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■春四(16)
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1月15日(日).
彪志は今日でお正月休みが終わるので浦和に戻ることにする。それでお昼頃出て、いつものように北陸道・上信越道・関越道と走って帰ろうと思った。行程は500km(内高岡北IC-所沢IC 440km)休憩を2ヶ所(多分有磯海と上里)で1時間ずつ取ったとして7〜8時間だろう。お昼くらいに出れば夕方8時頃には浦和に帰れるはずだ。
それで出る準備をしていたら、青葉から
「初海ちゃんを送ってってくれない?」
と言われた。
「は?」
「初海ちゃんが§§ミュージックのカウンセラーになる話があってさ。詳しい説明を聞きに東京に行きたいんだよ。だから東京まで乗せてってあげて」
「えーっと浦和から先は?」
「彼女を五反野で降ろしてから赤羽に行くということで」
「会社に出るのは明日の朝なんだけど」
「だから今夜10時頃出ればいいよ。それに彼女も運転できるから、交替で運転していくと疲労も少ない」
「ちょっと待って。そもそも男女2人っきりで夜中に車に乗るというのは」
「ああそんなこと」
と言って青葉は笑った。
「第1に彪志は私の夫だから浮気などする訳ないし、そもそも彪志の性格として女性に嫌らしいことをすることはない」
「そりゃ信用されるのは嬉しいけど、竹本さんのお母さんがきっと変に思う」
「第2に彪志はほぼ女性だから同性の知人が同乗するだけで全く問題無い」
「ぼく女性なの〜?」
「月子ちゃんは女の子」
「うーん・・・」
「ちんちんはタックしとけばいいよ。私がしてあげようか」
「自分でしてくる!」
と言って彪志は車に行って車内でペニスを取り外してきた。
(取り外し可能なペニスって便利ね♪)
それで結局彪志はその日の夜出発することになった。午後はお風呂に入っておいた。運転直前に入浴すると居眠り運転の要因になるので、すぐ前には入らないようにしている。
初海は22日から大学の試験らしく、その前に行って来ようということで明日16日の面接になったらしい。一方、薬物事件の影響で、タレントが事件に関わっていない事務所は今月前半は多忙だったらしく、向こうも後半にしてくれということだったという。ちなみに土日は芸能事務所は忙しい。
初海は夕方バイクで青葉邸にやってきて、夕食も一緒に食べた。一息ついて、彪志も初海も仮眠してから22時頃出ることにする。朋子がおにぎりを作ってくれたので、それと缶コーヒー、クールミントガムを持って出発する。
その他初海は色々おやつを持っているようだし、車には非常食にカップ麺とか、カロリーメイト、サトウのごはんとレトルトカレー、暖めるだけで食べられるおでんとか、賞味期限の長いパンとかも積んでいる。紙の食器とか割り箸・ピクニック用のプラスチック・スプーンとかも多数ある。
今夜の服装だが、初海は青葉の家まで来る時はバイクスーツだったが、自分の部屋でお着替えして(真珠・明恵・初海は2階に部屋がある)、紺と白のボーダーのトレーナー・スカイブルーのウールのロングスカートと黒いウォームタイツ、グレイのフリースジャケットに青いロングのダウンコートである。面接用のビジネススーツ(23区)とブラウスはバッグに入れておく。
一方の“月子”はエンジ色のトレーナーにオレンジ色のウールのロングスカートと黒いウォームタイツ、ライトピンクのフリースジャケットに赤いロングのダウンコートである。それと千里さんが買ってくれた2着のレディススーツ(ボール・スチュアート)を持つ。
月子がスカートを穿くというのは青葉が要求した。スカートを穿くことで女性的な気分になり、初海も安心だし、月子としても気安い。また、道中“月子”で通し、彪志という名前は使用しない。また道中はずっと女声を使うことにした。
「で女同士ということで私のことはハッちゃんで」
「じゃ月ちゃんくらいで」
「運転しない側は寝てるということで」
「OKOK」
「だいたい1〜2時間おきに適当なPAかSAで休憩」
「できるだけPA使いましょう。SAはトイレまで遠かったりするし。寒いです」
「それはあるねー。食事とか給油とかするのでなければPAが使いやすいかも」
