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■春四(17)
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おしゃべりしている内に月子はいつのまにか眠ってしまったようである。
車の止まる音で目が覚める。時計を見ると2時半である。
「ごめーん。眠っちゃった」
「いやそもそも交替で寝ることにしてたし。ベビーメタルのライブCD聴いてたからOKですよ」
「ベビーメタルいいよね。活動再開するみたいでほんと良かった(*24)」
(*24) BABYMETALは2018年10月19日にYUIMETAL(水野由結)が脱退して2人だけになり変則的な形で活動を続けていたが、2021年10月10日を以て“お狐様のお告げにより”LEGENDを封印した。しかし2023年1月28日に復活ライブを行い、4月にはサポートダンサーのアベンジャーズとして2019年以来ベビーメタルのライブ等に参加していた岡崎百々子がMOMOMETALとして正式メンバーに昇格。3人体制が復活した。物語の現在はその復活ライブが予告されていた時期である。
「ところでここは?」
「甘楽(かんら)PAです」
関越に合流する藤岡JCTのすぐ手前のPAである。合流の手前、終点の手前で休憩するのも安全運転の秘訣である。“あとちょっと”という状態がとても危ない。
「もう軽井沢も抜けたんだ!」
「濃霧地帯は2箇所とも抜けました」
上信越道で霧が凄いのはなんといっても妙高高原付近だが、もうひとつが軽井沢の先、妙義山付近である(昼間晴れてる時に通ると景色が凄い)。初海はどちらも既に走り抜けたようである。
「お疲れ様!」
「ここで2時間くらい調整しません?早く着きすぎる気が」
「確かに」
トイレ休憩する。もちろん一緒に女子トイレに行く。そしてその後、ここで2人とも仮眠することにした。月子が前部座席で、初海が後部座席で寝た。
ぐっすり眠った。夢の中に青葉が出て来て言った。
「彪志おちんちん取っちゃったの?」
「ごめん。目が覚めたら無かったんだ」
「ふーん。性転換手術の麻酔から覚めたらもう無かったんだ?」
「そんな手術受けた覚えは無いんだけど」
「別に無くてもいいよ。ちんちん取って本物の女の子になったのなら今度は彪志が産んでよ」
「やはりぼくが赤ちゃん産むの〜?」
それで青葉に入れられる!
「青葉おちんちん持ってたの?」
「ああ、これは借り物」
「誰からの?」
「女の子同士のカップルのために、おちんちんのサブスクやってるんだよ」
「サブスクなの〜〜?」
「このおちんちんは“はやぶさ”っていうのよ。男の子が生まれやすい人気のおちんちんなんだよ。これであまり気持ち良くなかったら交換してもらうから次は別のおちんちんでやってみようねー。“やよい”ってのも人気なんだよ。そちらは女の子が生まれやすいって」
「ひぃー」
でも・・・・なんか入れられるのも気持ち良くない?
これハマっちゃったらどうしよう?
(せっかく女の子になっちゃったんだし、女の子のセックスを楽しむといいよ♪)
青葉のペースが変わる。あ、青葉逝ったのかな?と思った。
目が覚める。
入れられていた感覚が蘇る。
ぼく・・・・・妊娠してたりしないよね?
しばらく夢の余韻が残っていたがしばらくすると意識が明瞭になってくる。スマホを見てみると5時だ。きゃー!寝過ごした?
