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■春四(30)

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「新交通システムなんですか」
「一般のお客さんは乗せません。あくまで内部用の専用線です」
「なぜそういう話をうちに」
「D製薬さんもひとくち乗りませんか」
「うちの事業とは交わりが無いと思うのですが」
「D製薬さんは富山県で南砺市を中心にドローンの実験を始めると聞いたもので」
「そんな予定はありませんが」
「専用線の新交通システム・ルートは一般の道路でも鉄道でもありませんから“ドローンを飛ばしてはいけない場所”に該当しません。また風や雨・雪からトランスポートを守るため屋根を作ります。その上に線など引くとですね。ドローンを飛ばすルートとして最適と思いませんか?」
「ほほお」
「しかも屋根があるから、万一ドローンが墜落しても屋根で止まって、トランスポートとは衝突しないんですよ」
「なるほどー」
 
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「もしD製薬さんが乗ってくださったら、このルートに“ドローンが飛ぶ道”という意味でwing road という名前をつけようかと思っています。それで新交通システムはwing liner です」
「ああ」
「朱雀では城端に今マスク工場を持っていて製紙工場も作るつもりです。製品の東京や関西への出荷のための配送センターを城端インター近くに作るつもりで土地を買おうとしたら、D製薬さんと競合しましてね」
「ああ」
「winglinerの城端駅はこちらの製紙工場・配送センターの傍に作るのでD製薬さんからも便利なのではないかと思うのですが」
「いくらくらい出資して欲しいんですか」
「10億円ほど乗りませんか。それでそちらのスタッフさんの出勤や移動、富山工場・高岡工場の製品出荷などにも使って頂ければ。また配送センターというかトラックステーションは共同で使いませんか」
「ほほお」
 
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しかしそれは、美味過ぎる話だぞ、と山川は思う。
 
その気持ちを見透かしたように山吹若葉は言った。
 
「朱雀は兵庫県と北海道、ムーランは東京と福井の会社だから富山県の会社にも一口乗ってもらえないかなと思うんですよ。富山県と言えば薬だからそしたらD製薬さんかなと思って」
 
ああ。つまり名前が欲しいということか、山吹さんの個人資産は兆を超えると聞く。朱雀という会社は知らないがパンフレットを見る限りは建材屋さんのようだ。資本金が凄まじい。反社とのつながりなど調査の必要はあるが、いづれにしても運営資金とかがほしいわけではないようだ。単に富山県にゆかりのある企業の名前がほしいのだろう。しかしムーランは大きな資本だし独立系だ。薬とレストランでは競合もしない。組んで損はないかも。山吹さんは経営は情熱的だが楽天などと違いM&Aには消極的と聞く。乗っ取られることはあるまい。この話、乗ってもいいかも。それで山川社長は言った。
 
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「10億程度の出資なら検討していいですよ」
 

山川は企業調査会社のエージェントと話をしていた。
 
「朱雀ですか。ちょっと面白い会社ですね」
と調査員は言った。
「日本とノルウェーに展開する林業の朱雀林業、ユニット工法専門建築会社の播磨工務店、プラスチック製造会社のフェニックスケミカル、食品会社の朱雀フーズ、の4つがコアですね。関連会社は1000以上あります」
「それは企業買収したものですか」
「ここの買収には明確なパターンがありまして」
「はい」
「全国に数百の製材所を持ってますが、全部経営が苦しくなっていたところを買収して子会社にするけど、元の社長あるいはその息子さんとかに所長などの名目で残ってもらい、運営はその人にまかせるんです」
 
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「へー」
「みんな友好的な救済合併なんですよ」
「ほお」
「つまりそこの製品がほしいだけで会社そのものが欲しいわけではないんでしょうね」
「反社とのつながりは?」
「聞いたことないですね」
 
そういう会社なら組んでもいいかもと山川は思った。
 

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2月5日(日)、氷見市の高田舞花(H南高校女子バスケット部)は、金沢市のG大学に願書を提出した。
この日に提出した場合、第2期(中期)の受験となり(試験は共通テストで既に終わっている)、合格発表は3月5日、入学手続き締切は3月13日になる。
 
本命の富大芸文(富山大学芸術文化学部)の合格発表が3月9日なので、その結果を見て,万一落ちていたら入学手続きをすることにする。
 

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2月5日(日)の夕方、真珠は千里に東京ヘリポートまで送ってもらった。一方金土日と慌ただしく仕事を終えた吉川日和(入瀬コルネ)も5日夕方東京へりポートまでマネージャーーに送ってもらった。
2人は§§ミュージックのエキュレイユ2に乗りこみ、氷見飛行場まで飛ぶ。そしてそこから真珠が自分の車で日和を自宅まで送り届けた。
 
「まことさん、どうしてぼくの自宅が分かるんですか?」
「先日千里さんが日和ちゃんを自宅まで送っていった時の位置をカーナビに登録したデータを教えてもらったからね。それで到達できるはずだよ」
「へー。位置が分かれば辿り着けるんだ」
「まあそれがカーナビの基本機能だね」
「へーすごい」
 
