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■春四(3)
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2022年12月1-4日(木金土日).
東京辰巳国際水泳場で水泳のジャパンオープン(50m)が行われた。例年4月下旬に行われるジャパンオープンがこんな時期になってしまった複雑な経緯は以前に述べた通りである。
この大会で女子800mでは1位竹下リル・2位金堂多江、1500mでは1位金堂多江・2位竹下リル、と津幡組が金銀独占した。また400mメドレー・200mメドレーは“メドレー女王”の金堂多江が圧倒的1位だった。
またリルの妹・竹下ハネ(高2)も800mで7位、1500mで5位に入る健闘で今後に期待を持たせた。
しかし津幡組強し!を印象付けた大会だった。
12月2日(金).
吉川日和が11月12日に頼んでいたオーダーメイドのスポーツブラができたという連絡があったので、放課後、母に車で迎えにきてもらい、小矢部市のスポーツ用品店に行って受け取った。(母は春貴から場所を聞いた。日和の道案内では辿り着けない!)
「これお金は?」
「春貴先生が出してくれたんだよ」
「高そうなのに!」
「宝くじが100万円当たったんだって。だからぱーっと使っちゃうと言ってた」
「へー。確かにあぶく銭はさっと使ってしまうのがいいのかもね」
と母も納得していた。
12月2日(金).
松崎貴美(たかよし)は福岡市西区のアパートで郵便配達人さんのノックで目が覚めた。そばで寝ている恋人のガウンを羽織ると出て行き、印鑑を押して郵便物を受け取る。
彼は内々定している企業から呼ばれて福岡に出て来ていたが明日宮崎市に戻るつもりだった、郵便物を見る。
「裁判所?」
貴美はこれは絶対特殊詐欺だと思った。裁判所を騙って、お金を要求する詐欺はよくある。それで気合を入れて開封する。
「申立人の性別を女性に訂正する」
と書かれている。
えーっと・・・・・
「そうか。あいつ性別を変更したのか」
と納得が行く。
「じゃこの書類送ってやるか」
と思ったものの、ふと思う。
「これ多分大事な書類だよな。郵送中に万一紛失されたら」
恋人の博耶が起きてくる。
「なんかの督促状?」
「いや、元紀の性別変更が認められたって裁判所からの連絡」
「へー。性別変えるには裁判所に申し立てるんだ?」
「申請した時ここに住んでたから福岡の裁判所から送ってきたんだろうな」
「タカちゃんも裁判所に申請して性別変える?」
「俺が女になったら、ひろちゃんと結婚できないじゃん」
「私レスビアンでもいいよ」
「勘弁して〜」
「じゃ東京に持ってく?」
「持ってく?」
「だってそれ大事な書類なんでしょ?郵送とかしてて紛失されたらやばいじゃん」
「そうだなあ」
「ついでに新宿か渋谷でデート。羽田まで飛んで、帰りは宮崎空港に降りればいいよ」
「それが俺は§§ミュージックのドラマや映画で端役をする“トラフィック”に登録してるから、コロナが落ち着くまでは公共交通機関使用禁止なんだよ」
「へー。だったらバイクで行けばいいよ」
「バイクで東京まで?」
「宮崎から博多まで2回休んで5時間で来たんだから、東京までもきっと20時間で行けるよ」
貴美も確かに比例計算するとそんなものかもと思った。
「ちょっと距離を確認する」
といってノートパソコンで調べてみる。
「宮崎−周船寺(すせんじ)が312kmで5時間。周船寺−五反野が1120kmだから単純比例計算して・・・」
「約18時間だね」
と先に博耶が言ったので『理系すげー』と貴美は思った。彼がスマホの電卓を起動して計算すると17.9487である。
「ちなみに五反野−宮崎は1400km」
「22時間半」
「じゃ今から出掛けて土曜の明け方元紀の寮に到着して、それから22時間半で日曜の朝に宮崎に辿り着く感じかな。」
「渋谷でお買物〜」
「じゃ土曜日いちにち東京で遊んで土曜日の夜はホテルで一泊して日曜の朝から丸一日走って宮崎に戻るか」
「OKOK」
