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(C) Eriko Kawaguchi 2022-07-18
きーちゃんは先日出羽のH大神から性別を変更する術を授けてもらって以来、誰かで試してみたくてみたくて、たまらないでいた。
「どこかに女の子に変えてあげたら喜びそうな可愛い男の娘(←“いけにえ”と読む)は落ちてないかなあ」
6月5日(土).
体育祭の翌週。司は朝から高速バスで旭川に出た。先週は体育祭だったし、来週からは夏の大会が始まるから、動けるのは今週しか無かった。
実は旭川まで行ってスカートを買おうという魂胆なのである。1ヶ月ほど前に留萌のジャスコでスカートを買おうとしたら、あまりに高くて買えなかった。
(司がたまたま見たショップが高かっただけで、ジャスコ内にはもっと安いスカートを売っているコーナーもあるが、あちこち覗いてみる勇気は無かったので気付かなかった)
それでバス代を使ってでも旭川まで行き、先日村山さんに連れていってもらったリサイクルショップに行ってみようと思ったのである。資金はお年玉の貯金を全部降ろした。旭川に行く理由は
「新しいミットが欲しいから」
と母には言った。実際今のミットは司が小学5年生の時にキャッチャーに転向して以来使っているものだ。3年近く使っていて、かなり傷んでいた。そもそも安物だったし。
しかしミットが欲しいと言ったら母から
「バス代あげるよ」
と言われて、往復のバス代をもらった上に
「ミット高いでしょう?」
と言われて、バス代に加えて5000円ももらってしまった。ちょっと心が痛むけど、『ミット買うついでにスカートも買えばいいよね』と自分に言い聞かせた。
家を出る時はズボンを穿いていたが、バスのトイレの中でスカートに穿き換えてしまった。ついでに先日留萌のジャスコで買った女の子用ショーツも穿いた。ちんちんが飛び出してしまうのは困るなあと思ったが、彼は“ちんちんを後ろ向きに収納する”というワザを知らない。
旭川駅前で高速バスを降りる。小雨が降っているが、持って来た傘を差して、平和通りを歩く。先日のお店を探す。
「ここだっかな?」
と思い、見覚えのあるピルに入ってみたら見付かった。
ほんとに100円とか200円で女の子の服が売ってあるので嬉しい!
司はサイズに気をつけながらスカートを5点、ブラウス(ネットでサイズの測り方を調べ自分のサイズを確認しておいた)も3点選んでレジに持って行く。これだけ買ったのに2500円だったので、ほんとにこのお店いいなあと思った。
お店を出た後、司は市内S球場に向かった。この日、そこで旭川B高校とA大学附属高校の試合がある情報を得ていた。それでその試合を見たあとでミットを買いに行こうと思ったのである。
バスでS球場まで移動する。球場の周囲は雨で水たまりなどもできているのを気をつけながら球場に入った。
結構観客がいる!
この2校の試合なら見に来る人多いだろうなと司は思った。A大付属は昨年甲子園に出ているし、B高校も充分な強豪だ。
司は夢中になって観戦した。試合は1対0でA大付属が勝った。ランナー12塁で4番バッターという逆転のピンチにA大付属のキャッチャーが矢のような送球で2塁走者を刺したのが大きな試合の分岐点になった。
「かっこ良かったなあ。ぼくもああいう送球ができたらいいなあ」
などと思いながら、司は球場を出た。
試合終了直後は、バスを待つ人が多い。これ待ってても乗るのに時間かかりそう。新旭川駅まで歩こうかなと思った。
これが彼の人生の分岐点となったのである。
小雨がちらついているので、傘を差し、のんびりとしたペースで駅まで歩く。スカートを穿いているのでそもそも歩幅が小さくなる。基本的に太股(ふともも)はあまり動かさず、膝下だけを使って歩く。この時、腰でバランスを取るようにするとスムーズに歩ける(実は女らしくなるがそこまで彼は考えていない)。司は女装外出を何度も続けている内にやっとスカートを穿いた時の歩き方をマスターしたのだが、こういう歩き方って、土の球場での走塁の時の要領に似ている気がした。女装は野球の練習になる??