月子が身体を起こすと初海が
「あ、起きました?」
という。
「ごめーん。少し寝すぎた」
「まだ余裕あるから大丈夫ですよ。トイレ行って来てから出発しましょう」
「うん」
それで一緒に女子トイレに行って来た。月子は少し体操してから運転席に座る。缶コーヒーも飲んで意識をしっかり起こし、出発する。
藤岡JCTから関越に合流し東京方面に進む。まだ時間が早いのか交通量が少ない。それでもゆっくりした流れである。初海は
「ちょっと着替えまーす」
と言って後部座席でビジネススーツに着替えた。お化粧までしている。
「よく揺れる車内でお化粧できるね」
「いつものことです。でも女だけお化粧しないといけないって面倒よね」
「男もお化粧すればいいのに。昔はそうだったし。平安貴族とか戦国武将とかみんな美しくお化粧してた」
「そうだね!」
「お化粧品費は必要経費として認めてほしい」
「賛成」
関越最後のPAになる三芳PAでトイレ休憩した。その後は、大泉JCTから外環道に乗る。気合を入れる!美女木JCTで首都高に入る。更に気合を入れて進む。首都高を走るには一種の“戦闘モード”が必要である。外環道や圏央道も首都高ほどではないが戦闘的でないと事故に遭う。
そして6:40頃、千住新橋出口を出た。
五反野へ行き、女子寮の門の所に車を付ける。警備員さんが窓を開ける。
「すみません。こちらで8時に面接を受けることになっていたんですが」
と初海が言う。
「お名前は?」
「竹本初海です」
「確認しました。送られているidカードで面談室に入れます。ドライバーの方は?」
「友人です。赤羽に9時までに行くというのでついでに富山から送ってもらいました」
「富山からですか!でしたら地下駐車場で時間調整を兼ねて少し休んでっていいですよ」
「ありがとうございます」
「臨時駐車証を発行します。地下駐車場に入ったら外来の区画の空いている所に駐めてフロントガラスにこの許可証を貼ってください」
「分かりました」
警備員さんはフロントガラスに張る吸着式っぽいシートと、“駐車場利用者証2024/01/16 7:00-9:00”と印刷されたカードをカードホルダーに入れてくれた。
「その利用者証を首から下げておいてください。返却は不要です。駐車場内のトイレは自由にお使いください。寮内にはドライバーさんは入れません」
「分かりました。ありがとうございます」
それて地下駐車場に入り、外来と書かれたスペースに駐める。
「ありがとう。これガソリン代と高速代の半額程度」
と言って初海は1万円札を渡すが
「これ少し多い。このくらい、はっちゃんのおやつ代に」
と言って2千円返した。
「サンキュ。じゃまたー」
と言って初海はエスカレーターを昇って行った。
月子はとりあえずトイレに行ってきた。駐車場内の女子トイレに行くが、トイレ内に入るのにidカードの“かざし”が必要だった!凄い厳重なようだ。ちなみにこのカードで男子トイレは開かなかった。本人の性別に合わせて発行されているようだ。自販機で暖かいレモンティーを買って車に戻る。
会社に行くのに男性用のスーツに着替えようと思った。それで車の窓に目隠しをし、後部座席に行って、まずはコートを脱いだのだが、この時メールが着信していることに気付いた。課長からである。
「鈴江さん、明日16日の朝は1階喫茶室に来て。それと私自身で確認したいので普段着でもいいから女性の格好で来てくれない?」
着信時刻を見ると昨夜21:08である。青葉の家で仮眠していた時だ。熟睡してて気付かなかったのだろう。
でも女性の格好〜?
確認したいって何を確認するんだろう??
ぼくもう会社では女性扱いなのだろうか??