それで2人は着替えて(雨が降っているので)雨天用のバイクスーツを着る。Ninja650 KRT Edition に乗ると、まずは近くのマルキョーに行き食料を買い込む。石丸入口から福岡高速に乗ると東京へ向けて走り出した。概ね1〜2時間走るごとに適当なSA/PAで休み運転交代することにした。
13:10●めかりPA(95km) 関門橋を見ながらあごだし唐揚げを食べる。
15:50△宮島SA(273km) もみじ饅頭を食べてひとやすみ。
19:10●吉備SA(440km) デミカツ丼を食べてひとやすみ。
21:00△権現湖PA(542km) ここで少し仮眠(-24:00) 牛丼食べて出発
24:30●西宮名塩SA(586km) トイレ休憩して缶コーヒーを飲む
26:00△土山SA(696km) ラーメン食べてひとやすみ
29:10●清水PA(940km) トイレ休憩
_7:00△海老名SA(1047km) 海鮮丼定食を食べてのんびり休憩(-9:00)
10:00●首都高の千住新橋出口を降りて五反野の女子寮へ
(●貴美、△博耶)
仮眠は施設の隅で“インフレーターマット”(*6) を出して博耶を休ませ、貴美はその前で座ったまま寝た。でも最後30分くらい自分も横になった。
(*6) 空気で膨らむマット。バイクの長距離ツーリングをする人には持っている人が結構多い。
五反野の女子寮のフロントに行くと、貴美は持っているトラフィックのidカードで、そのまま元紀(月城すずみ)の部屋にも典佳(月城たみよ)の部屋にも入れるということだった。海浜ひまわりさんが出て来て、博耶のゲスト入館証を出してくれ、今夜はメゾン・ドゥラ・カデットに泊まれるということで、そちらの鍵ももらった。
「でも博多から東京までって頑張りますね〜。帰り一緒にツーリングしたいくらい」
と、ひまわりさんは言っていた。生憎年末年始はとても忙しいのでツーリングに行くお許しが出ないらしい。
それで結局貴美と博耶は、元紀に裁判所から来た手紙を渡し、メゾン・ドゥラ・カデットに行ってお風呂に入り一眠りしてから、午後から渋谷にお買い物に行った。21時過ぎに戻ると、典佳(月城たみよ)が帰宅していたので、声を掛けてついでに貴美が途中で書いた詩を渡す。
「1月か2月にCDデビューするんだろ?良かったら歌詞に使ってくれ」
「これ演歌じゃん。私演歌は歌わないよー」
「そうか?じゃ誰か歌う人にでも」
などと言っていたのだが、この詩を見た花ちゃんは、コスモス社長と話し合いの上でこれを和風ロックに編曲して、たみよに歌わせることにする。
貴美たちは月曜日が雨だったので結局6日(火)早朝までカデットに滞在し、それから宮崎に帰っていった。帰りは、典佳がお金を出してくれたので、大阪南港から志布志まで火曜日夕方の“さんふらわあ”で移動。船内でぐっすり眠っていくことができた。(12/7 宮崎には水曜日の昼帰着)
12月3日(土).
墓場劇団の公演『クラインの墓穴』があけぼのテレビ系列のネットテレビ・有線テレビで生中継された。9月,10月にも上演されたものだが
「ぜひもう一度見たい」
という要望が強く、また今回初めて全国で見られるようにするにあたり、最も人気の高かった作品を使いたいという、あけぼのテレビ側の意向もあり、これを使うことになった。
この劇の登場人物は14名なのに対して墓場劇団と死国巡礼を合わせても13人しかいない。しかし今回は槇原歌音が§§ミュージックの津幡教室のレッスンに出ている関係で、同じ教室の川本浜菜(翌週の昇格テストに合格して紺青セイラ)が、川岸奪衣女の名前で参加してくれることになった。浜菜としてはステージの実地体験をして翌週の昇格試験につなげたい所である、
しかも練習を見てて、この劇団の公演はお笑いセンスをかなり鍛えられると思った。夜野棺桶さんとか成仏霊子さんとか、いきなりアドリブで無茶振りしてくるから返すのが必死だった。
(この子は何とかできると見て無茶振りしてる)
放送の結果は物凄く好調で来月も全国中継されることが決まった。
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春四(3)