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■春四(22)
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「悪い子はいねが〜?ネダはね〜が〜?」
と半身テーブルに投げ出して、うめいているのは毎度、皆山幸花である。
ここは『北陸霊界探訪』の編集部である。
「まず人がいませんねー」
とミルクティーを飲みケーキを食べながら答えているのは 間島和栄と水野希望(いづれも大3)である。
初海は東京に行っており、明恵と真珠は卒業前の最終試験の準備で真珠の家で一緒に勉強しており(邦生が御飯を作る)、遙佳と双葉は大学受験、ということで人が居ないのである。それで「おやつあげるから出て来て」と和栄を呼び出した。和栄が「おやつあるらしいよ」と言って希望を連れてきた。
「ツイッターとか検索するけど面白そうなのありませんねー」
「ツイッターもマスクが買収したので人が激減しましたからね」
「特にまともな人がみんな辞めましたよね」
「残ってるのはガセネタ発信する連中ばかりだし」
「テレグラムでもやりますか?」
「もっとガセが多い気がする」
「プーチン死亡説とか半月に1度くらい流れてますね」
「そうだ!悪い子がいたら、罰としておちんちん取っちゃうというのはどうでしょう?」
「君たちは取られたら喜ぶから罰にならん。1本増設して2本にしよう」
「え〜〜!?」
「片方でオナニーしながら片方でおしっこできるぞ」
「神経系統的に無理な気がする」
1月10日、連休明けの火曜日、午前11時頃、青葉の高校の時の友人・杉本美滝が突然伏木の青葉邸を自分の車で訪れた。
サンルームでは彪志(月子)がドローンの練習をしていたのだが
「第2リビングに行ってるから、ここ使えば良いよ」
と言って譲ってくれたので、青葉はサンルームで美滝と話した。
彪志(月子)は紅茶とケーキも出してくれた。
「ありがとうございます」
と美滝は言い、彪志(月子)がサンルームを出て行ってから青葉に訊いた。
「誰だったっけ?旦那の“妹”さん?」
「まあそんなものかな」
と青葉は言った。
くそー。旦那の“姉”には見えないのか。
「それよりどうしたの?なんか思い詰めた顔してる」
と青葉は美滝に尋ねた。
「結婚がキャンセルになった」
「え〜〜〜!?」
美滝は来月2月10日(金・友引)に結婚式を挙げますといって式の招待状も送ってきていた。しかし臨月(2/15-) に近いので欠席させてもらうことにして、御祝儀だけ送っておいた。彼女は結婚準備のため年内で勤めていた会社を退職している。それなのに式の1ヶ月前に結婚中止というのは何があったのだろうか。
「相手が他の女と結婚してしまった。もう届も1月5日に提出したらしい」
「ひっどーい」
「結納金の返却は不要で慰謝料も払うと言われたけど、エンゲージリングと結納金投げ付けて返してやった。慰謝料も要らんと言った」
「うん」
「それでさ、青葉。実は結納金はウェディングトレスの代金とかに使ってしまってたから、青葉からもらった御祝儀を使って返してしまったのよ。青葉への返却を1〜2年待ってくれない?必ず返すから」
「それは返却しなくていい。それより何か必要なお金があったら言って。サラ金とか使ったらダメだよ。私が貸してあげるから」
「分かった。すごく助かる」
青葉は100万円“しか”包んでないけど、少しでも助けになればと思った。
(↑芸能界にどっぷり浸かりすぎて感覚がおかしくなっている)
その後、美滝は詳しい話を泣きながらしてくれたが、ほんとに酷い話だと思った。要するに相手は最初から二股だったのだ。ところがライバルは男性だったので彼と結婚することができず、美滝と結婚しようと思っていた。そのライバルが性転換手術を受け、戸籍も女性に変更してしまった。それで彼は自分のためにそんな痛い手術まで受けてくれたその子に感動し、その子から私と結婚してと言われて承諾し、届も出してしまったらしい。
「性転換云々以前に二股してたのが絶対的に悪い。慰謝料請求していい案件だよ」
「でもそんな奴と関わりたくないから慰謝料も要らないと言った」
「そのほうが美滝ちゃん自身としては傷が浅くて済むかもね」
「それでさぁ、青葉、なんか仕事無い〜?」
青葉は少し考えた。
「いっそ東京に行かない?」
「あ、それはいいかも」
「美滝ちゃん、ピアノ結構上手いよね」
「まあ小さい頃から習ってたし。ヴァイオリンと一緒に」
「合唱軽音部ではトロンボーン吹いてたっけ?」
「うん。あとギターも弾いてた」
「ああ、弾いてたね!」
と言ってから美滝に言った。
「実は東京の§§ミュージックで若い女性ピアニストを探してるんだよ」
