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■春四(32)

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2月10日(金).
 
午後、日和が青葉邸にやってきた(実は春貴の車に乗ってきた:後述)。
 
「日和ちゃん、こんにちは。どうしたの?」
と千里が訊く。
 
「あのぉ徳部さんはこちらにおられないですよね?」
「あの人はいつも忙しくしてるけど、何か用事?」
「ちょっと渡したいものがあって」
「じゃ渡しておいてあげるよ」
「そうですか?よろしくお願いします」
と言って、日和は赤い包みでハートマークのシールが付いているパッケージを千里に渡した。
 
「バレンタインだね。いいよ。渡しといてあげる」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
 

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それで日和が帰った後、千里が九重の洞窟に行ってみると、裸で酒を飲んでいた。千里を見て慌ててその辺の和服を羽織る。
 
「よく冬の真っ最中に裸で居られるねー」
「俺は誰かさんみたいに女の子が来てからコート脱いで裸を見せたりはしません」
「あいつは病気だね。それよりこれ可愛い女の子が持って来たよ」
と言って日和のプレゼントを渡す。
 
「おぉ!」
と言って九重は喜んでいる。
 
「龍虎ですか?」
「あの子は理史君に渡してるよ」
「そっかー」
「月食の晩に君がウィンドブレーカーを掛けてあげた子だよ」
「あ、あの子か。ウィンドブレーカーどこに行ったかと思ってた」
「あの子の宝物になってるみたいだから、あげたことにしときなよ」
「じゃそうします。へー、あの子がね」
 
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「言っとくけど、あの子が高校卒業するまでは、本人から望まれても“しない”こと」
「へいへい。私もロリコンじゃないから中学生とはしませんよ。って高校卒業までならまだ4〜5年待たないといけないんですか」
「あの子は高校1年生」
「うっそー!?」
「ついでに男の子」
「冗談はやめてください、男の子だとか」
「女の子に変っちゃったみたいだけどね」
「今女であれば、過去に男であったとしても私は気にしません」
「だと思った」
「でも高校1年生ならあと2年待つだけですか」
と何だか嬉しそうである。
 
「もし“する”ならちゃんと結婚しろよ」
「考えておきます」
 
明言しないところが正直だなと千里は思った。
 
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2月11-12日(土日).
 
高校バスケット新人戦の北信越大会が長野県で行われた。福井・石川・富山・新潟・長野の各県から3チームずつ+開催県(長野県)は、もう1チーム加えて16チームで争われる。
 
富山県1位のH南高校女子バスケット部のメンバーは2/10の夕方。貸し切りバスに乗って、約3時間で長野県の安曇野に移動した。現地のホテルに泊まる。
 
日和は授業終わってすぐ伏木の青葉邸に行っていたので、そこでピックアップした。この午後は、実は春貴の車に山口一恵と日和が乗り青葉邸に来ていた。日和はバレンタインを千里に託し、山口一恵は地下のプールで泳いでいた。山口一恵は同じく水泳経験者の山本未來と2人で「水泳愛好会」を作った。スポーツ部の顧問は兼任が許されない(*41)ので吹奏楽部の加藤先生に名目上の顧問をお願いして実際には春貴が2人をしばしば伏木に連れて来ている。取り敢えずの目標は4月の富山県記録会である。それをステップに6月のインターハイ予選を目指す。当面の目標は「完泳」である。
 
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水泳の短距離は天才たちの闘いだが長距離は体力勝負である。女子で800mを完泳できる選手は高校ではまだ多くないので完泳さえできれば上位の大会に行ける可能性がある。それを狙っているのである。
 
(*41) 顧問も兼任できないが、選手もインターハイ本戦の複数の競技には出られない。
 

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さてバスケットボール部のほうであるが、春貴の他、夏生のお母さんも同伴して安曇野に移動し一泊する。金曜日の夜は前祝い?で熊カツカレーを食べた。
 
「熊カツって長野名物ですか?」
{いや。この熊は兵庫県産のツキノワグマ。まあ熊肉なんて扱ってるのは私の会社・朱雀フードくらいだろうね」
「へー」
「クマみたいな強い所にも“勝つ”ように熊カツね」
「ダジャレかあ」
「でもうちも試験とかの前によくトンカツだった」
「豚より熊が強そうだ」
 
