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(C) Eriko Kawaguchi 2022-07-01
ドミニカ共和国(*1)の西部にラス・サリナス(Las Salinas)という町がある。この町にはグエベドーセ(Guevedoce)(*2) と呼ばれる子供たちが多数いる。
この子たちは、医学的には5α還元酵素欠乏症(5α-Reductase deficiency 5ARD) と呼ばれるもので、出生時には女の子のような性器外観であるのに、思春期に到達すると、それまでクリトリスと思われていたものが急速に発達してペニスに変わり、男の子の性器外観に変化してしまうというものである。
5α還元酵素欠乏症はどこの国でも一定の割合で発生している(ただし多い地域がある。後述)もので、これが判明すると、本人も親も物凄く悩むことになる(*3)のだが、ラス・サリナスには、こういう子たちがたくさんいるので、本人も周囲も、突然の性転換にパニックになることもなく
「男の子になっちゃった♪」
くらいの感覚なのだと言う。
要するにこの地域では自然に性別が変わってしまうのは、特別なできごととは考えられていない。「ちんちんが生えてくる」のは、よくある出来事である。
グエベドーセ(Guevedoce)の“グエベ”は、おちんちん、ドーセは12歳のことで、要するに、“12歳のおちんちん”、少しソフトに書けば“12歳から息子”“12歳男子化”くらいの意味である。
グエベドーセの子たちは、1990年代にこの子たちを紹介した日本のテレビ番組では、彼らは意識は普通の男の子であり「ぼくは最初から男の子だったよ」と言っている、とレポートしていたのだが、その後の調査によると、やはり女の子として育てられた分、普通の男の子とは少し意識が違っていて、いわば“第3の性”のような性別意識になっているという報告もある。(でも普通に女の子と恋愛して結婚して子供を作る)
(*1) ドミニカ共和国 (Republica Dominicana) とは、アンティル諸島北部(大アンティル諸島)の国で、ひとつの島の西半分がハイチで、東半分がドミニカ共和国となっている。公用語はスペイン語である。
名前が紛らわしいドミニカ国 (Commonwealth of Dominica) は、アンティル諸島中部(小アンティル諸島)の島国で、いづれもフランス領のグアドループ島とマルティニーク島に挟まれている。公用語は英語である。少し北方にセントクリストファー・ネイビスやアンティグア・バーブーダなどがある。
ラス・サリナスがあるのはハイチの隣のドミニカ共和国。
(*2) スペイン語では v は b と同じ発音なので“グエヴェ”とするのは誤り。“グエベ”でよい。スペイン語の c は 英語のthのように発音するので、“ドーチェ”ではなく“ドーセ”である。
(*3)昔は男として生きる以外の道が無かったが(自殺者も多かったと思う)、現代では性転換手術を受けて女の身体に戻り女性ホルモンを摂取して、女性的な身体を維持し、これまで通り、女として生きる道もある。しかし12歳の段階で「男になるか女に戻るか選べ」と言われても、なかなか決断できるものではない(でも本人が決めるしかない)。むろん彼らは医学的には男性なので、女に戻っても妊娠出産は不可能である。先進国の場合は男を選ぶ人と女を選ぶ人が半々くらいらしい。
ドミニカ共和国以外では、パプアニューギニアでも多数の症例が見付かっている。トルコや中国にも多いらしい。
2004年1月17日に留萌市民体育館で行われたバスケットボールの新人戦に、様々な偶然の悪戯で、午前中の第一試合・第2試合には千里R、午後の第3試合には千里Yが出た。
その時千里Yは
「女子バスケット部ってユニフォーム無いの〜?」
と訊いた。実はS中女子バスケ部は、それまで授業で使う体操服にゼッケンをマジックテープで貼り付けて試合に出ていたのである。
ところがこの大会で、S中は地区2位になった。昨年秋の大会で3位になり、女子バスケ部創設以来の初メダルとなる銅メダルだったのが、今回は更に上の銀メダルで、学校側の期待が膨らむと同時に
「ユニフォームが無いのはまずい」
という話が急浮上した。
地区大会で優勝した場合は、その上の北北海道大会に出る権利を獲得する。本来バスケットボールでは、選手は統一されたユニフォームを着なければならないし、それをホーム&アウェー用で濃淡2種類用意しておく必要がある。それを昨年までは、いつも1回戦で負けている弱小校ということもあって、大目に見てもらっていた。
ところが2位・3位になる学校なら、ちゃんとユニフォームを用意してくれ、と実はバスケット協会側から、顧問の伊藤先生は強く言われたのである。実際北北海道大会に進出した場合、ちゃんとユニフォームが無ければ参加できない。
伊藤先生が校長に相談した所、ぜひ作ろうということになったものの、女子バスケ部のみを特別扱いする訳にはいかないから、何とか寄付を集めてくれと言われる。でも校長は個人的に3万円も寄付してくれた。
しかしユニフォーム作りはどう考えても25-26万は掛かる。この費用をどうしようかと先生は悩んだのである。
1月下旬、千里Gは、学校の放課後の時間帯に留萌Q神社を訪れて、細川さん(貴司の母)に相談したいことがあると言った(通常千里BがQ神社に来るのは土日祝のみ)。
「何かしら」
「実は女子バスケット部で今までユニフォームが無かったのを作ろうという話になっているのですが、予算が無いみたいなんですよ」
「ユニフォームが無いって、今までどうしてたのよ?」
「体育の授業で使う体操服にゼッケン貼り付けて出てたんです」