「へー。でも東京には女性ピアニストなんて掃いて捨てるほどいるでしょ」
「それが結構条件が難しい。かなり多忙になることが予想されるから体力のある20代でないと厳しい。夫や子供の世話なんてできないから独身でないと無理。バンドを組むから協調性のある人、そして指示を守ってくれる人でないと困る。一方で守秘義務を守れない人は困る。そしてすぐ結婚して辞められても困る、となると条件に合う人が結構居ない」
「わりと体力は自信あるかも。守秘義務は守れるつもり」
「だったらちょっと訊いてみる」
それで青葉はコスモスのスマホに掛けてみた。出たのは川崎ゆりこである。
「大宮先生、今コスモスはテレビ局で打合せしておりまして、その間私が電話を預かっております」
「ゆりこさん、浄瑠璃バンドのピアニスト決まりました?」
「それがまだなんですよ」
「私の同級生の女性ピアニストを推奨したいんですけど。演奏見てもらって、ダメなら信濃町バンドにでも入れてくれないかなあと思って」
「大宮先生のご推薦なら最悪信濃町バンドには入(い)れますよ。東京周辺に住んでおられるんですか」
「今金沢の近くに住んでいるんですけど、ちょっと事情があってその地を離れたいんですよ」
「そのご事情をお聞かせ頂いてもよろしいですか?」
「結婚する予定だったんですけど、式予定の1ヶ月前で婚約破棄されたんですよ」
「わあそれはお気の毒に」
「結婚準備のため会社も辞めてたのに。一度会ってもらえません?」
「はい。いいですよ。では15日とかどうですか?」
青葉は美滝に「15日はどうかって?」と訊いた。美滝は頷いて「行く」と言った。それで青葉はその日にと言って電話を切った。
「やけ食いしようよ」
と言って、青葉は月子(彪志)を呼んで
「お友だちとやけ食いしたいから、お肉とかお野菜とか買ってきてくれない?」
と言って、2万円渡した。
「うん。行ってくる」
それで月子がイオンに出掛けたので、青葉はトイレに立ってグラナダのRも呼び出す。
「私暴飲暴食とか禁じられてるから代わりに美滝とやけ食いしてくれない?」
と言った。
「食べる役なら喜んで行く」
と言い、千里姉(2B)と一緒にこちらにやってきた。
それで居間に焼き肉セット(ミュージシャンアルバム取材の後、タレントさんたちと御飯を食べる時に使用しているもの)を用意し、月子が買ってきたお肉・お野菜を各々個人用のホットプレートで焼き、青葉(R)・千里(2B)・月子・朋子・美滝の5人で思いっきり食べた。
「こんなに食べるのなら、まこちゃんたちも呼びたかったね」
「あの子たち最後の試験が近いからずっと勉強しているんだよ」
「大変だね!」
美滝が月子のことを青葉の夫の妹と思い込んでいるようなのは、朋子も千里もスルーしておいた!
なおこの間、妊娠中の青葉(L)は、秘密地下室で、青葉(R)が「自分たちの朝御飯用に準備してもらってた」というスペイン風オムレツを食べていた。(日本の14時はスペインの朝6時)
15日については千里(2B)が
「車で行こうよ。車があると変則的な行動も取れるし荷物もたくさん積めるし。ちょうど私もその日東京に行く用事があったから、美滝ちゃんの車を交替で運転して行かない?」
と言うのでそうすることにした。
千里は美滝がそのまま薬王みなみのバックバンドに投入され多忙になるのを見越していたので美滝の車を東京に移動するのにこう提案した。
14日の夕方、3日分の着替えと、自分のギター・ヴァイオリンとキーボード、青葉が貸してくれたトロンボーンを持ち、自分の車Mazda2 に乗って実家を出発した。
青葉の家で千里さんと落ち合う。千里さんが「高速代は私が持つよ」と言ってETCカードを出すのでそれを差して出発。運転は交代ですることにし、名立谷浜SAまで美滝、1時間休んで東部湯の丸SAまで千里が運転して、ここで少し長めに仮眠する。この時キーボードの練習も軽くしておいた。
そのあと上里SAまでを美滝が運転してここで朝御飯を食べる。そのあとを千里が運転して15日朝9時半、信濃町の事務所前で美滝をおろした。
ここは道路自体は駐停車禁止だが、ビルの前が道路から5mほど引っ込んでいて乗り降りができる。千里も手伝って楽器を降ろし、「じゃ車は美滝ちゃんが今夜泊まる所に回送させるね」と言って、いったん浦和の家にいった。
この車は実際には美滝が「採用されました。住まいも岩槻の社員寮に入れてもらいました」とメールしてきたので、貴人に頼んで岩槻に持ってってもらった。美滝は深夜岩槻の社員寮に行くとフロントで「お車が回送されています」といって車の鍵と駐車枠番号の控えをもらったのでびっくりした。
