広告:ここはグリーン・ウッド (第2巻) (白泉社文庫)
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■春四(26)

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「それでは先日初美ちゃんと一緒にやった取材の続きをしたいのだけど」
「はい、内容はフォローしています。行きましょう」
 
それで谷崎潤子・伊勢真珠・矢田ディレクター・萌木カメラマンの4人は車で先日上空から見た、道路の端にある八王子市北部の製材所に取材に行った。この道路は八王子市と上野原市に跨がって走っている。
 
行ってみると道路の入口は製材所の南側にあり、入口にはゲートがあって“私道につき進入禁止”と書かれている。
 
「やはり私道だったんですね。だから地図にも載ってなかったんだ」
「しかし日本一長い私道かも。これ宇部興産専用道路といい勝負という気がしますよ」
 
製材所には“八王子林業”という看板が掛かっている。
 
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「こんにちは〜◇◇テレビ『関東不思議探訪』取材班なのですが」
「はい、何でしょう?」
と言って出て来たのは60歳くらいの男性である。
 
(実際は電話で事前に取材の許可を得ている:実はここには常駐スタッフが居ない!)
 

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矢田ディレクターが名刺を渡すと男性は“八王子林業株式会社・代表取締役・山道開”という名刺を渡した(いかにも偽名っぽい)。
 
「社長さんでしたか!」
「まあ社長といってもほんの1000人程度の会社だけどな」
「大会社じゃないですか!」
「もっとも大半は熊さんとか鹿さんとかで人間はほとんど居ないが」
「あらら」
「役員3人必要だから、女房が副社長で息子が専務だけど」
「いやそういう会社は多いですよ」
「女房は元男で、息子は元娘だったんだけどね」
「最近そういう人多いから大丈夫ですよ」
 
「それで社長、この製材所の横から入って30kmくらい続いて山に登って行く道がありますね。あれはどういう道路なんですか」
「ああ、あれは木を切り出すための道路だよ」
「木の切り出し道路でしたか!」
 
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「若い頃は木を担いで麓まで降りてきたもんだが、力が衰えてきたから道路を作ってダンプに積んで降りて来るんだよ」
「なるほどそういうことだったんですか」
 

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「でも凄く立派な道路ですね。きれいに舗装されているし、ガードレールもあって歩道もあるし。それとそのガードレールが色分けされてますね」
「山の中にいると今どのあたりというのが分かりにくいから、領域毎にガードレールを色分けして目安にしてるんだよ」
「ああ、そういうことだったんですね。分かりやすくていいですね」
「舗装したのは、砂利道だと俺も年取って視力も運転の腕も衰えたからまともに走れなくてね」
「大変ですよね」
「ガードレール作ったのも運転誤って道路外に飛び出さないようにだよ」
「なるほどー」
「若い頃なら時速400kmくらい出したもんだが最近は200kmくらいでしか走れない」
「速すぎます!」
「でもあの道路の建設、お金も掛かったのでは?200-300億円掛かった気がしますが」
「うちの社員で作ったから、材料費だけ。ほんの50億円くらいだよ」
「ほんのなんですね!」
「ビットコインで1000億円稼いだからその程度はポケットマネーかな」
「ビットコインで当てたんですか!」
 
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「それで社員をグループ分けして、一番速く作ったチームには“灘の生一本”の一斗樽を10樽プレゼントした」
「凄いですね」
「実はガードレールはその各グループごとに色を割り当てたものなんだよ」
「そういうことでしたか」
「でも急いで作らせて壊れたりしません?」
「どうせ身内用の道路だし」
「なるほどー」
「それに適当に作って走ってる最中に壊れたら自分達が困るからちゃんと作ってるよ」
「確かに自分達で使うならちゃんと作りますよね」
 

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「街灯は立ててない。街灯立てるとそこに動物さんたちが集まって来て夜中走っている時に撥ねてしまうから」
「ああ、それは可哀想ですね」
「だからキャッツアイとデリネーターだけだよ」
「なるほどー」
「キャッツアイやデリネーターがあるから夜中でも時速200kmくらいは出せると思う」
「それスピード違反です」
「ここは私有地の中の私道だから道路交通法が適用されない」
「あ、そうか!」
「だからブガッティ・シロン(*40)で時速420km出してもいい」
「サーキットみたいなもんですか」
「まあ似たようなもんだね。一応全線は一部を除いて250kmで設計してるけど直線の所は400出せると思う」
「すごーい。走ってみたいですね」
 
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「勝手に入って走ってたら木を積んだトラックと正面衝突なんてことになりかねなくて危ないから基本的には社員以外進入禁止だけど、まあテレビ局さんなら、A級ライセンス持ってる人と250出せるマシン持って来たら走ってもいいよ。その間誰も道路上に居ないようにしとくから。ただし自己責任で。怪我したり死んでもこちらは責任持たない」
 
「A級ライセンス持ちを連れてきます!」
 

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(*40) ブガッティ・シロン(Bugatti Chiron) は有名なヴェイロン(Veyron) の後継車種。ヴェイロンが415km/h(公表されている最高速。テストでは430km/h出た)だったが、シロンは420km/hと少し上がっている。ただしこれはここでリミッターが働くようになっているもので、リミッターを外したテストでは490km/h出ている。計算上は500km/h を越えられるはずだが、その速度に耐えられるタイヤが存在しないらしい。
 
ヴェイロンにしてもシロンにしても最高速出すためには2.5万ドル(350万円)もする特製タイヤの新品を履く必要がある。また最高速を出すためには最低1.5km程度の直線が必要である。
 
『こち亀』ではヴェイロンを簡単に買っていたが、購入希望者についてはブガッティのイメージを損なわない購入者であるかどうかの審査が本社で行われるので、世界的な大富豪といえども、行ってその場で買えるものではない。価格はVeyronが155万euro (2.2億円), Chiron が240万euro (約2.7億円).
 
