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■春零(29)

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やがて、真珠・舞花・晃がお店から出てくる。
 
「一緒に行こう。どうも目的地は同じようだ」
と彼女たちに声を掛けた。それで、千里・真珠、鏡海姉妹・高田姉妹の6人で“願い石”を探すことにする(6人中で純粋女子は舞花だけ!)。
 
「願い石から帰ってきた時、どのあたりに帰ってきました?」
と千里が明和に訊く。
 
「あ、そうか。そこから帰ってきた時のことを考えればいいのか」
「そうです、そうです」
 
それで明和は「こちらから戻って来た」と北の方角を指さす。舞花と晃も「そちらでした」と言った。
 
「カーマと全然方角違うじゃん」
と仁美。
「やはり何かおかしくなってたんだろうね」
 
曲がり角の度に3人とも悩む。しかし明和・舞花・晃3人で検討していると「こちらのような気がする」といって方向が定まる。特に晃がよく途中の建物を覚えていた。それで20分ほどで、その“石碑”のような所に辿り着いた。
 
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「これです!」
と3人。
 
真珠は何てまがまがしいのだろうと思った。よくこんなのに祈る気になるものだ。たぶん本来はただの石だったのが、何かのきっかけで邪霊が住み着いたのだろう。“空の容れ物”には変なものが入り込みやすい。
 
「なんか字が書いてあるけど読めない」
と真珠は言った。
 

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「まあ封印するね」
と言って千里は藤雲石の数珠を取り出すと目を瞑って何か唱えていた。石の周囲にバリアのようなものができる。さすが!と真珠は思った。でも数珠は何にも使ってない!ただの演出用の小道具のようだ。だいたい神社体質でお寺の敷地に入れないこともある千里さんが数珠とか使える訳無いと真珠は思う。
 
「後でまたきちんと処理しますが、取り敢えず封印しました」
 
と言ってから千里は
「ん?」
と声を出した。
 
「明和さん、あなたここから何か持ち帰りませんでした?」
「そんなことも分かるんですか!」
と明和は驚いて、その話をした。
 

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「実はこの“願い石”を一部切り取ったのを自宅に持ち帰ったんです」
「よく取れたね」
「ここに来た時、男の人がいて、ハンマーで端っこを切り取ってたんですよ。『あ、いっぱい取れちゃった。君にもあげる』と言われてもらいました」
「ああ」
 
「何でもその男の人によると、この石は一部を切り取って持ち帰り、毎日お酒を供えると効果が倍増するらしいんです。私はお酒とか使えないから単に置いておいたのですが」
「なるほどねー」
 
「あの石、どうすればいいでしょうか?」
「私が自宅まで行って処理するよ。まこちゃん、私の代わりに高田姉妹を氷見まで送ってくれない?」
「いいですよ。明恵も到着したようですし」
 

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千里は真珠にこの場所をスマホに記録しておくように言った。千里さんが自分でしないのは賢明だと真珠は思った。千里さんは電気機器との相性が悪い。真珠はこの場所をスマホに記録するのと同時に念のため緯度経度および近くの地図も紙にメモした。
 
それで全員ショッピングタウンに戻る。帰りは10分で辿り着く。真珠はこのルートも紙に書いていた、
 
ショッピングタウンに到着すると、真珠は明恵の車(ヴェゼル)の所に舞花・晃の姉妹を連れて行き、一緒に氷見まで行った。
 
千里はCX-5に明和・仁美を乗せて彼女たちの自宅に行く。千里は家の中に入った瞬間、家の中の雑霊・邪霊を全て消滅させた。明和が部屋から石を持って来る。
 
「じゃ処分するね」
「はい、お願いします」
「代わりにこれを置いておくといいよ。これは伏見稲荷さんの砂だから、石のせいで淀んだ部屋の空気を浄化してくれる」
と言って砂の袋を渡した。
 
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「ありがとうございます」
「あまり変な物には関わらないように気をつけてね」
「はい!」
 
それで千里は明和と握手して家を出た。
 
まずは海岸に行き、鏡海家から持って来た石を左手で思いっきり遠くまで投げた。千里が全力で投げたから多分150-160m沖まで飛んだはずである。
 
それから千里はその風の強い海岸で、30分掛けてその車の車内を物理的および霊的にクリーンにした。最後は仕上げに洗車機に入ってからSショッピングタウンに戻った。少しして真珠たちも戻る。
 

