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■春零(19)

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さてアクアのアルバム制作準備を進めている青葉だが、
 
7月4日の内に「使うかどうかは未確定だけど」と断った上で、美由紀、美滝、春貴、邦生などに「プロ歌手の『天使』という仮題のアルバムに入れる楽曲に使えそうな未発表の詩が無いか」と照会した。また空帆には、明確に「既に1曲書いてもらったみたいだけど、アクアのアルバムに収録する曲の歌詞をあと1個提供してもらえないか。楽曲まで付けてくれたら、なおいい。ただしどちらも未発表のもので」とメールした。
 
その結果、美由紀から送られて来た『気まぐれな天使』、春貴から送られてきた『Walk on the wall』、美滝から送られてきた『白い雲』、“真珠”から送られてきた『光の舞』が全て使えると思った。各々にクレジットする作詞者名を指定してほしいとメールした。また制作段階で多少の歌詞の修正、またタイトルの変更をさせてもらうかもということで了承を得た。
 
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空帆は
「既存曲ならいいのあるんだけど」
と言ったが、
「それは薬王みなみに渡してあげて」
と言っておいた。彼女は結局7月11日(月)になって
 
「きちんとした譜面はこれから書くけど」
と言って電話の向こうで新しい曲を自分で歌ってくれた。
 
「使えると思う。手書き譜面かCubaseのデータか、どちらか楽な方でメールして。編曲はこちらでするからギターコードだけ付けてくれればいいから」
 
ということでそれを数日中にまとめてもらうことにした。
 
これで楽曲は何とか足りそうである。
 
『お気に召すまま』加糖珈琲作詞・琴沢幸穂作曲(映画主題歌)
『緑の天使たち』森之和泉作詞・水沢歌月作曲(アルバムの実質タイトル曲)
『金色の太陽』翔太&リル子作詞・醍醐春海作曲(太陽光パネルCM曲)
『私を口説いて』阿木結紀作詞作曲(映画挿入歌)
『ごめんね。私女の子だったの』夢倉香緒梨作詞作曲(映画挿入歌)
『夢の余韻』波斯魔琴作詞北沢晶菜作曲(チューハイCM曲)
『沖に娘だ』未来居住作詞・琴沢幸穂作曲(先頭曲のパロディ。舞音がカバー予定)
『チェルシカの天使』青葉
『気まぐれな天使』美由紀
『Walk on the wall』春貴
『白い雲』美滝
『光の舞』真珠
『Secret Date』空帆
 
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追加の曲の制作準備を進める中、既にできている曲の編曲も容子と紀子を助手に進めていたのだが、青葉が何か悩んでいるようなので、紀子が尋ねた。
 
「大宮先生、何か悩み事ですか?」
「いや仕事のことじゃないんだけどね。生理がなかなか来ないなと思って。やはり世界選手権が終わった所でここ半年くらいの疲れがまとめて出て、体調が乱れてるのかなあ」
 
「どのくらい遅れているんですか?」
「本来は7月6日くらいに来るはずだったんだけど。まだ予兆も無いんだよね」
 
紀子と容子が顔を見合わせている。
 
「先生、妊娠なさったということは?」
「え〜〜〜〜!?」
 
「だってね」
「生理が遅れてるというと、まず妊娠を考えるよね」
と2人は言っている。
 
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「でもちゃんと避妊してたのに」
「避妊の失敗はよくあることですよ」
「それで女子高生が焦ることになる」
「私なんかも高校生時代けっこう“カンパ”しましたよ」
 
高校生は・・・大変だろうな、
 
「妊娠検査薬を使ってみられては?」
 
青葉は急に不安になった。
 
前回の生理があったのが6月8日である。その14日後の排卵予定日は・・・6月22日。彪志とセックスしたのは・・・6月20日の夜!マジで結構やばくない??
 

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7月11日(月).
 
金曜日に自動車学校を卒業した春貴は、この日は朝から富山市まで行って、富山県運転免許センターで筆記試験を受けた。
 
これに合格して、春貴は無事大型免許を取得した。
 
免許をもらったことを取り敢えず校長・教頭・横田先生にメールし、すぐにH南高校まで戻り、あらためて大型免許取得を報告した。
 
「最短期間で取得できたね。頑張ったね」
と校長、教頭、横田先生から言ってもらった。
 

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この日、先月注文していた女子バスケット部の追加ユニフォームが納品された。レモンイエローと赤のセットである。
 
これまで女子バスケット部は、ホーム用の白とアウェイ用の濃緑のユニフォームを1セットずつ使用していた。しかし1セットずつだと、ノックアウトトーナメントを勝ち上がって1日に複数試合した場合、ホームとアウェイになれば良いが、ホーム・ホーム、アウェイ・アウェイと続いた場合、汗を掻いたユニフォームを着替えられない!という問題があったのである。
 
昨年まではいつも1回戦で負けていたので、この問題は起きなかった!また総当たり戦の場合はだいたい着替えられるようにホーム・アウェイが設定されることが多い。
 
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男子は白と紺を2セットずつ持っていた。
 
それで美術室を崩してしまったお詫びに播磨工務店からもらったお金の一部を使って、女子も、もう1セットずつユニフォームを作ったのである。
 

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ここで新しいユニフォームを従来と同じ白と濃緑ではなくレモンイエローと赤にしたのは“色合い”の問題がある。バスケット協会の規定でぱ、ユニフォームは全員同じ色でなければならず微妙に異なる色合いのものが混じっていてはいけない。
 
