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男子準決勝、公世は負けたと思ったが主審が勝者を宣言する前に相手の検印間違いが判明。協議の上、正しい検印を押し直して再試合となり公世が勝った。
これで公世も決勝進出である!
「すごーい、きみちゃん決勝まで行けたね」
と千里が祝福する。
「今のは本当に運が良かっただけ」
と公世は言った。
「いや、ああいう事態が起きて、集中を途切らせなかったこうせい君が凄い」
と沙苗は言った。
女子の決勝が始まる。
千里と清香は、留萌大会の決勝でもやって清香が勝った。道大会の決勝でもやって千里が勝った。
小学校の時以来、千里と清香は何度も何度も対戦していてその成績はほぼイーブンである。最高のライバルが中学剣道の頂点で戦う。
試合はお互いフットワークで動き回るものの、なかなか攻撃に移れない。お互いそのタイミングで攻撃してもかわされることが予測できるからである。それでも何度か攻撃したが、鮮やかに交わしていく。
男子決勝の前哨戦くらいに思っていた人たちが熱い戦いに目を奪われる。
試合は双方時々攻撃を出すが1本が成立しないまま3分経つ。お互い最後の攻撃とばかり面打ちに行くが「面あり」の声は掛からない。多分相打ちだったのだろう。
延長戦に入る。
延長戦に入っても双方の動きは同様である。鋭い攻撃をするがかわされる。ただし双方無駄な攻撃はしておらず、ほんとに惜しい攻撃がすんででかわされ、あるいは当たっても1本成立しないようにうまく逃げている。
2分間の延長戦が終わる。決着が付かないので2度目の延長に入る。双方スタミナは充分あるので相変わらずフットワークで動き回る。そして瞬間的な踏み込みから攻撃を繰り出すがかわされる。
延長戦が終わる。少し休憩が入れられる。開始線まで下がり、深呼吸などをする。
3分ほど休んでから、3度目の延長に入る。両者互角の戦いが続く。どちらも高速に動き回るし、竹刀を振るスピードが速いので動きを目で追えない人もいる。
4度目の延長に行く。決着が付かない。
面を外して休憩する。給水する。5分ほど休む。
5度目の延長に行く。互角の戦いが続くが決着は付かない。
6度目の延長に行く。決着は付かない。双方同時に面打ちに行ったが相打ちである。
休憩する。面を外して給水させる。10分くらい休む。審判も目薬を指している!審判がかなり疲れていると見た。
7度目の延長、8度目の延長とやるが決着はつかない。どちらも激しく動き周り、鋭い攻撃を出すが1本が成立しない。
面を外して休憩する、給水する。今回水ではなくポカリスウェットを飲ませる。
もう既に40分以上やっている。両者の体力を心配する人もあった。そして選手以上に実は審判が既にクタクタだった。審判は年齢が高い分、とっくに体力の限界を越えている。もうこの状態では正確なジャッジをするための集中力が保てない!選手2人が何の気配もない所からいきなり攻撃するので一瞬たりとも気が抜けない。高い集中力を保ち続ける必要がある。それで休憩時間が少しずつ長くなってきている。
審判が協議している。大会長も協議に加わる。
「決着が付かないので判定とします」
という宣言がなされる。本来は決着が付くまで延長戦する本則ではあるが、これでは男子の決勝戦もできない。その前に審判を交替させる必要がある!
