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■春四(1)
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11月7日(月)の夕方、(多分)出産した千里さんとも朝食の時に居た千里さん(青山のレディス・スーツをくれた人)とも違う千里さんが言った。
「彪志君、バイクの免許は持ってたっけ?」
「いえ持ってませんが」
「多分必要になるから取った方がいいよ。今年中に」
「今年中にですか!」
彪志は驚いたものの、千里さんの“予言”は確かである。12月に入ったら忙しくて教習所に行く時間も取れないだろうと思い、すぐに電話連絡して空いていることを確認の上、翌日11/8 (Tue) の夕方入校した。
この時、彪志は自分の現在の免許証が“鈴江月子”になっているので、仕方無く“鈴江月子・1993.11.15 女”で申し込んだ。自分の戸籍や住民票がどうなっているのか不安だが、確かめるのが怖かった。
性別・女で申し込んでいるので、仕方無く?彪志は帰りの車の中で(正確には会社の駐車場で)男性用スーツを脱いで、中性的な格好に着替え、一応アイメイクと口紅程度は塗ってから自動車学校に行った。自動車学校では一貫して女声で話したし、トイレも女子トイレを使用したが、特に何も言われなかった。
普通免許を持っていれば第1段階は学科は無くて実車9時間である。これを土曜までにこなす。
「君結構上手いね。運転してた?」
「原付を」
「ああなるほど」
原付は学生時代にピザ屋さんの配達で運転していた。でもあれから10年経っているし・・・と思ったのだが、感覚はわりと早く戻った。
「四面楚歌というのはよく誤解している人の多いことばだよね」
と千里さんは言った。
「そうそう。周囲はみんな敵ばかりという意味に解釈してる人が多い」
と明恵も言う。
「え!?違うの?」
と言ったのは幸花である。
「周囲はみんな味方だったものばかりということだよね〜」
と初海。
「そうそう。敵ばかりというのより更に絶望的な状況」
と明恵は言う。
「項羽と劉邦の最終決戦で、項羽は周囲を劉邦の軍に取り囲まれてしまった。そして夜を明かすけど、敵陣から楚の歌が聞こえてくる。楚というのは項羽の国。だから周囲の劉邦軍の中に多数の楚の兵士が居る」
と千里さんは言う。
「だから味方だった筈の楚の人たちも多くが劉邦支持に回ってしまった。もう自分たちの味方は居ない、と項羽は絶望的な気分になった」
「いわば自分の味方をしてくれると期待していた、担任の先生や友だちたち、更には家族まで自分を責めるみたいな状況ですね」
「それは確かに敵に囲まれるより辛い」
と幸花も言う。
「まあ策士の劉邦だから、そういう心理的効果を狙ってわざと楚の歌を歌わせたのかも知れませんけどね」
「それはあり得ますね」
ところで吉川日和(入瀬コルネ/金沢チョコ)は11月9日に、信濃町ガールズの姉妹が無試験(実際には簡単な能力検査を課す)で信濃町ガールズになれるという規定で信濃町ガール゛に入らないかと誘われていた件で、お断りの電話をした。それで日和の身分はドラマの撮影などに参加する“トラフィック”のメンバーということになった。
なおこの「姉妹は無審査で加入できる」という規定は信濃町ガールズの人数がまだ少なく、どんどん増やしたかった時代のもので、歴史的役割を終えたとして今年一杯で廃止されることになっている。
その電話をした翌日(11/10 thu)、花ちゃんから電話がある。
「今週の土日にドラマの撮影があるのよ。萌花ちゃんとセットで使いたいんでちょっと出て来てくれない?」
「まあいいですよ」
「明日は学校何時に終わる?」
「えーっと15時くらいかなあ」
「じゃそのくらいに迎えに行かせるね」
「あ。はい」
11.06(日) ウィンターカップ予選決勝
11.08(火) 迷路に迷い込む・封印に参加
11.09(水) 花ちぉんに辞退の電話
11.10(木) 土日に出て来てという電話
11.11(金) 夕方東京へ
11.11-13 ドラマの撮影に参加
11,13(日) 夕方氷見に戻る
日和は土日(11/12-13) に東京に行ってくる件を母に説明したのだが、例によって日和の話はさっぱり分からない!
