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■春四(9)
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12月25日(日)朝。
ネットの速報で『百道良輔・大輔兄弟急死』という報道を見た人たちのほとんどがそれに続く26日以降の大騒動のことを全く予想していなかった。
12月25日朝、大館蒔乃(氷川チャイム)は爽快に目覚めた。なんか身体が軽い気がするなあと思いながら取り敢えずトイレに行く。
おしっこの出方に驚く!
何これ!?
放出位置は昨夜の“タック”された状態とほぼ同じなのだが、あの辺を回りくどく通過してから出るのではなく、膀胱から直接まっすぐ“落ちて行く”感じである。男の子のおしっこは“出す”、女の子のおしっこは“出る”と性転換手術を受けたタレントさんがテレビで言ってたよなぁというのを思い出した。ほんとにこれは“出す”ではなく“出る”感覚だ。
つまりぼく本当に女の子になっちゃったみたい。
でも・・・“痛くない”よね?性転換手術の痛みって短い人でも3〜4ヶ月、遅い人だと1年くらい続くって聞いてて覚悟していたのに。
トイレを出たから自分の“身体”を確かめてみると、完全に女の子の形になっていることを認識する。クリトリス、あります。おしっこの出るところ、あります。ヴァギナ!あります。おちんちん、ありません。たまたま、ありません。たまぶくろ、ありません。ほんとにぼく女の子になったんだ。嬉し〜!
少し落ち着いたら、バストが昨日までより大きくなっていることにも気付く。すご〜い、これBカップあるよね・・・・と思ってから重大な問題に気付く。
このバスト、Aカップのブラジャーには入らない!
今日は午前中にあけほのテレビで月城たみよちゃんが歌うののバックダンスをすることになっている。たみよちゃんが中2なのでバックダンスは原則としてメインのアーティストより若い子ということで1年生4人が指名された。
七石プリム・春野わかな・鏡家トマト・氷川チャイム
絶対に遅刻とかは許されないし、ダンスもしっかりしなければならない。それなのに合わないブラジャー着けてたらまともに踊れない。
蒔乃はフロントに電話してみた。稲田姉妹のどちらかが出た。
「朝早く申し訳ありません、ブラジャーをこの時間帯に買える所とかご存じありませんか?なんか急に胸が成長したみたいで」
「ああ、女の子はそんな時もあるんだよ、でもブラジャーならあげるよ」
「もらえるんですか!?」
「買い物する時間が取れない子も多いからね。サイズはいくら?というかフロントまでおいでよ。計測してあげるから」
「ありがとうございます!」
それで蒔乃はフロントまで行って稲田さんに測ってもらい、B70の普通のブラジャー2枚と、スポーツブラをもらった。
「バックダンスって動きが激しいからスポーツブラしてたほうがいいんだよ」
「へー!」
着けてみると物凄くしっかり胸を押さえてくれるので、動きやすく気持ち良く踊ることが出来た。それであけぼのテレビで本番をこなしたが、
「さすが昇格組はレベル高いね」
とマネージャーさんに褒められた。
仕事が終わった後、カデットに行き
「私女の子になっちゃった」
と言って身体を母と姉に見せた。
「きれいに女の子になったね!」
と母も姉も感心していた。
「痛みは?」
「全然無いよ」
「凄いねー。昔は傷が治るまで1年掛かったって聞いたけど」
「これ役場に提出する書類らしい。未成年だから保護者のサインが必要なんだって」
と言って、“魔女っ子千里ちゃん”からもらった『性別訂正届』に署名してもらった。
蒔乃は午後も今度は地上波のテレビ局に行き、舞音ちゃんのバックで踊った。今度は20人くらいの中の1人である。
「この衣裳着て」
と言われて着てみると、信楽焼のたぬき(金玉付き)だったのできゃーと思った。
おまけに司会者さんが寄ってきて
「君、金玉大きいね」
と言われたので
「はい、18金(18禁)です」
と答えたら、大笑いしながら背中を叩いていた(セクハラでは?)。
(でも「信濃町ガールズの子はどの子でもちゃんと受け答えができるから、素晴らしい」と後から褒められたらしい)
その日の夕方、仕事が終わって20時半頃寮に戻る。すぐ夕食が配送されてくるので、頂いて食べる。
