広告:ここはグリーン・ウッド (第3巻) (白泉社文庫)
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■春四(21)

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1月5日に竹本初海が§§ミュージックのカウンセラーの仕事に興味を示したことから、千里(6番)は伏木の家ですぐにコスモスにメールで連絡を取った。コスモスからはすぐに折り返し電話があった。(多忙なコスモスがこういう時はすぐ電話してくるので、コスモスって2人(通常用・緊急用)いるのではと思いたくなる)
 
「竹本初海ちゃんっていって3月に大学の心理学科、正確には文学科心理学専攻を卒業するんだよ。カウンセリング能力はまだ未熟かもしれないけど、22歳だから、信濃町ガールズと近い年齢の相談者というのがいいと思うんだよね」
「なるほど」
「性格は私が保証するよ。なんならもっと近くで接している青葉にも訊いてみるといいと思う。マイペース型で必ずしも群れない性格だけど、その分、ちゃんと守秘義務を守ってくれる」
「それはとても大事な所ですね。ぜひ一度会ってみたいのですが」
 
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「彼女は1月23日から最後の試験らしい」
「こちらは15日くらいまでは忙しいです」
 
この件はこの後コスモスが直接初海と電話で話し、1月16日(月)に東京で会うことにした。
 
「交通手段は私が提供するから」
と千里は言った。
 
「分かりました。お願いします」
 

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そのあとコスモスは
「千里さん、個人的な相談事があるのですが、夜くらいにお話できません」
と言った。
 
コスモスは千里のことを普段は「醍醐先生」と呼ぶ。ここで「千里さん」と呼んだということは、本当にプライベートな話なのだろう。
 
「いいよ。どこかで会おうか」
「じゃ浦和の御自宅にでもお邪魔していいですか」
「じゃ仕事が終わったところでメールして。深夜でもいいから。こちらに転送する」
「分かりました。お願いします」
 

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それでその日の夜23時頃コスモスがメールしてきたので司令室の5番(グレース)は仮眠していた6番(ヴィクトリア)を眠ったまま!浦和の自宅・地下ラウンジに転送した。そしてケイのマンションのエントランスに居たコスモスを浦和に転送した。
 
「宏美ちゃん、いらっしゃい」
と仮眠から目覚めたヴィクトリアがコスモスを迎える。
 
「千里さん夜中に済みません」
とコスモス。
 
「なんか暖かい飲み物が欲しいなあ」
とヴィクトリアが言うと、小道が暖かい紅茶のポットを持って入ってきて勧めた。小道もポットごと司令室から浦和に転送したものである。
 
ポットとティーカップは砥部焼の作家集団“とべりて”の作品である。
 
「今ホットサンドを作っています。少しお待ちを」
「ありがとう。よろしくー」
 
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この邸で雑用をしている小雪は寝ていたのだがびっくりして飛び起きた。小道は
 
「寝てていいよ。2時になったら朝食のパンのセットお願い」
と言った。
 
「分かったー。パンは、しとくね」
と小雪は答えてまたスヤスヤと眠った。
 
小雪(2019) は小糸の曾孫で千里3に付いており、主としてこの浦和の家で雑用を引き受けている。地下にお部屋をもらっている。司令室に居る小綿(2015)の姪にあたる。小道(2018) は小町の曾孫で小綿と共に司令室に居る。
 
千里たちが使っている“一族”のキタキツネさんたちは深草小糸の系列(姫路系)と幡多小町の系統(留萌旭川系)に分かれる。キツネたちは生まれて1年半程で成熟し、3〜6歳で結婚して子供を3〜4匹産む。だいたい12-15歳まで生きる。普通のキタキツネより成熟が遅くまた長生きである。
 
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「でもこの世界、頑張って売り出してもなかなかうまく売れないよね」
「ほんとですね。オーディションの合格者にしても、2014年のアクア、2015年の白鳥リズム、2016年の姫路スピカまではよかったけど、2017-2018は微妙で2019年のラピスラズリは成功。2020年は優勝者は微妙だったけど12位の常滑舞音が大ブレーク。2021年からは舞音ちゃん効果で上位10人くらいまでが前年までの優勝者レベルになっちゃったけど、4位の薬王みなみがブレイク中。2022年組はどうなることやら」
 
