進路は南(4)

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