お昼は放送局の駐車場に駐めた§§ミュージックの車の中でもらったお弁当を食べた。コロナが収まるまでは食堂での飲食は避けるらしい。でもなんか高そうなお弁当だったけど。夕食もなんだか美味しそうだし、けっこうなボリュームもある。合格した後の説明会で、最初に注意されたことで“ダイエット禁止”というのがあったもんなと思う。でも今日みたいに忙しく仕事してたらダイエットなんて無理〜!しっかり食べてないと身が持たない。
食べた後、ミルクティーでも飲みながらのんびりしていたら、電話が掛かってくる
「ナース室の広丘です。この寮では生理用品は各々お好みのものを無料配布していますが、大館さんはナプキンは何を使っておられます」
「ナプキンですか?」
生理来てません、なんて言うわけにはいかない。中学生にもなって生理が来てなかったら大変だ。何か適当に言っておくか。別に使わないけど。
そう思ってチャイムは答えた。
「えっと、センターインコンパクト1/2です」
「中高生でセンターインの子(*10)多いよね」
「ですねー」
「何センチの買ってる?」
「えっと私生理あまり重くないので、21.5cmと30.5cmがあれば。どちらも羽つきで。あ、無香のが好きです」
(生理用品の銘柄とサイズをすらすら答えるってさすが元男の娘ね♪)
(*10) センターインは元は資生堂が開発した商品だが、資生堂が生理用品から撤退したため、現在はユニチャームが製造販売しており、同社の4大ブランド(ソフィ・はだおもい・ボディフィット・センターイン)のひとつとなっている。おしゃれで生理用品らしくないパッケージもあり、資生堂時代から中高生に人気が高い。コンセプト的には同社のボディフィット同様、中央が盛り上がるように作られていて、女性にとっては着け心地がいい。
「OKOK。それで登録しておくね。必要になったらいつでも連絡してね。今在庫はある?」
「あ。少なくなってきてました」
「じゃ配送システムに乗せるね」
「はいお願いします」
それで5分ほどでセンターインコンパクト1/2の“多い昼〜ふつうの日用”21.5cmと“多い夜用 ”30.5cmが1パックずつ送られてきた。どちらも無香タイプ・“羽つき”である。なおセンターインコンパクト1/2には“羽なし”は無い。
付けてみよう!
早速取り敢えず21.5cmを1個取り、ショーツに装着してみた。
「これいい!」
と思わず声をあげた。
蒔乃は“生理ごっこ”はよくしていたので何度もナプキンを付けたことはある。でもお股に余分なものが付いていると、ナプキンをつけていて凄く邪魔に感じた。でもお股に変な物が無いとしっかり装着することができる。特に盛り上がり部分が、陰裂にちょうど填まるのは安心感があった。
余分なものが無くなって良かったなあ、とあらためて蒔乃は思った。
その日お風呂に入ってからお布団の中で目を瞑る。手があの付近に行く。
だって仕方無いよね。お布団の中に手を入れると、自然に手が腰の付近に来るんだもん。自然にお股を触るようになってるんだよ。だからぼく悪いことしてるんじゃないよ。
(自分の身体に触るのに誰に断ることも無いし、言い訳とかする必要も無いと思うけど)
それで蒔乃はあそこを触ってみた。ゆっくりと回転運動を掛ける。
何この気持ち良さは?
ちんちん触るよりずっと気持ちいいじゃん。
蒔乃はゆっくりとそこを20分くらい刺激していて“逝った”ような感覚になった。余韻を楽しむようにお股のあちこちを触る。シャッターは二重になっている。その中には敏感な所、おしっこの出てくる所、そして女の子だけにある穴。
女は男より穴が1つ多いっていうもんなあ。
その女の身体が自分の物だなんてすごく嬉しい。
1日ほど前。12/24夕方。
§§ミュージックの事務所で、新人の信濃町ガールズがどうも遅刻して叱られている様子を見て少し声を掛けてから、ケイは18時半頃事務所を出た。佐良しのぶの運転するアコードで小平市のマリの自宅に向かう。
ちょうどその頃、グラナダの千里邸の地下プールで泳いでいた青葉(R)は何かの胸騒ぎを感じて泳ぐのをやめプールからあがった。時差は8時間あるので現在こちらは午前10時半である。
からだを簡単に拭いてから、邸内の居室にいるはずの千里(実際に居るのは千里2B Olivia)に電話を掛けた。
しかしこの電話は“指令室”の5番(Grace)が横取りした。
「ねぇ。何か起きた気がするんだけど」
「さすが青葉だね。正確な時刻までは私も分からないけど、この3〜4時間以内に百道大輔が薬物中毒で死亡したっぽい」
と千里(Grace)は答えた。
つまり千里姉は3〜4時間前から、この“ダーク”な波紋を感知していたのだろう。さすがだ。時々千里姉はひょっとして虚空さんより凄いのではと思うこともある。