「判定」
という主審の声に3人の審判が旗を揚げる。
3人の審判全員が2つの旗を交差して掲げた。
引き分けである!!審判全員が引き分けの判定をした。
千里と清香は礼をして下がり、防具を外し退場した後でハグした。
「もうきつい。このまま消えたらダメ?」
「大騒ぎになるから我慢しなさい」
男子の決勝が行われる。男子準決勝での協議・再試合があり、女子決勝の8回にも及ぶ延長があったので既に表彰式の予定時刻を過ぎている。帰りの便の都合のある人もある。
実はあまりにも長く待たせたので、男子決勝に出る2人には5分ほどウォーミングアップの時間を与えた。そして対戦である。
しかし男子決勝戦はあっけなく決着した。
公世は相手の兵庫代表・鈴木君から1分で1本取ったものの、その後1:30で1本取り返され、2分でもう1本取られて負けた。
実力差は明白だった。礼をして下がってから公世は頭を振った。
でも試合場を出てから鈴木君は言った。
「工藤さん、物凄く強いね。ぼく女子から1本取られたのは初めてだよ。ぼくの彼女になってほしいくらい」
「ごめん、ぼく剣道以外のことには興味ないから」
「そうだろうね。高校では女子に行くの?」
「ぼくは男子に出続けたい」
「だったらインターハイで会おう」
「うん」
それで公世は鈴木君と握手した。
180cm鈴木君の大きな手と160cm公世の小さな手での握手となる。
握手の後、鈴木君がなんか感激しているようだった。
「女の子と握手したのはきっと初めてなんだよ」
と千里が言った。
「ぼく男だけど」
と公世。
「女の子になりたくない?2学期から女子制服で通学できるようにしてあげようか」
「いやだ」
「へー!」
と千里は公世の顔を感心したように見詰めた。
既に14時半を回っている。表彰式は予定を2時間遅らせて16時から行いますという発表がある。帰りの便の都合で表彰式を見るのを諦めて帰る人もある。
公世は「ありがとう」と言って竹刀を桐生君に返した。
「これ全国大会の決勝戦で使われた竹刀として飾っておこう」
「それもいいかもね」
と沙苗が言った。
千里も清香も
「お腹空いたぁ」
と言うので、ミッキーがチキンをたくさん勝ってきてくれた。清香はムシャムシャ食べている。千里も5本、公世も3本食べた。
表彰式の15分くらい前、忘れ物のお知らせがある。
「シャトルバスの中に防具・道着と竹刀の入った袋が忘れてあったそうです。どなたか心当たりのある人は」
「あ、僕のだ!」
ということで公世が名乗り出る。沙苗が「今朝から見当たらなくて探してたんです」と証言する。中身を確認すると、クッション代わりに留萌市のスーパーのチラシが入っていたことから留萌の人のものと分かる。本人と岩永先生が署名して受け取った。
「良かったぁ」
「昨日練習場所から帰るバスの中で忘れたんだろうね」
「表彰式前に着替えようかな」
「どこで?」
「うっ」
「きみちゃん男子更衣室に入ろうとしたら確実に追い出される」
「トイレは男女とも物凄い長蛇の列だよ。あれきっと入るのに30分掛かる」
「きみちゃん女子更衣室に付いてってあげようか?」
「嫌だぁ!」
泣いている??
ということで着替えることはできず、白い道着のまま表彰式に出ることになる。
(スポーツブラだけは引き抜いた。それで今公世はノーブラである)
予定時刻をすぎて、結局16時半になってから表彰式が行われた。
国歌斉唱のあと、まず男子1位の鈴木君、女子1位の千里と清香が名前を呼ばれて前に出る。各々の練習パートナー、鈴木君はチームメイトの原野君、千里は沙苗、清香は詩歌がそれぞれ制服で後ろに並ぶ。原野君は学生服、沙苗と詩歌はセーラー服である。
鈴木君の賞状が「第35回全国中学校剣道大会・男子の部優勝。あなたは・・・・」と読み上げられ、渡される。金メダルを掛けてもらう。賞状を原野君に持ってもらい、優勝トロフィーを受け取る。
千里の賞状が読み上げられ、渡される。清香の賞状も読み上げられ渡される。2人とも金メダルを掛けてもらう。賞状を沙苗・詩歌に持ってもらいトロフィーが渡される。
1位の3人はトロフィーもパートナーに持ってもらう。そして大会長から記念の木刀をもらう。この木刀は全日本中学選手権の男女個人戦優勝者だけがもらえるものである。
(高校の大会にはこのようなものがない)
優勝者が1人増えてしまったが、万一の場合の予備があったのでそれを使用した。トロフィーも同様である。ただそれを持ってくるために表彰式の開始ががかなり遅れたのもあった。
準優勝の公世の名前が呼ばれ、前に出る。パートナーの由紀がセーラー服姿でその後ろに付く。
「第35回全国中学校剣道大会・男子の部準優勝」と読んでから、大会長はそばの審判長に「男子でいんだよね?」と確認した。審判長が頷く。「以下同文」と言われて賞状を受け取る。この時大会長は「男子の部に出て準優勝って凄いね。女巴御前(おんな・ともえごぜん)だね」と小さな声で公世に言った。
巴御前(ともえごぜん)ってそもそも女なのでは?とツッコみたくなった。
(多分「現代の巴御前」と言うつもりが言い間違った)
銀メダルを掛けてもらう。賞状を由紀に持ってもらい準優勝のカップを受け取る。
この表彰式の様子はコリンが全部ビデオに撮ってくれた。コリンはミッキーと手分けして、全員の試合の様子も撮影している。
観客の声
「なんで準優勝は女子だけなの?男子の準優勝は?」
「なんか竹刀が検印を受けてないことが分かって失格したらしいよ」
「へー。決勝まで行っててもったいないね」
むろん本当は女子が決勝戦引き分けだったため、優勝者が2人で準優勝者無しになっただけで、男子の準優勝者は公世である。
でも公世は女子に見える。見た目が女子だし「ありがとうございます」と言う声も女の子の声だし、道着も白だし。それに付添のパートナーが女子制服を着てるし!!