それで10分くらい歩いていた時である。そばを通ったブルーメタリック系の車が水たまりをはねて、司はまともにその水しぶきを浴びてしまった。
「わっ」
と思わず声を出す。
車が停まる。
運転席から30歳くらいの女性が駆けて来た。
「ごめーん。大丈夫?」
「ずぶぬれ」
「ごめんねー。私、家が近くなのよ。うちに来ない?服を洗濯してすぐ乾燥機に掛けるから、あなたもシャワー浴びた方がいい」
「でも着替えが無いし」
「洗濯してる間は適当なのを貸すから」
「じゃよろしく」
それで司は女性の車に乗ってしまったのである。
良い子は知らない人の車に乗ってはいけません!
イカノオスシ
イカない
ノらない
オおきな声を出す
スぐ逃げる
シらせる
着いた所は結構大きな家だった。広い庭に車を停め、家の中に案内される。
「そこに温泉のマークが入っているところがバスルームだから、取り敢えずシャワー浴びて、服を脱いだら、それを洗濯機に入れるから、3時間くらいで乾燥まで終わると思う。その間に着る服は脱衣場に入れておくね」
「はい、すみません」
それで司は温泉マークのドアを開けて中に入る。脱衣場になっているので、着ている服(ポロシャツ・スカート・アンダーシャツ・ショーツ)を脱いで床に置き、浴室の中に入った。
暖かいシャワーが出る。気持ちいい!
それで司は置いてあるシャンプーを借りてまずは頭を洗った。女性用のシャンプーって香りがいいし、何か柔らかい感じだなあと思った。女性用のシャンプーが2セット置かれているので、ここの家族は女性2人、母娘か姉妹だろうかと思った。司は安そうなほうのシャンプーを借りた(貧乏気質)。
その後、コンディショナーとか使うんだっけ?と思ったがよく分からないのでパスする。石鹸(これも2種類ある内の安そうな方)を借りて顔を洗う。この石鹸がまた凄くクリーミーで、女の子っていいなあ。いつもこういうので身体を洗ってるんだ?と思った。
その石鹸で更に胸・腕、お腹を洗い、ちんちんは皮を剥いて内側まで洗う。たま袋を洗う。お尻の穴付近はシャワーを当てて洗う。その後、足を洗う。みんな足に結構毛が生えてるみたいだけど、ぼくはまだだなあ、などと司は思っていた。
足の指まで洗ってから、全身にまたシャワーを掛けた。凄く気持ちいい感じになり、司は浴室を出た。バスタオルが置かれているので、それで身体を拭いた。着替えが置かれている。
ドキッ。
女の子の服だぁ!
そうだよね。ぼくスカート穿いて歩いてた所に水しぶき浴びちゃったから、ぼく女の子だと思われてるよね。だから、女の子の服を用意してくれたんだ。
着ちゃおう!
それで女の子用のパンティを穿き、生まれて初めてキャミソールを身につけた。
この感触が凄くいい!!!