そして土曜日の朝、安曇野市総合体育館にメンバーは集まる。1回戦の相手は福井3位の高校であった。3位とはいってもさすが北信越大会に出てくる学校である。かなり強かった。しかし何とか10点差で勝つことができた。お昼には長野県名物の「お焼き」(*42)をたくさん食べて午後の準々決勝に進む。長野県2位から1回戦を勝ち上がってきた高校にあたり激戦となったが、最後は美奈子のスリーで逆転勝ちできた。この日は(長野牛の)焼き肉を食べて休む。
 
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(*42) 「お焼き」とは、外見はお饅頭、中身は中華まんみたいな食べ物。中の具は色々な種類がある。
 

2日目・日曜日、長野市に移動しての準決勝は昨春は準々決勝で当たった石川J高校とであった。
 
試合は前回同様、おたがいにひたすら点を取り合うゲームとなった。前回7番をつけていたシューターさんが残っていて(今年は5番)今回も多数のスリーを放り込んだ。後半は彼女とこちらの美奈子とのスリー合戦という感じになった。むこうが22本、美奈子が18本のスリーを入れ、試合は向こうが勝った。美奈子は試合後彼女・松池さんとハグしていた。
 
「なんか言葉かわしてたね」
「インターハイで会おうといわれました」
「会えるといいね」
「会えるよう頑張ろう」
 
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そしてお昼に信州そばと今日もたくさん「お焼き」を食べて午後の三位決定戦に臨む。試合前、藤永弘絵の歩き方が変だった。
「藤永、どうした?」
「さっき。変な体勢でパス受けた時ひねっちゃって」
「気をつけなきゃ」
「サロンパスでも貼っておきます」
「ルミちゃん、サロンパスあった?」
「はい。これ使って」
「さんきゅ」
それで、弘絵は足首にサロンパスを貼っていた。
 
さて、ここでメンバー表を再掲する
 
4 山口夏生(SF) 5 竹田松夜(PF) 6 原田河世(C) 7 綾野美奈子(SG) 8 鶴野五月(PG) 9 砂井梨央(2C) 10 菓子弥生(SF) 11 山口一恵(PG) 12 津田秋奈(GF) 13 藤永弘絵(GF) 14.吉川日和(SG) -- 高田晃(Man)
 
日和の登録はPG,SF,PFのどれにも該当しないので消去法でSGにしている。日和はフォワードかガードかといえばガードだが、PGではない。
 
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三決の相手は長野1位のS高校である。とても強いチームで、第1クオーターで10点差を付けられる。そのままこの勢いは止まらず第2クォーターまで終わり42-22と20点差になる。
 
しかし後半、相手は経験を積ませるため?スターティングファイブを下げ、11-15番の選手をコートに送り込んできた。それでも最初8-0とリードされる。しかしここから美奈子の連続スリーで8-9と逆転する。更に美奈子と夏生のスリーは決まり、結局このクォーター10-18とこちらが大きくリードし、合計で52-40と、12点差まで詰めることができた。
 
第4クォーターに入り、美奈子と夏生のスリーによる得点は続き、52-49まで行った時、相手はスターターの5人を戻した。しかしそれ以降もこちらのスリー攻勢は続き、56-55となる。ここで美奈子が初めてスリーを失敗した。
「先生、ビナの出場時間が」
と晃が注意を促す。
「少し休ませるか。藤永」
「先生、彼女は足が」
「あ、そうか。仕方ない、吉川」
「え?ぼくが出るんですか」
「2−3分でいいから」
と言って春貴はここで日和をコートに入れた。
 
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日和の運動能力の低さは相手チームにもすぐ分かる。そこから攻めてきて中に進入し得点を奪う、日和には何もなすすべが無い。相手のPFの人が得点した後こちらの攻撃。五月がパスを出そうとしたが誰も居ない、その時、五月は日和がノーマークであることに気付いた。相手チームは夏生に2人ついてて日和には誰もついてない。相手としては当然の態勢だ。五月は「ひよ」と彼女を呼んで緩いバウンドパスを出した。日和がボールを取るが相手チームは誰もチェックに行かない。日和はボールを持ったものの、どうしたらいいのか悩んでいる。
「ひよちゃんシュート」
「ええ!?」
と言いながらも彼女はそこからミドルシュートを撃った。
 
そしてこれが・・・
 
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入っちゃった!
 