ということで最初は彪志が運転して出る。初海は後部座席で布団をかぶって寝ている。布団は月子用と初海用を別々に積んでいる。初海は“女同士だし”共用で構わないと言ったのだが、車を駐めて2人とも仮眠する場合も想定して2人分の毛布・布団を積んだ。
高岡北ICで能越道に乗り、小矢部砺波JCTで北陸道下り(*22) に進行し(*21) 新潟方面に進む。
(*21) 能登・氷見方面から東京方面に行く場合、小矢部砺波JCTまで行くのが遠回りになることもあり、国道8号を立体交差の鏡宮交差点(射水市)まで進み、そこから国道472号を南下して小杉ICから北陸道に乗る人が多い。時間的にはほとんど変わらないが、高速代が少し節約になる。また鏡宮交差点と小杉ICの間にあるイータウンで食料や衣類の調達など、旅のお買物も出来る。能登方面から来た人はわざわざ高岡北ICで高速をいったん降りて国道160号で国道8号まで行く。
しかし国道8号は混むことも多いのに対して能越道はたいてい閑散としている。更に月子(彪志)は先日小杉ICで降りた時に“藪入り”の迷路に入ってしまったこともあり、小杉ICを使わず小矢部砺波JCTから回り込むルートを使っている。
(*22) 北陸の重要交通ラインの上り・下りはひじょうに混乱している。
国道8号(新潟→京都)京都行きが下り
北陸自動車道(新潟→米原)新潟行きが下り
JR北陸本線(直江津→米原)米原→金沢が下り
北陸新幹線(東京→金沢)東京→金沢が下り
そういう訳で国道8号と北陸自動車道、JR北陸線と北陸新幹線は下りの向きが逆なのである。
だいたい北陸自動車道とJR北陸線は終点から起点に向かう側が下りという不思議なことになっている。
だからこれらの路線では他人が「上り」とか「下り」とか言っていても信用せず、どちらに向かうのかをちゃんと聞いたほうがいい。
なお能越自動車道は、自動車道としては“起点:砺波市(となみし)、終点:輪島市”となっているが、国道470号としては“起点:輪島市、終点:砺波市”となっており、自動車道としての上下と国道としての上下が逆になっている。
23時半頃、蓮台寺PAで休憩する。トイレに行くがむろん一緒に女子トイレに入る。
「夜中のトイレ使用ってひょっとして変な男が居たりしないかって一抹の不安があるんですが、2人だと安心です」
と初海が言うので、自分はその“変な男”ではないよな?と思うが、まあいいことにする。確かに夜は特に女性は怖いかもと月子も考えた。
初海が軽く体操をしている。それから車に乗るが今度は初海が運転席に就く。月子は後部座席で毛布と布団をかぶる。実はここから先は上信越道の毎晩濃霧が出る区間なので、そこを若い初海が運転するように、最初は月子が運転して出たのである。
名立谷浜(なだちたにはま)SAのそばを通過し、上越JCTから上信越道に分岐する。少し走ると濃霧になるが、ちょうど100mほど先を車が走っていたので、初海はその車のテールランプを目印に追随して走って行った。
「でも月ちゃんもここの濃霧地帯はもう慣れっこでしょ?」
と初海は話しかけてくる。眠気冷ましに少し話したいのだろう。ここのゾーンを走り抜ける時、居眠り運転は怖いから蓮台寺まではしっかり仮眠を取っていたようだし。
「はじめて濃霧の中を走った時は怖かったよ。前が全然見えないんだもん。前の車のテールランプだけが頼りで」
「そうそう。テールランプが見えてると安心ですよね」
「それからはできるだけ明るい内にここを通過するようにしてるんだけどね」
「それが安全ではありますね」
「まあいっそ長岡から回り込む手はあるけどね」
「でもあちらも関越トンネル付近が少し怖い」
「関越トンネル自体も少し怖いね」
「私は長岡経由より、いっそ東海北陸道・中央道を通る方が好きです」
「あ、ぼくも」
「意見が一致しましたね」
「長岡経由は道が単調で刺激が少ない」
「東海北陸道の方が楽しいですよね」
特にバイクはそうだろうなという気がする。
「東名も静岡付近が単調で眠くなりやすい」
「だから中央道のほうが楽しい」
「でも飛騨トンネルの前でトラックの後ろとかになると『あ〜ぁ』と思う」
「あれは諦めの境地ですね」
飛騨トンネルは10.7kmもあるのに片側1車線の対面通行で追越できない(道交法上禁止される)。遅い車の後になったらひたすら我慢してその後を追随していく以外無い。あれは一種悟りの境地である!