それで実際真珠は日和の自宅に到達したので、日和は本気で「すごーい」と感心していた。

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少し前の12月、ミニアルバムの制作が終わった後、龍虎たちが八王寺の家で休んでいると庭にポルシェが駐まり、千里が降りてきた。
 
「龍ちゃんたち、上野原の別荘は見た?」
「まだですけど」
「見に行こうよ」
「じゃそのうち」
「今から行こう」
「まさかお仕事ですか?」
「仕事ではない」
「だったら後日」
「今からがいいなあ」
「やはりお仕事なのでは」
「まあも車に乗りなよ」
 
それで千里は2人を車に乗せる
「このポルシェは初めて見た」
「ポルシェの日本上陸70周年モデル」
「へー」
「ポルシェは1952年に日本で初めて発売された。このモデルはその70周年を記念したモデルで限定70台。買った人のリストに白河夜船さんとかアクアとかも入っている」
「ぼくも買ったんですか」
「そうだよ」
「そんなのぼくが知らないんですが」
「よくある話だ」
 
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車は林道からスパイラルロード山裾の直線を走り、やがて素敵な洋館の庭に駐まる
「着いたよ」
「素敵なおうちですね」
「フランスのプロバンス地方にある旧スコーン伯爵別邸をモデルに作らせた」
「ああ、貴族の別荘ですか」
「そうそう。外観はね。中はけっこう和風だけど」
「へー」
玄関に龍と虎の置物がある。
「龍ちゃんの名前にちなんで置いてみた」
「なるほど」
「邪魔ならどければいいし」
「どけよう」
 
入ってすぐの応接室に松梨詩恩が居る。Fだけが座り、Mは車に戻った。
「お邪魔してまーす」
といって、詩恩はケーキをユーハイムの箱から出す。和城理紗がコーヒーを持ってくる。飲んでみるとブルーマウンテンである。
 
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「この味はインドネシア産のブルーマウンテンだ」
とアクア。
「さすがさすが」
 
これを扱っているのは日本では多分千里の会社だけである。
 
詩恩とおしゃべりしていたら、写真家の桜井さんが入ってくる。。テレビカメラもいる。
 
「やはりお仕事だ」
「龍ちゃんは休んでて。これは“別荘の休日”というテーマの写真集だから」
「別荘で休んでるアクアちゃんをレポートする番組です」
とΛΛテレビのディレクターさん。
 
「と言われても」
「お仕事モードではなくリラックスしているアクアを撮す。お仕事するのは私たちだけ。アクアちゃんは休んでて欲しい」
「へー」
 
次の部屋、居間に行くと彩佳たち3人がいる。手作りクッキーが出てくる。竜崎由結がおいしい紅茶を出してくる。南インドの農園からの直輸入品だ。
「なんで彩佳たちがいる?」
「遊びに来てと言われたから」
 
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カメラはアクアと詩恩のみを撮し、彩佳たちの顔は撮さない。(服程度は写す)
 
おしゃべりしておやつを食べてから次の部屋に行くと洋室に常滑舞音と花ちゃんがいる。
「アクアさん、リバーシしましょ」
「まあいいけど」
 
舞音の写真家、春山サクラさんも入ってきた。
 
それで舞音とリバーシ(オセロ)をする。接戦だったがアクアが勝った。彼女たちと、ういろう・宇治茶を飲んでくつろぐ。舞音のお母さんが名古屋で買って来たものという。
 
次の部屋に行くと和室にお召しの和服を着た葉月がいる。
「アクアさん、一席おねがいします」
「まあいいよ」
 
それで葉月と囲碁をする。舞音・花ちゃんが観戦している。舞音は最近囲碁の1級を取ったらしい。その舞音が「すごーい。ハイレベル〜!」と感心していた。対局はアクアが勝ったが感想戦しながら、蜂楽饅頭(大判焼き)と八女茶を頂く。花ちゃんのお父さん(佐賀県在住)が博多で買ってきたらしい。
 
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「関西なら御座候(本拠地は姫路)、博多なら蜂楽饅頭(本拠地は熊本)ですね」
と舞音。
 
「一般的には大判焼き・回転焼き(関西や九州)・今川焼き(関東や東北)などと呼ばれますが、ローカルなブランドもありますねー」
と詩恩。
 
「UFO焼きとかも聞いたことある」
と葉月。
 
「ああ。気持ちは分かる」
と詩恩。
 
「お茶もおいしい」
 
「舞音ちゃんも休んでてね」
「休んでます」
 
そのあと広間に信濃町ガールズ30人を入れてお食事会をする。
食事の提供は母里酒家である。お酒の代わりにソフトドリンク「播磨ソーダ」を出している。
 
「これ社長のおごりだから」
と花ちゃんが言う。
 
「ありがとうございます。いただきまーす」
 
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アクアはもうヤケクソの気分である。
 
「北里ナナ、アクアちゃんのものまね行きまーす!」
 
“アクアのアクア”のCM曲を歌う。
 
「杉浦舞美。常滑舞音ちゃんのものまねいきまーす!」
 
(杉浦舞美は舞音の本名)
 