これにはこちらのチームも向こうのチームも驚いたが、本人がいちばんびっくりした!
 
しかもこれで56-57とH南高校が逆転した。
 
相手が速攻で攻めて来る。相手センターのシュートに対して、河世のブロックがきれいに決まる。こちらの攻撃に代わる。しかし相手陣地に進入できず、夏生のスリーも失敗。相手攻撃に移るがその途中でブザー。ブザーと同時に相手フォワードがボールをゴールに向けて投げたが入らず。これで終わりである。
 
整列する。
 
「57-56でH南高校の勝ち」
「ありがとうございました」
両者握手して健闘を称える。
 
しかしH南高校は3位決定戦に勝ち、北信越3位になったのである。結局日和の初めてのゴールが決勝点になった。
 
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このあと行われた決勝戦では準決勝でH南高校に勝った石川J高校が新潟1位でインターハイ上位常連のG学園と激戦の末、1点差で勝って優勝した。5番松池さんのスリーが決勝点となった。
 
 
男子決勝戦のあと表彰式が行われる。
男女の優勝・準優勝が表彰されたあと、3位が表彰される。
 
夏生キャプテンが満面の笑顔で3位の賞状をもらい、高く掲げた。
 
H南高校のメンバーは表彰式のあとバスで19時頃、氷見市に戻った。
「お腹空いた」
という選手たちの声に応えて、バスの車内でミスドと“お焼き”が配られ、みんなたくさん食べた。そして到着後は、フラミンゴの会議室で打ち上げの焼き肉をする。教頭先生、(男子顧問の)横田先生もきてくれた。サイダーで乾杯。3年生も祝福ついでに参加した。教頭先生が用意してくれた富山牛、長野で買ってきたウィンナー・野菜などを焼いた。
 
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保護者や姉妹なども参加した。テイクアウト自由にして疲れた子は帰宅して自主的に自宅で打ち上げの続きをすることにした。
 

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2月12日(日).
 
朝10時、日本橋のデパートから千里に「ご注文頂きました紳士物スーツができあがりました。いつでもご来店ください」というメールが来た。それで千里6(ヴィクトリア)が受け取ってきて、姫路司令室にジャンプし、そこに居た貴子1番(ノエル)に
 
「これ伏木の月子ちゃんに渡して」
 
と頼んだ。それで貴子が車で出掛けようとしたら、千里5(グレース)は車ごと貴子を伏木の青葉宅のそばまで転送した。貴子は呆れながらも車を庭に入れ、サンルームにいた月子(彪志)に
 
「月ちゃん、スーツができたよ」
と言って渡した。
 
「ありがとうございます。えっと天野さんでしたっけ?」
「うん。じゃねー」
「あ、貴子さん待って」
と青葉がサンルームに出てくる。
 
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「ちー姉にお礼言っといて。それとこれ良かったら食べて」
と言ってミスドの箱を渡す。
「さんきゅ。青葉ちゃん、赤ちゃんお大事にね」
「うん。ありがとう」
 
それで貴子は帰っていった。
 
貴子は青葉邸を出ると即姫路司令室に戻される。だから貴子の車は姫路から高岡まで往復したのにトリップメーターが100mも進んでない!
 
「せっかく長距離ドライブしようと思ったのにー」
などと文句を言いながらも、コリン・サハリン・小楡(関東司令室に居る小道の姉妹)たちと一緒にドーナツを頂いた。
 
ちなみに彪志は天野貴子を入籍の日に高岡から浦和に青葉を連れて来てくれた知人として認識した。あれをしたのは“東の千里”に付いている貴子2番(ルミナ)で、今回来たのは姫路に居る1番(ノエル)である。が、複数の貴子の見分けがつくのは千里だけだし、青葉も彪志も、貴子が複数居ること自体知らない。
 
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(今日ルミナは実は555(後述)に関する交渉で忙しかった)
 

2月12日(日).
 
この日も彪志は段ボール箱の中に埋もれて資料を書いている内に書きながら眠ってしまう。
 
夢の中に例の白衣の女性が出てくる。
 
「彪志さん、採精しましょう」
「はい」
 
それでカップを渡され、採精室の中に入って4日ぶりの自慰で精液を出した。採精室を出てカップを渡すと
「OKです。また3日後16日に採精します。それまで禁欲をお願いします」
「はい」
 
 
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