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「さあ、最終処理をしに行こう」
「はい」
 
それで千里は明恵たちが乗っているテレビ局のヴェゼルに同乗し、一緒に“願い石”の所まで行った。車は何の問題も無くその石に到達できた。
 

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石碑の少し前で車を停める。
 
「駐車監視員とか大丈夫ですかね」
「近くには居ないよ」
「へー」
 
千里は石碑の前3mほどの地面に座り、明恵と真珠には“自分の後ろ”に座り、各々霊鎧をまとうように言った。明恵はすぐできる。真珠は霊鎧ってこんな感じかなという雰囲気で周囲にバリアを張る。
 
「うん、2人ともOK。大丈夫とは思うんだけど念のための備えね」
 
千里は左足の靴と靴下を脱ぐ。
 
先ほど千里自身が作った結界が解除される。数時間堰き止められていた禍々しい“気”が押し寄せてくるが、大半を千里が楯になって防いでくれる。僅かに漏れてくるものはあるが明恵や真珠の霊鎧は突破できない。「すごーい、利いてる」と真珠は思った。
 
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千里が左手の親指と小指で左足の“薬指”(*48) を挟んだ。
 
周囲に多数の緑色の炎が出現する。その炎がとんどん強くなる。そして轟音のような激しい動物の鳴き声が多数聞こえた。なんか凄い術だなと思って明恵も真珠もその炎を見ていた。
 
斜め下、45度くらいの方向に緑色の光のトンネルのようなものが現れる。そこに多数の動物たちが吸い込まれていった。
 
そして緑色の炎はいつしか白い炎に変わり、少しずつ薄くなって消えて行った。
 

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「終わったよ」
という千里の声で明恵と真珠は自分の霊鎧を解除した。
 
石碑の周囲に漂っていた“禍々しさ”は消え、そこはごく普通の空間になっていた。
 
「凄い浄化でしたね。あのトンネルの行き先は?」
「仏教で言う所の畜生道かな。これが人間の霊集団なら昇天させていた」
「へー」
 
まあ若干?人間の霊も居たけど、タヌキやムジナ(*47) と一緒になって悪いことしてた奴は一緒に畜生道でいいだろうと千里は思った。
 
(*47) タヌキもムジナも同じこと!でも千里は気付いてない。千里のこの手の言い間違いは日常茶飯事。真珠に「バイクかオートバイで来て」と言ったこともある。むろん真珠は四輪で行った!千里が貴司に「そちらのダンコン切って」と言ったら貴司は「はいはい」と言って大根!を切る。周囲の人たちはよく分かってる。
 
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(*48) 千里の左足薬指に記録されているのは††観音の究極秘伝である。“小指”に記録されている**明王の究極秘伝の動物・妖怪版。使用するエネルギーも**明王の秘伝の半分程度で済む。それでも消費エネルギーは相当のものである。桃源や帰蝶(きーちゃん)はこの術の習得条件を満たしているが「そんな術使ったら自分が消耗して死ぬ」と言って学んでいない。
 
千里が明恵と真珠を連れて行ったのは、万一この術を使った後自分が倒れてしまった場合の用心である。今回実際には術を使った後、千里5からエネルギーを分けてもらった。
 

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千里が靴下と靴を履き立ち上がった所で車の停まる音がする。ありゃあ駐車監視員かなと思って真珠がそちらを見ると、**テレビの車である。
 
「おはようございます、〒〒テレビさん。確か『霊界“探検”』の方たちでしたよね。そちらもこの石の取材ですか」
と降りてきた、テレビ局の腕章をつけている男性が笑顔で話しかけて来た。
 
「取材に来たんですけど、外れでしたね」
と千里が言った。
「外れですか」
 

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「これはただの石碑です。願い事が叶うなんてのは嘘か思い込みだと思いますね」
「へー。効果無しですか」
「なんか噂では、この“願い事の石”をハンマーとかで少し切り取って持ち帰り、部屋に置いておくとその願い事が叶うというんですけどね。こんな物削り取って持ち帰っても何の効果も無いですよ。何か願い事が叶ったという人は、本人の努力によるものじゃないかなあ」
などと千里は言っている。
 
ハンマーで削り取るなんて話していいのかなあと真珠は思ったが、口は挟まない。
 
「へー。ハンマーで切り取るんですか」
と言って、向こうのディレクターさんはメモしてる!
 