「お迎えを寄越すって、どこに?能登空港?」
「あれ〜?どこだっけ?でもお迎えなら能登空港かも」
ということで母は日和を明日学校が終わってから能登空港に送っていくことにした。
金曜日、母はmoveにガソリンを満タンに入れてから13:50くらいに学校に行った。ところが母が来てすぐ、顔見知りの真珠がピンクのスペーシアでやってくる。こちらを認識すると運転席のそばまでやってくる。
「こんにちは」
「こんにちは」
と挨拶を交わす。
「もしかして、うちの子のお迎えですか」
(↑もはや“息子”とは言えないが“娘”と言う勇気が無いので“子”と言った)
「そうですよ。お母さんもですか?こちらで学校まで迎えに行くって話になっていたはずなんですが」
「あの子、話が曖昧でどこにお迎えしてもらえるの?と訊いても要領を得ないし」
「日和ちゃんと話す時は想像力が大事ですね」
「そうなのよね!」
「これから能登空港までですか」
「いえ、氷見飛行場ですよ」
「そんなものがあるんですか!?」
「9月に開港したんですよ。飛行場まで一緒に来られません?」
「ええ」
14:02くらいから生徒が出てくる。
女子制服に身を包んだ日和が出て来たのは14:15くらいであった。
本人は昨日花ちゃんに「学校が終わるのは15時」と言ったことは忘れている。花ちゃんからお迎えの手配を頼まれた青葉は、日和の話は絶対危ないと思い、春貴に電話して終業時刻を確認し、真珠に伝えたのである。日和の周囲の人間は想像力が大事である!
それで日和は母の車に乗り、母は真珠の車に続いて走り、氷見飛行場まで行った。
「こんなところに空港ができてたなんてびっくり。でも小さいですね」
と母は言う。
「こういう小さいのは“空港”airport ではなく“飛行場”airfield って言うんですよ」
「へー」
「ここは主としてヘリコプターやドローンの離着陸に使いますが、滑走路が1200m (*4)あるから小型のプロペラ機なら離着陸可能です」
と真珠は説明する。
それで真珠は空港のスタッフに会釈して親子をエプロン内に案内する。
「今日はこれを使います」
「ヘリコプターですか!」
「ヘリですけど時速250km近く出る優秀な機体なんですよ。東京まで1時間半です」
「速いですね!」
「能登空港や富山空港まで行ってジェット機に乗るよりよほど早いですよね。エアバス社の製品で エキュレイユ2、日本語で言えば“栗鼠(りす)”ですね」
「すばしっこそうですね」
「そうなんですよ。エキュレイユとエキュケレイユ2がありますが、これは2の方です」
「何か違いがあるんですか?」
「エキュレイユは単発、エキュレイユ2は双発なんですよ」
「それは双発のほうが安心ですね!」
「でしょ?だから§§ミュージックでは2の方を買ってるんですよ。これが確か5-6機あったはずです(*1)」
「すごいですねー」
「使い手がありますよ。1個いかがです?」
「置くところが無いです!ちなみにこれ1個おいくらなんですか?」
「もう生産終了しているんですけど、これは確か1億円くらいで買ったと思いますよ」
「いいお値段しますね〜!」
それで日和はヘリコプターに乗り、東京に向けて離陸していった。
「じゃ帰りは私か迎えに来ますよ」
「分かりました。よろしくー」
(*1) §§ミュージック所有のエキュレイユ2は2機だけだが、郷愁飛行場をホームにしているムーラン(ムーランエアーではない)のエキュレイユ2が2機あり、空いている限りいつでも使って良い。
これを使うのはムーラン、播磨工務店、§§ミュージックだが、7割は§§ミュージックが使用している。
2020年12月にミューズ飛行場がオープンしたので、若葉は地元からの要望も受けてヘリコプターによる若狭湾の遊覧飛行を計画した。そのために適当なヘリコプターを2〜4機買おうと思った。それで“ゆりかごからロケットまで”(*2) 扱っている商事会社を経営している叔母に照会してみたら、
「ちょうど5機で4億5千万というのがあるけど」
と言われた。安い(*3)。でも5機もは要らないと思った。
それでケイに「ヘリコプター1個買わない?まとめ買いでお安いのよ」
と言ってきた。それで最近熊谷の郷愁飛行場と東京ヘリポート(江東区新木場)の間の輸送が多くヘリ会社にかなり依頼していたことから1機買ったのである。これが2021年春のことだった。