「ももくり・くれは西は、2−3年後くらいから急成長すると思う。大事に育てていくといいよ」
「へー」
「コルネは凄い才能の持ち主だよ。きっとクリエイターになる。ただ彼女には“翻訳者”が必要だね」
「ああ、確かに。彼女は日本語で話してくれません」
「日和語で話してるからね」
 
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ふたりが現在の信濃町ガールズ上位の子たちについてあれこれ議論している内に小道がホットサンドを大皿(これも“とべりて”)に入れて持って来たのでそれを頂く。
 
「夜中にごめんね」
とコスモスは小道に言うが
「私たちの一族は夜の方が調子良いです」
と小道は言った。
「ああ、芸能人も概して夜が調子良い人が多い。キツネちゃんたちに近くなってるね」
とコスモスが言うと小道も笑っていた。
 

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小道が挨拶して下がる(司令室に戻される)。
 
「それで相談なんですけどね」
「うん」
「私子供欲しいんですけど。今の状況ではとても妊娠休業なんてしてられないなあと思って」
「代理母さんに産んでもらう手もあるけど、今の日本の状況では代理母というシステムが必ずしも世間に受け入れられてない」
「そうなんですよねー」
 
「歌手だと妊娠出産も結構行けるんだけどね。松原珠妃も松浦紗雪もCDを出すインターバルを使って子供産んじゃったし」
「あれは2人ともうまくやりましたねー」
「コロナで生ライブができない状況もうまく使ったね」
 
「鈴木社長とかはコロナが終わってもこのままネットライブ中心でいいとか言ってますね。生ライブは全国何ヶ所ででもやらないといけない。それでも参加する人は、その都市に住んでいる以外はチケット代以外に交通費・宿泊費で軽く5-6万使う。熱心な人以外には行けない」
 
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「鈴木さんとこはネットライブ1回で50ヶ所ツアーに匹敵する利益出してるし」
「でもネットライブなら誰でも自宅から参戦できる。今まで物理的・経済的に参加不能だった人たちでも参加できる」
 
「特にあけぼのテレビ方式だと、自分の顔が会場に映るし声援も送れる。アングルも自由に切り替えられてアーティストを実質至近距離で見られる。アーティスト側も1回歌えば済むから体力使わない。最高の品質でパフォーマンスできる」
 

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「でも生ライブが生演奏とは限らないよね」
「最近テレビでは歌手に生演奏を禁じてるのが多いですね。うちはそういう番組には出演拒否してますけど。でもいつでも口パクというアイドルも多いです」
 
「アイドルでなくてもラララグーンみたいに長年ボーカルが吹き替えだったというのもあった。長年のファンには知られてたけど」
 
「2008年・北京オリンピックのオープニングで少女歌手が吹き替えだったというのは叩かれてましたね」
 
「よくあることだけどね。昔『Y.M.C.A.』をヒットさせた Village People もテレビとかに出てくる人たちと実際に歌っている人は別だった」
 
「見た目問題と歌唱力問題ですね」
 
「t.A.T.u (タトゥー) でボーカルはイリーナとユーリャの2人と思われているけど、実はユーリャが一時期声が出なくなったので、バックコーラスのひとりでカーチャという子が代理歌唱していた時期がある。本人にはいづれ正式メンバーにしてやると言ってたらしいけど、約束は反故(ほご)にされた」
 
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「まあこの世界、その手の約束は守られないのが常」
 

「でも世の中、代理って大事ですね。舞音なんかも、元々はエーヨの代理でローズ+リリーのライブに出演したのがブレイクのきっかけになりました」
 
「わりとそういう人多いよねー。古くはオリヴィア・デ・ハヴィランド(*36) とか。あの人はシェイクスピアの『夏の夜の夢』主人公ハーミア役の第2アンダースタディ(*35) だったのが本役の女優と第1アンダースタディが離脱して彼女が本役をすることになった。南田洋子(南野陽子ではない!)(*37) とかは同期で人気のあった女優さんが泳げなかったので、水泳シーンの吹替え役で出演したのがきっかけでセリフのある役にも起用されるようになった」
 
