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(C) Eriko Kawaguchi 2022-07-09
「十二天将を揃えるんですか!」
と、きーちゃんは出羽のH大神の話を聞いて驚いた。
きーちゃんは出羽に来ていた。傍で、G大神とY大神もお茶を飲みながら、将棋!をしている。盤面をチラッとみたが、さすがどちらも強そうだ。しかし出羽三神をまとめて見るのは初めてだが・・・アットホームじゃんと、きーちゃんは思った。
「ちょうど、うまい具合に適任の子が12人いるのよね〜」
とH大神は言って、12人のリストを見せてくれた。知ってる子もいる。
しかし12人もの眷属をコントロールするのは大変だぞ。“食わせて”いくだけでも大変なエネルギーだ。藤島月華にできるかなあ。あの人、小型の精霊なら10人くらいまでは制御できるだろうけど。見てると、龍とか天女とかの大物クラスばかりである。あ、亀さん、鳥さんに虎さんも居る。亀さんはおとなしそうだけど、虎女は苦手だなあ、などと、きーちゃんは考えている、
「あなたはコードネーム天乙貴人(てんおつきじん)ということで。だから貴人で“きーちゃん”」
「あのぉ、もしかして語呂合わせなんですか?」
「おほほほほほ、ほほほほほ」
まぁいいけどね。
「リーダーは、コードネーム騰蛇(とうだ)の春日冬宮ちゃんだけど、お調子者だから、あなたが影のリーダーということで」
「分かりました」
元々十二天将で天乙貴人というのはそういうポジションだ。
きーちゃんは、リストを見ていて、ある名前にピクッとした。
「このコードネーム勾陳に割り当ててある、紹嵐光龍。こいつを入れるのには反対です」
「どうして?」
「こいつパワーはありますけど、絶対主人の言うこと聞きませんよ。勝手なこと、悪いことばかりする性悪(しょうわる)者です」
しかしH大神は微笑んでいる。
「貴子さん、“馬鹿と鋏(はさみ)は使いよう”という言葉知ってる?」
「へ?」
「あなたたちが付く子は、多分こうちゃんも使いこなす」
「そんなパワーのある人ですか?」
藤島月華は凄い修験者ではあるけど、あいつを制御できるほどのパワーがあるとは思えないけどなあと、きーちゃんは思った。以前付いてた昭和の大霊能者・空島幸子(通称:虚空)だって、手を焼いていたのに。何度か本気で怒らせて処分されそうになり、必死で謝って勘弁してもらったものの、勤務態度は全然改まらなかったようだ。
そういえば空島幸子はまだ生きているという噂もあるけど、どうなんだろうね。生きてるとしたら90歳を越えているはずだけど、何かと話題に上るはず。でもここ10年くらい彼女の消息を全く聞かない。生きているなら寝たきりか何かかも。そもそも紹嵐光龍に新たな任務が割り当てられるということは、彼との契約は解除されている訳だ。それは通常亡くなったか、精霊を制御する能力を喪失したことを意味する。
現在、日本の霊能者世界は、一時期は三帝と言われた3人の内、瞬嶽が山奥に隠棲し、羽衣は海外逃亡中(*7)だし、虚空も(多分)亡く、紫微や歓喜はまだまだ力不足。パワーの空白状態になっている。何か変な奴が出てこなければいいけどと、きーちゃんはここ5-6年心配していた。
(*7) 弟子の桃源によると、羽衣は現在ロシア領内のどこかにいるらしい。何でも女とトラブルを起こして海外逃亡し、そのついでにエスキモーの古老にセドナの秘術を習っているとか。トラブルの内容は、女子高生を妊娠させてお父さんに殺されそうになったとも聞いた。でも精子あるのか?あの人、女なのに?若い頃出産しているから女というのは間違いないはず。ただ、レスビアンっぽいから、処女に傷つけたというのなら分かるけど。万一何かの原因で男に変わっちゃったとしても、100歳越えているはずだから生殖能力があるとは思えない。
「そうだ。出羽の方でお仕事に入るなら、私も鶴岡かどこかに住まいを確保しておいた方がいいですかね」
と、きーちゃんは大神に尋ねた。。
「そうだ。それお願いしようと思ってた。取り敢えず旭川周辺にお互いに干渉しない程度の距離を置いて、住まいを12個確保してくださらない?費用はうちの美鳳から渡させるから」
「旭川なんですか!?」
と驚く。じゃ、藤島月華に付くんじゃないの??