「それ違反だと思う」
「これまではいつも1回戦で負けている弱小ということもあり、お目こぼししてもらってたんですよ」
「ああ」
「でも女子バスケ部も、昨年秋の大会では地区3位、こないだの新人戦では地区2位になったんで、いつか優勝して北北海道大会に行ける日が来るかもしれない。それでユニフォームが無いのはまずいということで、バスケ協会からも強く注意されたらしくて」
細川さんは、その費用を自分に寄付してもらえないかという話かと思った。それで千里に訊いた。
「それどのくらい費用掛かるの?」
「ネットだと1着あたり7-8000円程度みたいなんですけど、伊藤先生が、ヘリンボーン・スポーツさんに照会してみたら1着あたり6000円、SML取り混ぜて20人分の濃淡2色で合計40着作って、24万円でやってくれるそうです。むろん、学校名入りで」
「24万か・・・・」
「それで細川さんにお願いがあって」
「うん」
「ここに24万円持って来ました」
と言って、千里(千里G)が封筒を出すので仰天する。
「私がお金を出したとなると、あれこれ人間関係が面倒くさいから、細川さんからの寄付ということにして学校に渡してもらえないでしょうか。女子バスケ部員でない方が、スッキリすると思うんですよ」
「まああの子は男子バスケ部員だから」
「性転換して女子部員になるなら大いに歓迎です」
「それでもいいけど(いいのか?)。でも、このお金はどうしたの?」
「こちらの神社でずっとバイト代を頂いていたのを貯めてました。その一部です」
細川さんは考えた。確かに千里にはかなりのバイト代を払っている。それにしても24万円というのは、これまでに払ったバイト代の大半を使う形になるのではないか。
「千里ちゃんの心意気は分かった。でも24万円は出し過ぎだよ。半額は私が出すから、千里ちゃんは12万だけにしない?」
「でも12万とか大金ですよ」
「でも貴司がずっとバスケット部にはお世話になってるからね。余裕のある人が出すのが良いと思う」
「じゃ私が18万で細川さんが6万くらいの線では」
「そうだね〜。それでもいいか」
「はい」
それで細川さんはその場で千里に6万返し、自分で6万追加して24万円を持ち、S中に出掛けて、伊藤先生に会った。そして女子バスケット部のユニフォーム代として寄付したいと言ったのである。
伊藤先生は、寄付をどうやって集めるか悩んでいた所たったので驚いたものの、この申し出に感謝した。
「ただ既に校長と教頭が3万ずつ寄付してくれてるんですよ。私も微力ながら1万出していますので、残りは17万だったんです」
「でしたらその17万を」
「ありがとうございます」
それで細川さんは17万を学校に寄付し、ちゃんと税務申告(寄付金控除)に使える領収書を発行してもらった。
しかしこれでやっと女子バスケットボール部のユニフォームが作られることになったのであった。
細川さんは返金された7万円を土曜日に来た千里に
「既に7万は集まってたからというので返されたから、3:1で分けよう。千里ちゃんに5万3千円(*4)返すね」
と言って渡した。
しかし“この千里”(千里B)は寄付なんて話を知らないので驚いて
「いったい何ですか〜?」
と尋ねた。
「だって、千里ちゃん女子バスケ部のユニフォーム代に寄付するといって私に代理の寄付を頼んだじゃん」
「私がですか!??」
といって、“この千里”は訳が分からない。
「とにかく返すよ」
と言われるので、よく分からないまま、千里Bは5万3千円を受け取ったのであった。
(*4)正確には7万×3/4=5.25万だが細川さんは端数を切り上げた。
S中2年生の新学期は4月6日から始まったのだが、その日の授業が終わった後、セナは帰りがけの沙苗をキャッチして
「沙苗ちゃん、相談があるんだけど」
と言った。
「あのね。実は身体測定のことなんだけど」
「うん?」
「私、1-3月も女子と一緒に身体測定を受けたけど、先月までは着衣のままだったでしょ?」
「ああ」
「今月からは下着姿になるんでしょ?その時、おっぱい無いのバレちゃうと思って」
「下はどうやって隠してるの?」
「アンダーショーツで押さえてる」
「それ冬の間はいいけど、夏は蒸れて辛いよ」
「それも悩んでた」
「ちょっと、うちにおいでよ。色々教えてあげるから」
「ありがとう!」
それで、家に連れて来てから、沙苗はセナにまず
「これあげる」
と言って、ブレストフォームを渡した。
「こういうの使ってたんだ!」
「接着剤で貼り付けるんだよ。そしたら水泳しても大丈夫だから」
「すごーい」
「外す時は剥離液を使うんだけど、難しいから最初は私に声掛けて」
「うん」
それで沙苗はセナの胸の付近をよくよくウエットティッシュで拭いてから、ブレストフォームを貼り付けてあげた。
「重い」
「おっぱいは重いよね〜」
「沙苗ちゃんもこういうの使ってるの?」
「私は実際の胸が育ってきたから、もう要らなくなった」
「じゃその胸って本物?」
「そうだよ」
「すごーい。どうやったら、そんなに大きくなるの?」
「女性ホルモン飲んでるからね」
「それ飲んだ方がいい?」
「いったん飲み始めたら、もう男には戻れなくなる。そして飲み始めたら、死ぬまでずっと飲み続けなければならない」
「死ぬまでずっと・・・」
「だから女性ホルモンを飲み始めるのは覚悟が必要」
「うーん・・・」
「セナちゃん、まだその覚悟が無いでしょ?」
「無いかも」
「だから覚悟ができるまでは飲んだら駄目だよ」
「少し考える」
「それがいい」
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女子中学生・十三から娘(1)