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(いづれも発売年の為替相場で換算)
 

この日は、ここまでの取材をしてから放送局に戻る。車内で潤子ちゃんが言った。
 
「A級ライセンス持ってる人ってあの人よね?」
と潤子ちゃんが言う。
「今彼女の家に泊まってるんです。ちょっと電話してみます」
 
それで真珠は千里に電話する。こういう場合、“どの”千里の番号に掛けてもちゃんと目的の千里につながることを真珠は経験として知っている。むろん司令室が電話交換のようなことをしているからである!
 
「千里さん、ちょっとお願いがあるんですが」
 
と言って真珠は千里に説明した。
 
八王子の山の中に長さ推定40kmほどの私道があり、八王子林業という会社の樹木切り出し運搬道路であること。そこが 250km/hで走れる設計になっており、A級ライセンス持ちの人と250km/h出る車を持ってきたら走ってみてもよいという許可を得たことを説明した。それでもし可能ならこれに協力してくれないかということを頼んだ。
 
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「いいよー。今から行こうか?」
「すみません。今日これから取材したら、まるでヤラセみたいだから明日にしてもいいですか」
「いいよー」
 
それで真珠は目で潤子・矢田の了承を取り,明日お願いしますと頼んだ。
 

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「これオフレコでさ、今の会話聞いてて思ったけど、村山さんこの道のこと知ってるみたいだった」
と矢田さんが言う。
 
「あの社長さん、シナリオでしゃべってる感じでしたよ」
「きっとあの道路に千里さんが積極的に関わってるんですよ」
「ほんとは千里さんの練習用道路だったりして?レースの」
「そうか。きっとあそこは千里さんやごく親しいお友達のサーキットなんですよ」
「ありそー!」
 

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この日(2/4) は放送局まで車で戻ってから、バイクで浦和の千里宅まで帰宅した。ガレージにポルシェが駐まっていたので「すげー」と思う。千里さんに尋ねると
 
「千里が持って来たぁ」
と言っていた。
「明日は現地まであれに一緒に乗ってってって千里が言ってた」
ということである。
 
つまり明日あの道を走ってくれる千里さんがあのポルシェを持って来て、明日現地まで真珠を連れてってくれるということのようだ。
 
この日は夕方彪志さんがケーキを買ってきてくれた。どうも出発時刻を延ばしたようである。やはり荷物の整理に時間が掛かったのか。それをみんなでケーキを食べた。そして夜20時頃、彪志が伏木に出掛けるのを子供たちも一緒に見送った。
 
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「月子さん、また伏木で」
「まこちゃん、またよろしくー」
 

2月4日(土).
 
彪志はこの日さいたま市浦和から高岡市伏木に引っ越すことにしていたが、荷物の移動は任せてと千里さんに言われたので、仕事関係の資料を全部持って行くほかは、いつもの伏木行きの時のように数日分の着替えだけを持って行くことにした。
 
昨日から泊まっていた真珠さん(夜中に裸を見られた!)がバイクで出掛ける。真珠さんは今日もここに泊まることになっている。彪志は午前中でだいたい荷物がまとまったので、お昼過ぎに出掛けようと思い、1階のリビングに居るであろう(どれかの!)千里さんに挨拶してこようと1階に降りた。
 
「千里さん、今から伏木に向かいますので、長らくお世話になりました」
「え?こないだお正月に行ったばかりなのに、また伏木?」
と千里さんは訊いた。
 
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は!?
 

「いえ、私、富山県南砺市に新しくできる部署に転勤になったので、南砺市なら青葉の家から通えそうなので、青葉の家に引っ越すのですが」
「そうだったんだ!青葉のところで一緒に暮らせるなら、良かったね!」
「あ、はい」
 
この千里は突然スペインから呼び出された2Bである。
 
ちなみに出産した千里は2Aである。イオンのレディススーツと青山のレディススーツをあげたのは安物好きの1番である。バスケットのレッド・インバルスに所属しているのも1番である。荷物の移動は任せてと言ったのは2Aである。3番はこのところ地下の自分の部屋で寝起きしラウンジでひたすら楽曲を書いている。2Bはずっとスペインに居たので彪志の転勤の話はまだ聞いていなかった。
 
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(杉本美滝が婚約破棄されてやけ食いしたのは1月10日でまだ月子(彪志)はどこに転勤になるのか聞かされてなかった)
 
「いつ引っ越すんだっけ?」
「昨日が赤羽での最終勤務でした。南砺市では2月13日からなのでその間に引っ越します。でも“千里さんが”荷物の移動は任せてとおっしゃったので、お任せすることにして、今日私は身の回りの荷物だけ持って向こうへ行こうかと」
 
「なるほどー。荷物の移動はどれかの千里がやってくれるんだろうな」
「それでお願いしました。コロナ以来2年ちょっとこちらにお世話になりまして」
 
彪志は2016.5以来、大宮のアパートに住んでいたのだがコロナの流行り始めと父の退職を契機に2020.12から千里の家に同居した。そしてアパートの家賃分、実家に仕送りしていたのである。
 
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