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■春四(2)
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エキュレイユ2で東京ヘリポートまで運ばれた日和は、迎えに来てくれていた信濃町ガールズ担当の松原弓香マネージャーから、今回はアクア主演の昔話シリーズ『海幸彦・山幸彦』の撮影であると説明される。
「アクアが演じてる豊玉姫、海の神様のお姫様ね、そのそばに雛人形みたいに侍(はべ)っていればいい役だから」
「私とホルンってそういう役が多いですね!」
「今の年齢でなきゃできない役だけどね!」
「そうですよね!」
「2〜3年はそれで行けるかも。その間にしっかり演技の勉強すればいいし。まだ2人とも中学生だしね〜」
「・・・」
(↑私高校生ですと言えない)
松原マネージャーの車で、千葉のララランド・スタジオに行く。到着したのが17時頃である。
「あ。竹取物語の制作をしたスタジオだ」
と思った。(ザ・天下の撮影は砺波市・津幡町で行ったので関東には来ていない)
ここで萌花(入瀬ホルン)とお揃いの衣裳を着て可愛くメイクして、ほんとに豊玉姫のそばに侍っている役を演じた。セリフもほとんど無かった。
でも目立つ!美味しい役である。
ドラマの撮影は金曜日は夜20時であがる。
「中学生の役者さんはあがってください」
と言われる。
「はい、君たちもあがって」
とADさんに言われて上がったが
『私高校生なのにいいのかなあ』
と思った。でも中学生の萌花とセットの役だからいいんだよね。
この日はそのまま五反野の寮に戻る。萌花の部屋に入り、交替でお風呂に入って寝た。日和は23時には寝たが、萌花は遅くまでゲームか何かしているようだった。
なおここの寮は8畳サイズの洋部屋とDKである。実際には食事は朝晩(お昼に在室の場合はお昼も)配送されてくるので、ここで調理をする必要はほとんど無い。
御飯は今日みたいに遅く帰ってきた日は、idカードを持った寮生が寮内に入った時点で制御室からの報せで厨房は必要なら温めてから夕食を自動配送システムに載せる。すると各部屋の前まで届けられてピンポンが鳴る。
以前は定時配送だったのだが、それだと仕事で遅くなった人は冷めてるし、舞音の成功に嫉妬した子が舞音のご飯を捨ててしまうなどという事件があった(*5) のもあり、帰宅時配送方式に変更された。
居室は一応衝立で区切り、その半分を日和は使っている。この衝立はいつも置いていて、1人だけで使用する場合は休むためのスペースとお勉強とかをするスペースとして使用しているらしい。布団に寝たままごはん食べたり、お勉強とかはしないようにと言われているという。
(*5) 舞音のご飯を捨てた人物は後日花ちゃんに名乗り出て謝った。首にしてもらってもいいと泣いて謝っていたが、『舞音ちゃんは怒らないよ。だって連絡して再度作ってもらえば済むし、かえってできたてを食べられるもん』と言って不問にした。
舞音にも名前は言わずに謝罪に来たことだけを伝えたが、花ちゃんが思った通り舞音は『全然大丈夫です。本人にもあまり気にしすぎないように言ってあげてください』と答えた。
翌日(11/12) はドラマの制作は午後からということで、午前中は寮の地下の録音スタジオに行き、そこでいくつかの音源制作に参加した。
・アクアの歌(ほぼ完成済)にコーラスを入れた。
・白鳥リズムの歌(ほぼ完成済)にコーラスを入れた。
・薬王みなみの歌(リズムセクションと歌が入っている)にヴァイオリンを入れた。ホルンがフルートを吹いた。
お昼を食べたあと、千葉市に移動してドラマの撮影をする。この日でだいたい撮影は完了したようであった。ドラマの制作時間は一応明日まで取られているらしく今日も五反野の寮で泊まる。
日曜日(11/13) の午前中は、ツイストクリームの歌の伴奏をした。これは16小節しかなかった。何かのCM曲らしい。ツイストクリーム(バニショコ)の2人が歌い、日和たちは伴奏で入る。Gt,ホルン、B.コルネ、KB.麻生ルミナ、Dr.七石プリム。これは8月末に参加した“Luminnaries”の縮小版だなと思った。
実際元々、麻生ルミナと七石プリムがどちらも光に関わる芸名なので、この2人を入れたユニットを Luminaries と名付けたらしい。それにルミナと仲良しの入瀬ホルンを入れ、その姉妹の入瀬コルネを入れて上記のラインナップとなる。
しかしリズムセクションとボーカルで一緒に曲を練り上げて行く作業は楽しかった。コロナ以降こういう制作の仕方がほとんど消え、基本的にはリズムセクションとボーカルは別録りということになっている。しかし今回の曲はしっかりした伴奏譜を作る時間・費用が無いので、短い曲でもあるし、伴奏と歌の同時制作ということになったらしい。コロナが落ち着けばこういうのが主流に戻るのかなと思った。
ドラマの撮影は今日は結局行わないということになった。それであけぼのテレビのドラマに出てといわれ、寮の近くのあけぼのテレビ五反野サテライトに行く。台本を渡されて、30分で覚えてドラマに出演する。
主人公の姉妹(今川ようこ・広瀬みづほ・早幡そら・月城たみよ・春野わかな)が姉妹合唱団を組んでいて、毎回色々な町を訪れて出会いが起きるという、シチュエーション・コメディのようである。
コルネはその町で出会ったヴァイオリン弾きで、一緒におやつを食べたり、一緒に逃げたり?いろいろあって、最後は一緒に演奏をする。
「ここで何か適当な曲を弾いてほしいんだけど」
「何にしよう?」
とコルネが迷うとホルンが
「ツィゴイネルワイゼン」
と言う。
「そんな難しい曲弾ける?」
と心配されたが、
「そのくらいは弾けますよ」
と言ってかる〜く弾いてみせる。
「すごーい!」
と感激された。
夕方、帰ることにする。
「あいにくエキュレイユが出払ってるからシーラス使って」
と言われる。
日和は何のことやら分からない!