(ナイロンの感触でキャミソールやスリップにハマる人は多い)
そしてドキドキしながらスカートを穿く。そして可愛いブラウスを身につけ、ボタンを留めた。ブラウスを着たのも初めてだったので、男性用のワイシャツなどとは左右逆に付いているボタンを留めるのに苦労したがなんとか着れた。
バスルームを出る。
「ああ、あがった?今洗濯してるから3時間くらい待ってね」
「はい。すみません」
「お昼、簡単なものだけど作ったから取り敢えず食べて」
「ありがとうございます」
と言って、司は用意されていた八宝菜と御飯を頂いた。美味しいと思った。
「旭川の子?終わったら家まで送って行くよ」
「留萌なんです」
「それは遠い所から来たのにごめんねー」
「いえ、夕方16時半くらいまでに旭川駅前に行けたら大丈夫ですから」
「じゃ時間は充分あるね。少し休んでいくといいよ。雨も降ってるし」
「じゃそうさせてもらおうかな」
「16時半が最終?」
「最終は18:20なんです。でもその前に買物したいから」
「ああ。買物があったのね」
「ええ。野球のミットを買おうと思って」
「へー。あなたキャッチャーかファースト?」
「キャッチャーなんです」
「すごいね。でも女子で野球やってる子って格好いいなあ。女はソフトボールでもやってなさいって言われるもん」
「あ、そうですよね」
といいながら「しまった。ぼく女の子の格好してるんだった」と司は焦った。
「片岡安祐美ちゃんとか応援してるけどね」
「あの子凄いですよね!」
「ぼく小学5年生まではピッチャーやってたんですけど、肩を壊してしまって」
「あら」
「それでキャッチャーに回ったんですよね」
「ああ、結構そういう人いるのよ。小さい内はあまり無理しちゃいけないんだけどね」
「そういうことも全然分かってなかったんですよねー」
「そうだ。名前聞いてなかった」
「えっと・・・司(つかさ)です」
「へー。可愛い名前ね。私は貴子」
「たかこさんですか」
苗字は名乗らないんだなあと思ったけど、女の子たちってわりと下の名前で呼び合ってるもんなあと思った。自分も苗字を名乗らなかったけど!!
食事のあと、紅茶を入れてくれて、クッキーも出されるので、司は紅茶に砂糖を入れ、ミルクも入れて飲み、クッキーも摘まんだ。紅茶もクッキーも美味しいなあと思った。ただ少し香りが強いと思った。
「野球やるなら」
と言って貴子さんはテレビを点けた。
「あ、ファイターズの試合だ」
「今始まった所みたいね」
北海道日本ハム・ファイターズとオリックス・ブルーウェーブ(*19)の試合だが、見ていたら打撃戦になっているようである。司は他の人の家にいることも忘れて夢中になってテレビを見ていた。
(*19) 近鉄バッファローズがオリックス・ブルーウェーブに統合される予定であるという情報が出たのは2004年6月13日で、これはその直前。また2004.6.5に北海道日本ハム・オリックス戦が行われたのは確か(8-6でオリックスの勝ち)だが、以下のような事故があったかどうかは分からない。これは架空の物語である。
ピッチャーのボールが少し下に逸れた。
「あぁ・・・・」
どうも“ボールがボールに当たった”ようである。
キャッチャーは倒れて起き上がれない。司は「わぁっ」と思って見ていた。あれは自分も過去に数回直撃したことがあるが、とっても辛いのである。この痛みを経験することになるのは、キャッチャーの宿命?である。
「今のボール153km/hだったみたいだもんね」
「こわぁ」
「高速で153km/hで走ってた車が壁に激突したら即死だからね」
「あはは」
「ボールさん死んでなければいいね」
「あはははは」
ほんとにあれは死にそうな気分なんだよなあと司は思った。
「でも男の人って大変ネ」
「そ、そうですね」
「私たち女には分からない痛みよね」
「ほんと分かりませんね」
と司は言ったものの、分かりすぎる〜。と思っていた。
「私たち女で良かったね」
「そうですね。女の方がいいです」
「私たち玉なんて無いしね」
「全く玉なんて無い方がいいですよね」
マジで玉が無かったら、あんなに苦しまなくて済むよなと司は思って言った。
どうやらボールさんはお亡くなりにはならなかったようで、キャッチャーは復活して試合も続行される。
しばらくテレビを見ている内に司はあくびが出た。
「あなた少し疲れてるみたい」
「そうかな」
「少し寝てたら?そちらの客間のベッド使っていいから。16時くらいになったら起こしてあげるよ。その頃には洗濯物も乾いているだろうし」
「それもいいかな」
それで司は客間に案内され、そこのベッドに潜り込んだが、凄く眠たい気がして5分もしないうちに眠ってしまった。
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女子中学生・十三から娘(25)