気の短いドライバーは飛騨トンネルを通ってはいけない。
飛騨トンネル及びその前後では事故も多い。トンネルをもう1本掘って4車線化をという声はあるが、現在のトンネルを掘るだけでも物凄い難工事だった場所であり(建設中の死亡事故ゼロだったのが奇跡的)、4車線化すべき交通量を大きく下回っているので、NEXCOも消極的な模様である。
「でも結局霊界探訪に関わり続けることになったのね」
「そうなんですよ。勝手に『霊界探訪・関東支部長』って名刺を作って渡されました」
「支部長は偉い」
「でも1人だけです。一応前々から協力関係にある『関東不思議探訪』の事務局に机と棚を用意してくれるそうです」
「ああ。谷崎潤子ちゃんの番組ね」
「今回も面接の後、谷崎潤子ちゃんと会ってくる予定です」
「まあ支部長頑張ろう。でも無給なんだって?」
「そうなんですよ。夕方からのお仕事なら昼間は稼働できるでしょ、とか言われて」
などと言っているが楽しそうである。
元々が高校までは他の女子からは少し浮いている子だったらしい。それが大学に入ってから、明恵となんか馬が合ったので、明恵が霊界探訪の編集部に誘い込まれた時、一緒に付いてきた。
実はまともに友人として付き合った女子は明恵が初めてだったらしい。一方で男にはもてて、中高時代に10人くらいの男と付き合い、セックスも5回くらい経験していた。しかし大学時代には例のバイクを借りてた男の子のみと交際して「自分が3年間も同じ男性との関係を維持できたこと」に驚いたという。
彼とは日常的にセックスしていたし、ひょっとして結婚することになるのかなという意識もしたが、「大学卒業するし、ぼくたちも関係を卒業しようか」と言われて別れたらしい。
そのあたりの話は初海が自ら語ったが、月子はあまりコメントせずに聞いていた。
「月さんは青葉さんと長いんでしょ?」
「そうだなあ。ぼくが高校1年、青葉が小学6年の時に知り合ったんだよ」
「へー、しました?」
「小学生としたら犯罪だよ!」
「あ、そうかもね」
「でもぼくの父がすぐ転勤になって、1年半会えなかった。だから最初にしたのはぼくが高校3年・青葉が中学2年の時かな」
「中学生にもなればセックスOKですよねー」
「そ、そうだよね」
この話をすると大抵、中学生とのセックスなんて犯罪だと言われるのだが、初海はどうも倫理基準が他の人とは違うようである。
「だって昔は初潮が来たらもうお嫁さんになってたんだもん」
「ほんとそうだね」
「初潮が来てから10年以上待ってから結婚するという今の時代がおかしいですよ」
「そうかも」
「でも女同士のセックスも気持ちいいよね」
と初海は言う。
「えーっと」
初海はどうも青葉と月子(彪志)は女同士の夫婦と思っているようである。彼女の話を色々聞いていると、どうも今青葉が妊娠中の子供は彪志が男性時代に保存しておいた精子で妊娠したものと思われているようだ(*23).
「高校時代に半年ほど女の子と付き合ったことあるんですよ」
「へー」
「3回セックスしたけど、男とのセックスじゃここまで気持ち良くなれないと思った」
えっとその3回ってさっき中高時代に5回セックスしたというのの数には入ってるんだろうか、別枠なのだろうか。
「まあ男と女では性感のカーブが違うからね」
「そうそう。女はゆっくり上がっていくけど男は急上昇する。でも自分だけ逝っちゃって女は放ったらかしという男が多いのよ」
「そういう男多いかもね。でもそういうセックスからは女の子が生まれやすい」
「ですねー。女が充分感じてから射精しないと男の子は生まれにくい」
「だけどそんな男に限って、うちの女房は女しか産まんとか言いがちかも」
「自分が下手な癖にねー」
(*23) 性転換前に保存しておいた精液でパートナーの女性に子供を産んでもらうというMTFさんはわりと多い。自らも性転換した性転換手術の専門医として有名な Christine Noelle McGinn などもそれで子供を2人設けている。↓は彼女が運営している Papillon Center のサイト。多数の before/after の写真も掲載されている
(閲覧注意:会社等他人の目に触れる所では開かないこと)。
Papillon_Center
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