美滝の翌日、月子と一緒に東京に行った初海であるが、16日は§§ミュージックの面接を受けて採用され、五反野の女子寮の内部、あけぼのテレビ五反野サテライト、あけぼのテレビ本社、越谷の小鳩シティ、春日野のゆりかもめスタジオ、北里ナナの家、郷愁村のプレゼント仕分け場などを見学させてもらった。
17日は『関東不思議探訪』の編集部を訪問し、『北陸霊界探訪』の東京支部を設置させてもらったのだが、そのあと「一緒に取材に行こう」と言われて、メインキャスターの谷崎潤子ちゃん、矢田ディレクター、カメラマンの萌木さん、それに初海の4人で出掛ける。
車が着いたところは東京ヘリポートである。ここから放送局のヘリに乗って飛び立ち、ヘリは30分ほど飛んで、どこかの山の上に来る。矢田の指示でヘリコプターは高度を上げた。
「なんですか?あれは!」
と初海が声をあげる。
「なんか凄い渦巻き(*38)ですね」
「グレイト・スパイラル・ロード(*38) とでも名付けようか」
山に螺旋状の模様がある。どうも螺旋状に作られた道路が山の周囲をぐるぐると周りながら頂上まで続いているようである。
(*38) 渦巻きは spiral. 似た単語に helix がある。しばしばどちらも螺旋(らせん)と訳されるが、helix は“つる巻”とも訳される。蚊取り線香とか鳴門の渦巻きみたいなのがspiral(回転しながら半径が変化する), コイルとかスプリングとか蔓草みたいなのが helix である(回転しながらZ軸がずれる)。DNAの“二重螺旋”は double helix.
いわゆる“スパイラルドッグ”はスパイラルではなくヘリックスだと思う。この道路は山裾ほど半径が大きくなっているのでspiralである。
「これ羽田から福岡空港に飛ぶ便に乗ってた人が偶然見て写真を撮って番組宛てに送ってくれたんですよ」
「へー。羽田−福岡便がこの辺を通るんですか」
「普段は通らないのですが、たまたま気流の関係でこの付近まで北上したみたいです」
「でもなんか凄い景色ですね。何の道路なんですか?」
「分かりません」
「え〜〜!?」
「地図には無い道路なんですよ。望遠で見てみるとかなりきれいに整備された道路のようなのですが、都(と)に照会しても『そんなところに道路は存在しない』というんですよね」
「でも道路あるじゃないですか」
「それで我々『関東不思議探訪』と『北陸霊界探訪』の合同取材班はこの道路について調査してみることにしたのです」
と潤子ちゃんはカメラの前で言った。
「これで掴みはOKですね」
とディレクターは言う。
「この先どうなるんですか?」
「そこから先はこの道路の付け根のところにある建物を訪問してみるという流れで」
「なるほどー」
ヘリコプターが高度を下げたので、積んでいる望遠鏡で、潤子がそして初海が覗いてみる。
「これかなりきれいに整備された道路ですね」
「てしょ?」
「アスファルト舗装されているみたいだし、センターラインも引いてあるしガードレールもある。両脇に歩道もある」
「そのガードレールの色がどうも色分けされているようなんですよ」
「へー」
それで麓付近から頂上へと登りながら道を観察すると確かにガードレールの色が変わって行っている。そして一番上の一周はコンクリートになっていて、頂上にはどうも駐車枠が描かれた駐車場のようなものがあり、建物も立っている。
取材班は1時間ほどこの道路をあちこち観察していた。
「これどこかの企業の何かの施設なのでは」
「私たちもそんな気がしたんです」
「それで麓の所にも建物があるんですよね」
と言ってヘリは麓まで降りて道路の端のところでホバリングする。
「あ、信号がある」
「どうもその1ヶ所だけ信号があるようです」
「へー」
「道路の端にはなんか製材所のようなものが見えますよ」
「それでそこを訪問してみようというのが第2弾なんです」
「なるほどー」
「でも今日は遅すぎになるからこのまま郷愁村まで送りますよ」
「ありがとうございます」
「次はいつこちらに出てこられます」
「大学の試験が23日から2月2日までなんですよ。何も問題無ければ2月3日には解放されるはずなんですが」
「では2月3日に続きを」
「もし私が行けない場合は誰か代わりの人に来てもらいます」
「了解〜」
この後初海は郷愁飛行場に行き、(1/17 15時頃)千里所有のHonda-Jet
blackに搭乗したが初海が放送局のヘリを降りて黒い機体のホンダジェットに乗り、飛行機が飛び立つところまでを『不思議探訪』のカメラマンは撮していた。初海の方は能登空港に明恵が迎えに来てくれていたのでそれで金沢に帰った。
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