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(*35) 舞台でのお芝居では、キャストの中の誰かが急病などで出られなくなった時のために、若い俳優を主要な役の俳優に付けセリフも覚えさせ、同じ演技を練習させておいて、いざという時にはすぐに代役ができるようにしている。これを アンダースタディ (understudy)といい、結構実際に本人に代わって舞台に立つことも多い。
 
(*36) オリヴィア・デ・ハヴィランド(1916-2020)は日本生まれのイギリス人でアメリカに渡りハリウッドで活躍した。代表作のひとつが『風と共に去りぬ』のメラニー・ハミルトン役だが、この役は元々妹のジョーン・フォンテインにオファーがあったのを、本人は主人公のスカーレット・オハラ役を狙っていたので、メラニー役を姉に譲ってしまった。
 
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(*37) 南田洋子(1933-2009) は石原慎太郎原作の映画『太陽の季節』(1956) で女主人公を演じ、これがきっかけで男主人公を演じた長門裕之(1934-2011) と結婚した。映画の中ではだらしない男と妊娠したものの中絶を強要され手術が失敗して死亡する女という役柄だったが、リアルでは仲睦まじい夫婦として知られた。CMにも、いつも一緒に出演していた。ミュージックフェアの司会を夫婦で 1969-1981 に務めた。
 
南野陽子が出て来た頃、名前が似ていることはよくネタにされた。
 

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「芸能界以外でも、部長代理とか課長代理とかは部長や課長に代わって接客したりあるいは組織の中で様々な指示をする」
「首相代理とか法定代理人とか代理店とか」
 
「会社なんかだと男の社長が病気で倒れた場合に奧さんが専務とかの肩書きで会社を動かすことがあるね」
「夫婦はそもそも互いに代理人になることが多いですね」
「家族という集団の共同代表だからね」
 
「で結局代理母なんですか」
「宏美ちゃん言ってたよね。結婚する時、道雄君が『君に代わって赤ちゃんを産んでもいい』と言ったって」
「まさか彼に産んでもらうとか」
「彼には妊娠中と出産後1年程度は女になってもらわないといけないけど」
「あのぉ。冗談ですよね?」
「ま、本人に打診してみたら?」
「うーん・・・」
 
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「私の知る範囲で夫が一時的に女性になって子供を産んだ事例が3件ある」
「そんなにあるんですか!?」
 
(武石満彦と紗希、青山広紀と藤尾歩、斎藤命と奥田理彩。丸山アイと城崎綾香のケースは本人たちがあまりにもふざけすぎなので省く)
 

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「世間的には宏美ちゃんが妊娠してても産休も取らずに頑張ってることにすればいい。妊娠した場合に備えて事務所の隣に宏美ちゃんたちの家を借りると言ってたよね。彼にそこで妊娠生活・初期の育児をしてもらう。『妊娠してる暇が無いから道雄君に代わりに妊娠出産してもらいました』とか言っておけばほとんどの人がジョークと思う」
 
「あのぉ、私にもジョークとしか思えないんですけど」
 
その晩帰宅した宏美は道雄に「代わりに妊娠してくれない?」と訊いてみた。
 
すると意外にも彼は妊娠出産を承諾した(と宏美は思った)。それで取り敢えず彼に精液を採ってもらい、また自身も卵子を採取してもらうことにした。宏美が多忙なので何度も採卵せずに済むよう、排卵誘発剤を使って1度に5個採取した。
 
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しかし採卵した後の生理は物凄く重く3日も仕事を休む羽目になった。それでも事務所内のベッドで寝ていて、必要な指示とかは出していたし、大事な電話とかは自分でしていた。この3日間はケイに事務所に来てもらっていた。
 

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