「よくお地蔵さんの顔を削り取って飲めば御守りになるなんて話がありますが、あれと似たようなものじゃないですかね」
「ああ、ありますよね!」
 
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「噂では、1個切り取って持って行っても利かなかったら次は2個切り取って持って行き前のは捨てればいいなんて言うんですげとね。こんな石何個持って行ったって何の効果もありませんよ」
と言って千里は笑っている。
 
「へー。1個で利かなかったら前のを捨てて2個ですか」
「きっと成分の薄い箇所と濃い箇所があるんですよ」
「有りそうですね!」
 

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「でもこの石碑、何て書いてあるんだろう。崩し字でよく分からないなあ。“傾”かな」
「“零和”と書いてありますよ。右から左へ」
「ああ、元号ですか」
「きっと改元された時に作られたんじゃないでしょうかね。でも元号の“令和”ではなく、ゼロのほうの“零和”になってるから、これだとゼロサムゲームですね。それじゃ何かいいことがあったらその分悪いこともありそうで縁起が悪い」
 
「なんでそんなものが書かれているんでしょう」
「さあ。字を間違えたのでは」
「ありそうですね!」
 
「〒〒テレビさんはこれ番組で取り上げます?」
「普通ならこんなの取り上げないんですけどねー。実は金沢ドイルが多忙な上に妊娠して休養期間に入っちゃったから、こんなのでも仕方ないから取り上げようかという話をしていた所なんですよ」
 
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「ドイルさん妊娠したんですか?」
「そうなんですよ」
「凄い高齢出産ですね。あの方、47-48歳ですよね?」
 
真珠と明恵は頑張って笑いをこらえた。
 
「でも本人はあと1人くらい産むと言ってますよ」
「凄いなぁ頑張るな」
 
「自然分娩の世界最高齢記録は57歳らしいですよ」
「よく産むなあ、というか閉経してないのが凄い」
 
「ま、それで『霊界探訪』では多数の小ネタのひとつとして取り上げますよ。放送は9月になりますが」
「そちら9月ですか?うちもこれ取り上げていいです?放送は来週の土曜(7/30)になりますが」
「どうぞどうぞ。そちらの放送のほとぼりが冷めた頃にこちらの放送になるかな」
 
それで千里たちは車に乗るが、千里は明恵に運転を頼んだ。**テレビのスタッフは石を撮影したり、女性レポーターを立たせて解説したりしていたようであった。
 
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「ねえ、まこちゃん、あきちゃん」
 
「はい」
「私凄くお腹が空いて。CX-5の方に念のためお肉をたくさん積んでたから、まこちゃんちに連れてって焼肉でもして食べさせてくれない?」(*49)
 
「あの浄化はカロリー消費したでしょうね!」
「ついでに泊めて」
「泊まっていってください!」
 
それで明恵はとりあえずショッピングタウンに戻り、CX-5から荷物を移動して、放送局のヴェゼルで真珠たちのマンションに行った。結果的にCX-5と真珠のバイクが置き去りだが、明日回収することにする。
 
3人でマンションに入り、ちょうど帰宅したばかりだった邦生・瑞穂と一緒に、ホットプレートを出してお肉を焼いた。千里は1人で2kgくらい食べたので、瑞穂がびっくりしていたが、あの浄化の術は物凄くパワーを消費するんだろうなと真珠も明恵も思った。たぶん体力の無い人ならその場で倒れちゃいそう。
 
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(*49) 本当は石の処理をしている間に小杉に買いに行かせた。動物霊の処理をするので、その現場を小杉に見せるのは可哀想なので見せないためもあった。
 
小杉は通常千里4の髪留めに姿を変えて常に付き従っている。
 

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一息ついたところで真珠は幸花に電話で簡単な報告をした。
 
「なに〜!?千里さんと遭遇して、事件は解決しただと!?」
「はい。これでもう被害者は出ないと思います」
「それをぜひ番組にしよう」
 
「取り上げるのはいいですが、ガセネタだったということにして」
「なんで?」
 
「この事件ではかなりの被害者が出ているはずです。この石のせいだということになったら、石を持ち帰った人が責任を感じて自殺とかしかねません。それよりただの冗談だとして笑い飛ばしたほうがいいですよ」
と真珠は言う。
 
「うーん。せっかくのコイルさんの活躍なのに」
と幸花は残念そうだったが、幸花はこの後、夜にもかかわらず吉田のマンションまで来て、真珠・明恵から詳しい説明を聞いた。そして真珠たちの意見を了承してくれた。(千里は熟睡していた)
 
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