でも連れて来られたのは調布飛行場である。
「乗るのはこの機体ね」
「可愛い!」
ということで案内されたのはシーラス・エアクラフト(Cirrus Aircraft)製の軽飛行機SR22T である。
全幅11.67m 全長7.92m 全高2.71mというコンパクトなボディ。翼を除けばマイクロバス程度の大きさである。価格も3000万円程度で、自家用機としての人気が高い。それでいて、巡航速度は213kt(394km/h), 航続距離は895nm(1658km)もある。乗員は、パイロット1名+乗客最大4人である。
(4人の内1人はコーパイ席。3人が後部座席。キャビンの内幅は125cmで、軽乗用車の内寸程度である。一応3人分のシートベルトが付属しているが、実際におとな3人乗るのは無理だと思う。あまり横幅の無いおとな2人と子供1人が多分限界)
(再掲)
「ちなみにこれほんとに飛ぶんですよね?」
「もちろん。プリーズ・オンボード」
ということで、今回日和はSR22Tで調布飛行場から氷見飛行場まで飛んだのであった。
連絡を受けて氷見飛行場で待っていた日和の母は
「随分可愛い飛行機で飛んできたね!」
と言った。
彪志の自動車学校通いは続いていた。
第1段階をスムースに通過し、日曜日(11/13)からは第2段階に入る。第2段階は学科(危険予測)が1時間あるが、これは日曜日に受けてしまった。
そして第2段階8時間を月〜木(11/14-17)の4日でこなす。第2段階は1日3時間教習を受けられるのだが、会社が終わってから通っているので2時間ずつしか受けられない。
そして木曜日、最後の教習(見きわめ)を受けるために教習待合室で待っていた時のことである。
「あれ?もしかして鈴江さん?」
と声を掛けられギクッとする。
見ると水川係長なのでギョッとする。
「鈴江さんは何の免許取りにきたの?」
「ええっと、自動二輪なのですが」
「ああ、バイクあると通勤に便利だよね。私は大特を取ってくれと言われて取りに来た」
「あれは確か3〜4日で取れましたよね」
「うん。月火で第1段階、昨日・今日で第2段階。明日は卒業試験」
「早いですね!私は先週から通ってました」
「ああ、自動二輪だと2週間かかるかもね。だけど大特取って何の仕事させられるのか不安」
「ああ、どこか特殊な部署に行くんですかね」
「たぶんね。ここだけの話、係長の1人、というのが私みたいだけど、それと主任の1人が転勤っぽい」
「え!?」
「誰が転任かは分からないけど、ひょっとすると君はその自動二輪で通勤することになるのかもね」
「うーん・・・」
そこで水川さんは呼ばれて教習に行った。
この短い会話で彪志は女声で話した。一応中性的な格好ではあるがお化粧もしてるし、女子トイレも使っているから、ここで男声を使うわけにはいかないと思った。誰が見ていて不審に思わないとも限らない。
しかし結果的に係長に女装で自動車学校に通い、女声で話せるのを認識されてしまった!
でも水川さん、ぼくに
「可愛い格好してるね」
とか
「女の人みたいな声が出るんだね」
とか言わなかった。
普通に女性の同僚として接してくれた。
またこの件について水川さんは会社ても特に何も言わなかった。
彪志はこの日で見きわめOKをもらい、金曜日半日有休をもらって卒業試験を受けて合格した。そして土日を置いて月曜日(11/21)にまた半日有休をもらって鴻巣市(こうのすし)の運転免許センターまで行き、視力検査だけ受けて免許証をもらってきた。
むろん免許証は鈴江月子名義である!!
なお免許センターでも水川さんと遭遇し、手を振ってきたので会釈を返しておいた。
「彪志君免許取得おめでとう!」
と千里さんは言って
「これでしばらく練習してなよ」
と言い、庭に連れ出す。
庭にゴールドウィングが置いてある!!
「すみません。取得したのは普通二輪免許なので400ccまでしか運転できません」
「なんだ。大型二輪取れば良かったのに」
「いきなり無理ですー。原付しか運転したことないのに」
「じゃこっち使って」
と言って裏庭に連れて行かれる。250ccが駐めてある。やはりゴールドウィングは冗談だったんだな。しかしわざわざゴールドウィングを持ってくるとか手間を掛けたジョークをするものだ。ちなみに千里さんは大型二輪の免許はもちろん、バイクのレース・ライセンスも持っていたはずだ。
「ホンダのCBR250RR。ユーザーが多いし、250ccに慣れるには最も使いやすいと思う。これキーね」
「ありがとうございます。これどのくらいまで借りられるんですか?」
「うーん、取り敢えず2月か3月まで」
「分かりました。練習します」
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