続いて3位の男子2人・女子2人にも賞状と銅メダルに楯が渡される。
観客の声
「なんで女子3人・男子1人なの?」
「そあ、なんでたろう」
「優勝が2人になった影響かなあ」
「あの女子の内2人、顔がよく似てるね」
「双子の姉妹らしいよ」
「双子の姉妹で2人とも3位って凄いね」
「双子姉妹の決勝戦を見たかったね」
「もはやどちらがどちらか審判も分からなくなったりして」
そしてbest8になった男子4人・女子4人に敢闘賞の賞状が渡された。
そのあと大会長の短いスピーチがあり表彰式は終わった。
清香が優勝したので、安藤先生は松阪牛のステーキを清香におごらなければならない!
「祝勝会ということにしましょうよ」
という岩永先生の提案で、S中の生徒4人、R中の生徒2人と先生3人で、松阪牛のステーキのお店に入る。
(1人で生徒2人におごるのも、3人で生徒6人におごるのも負担が変わらない気がする)
とっても高いので千里や沙苗などは「先生たちに悪いな」と思う。もっともS中もR中も後で教頭が個人的に大半を出してくれたらしい。
「美味しい!」
「さすが高いだけあってほんとにこれ美味しいね」
「私たちまで良かったんでしょうか」
と詩歌。
「日本一のお祝いだよ。まあ来年は君たちの来年の顧問さん次第」
「それ来年も優勝する前提ですね」
「高校に行けば去年君たちを破った青木さんや菊池さんもいる」
「あの2人インターハイでベスト8まで行ったみたいだよ」
「1年生でベスト8か」
「君たちなら1年生でベスト4まで行けるかも」
「いややはり優勝でしょう」
と清香。
「まあ今年は決着を1年延ばしたみたいなものだからね」
と千里も言う。
「きみちゃんも来年は優勝を目指そう」
「うん。頑張る」
「女子に来る?男子に出続ける?」
と清香が訊く。
「僕は男子だから女子の部に出たりしないよ」
と公世は言う。
「まあ男子の部に出る女剣士も居ていいかもね」
と清香は言った。
「まあその前に私たちに勝てるようになろう」
「頑張る」
公世はさすがに姉の弓枝には勝てるようになったものの、千里や清香にはまだまるで歯が立たない。
もうこの日は北海道に帰ることが不可能なので今夜は後泊する。
この日も由紀は千里・沙苗の後でひとりで(多分)女湯に入った。公世はまた24時にゴールド千里ちゃんにお風呂に連れて行ってもらった。
「準優勝おめでとう」
「ありがとう。ベスト4止まりかなと思ったら思わぬハプニングて準優勝できた」
「運も実力のうちだよ」
「そう思うことにする」
お風呂に入ると、大会の疲れが汗と一緒に洗い流されていく感じで気持ち良かった。
千里GはRに電話を掛けた。
「優勝おめでとう」
「ありがとう。いつもあれこれサポートしてもらってるお陰だよ」
「まあなりゆきだけどね。私の“色”分かる?」
「緑でしょ?」
「さすがだね。君は“赤”ね」
「うん。そういうことになってるみたい」
「色だけで区別するのもなんかディストピアみたいだしさ、各々にサブネーム付けることにしたから」
「ああ、それもいいんじゃない?」
「それで私はGreenだからGrace, すみれ色の子はVioletからVictoria, 君はRedだからRobin ね」
「どっからそんな名前が?青と黄色は?」
「青はBlueからBloom (ブルーム), 黄色は Yellow からYachiyo (やちよ)」
「なんで突然日本語が」
「Yで始まる英語の女性名は少ないんだよ」
「でも今青と黄色が変なことになってない?」
「合体したんだよ」
「やはり」
「黄色地に星模様のが Star 略して千里S、黄色と青の縞模様が Tiger 略して千里T」
(星模様が現れたのは7/28 縞模様が現れたのは8/12 現在は8/20)
「待って。なんで2人いるの?」
「なぜか2人できちゃったんだよね」
「千里って訳が分からないね」
「全く同意」
Vが呆れて聞いていた。