『とことこ・なめなめ・招き猫』を歌う。
 
「松梨詩恩、水森ビーナのものまねいきまーす!」
 
ビーナ(詩恩の妹?弟?)が歌っているドライヤーのCM曲を歌う。
 
そのあとはガールズたちがたくさんものまねで歌って混沌としていった、
 

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ところで伏木に移動した彪志だが、2月5日は青葉と夜まで睦み合っていた。翌日2月6日(月)になってから、彪志は午前中に青葉のマイナンバーカードを借りて高岡市役所に行き、転入の手続きをしてきた。
 
手続きの際、鈴江彪志の名前でちゃんと参照できるかなと不安だったが、やはりできなかった!鈴江月子・鈴江青葉で手続きはできた。月子(彪志)は月子の住民票・青葉の住民票の抄本を各々取った。
 
帰宅して新しい住民票の写しを見せる。
 
「転入手続きしてきたよ」
といってマイナンバーカードも青葉に返した。
「ありがと」
 
青葉は震災後の2011年4月から2022年7月まで高岡市の住人だった。それが婚姻届の提出に伴い、書類上はさいたま市の住人になっていた。しかしわずか半年で高岡市に戻ってしまった。自分はこの町に縁が深いのだろうと思う。
 
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もっともその半年の間にほとんどさいたま市には住んでない!ハネムーンも越谷市に居たし!!
 

月子は青葉に
「その住民票の写しを警察で提示すれば青葉も免許証の住所変更できるよ。一緒に警察に行かない?」
と言った。
 
「え?私は免許証の住所はずっと伏木のままだけど」
「青葉、免許証の住所、書き替えてなかったの〜〜?」
「え?書き替えないといけないもんだったの?」
「まいいや、元の所に戻って来たんだし」
「私何も考えてなかったぁ!」
 
「じゃ警察署には僕1人で行ってくるね」
「うん。ごめーん」
 
それで月子は午後からは高岡警察署に行き、住民票(抄本)の写しを提示して鈴江月子名義の免許証の住所変更手続きをした(新住所は裏書き)。そのあと父から紹介してもらった車屋さん(業販店)に行き、住民票、車庫証明(青葉に書いてもらった:実際は徳部が書いた)などを渡して、車の住所変更の手続きの代行を依頼した。
 
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「あれ〜。お父さんからは息子さんと聞いてたけど娘さんだったのね」
「はい、息子です」
「お茶目な人だ」
 
などと店長の中浜さんは言っていた。手続きする間の代車としてN-BOXを貸してくれた。
 

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ところで初海は2月6日朝までに何とかレポートを書き上げ、朝一番に教官に提出した。お昼頃あれでOKという連絡があり、やっと初海もこの3月で卒業できることが確定した。
 
それで6日の夕方には、月子(彪志)の引越祝いと明恵・真珠・初海の卒業決定祝いを兼ねて、青葉邸でパーティをした。車屋さんに行った後、月子(彪志)がお肉を買ってきた。またもや青葉はグラナダからRを呼び、代わりに食べてもらった。
 
出席者:初海・明恵・真珠・邦生・瑞穂・青葉(R)・月子・千里(2B)・朋子(9名)
 

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「なんか昨日は気付かなかったけど、家のレイアウトがまた変わっている気がする」
と月子は言った。
 
「うん。1月19日に、ちー姉が播磨工務店の人を連れてきて『模様替えする』と言って、間仕切り移動とかしてった」
「へー」
「あ、それで月子ちゃんのお部屋ができたんだよ」
「え〜?」
 
(再掲)

 
「浦和から送られた荷物が到着したら月子の部屋にそのまま入れるといいよ。それで日常はここで過ごせばいいし。赤ちゃんが産まれたらこの部屋はしばらく私と赤ちゃん専用の部屋になるかもしれないけど」
 
「そうだ。その間自分はどこに居ればいいだろうと思ってた」
「それこそ自分の部屋に居れば良いね」
「なるほどー」
 
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2月7日(火)朝、彪志の荷物がコンテナを載せたトレーラーで到着したので、本当にそれをそのまま月子の部屋に入れてしまった。この移動を前夜から青葉邸に宿まっていた明恵たちが手伝ってくれた。この日は段ボール箱を積み上げただけで、整理はあとでゆっくり考えることにする。
 
バイクは庭に駐めた。それで4台のバイクが並んだ。
 
月子(所有者:千里) Honda CBR250RR (red)
初海 Kawasaki Ninja 250 (green)
明恵(所有者:青葉) Yamaha YZF-R25 (blue/silver)
真珠(所有者:金剛) Suzuki GSX250F (blue)
 

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