しかし色というものは、たとえ同じ会社に頼んで、そこが完全に同じ生地に同じ配合の染料で染めたとしても、どうしてもロット間の微妙な差違が出る。更に何年も使っている内にユニフォームはどうしても変色している。だから現在のユニフォームと正確に同じ色合いのものを作ることは不可能である。
 
その場合、似た色だと紛れてしまい、誤って混ぜて大会に持っていってしまう事故が起きかねない。だったら紛れることがないように全く違う色で作ったほうが安全なのである。それで今回はレモンイエローと赤を使うことにした。
 
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男子のほうは現在使用しているものは、同時に2セット作ったので、こういう問題が起きない。5-6年前にバスケ部出身のOBで仮想通貨で当てた!人が寄付してくれたらしい。
 

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この日はその新しいユニフォームを部員たちにお披露目した。
 
そして練習が終わり、ファイアーバードからみんな退出しようとしていたら、そこにマイクロバスが入ってきて停車する。清川が降りてくる。
 
「奥村さん、このマイクロバス8月いっぱいくらいまで貸しておきますから、たくさん運転の練習に使って下さい、と千里さんの伝言です」
 
「ありがとうございます!だったら本当に練習します」
「トラックとバスでは結構運転感覚が違いますから、実際に運転するのと同じような車体で練習したほうがいいですよ」
 
「確かに違いそうですね!」
 
そんな話を自動車学校でも聞いたなと思った。
 
「この車体はあちこち傷や凹みがあるけど、よけい少々ぶつけても気兼ね無いし」
「そうですね!でも慎重に運転します」
「一応車検は通ってますから」
「分かりました」
 
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この車体はホテルか何かの送迎用として使われていたようで、波とか岩とかの景色の絵が描かれているが、わりとあちこち剥げている。錆びている所ある。ホテル?の名前が入っていたのを消したと思われる。■型の塗装が並んでいる。
 
「普段はここに駐めとけばいいですし」
「そうですよね」
 
「では」
と言って、彼は一緒に来ていた広沢の Harley-Davidson Road-King 1753cc に同乗すると一緒に去って行った。
 
「ハーレーダビッドソン格好いい!」
と特に男子たちから声があがっていた。
 

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青葉は妊娠検査薬に出た“−”の表示を見て、ガーンと思った。
 
うっそー!? 私妊娠しちゃった!? どうしよう???
 
青葉がボーッとしていたら桃香が珍しく居間に出て来た。
 
「あれ?青葉いつ帰国したの?」
「・・・6月29日だけど」
「そんな前なんだ?全然見なかったね」
「そういえば遭遇しなかったかな」
「この家広いもんだから時々迷子になっちゃって」
「そういうこともあるかもね」
「何持ってんの?体温計?」
と言って覗き込む。
 
「あれ?これもしかして妊娠検査薬?」
「うん」
「陽性じゃん」
「だよね?これ」
「青葉もしかして妊娠したの?」
「そうかも」
「それはめでたい。青葉に血の繋がった家族ができるじゃん(*34)」
「あ・・・」
 
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そんなこと全く考えてなかったけど、ほんとにそうだ。
 
「いつ結婚したんだっけ?」
「まだしてないけど」
「それはすぐに籍だけでも入れなきゃ」
「え〜〜?」
 
「だって未婚のまま子供産むのは大変だぞ」
「だろうね」
 
桃姉はそれで結構苦労したんだろうなと思う。
 
(*34) “血の繋がり”問題については後述。
 

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「彪志君、性別は変更したんだろ?婚姻できるよな?」
「彪志は別に性別直してないけど」
「だって男と女では結婚できないだろう?性別を統一しないと。彪志君、性転換手術は終わってる?」
「彪志は性転換とかしないし、普通結婚は男と女でするもんだけど」
「あれ?最近は性別が違ってても結婚できるようになったんだっけ?」
 
桃姉酔ってない?
 
「それで予定日はいつ?」
「予定日も何も今これ見てびっくりしたところで」
「じゃまだ病院行ってないの?」
「病院って?」
「産婦人科だよ」
「・・・私が産婦人科に行くの?」
「当然当然。青葉は妊婦なんだから」
「妊婦〜〜!?」
 
「赤ちゃんが胎内に居る女性は妊婦と呼ばれるのだ。まだ行ってないのなら私が付いてってやるから一緒に行こう」
 
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「桃姉と一緒なら行ってみようかな」
「よし行こう」
 
こんな時は桃姉が凄く頼りになる気がした。だって2人の子供の母親で6人の子供の父親だもん!あれ?7人の父親だっけ??(*35)
 

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(*35) 早月は父が千里で母が桃香なのだが、多くの友人たちは「桃香に卵子がある訳無いし」と考え、桃香の精子で千里が妊娠出産したのだろうと思っている。桃香の出産現場に立ち会った朱音でさえ、産んだのは千里と思い込んでいる!
 
人は概して記憶を自分が合理的に解釈できるように改変してしまうものである。「桃香が妊娠出産する」という事態は、朱音を含めて友人たちには非合理的に思える。
 

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