「女性6人はまともな住宅を。貴子さんは今住んでいる所でいいと思う。土地を買い足して広くしてもいいよ。男5人は適当な山小屋か犬小屋か洞窟を。天空さんにはお社(やしろ)を。たぶん彼のお社がいちばんお金掛かる。管理人は暫定的に適当な人か精霊を派遣する」
「ああ、男どもは、普通の住宅をあてがっても、すぐ壊しますよね」
「荒っぽい子が多いものね」
と言ってH大神も笑っていた。
大神様が「犬小屋」と言ったのはジョークとは思うけど“こうちゃん”には犬小屋をあてがってやろうか、などと考える。
きーちゃんは、ふと思いついて尋ねた。
「コードネーム・青龍の五島節也ちゃんには、普通の住宅を用意しましょうか」
「ああ。あの子はおとなしいからそれでもいいよ」
「女の子にしてあげたいくらい優しい雰囲気だし」
「本人が望めば女の子に変えてあげてもいいよ。女の青龍というのも面白いかも。そうだ。あなたに、性別変えられる能力をあげるね」
と言って、H大神は、きーちゃんに性別変更術を授けてくれた。
凄ーい。これ実際に使ってみたくなるなあ、ときーちゃんは思った。どこかに女の子になりたがってる可愛い男の娘は落ちてないかなあ。ハイレに使うのはもったいない。あいつには死ぬほど痛い性転換手術を受けさせてやる(小登愛を死なせたことで、実は怒っている)。
その後、美鳳から住宅確保費として30億円の小切手を渡された。
「これ30億円に見えるんですが?印字を1桁間違っておられまぜん?」
と確認する。
「ううん。間違いなく30億円」
「さすがに多すぎる気がします」
と言ったら
「余った分は運用資金ということで。不足しそうだったら言ってね。すぐ振り込むから」
「分かりました」
つまりその子の活動が、出羽にとっても、物凄いメリットを生み出すことになるのだろう。ビジネス??しかし最近は神様世界も貨幣経済になっているみたいだなと、きーちゃんは思った。
千里Bが増毛町でバスケットの大会に行った日(試合前に消滅したので実際に試合に出たのは千里Y)・4月24日(土)、千里Rは羽幌町で剣道の春の大会をしていた。留萌から羽幌までは車で約1時間掛かるので、一行は朝7時過ぎに留萌を出ている。
6:35 ●千里Rが自分のお弁当を作る
6:45 ●千里Rが自宅で朝御飯を食べる
6:55 ●千里Rが自宅を出てC町バス停に向かう
7:05 ●沙苗母が車に沙苗を乗せて自宅を出る
7:10 ●千里R・玖美子・セナがC町バス停で沙苗母の車に乗る
7:05 ■千里Bが自分と母と留実子の3人分のお弁当を作る
7:20 ■千里Bと母が自宅で朝御飯を食べる
7:39 ■千里Bと玲羅が津気子の車で村山家を出る
7:42 ■玲羅がP神社で降りる
7:45 ■津気子が花和家で留実子を乗せる
7:50 ■津気子がT町バス停で雅代を乗せる
7:51 ▼千里Yが自宅で朝御飯を食べる
8:05 ▼千里YがP神社に現れ玲羅に声を掛ける
8:10 ●沙苗や千里Rたちが羽幌町体育館に到着
8:20 ■千里Bや留実子たちが増毛体育館到着
千里が朝御飯を3回食べているのは村山家の日常!玲羅は御飯とカレーをタッパに入れて神社に持っていき、神社で食べた(出掛けるギリギリに起きたから)。
神社ではお昼は詰めている子の誰かが御飯を作る(この日は美那と穂花が作った)。食材費は支払っている報酬から1人1食100円だけ引かせてもらう原則だが、実際には(経済的な余裕のある)千里・玖美子・蓮菜の3人がまとめて払っている。中学卒業後は小町を通して千里Vが寄付するようになる。
さて羽幌町体育館に到着した千里Rたちは貼り出されているスケジュール表・対戦表を確認した。
男子団体戦は12校(8+4)、女子団体戦は7校(4+3)の参加である。
9:00 男子1回戦(4試合) ABCD
9:20 女子1回戦(3試合) ABC
9:40 男子2回戦(4試合) ABCD
10:00 女子準決勝(2試合) AB
10:20 男子準決勝(2試合) AB
10:40 女子決勝・3決 AB
11:00 男子決勝・3決 AB
団体戦は、羽幌町体育館のみで行われる。ここはアリーナに剣道場が4面取れるので同時に4試合をすることができる(時計のブザーは設定を変えて4種類使用する)。ただし連続で試合するのは辛いので、女子の試合と男子の試合を交互に実施して、休憩時間が取れるようにする。女子の組合せは↓のようになっている。
R中┓
D中┻□┓
K中┓ ┣□┓
C中┻□┛ ┃
M中┓ ┣
H中┻□┓ ┃
┣□┛
S中┛
「嘘!?うちは1回戦不戦勝!?」
と千里が声をあげるが