ところがヘリコプターを買ってみると、これがかなり使い手がある。最初は熊谷と東京の間の輸送用に考えていたが、エキュレイユ2はスピードが 224 km/hも出るし航続距離が703kmもあるので、これで東京から目的地まで直接行けるじゃんということになる。
一方若葉の方は、若狭湾の遊覧飛行を始めてみるとパイロット以外に6人乗れるエキュレイユ2は必ずしも遊覧向きではないことに気付く。内側の座席に座った人はあまり景色がよく見えない。結局内側の席は基本的に使わないことになる。
そこで若葉はパイロット以外に3人乗るロビンソンR44をあらためて2機導入し、エキュレイユ4機の内2機は熊谷に移動した。それを主として§§ミュージックが使用することになった。また1機は若葉自身の移動専用とした。
つまり2021年秋くらいの時点ではこうなっていた。
ミューズ飛行場
Ecureuil-2(ムーラン所有:若葉専用)
Ecureuil-2(ムーラン所有:遊覧用)
R44×2(ムーラン所有:遊覧用)
R22(播磨林業所有)
郷愁飛行場
Ecureuil-2×2(ムーラン所有:§§ミュージック・ムーラン・播磨工務店などが使用する)
Ecureuil-2(§§ミュージック所有)
ここに2022年春、§§ミュージックがもう1機Ecureuil-2を購入した。これは主として青葉のスタッフを高岡−東京間で輸送することを想定したものである。具体的には立花紀子を何度か輸送するかもと言っていたが、実際には桜井真理子が代替してくれて、立花紀子は高岡で作業しながら東京日帰り往復というのはやらずに済んだ。しかしこれを秋以降、吉川日和(入瀬コルネ)がよく使うようになる。
一方の若葉はシーラスの軽飛行機SR20を偶然福井空港で見かけて惚れ込んだ。緊急時には飛行機自体のパラシュートが開いて降下するという装備を持っているのも面白いと思った。結局このシリーズの最強機 SR22T(ターボ付き)を「安いし」と言って“取り敢えず”5機1.2億円で買った。
このシリーズのラインナップ
サイズは3機とも 全幅11.67 全長7.92m 全高2,71m、乗員5名(実質4)
SR20 155kt 627nm (Engine:IO-360-ES 200HP)
SR22 183kt 804nm (Engine:IO-550-N 310HP)
SR22T 213kt 895nm (Engone:TSIO-550-K / Turbocharged 315HP)
それでミューズ飛行場において若狭湾遊覧に使うと、
「可愛い!」
と特に女性客に人気で、好評であった。
(5機並んでいる写真をインスタにあげた人が複数あり、それでわざわざこれに乗りに来る人たちまで発生した)
しかしどうも5機までは必要無かったようだと思い、2機は郷愁飛行場に移した。この機体は空いている時はパイロット志望の人の練習用に使用している。
(*2) “ゆりかごからロケットまで”は日本の商社についてよく付けられる形容詞であるが、元々はダイムラー社について「ゆりかごからロケットまで」作っていると言われたことばらしい。
(*3) エキュレイユの中古はCOVID-19が落ち着いた2024年ならだいたい2〜3億円すると思う。多分2020年暮れの時期はパンデミックで世界的に航空需要が急速にしぼんだのが背景にあったものと思われる。§§ミュージックが2022年春に買った時は1億2千万円している。
(*4) 氷見飛行場は緊急時以外はジェット機を離着陸させないという口約束で運用しているので滑走路も1200mあれば充分だが、実は“誘導路”の名目で滑走路の“続き”が1200mあり、緊急時にはあわせて2400mの滑走路として使用することが可能である。
主な小型ジェット機の離陸距離
Honda Jet (pax6) 1067m
Cessna CJ4 (pax10) 1039m
Hawker400XPR(pax8) 1532m
Gulfstream G450 (千里機 2+13+1) 1707m
Gulfstream G650 (江藤機 2+10) 1920m
Cirrus SF50(2+4.5) 621m
(プロペラ機)
Do228 (pax19) 792m
KingAir350 (pax11) 1006m
Cirrus SR22T (pax3) 260m!
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