て、仕方無いので千里さんから買ってもらったレディススーツに着替えることにする。
全部服を脱いで身体を拭いてから新しい下着を着ける。ショーツにはここ数日おりものが多いのでパンティライナーではなく軽い日用のナプキンを付けている。ブラジャーをしてキャミソール+防寒用のTシャツを着る。ホッカイロも貼っておく。やはりスカートだとどうしても下半身が冷えやすい。
汗を吸うと発熱するウォームタイツを履き、ブラウスを着てからスカートを穿く。ブラウスのボタンを留めるのも、最初は苦労したがだいぶ慣れた。その上にジャケットを着た。
女性用のスーツを着た以上お化粧もしないといけないのかなと一瞬思ったが、基本的にうちの会社はお化粧禁止だからしなくていいと判断した。水川さんをはじめ女性社員もまずお化粧していない。外部のフェアなどで説明員とかする時くらいである。
普段お化粧しないから下手な子もいて、いつも他の子にしてもらっている。先日は1年目の子に月子がしてあげた!アイカラーとかチークとかは結構難しい。
着替え終わってからスマホで時刻を見ると7:35である。五反野から赤羽まではカーナビを見ると首都高に乗って23分、下道で28分と出る。大差無いし、首都高は事故などで通行止めなどになった時が怖いので下道を行くことにする。時間が遅くなるほど混むから、もう出た方が良さそうだ。赤羽のビルの駐車場で時間調整すればいい。月子(彪志)は再度トイレに行って来てから出発した。
この駐車場は出口と入口が分離されているようで、さっきとは違う所に出る。カーナビが無いと迷う感じだ。しかしカーナビ通りに走って行き、8:00ジャストに赤羽支店のビルに到着した。
少し横になり、スマホを見ながら時間調整する。8:40になったところで持ち物を確認し、身だしなみをチェックして車を降りる。1階のトイレに行く。むろん女子トイレを使う。それから喫茶室に行った。水川さんはもう来ていた。
「済みません。遅くなりました」
月子(彪志)は女声で話しかけた。彼女の前では何度もこちらの声を使っている。
「ううん。まだ時間前だよ。でも結構いい服を着てきたね」
水川さんは月子(彪志)が“女物の服”を着てきたことには何も言わず、ただその服のグレードについてだけ言った。
「義理の姉が『いつも着てるレディスのスーツは安物過ぎる』と言って買ってくれたんです」
「気前が良いね!これ15万くらいしたでしょ?」
「よく分かりますね。でも係長のも高そう」
「ALEXANDER McQUEENの多分40万円くらいするスーツをセカンドストリートで14万で買った」
「セカンドストリート!」
「標準的な体型の人なら結構お安く買えるよ」
「今度行ってみよう」
(↑自分でレディスを買う気になってる)
9:05くらいに課長が入ってきた。お店の人に話して奥のパーティールームに一緒に入る。予約されていたようだ。3人で座る。コーヒーの他にオープンサンドが運び込まれる(あとからピザやチキンも来た)。
「辞令を渡すね」
と課長は言って2人に辞令を渡した。
「水川沙耶係長がUDD事業化準備室・室長で課長待遇、鈴江月子主任は同・室長代理で係長待遇」
やはり自分は“月子”になってる〜。
「謹んで承りますが、UDDとは?」
「UAV drug delivery、つまりUAVいわゆるドローンによる薬の配送を事業化するための準備プロジェクト。UAVは君たちのほうが詳しいだろうけど、unmanned aerial vehicle ね」
やはり薬のドローンによる配送だった。
「でも私、ドローンのことはつい1ヶ月前から勉強しはじめたばかりで何も分かりませんが」
「いやドローン自体には詳しくない人の方がいい。この手の問題はかえって今まであまりこういう件に詳しくなかった人の方がいいと思う」
「言われてみればそうです。ビジネスの定石ですね、それ」
「専門家は事業化する時に“普通のこと”を見落としがちだから。ドローンに詳しい人より薬の配送に詳しい人が中心になったほうがいいという意見になった。それで薬の配送の経験が長い40歳以下ということで水川さんの名前が浮上した」
と課長は言う。
確かにこういうのは若くないと厳しいだろう。
「それで鈴江さんの方は、水川さんが物凄く多忙になることが容易に予想されるから、気心の知れた助手を付けたいというのがあったこと、その場合に肩書きが無いと、自治体との打合せとかする時に不便だから“室長代理”という肩書きにすることにした」
と課長は言った。
「忙しくなることが予想されるって過労死が怖い」
と水川は言っている。
「つまり対外折衝が多いんですね」
「その場合、室長の言うことと、室長代理の言うことが違うと困るからね。わりと考え方が似てるっぽい鈴江さんをサブに推薦した。同期で入って7年間一緒の部署だったし、女同士で気安いだろうし」
などと課長は言っている。
「分かりました!」
もしかしてこの人事って自分が女であることが前提になってたりして??
(何を今更)
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