「新人戦で優勝したから当然の配置だろうな」
と玖美子は言う。
「私、遅刻して出られなかったけど、みんな頑張ったんだね」
と千里は言っているが
「ああ、君が遅刻したから、代わりに千里君に出てもらったから」
と玖美子は言う。
「意味分かんなーい」
と千里は言っているが、沙苗は微笑んでいた。
ところで今日は男子2年(2年1組)の工藤君が白い道着を着ていた。
「何で白なの〜?」
「女子にこんな子いたっけ?と思った」
「僕の道着、母ちゃんがいつもの週のつもりで、うっかり洗濯しちゃってさ、今日着るのが無い、困るよぉ、と言ってたら姉貴が貸してくれたから、仕方なくこれ着てきた」
工藤君のお姉さんは3学年上なので、千里たちは一緒になったことが無いものの剣道二段の腕前である。工藤君は未だにお姉さんから1本取れないと言っている。
「いつもの週のつもりでって、まさか道着は週に1度しか洗濯しないとか?」
「え?ふつう金曜日に洗って土日で乾かさない?」
「ありえなーい」
「汗で臭くなるのに」
「普通毎日洗うもんでしょ?」
と女子たちの声。
「俺も金曜日しか洗わない」
「今日は大会があるから、母ちゃんに今日は洗わないでと言っといた」
と一部の男子たちの声。
(男子でも半数くらいの子は毎日洗ってると言っていた)
「お姉さんも週に一度の洗濯なの?」
「姉貴は2組持ってて、毎日洗って2着交替で使ってるるみたい。でも毎日洗ったら道着が傷まない?」
「汗掻いたまま放置してる方がよほど生地が傷むと思う」
ということで、今日は工藤君は白の道着での参加なのである。剣道の道着に白を着るか紺を着るかは特に規定は無いので、男子が白を着ても自由である。女子は白が多いが、紺を着る人もかなり居る。特に伝統を重んじる指導者には「白い道着なんて」と言う人もいるので、そういう先生の生徒さんたちは男女関わらず紺の道着である。
ということで男子の工藤君が白を着ても全く問題無い!
でも彼は顔立ちが優しいので、白を着てると、充分女子に見える!
「きみよちゃん、女子の方に行って控えてなくていいの?」
「個人戦のエントリーシート、今から出しに行くけど、きみよちゃんは女子の方に登録しておくね」
などと言われていた!
工藤君の名前は“公世”で“こうせい”と読むが“きみよ”と読むと女の子の名前にも聞こえるので、彼はわりと小学生の頃から“きみよちゃん”と呼ばれて女の子と間違えられることもあった。女の子と誤解されてスカート穿かされてしまったこともあると彼の昔のクラスメイトは言う(スカートを穿いても違和感が無かったとか)。
彼が剣道を始めたのも「男らしくなって、女と間違われることはないように」という気持ちもあったようだ、と竹田君は言っていた。
もっとも彼は、学生服を着ていたのに「女の子は男子トイレ使ったらダメ」と言われて男子トイレから追い出されたという伝説がある(その後どうしたのかは聞いていない)。
ともかくも、S中女子は10:00の準決勝からになった(工藤君はちゃんと男子の所に控えている)。
S中の相手は、H中に勝って準決勝に進出したM中である。吉田さんのいる所だ。しかし、M中との試合では、先鋒の如月、次鋒の聖乃、中堅の玖美子が各々相手の先鋒・次鋒・中堅に勝ち、3人だけで勝負が決まってしまった。
千里や武智部長の出る幕は無かった!M中も副将の吉田さんまで回らなかったので、吉田さんが悔しそうな顔をしていた。
それであっという間に決勝戦である。決勝戦は10:40から始まる。相手はむろんR中である。オーダーはこのようになっていた。
先鋒・田詩麗(ティエン・シーリー)
次鋒・大島晴枝
中堅・前田柔良
副将・麻宮沙樹
大将・木里清香
沙苗の予想が少し外れた!副将と大将が逆だった。
要するに、R中は、S中が「原田さんを出すなら大将にして」と言われたとは知らないから、こちらのオーダーをこのように予想した。
武智紅音・羽内如月・沢田玖美子・原田沙苗・村山千里
すると、田−武智、大島−羽内、麻宮−原田、でR中有利なので(R中は“本気”の沙苗を知らない)、前田−沢田戦、木里−村山戦が、どちらになってもR中が勝てる、という読みだったのである。
今回はお互いのオーダーの読み合い勝負だった!
しかし木里さんは『村山さんは絶対大将ですよ』という自分の読みが当たったことで大満足で、チームの勝敗については、ほとんど考えていない!
そして
「大将戦で村山さんとやれる」
というので、わくわく顔であった。
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女子中学生・十三から娘(9)