「やばくない?」
「警察はマリの所に事情を聴きに来ると思う」
「変なこと言わないか心配だなあ」
「マリよりケイのほうが怖いよね」
「社会的な責任が重いのに、ケイ自身の自覚が無いからね」
「私はこないだケイに忠告した」
「だったら今度は私が警告しておくよ」
それで青葉(R)は、そのままケイのスマホに電話した。大輔が死んだなどとは言わずに、このように警告した。
「ケイさん、ここ1〜2日中に百道大輔さんのことで警察に何か訊かれるかもしれませんけど、何も知らなかったで押し切ってくださいね」
「あ、うん」
ケイは先日も千里から言われたことであったが再度青葉からも言われたことで、大輔の逮捕が近いのかもと思った。今日政子の家に大輔を招いたのはやばいかなあとも思ったのだが、実際には大輔は警察の手の届かない所に行ってしまった。
司令室では情報を集める。
(日本時間で)夜中の12時過ぎに良輔の事実上の妻(指輪ももらっていていつも着けている)がスタジオに行き、ふたりが死んでいるのを発見する。スタジオ内に入った時変な臭いがしたので、一酸化炭素中毒かと思い、窓を全部開放した。
(しばしば誤解されているが一酸化炭素は無臭)
それで119をする。救急搬送されるが病院で死亡が確認される。医師は薬物中毒を疑い、警察に通報する。それで1時半頃、警察が動き出した。
警察も薬物死と判断したが、ふたりの遺体を詳しく調べたい。そのためには遺族の許可が必要である。良輔については妻(この時点で警察は法的な妻と思っていた)が同意した。大輔の身内について訊かれた彼女は
「大輔さんはマリちゃんって子と付き合ってたと思う」
と言うので、良輔のカーナビから“マリ”と書かれた目的地に行ってみる。それで午前4時頃、警察は小平市のマリの家に辿り着いたのである。
マリは待っていた大輔がやっと来たかと思い玄関に出るが、刑事さんたちから大輔が死んだと聞かされ混乱する。そこに異常に気付いてケイが出て来てくれて、マリをお母さんに託してケイが警察の質問に答える。
この状況をモニターしていた司令室のグレースは青葉Rに電話して、マリをサポートしてあげてと頼んだ。これはスペイン時刻で夜8時過ぎである。
青葉(R)はすぐにマリのお母さん!のスマホに電話を入れた。マリのスマホの通話履歴が調べられた場合に微妙な時刻にマリが外部の人間と話したことが分からないようにするためである。
そしてここで青葉はマリに、現在の状況を整理して話した。実際マリは何がどうなってるのか、混乱していたのである。それが青葉と話したことでかなり落ち着くことが出来た。
「この状況、私次第でかなりこの先が変わるよね」
「マリさんが下手な対応をすると、アクアちゃんとかまで活動できなくなります」
「アクアは絶対に守らないといけない」
と言ってマリはかなり気合が入った。
「青葉、私何をすればいい?」
「まず自分は大輔さんとは関係無いと明確に否定することです。だって別れていたんでしょ?」
「それを誰も信じてくれないんだよ」
「だって、かえでちゃんはケイさんの子供だし」
「よく分かったね!」
「かえでちゃんの顔見たら、みんな気付くと思いますけど。リンナさんや亮平さんにも分かったと思いますよ」
「だよね?なんでケイは気付かないんだろ?」
「ケイさんって、こういう所鈍いですよね」
かえでの父親がケイであると青葉が知っていたことで、マリはかなり気分が落ち着いたようである。青葉はマリに「警察にこう聞かれたらこう答えて」といくつかの想定問答を教えてあげた。マリはアクアを守るために頑張った。
それでケイからの連絡で、警察が直接話を聞きたいと言っていると言われた時、マリは気合を入れて出て行ったのである。
(ケイはマリのスマホに電話した。青葉はお母さんのスマホでマリと話していた)
それで警察は取り敢えず遺体の詳細調査については大輔たちのお母さんの許可を取る必要があると判断し、マリが教えてあげた大輔たちの母のところに4時半頃向かったのである。その前にマリ、ついでにケイも薬物検査を任意で受けたが、むろん陰性である。
一方、警察は良輔の妻が任意の調査に応じてくれたため良輔のマンションに入り、妻が知っていたパスワードでパソコンを起動し、中身を調べた。そして様々な薬物を買った人の膨大なリストを発見。そこから翌日12/26の大量逮捕劇に至る。
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