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■春零(6)
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目次 #
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UFOのインタビューのほうに話を戻す。
自己紹介の後、オクが
「この部屋の十二支の絵が可愛いですね」
と言った。
「地元の女子高生が2人で描いてくれたんですよ」
「へー。なんか可愛いなと思った」
「ね、うし、・・・あれ?虎さんは?」
(再掲)↓サンルームのセッティング
「虎さんはそちらに」
と東雲はるこが反対側を指し示す。
「あ、そちらに居たのか」
「北側には4枚、西側には7枚しか並ばなかったので」
と長江ディレクターが言っている。
「虎さんだけ反対側で寂しくないですか?」
とフーガが訊くと
「大丈夫だよ。虎は十二支のリーダーだから」
と青葉は言った。
「リーダーはネズミさんじゃないんですか?」
「ネズミは牛の背中に乗ってきてゴール直前で飛び出しただけだし」
と青葉。
「1月が寅月だからだよね?」
とケイは青葉に確認する。
「そうなんです。十二支って、丑と寅の間に実は微妙な隙間が空いているんです。それで丑と寅の隙間から魑魅魍魎がやってくる」
「ああ、丑寅の方角ってそういうことですか」
「だから節分の夜には鬼がやってくるから、豆を蒔いて退治する」
「西洋で言えばハロウィンとか十二夜だよね」
「ええ。あれも年の境界の所で、お化けが闊歩(かっぽ)するということなんですよね」
UFOへのインタビューは、結成のきっかけの話、デビュー初期の頃のこと、ブレイクのきっかけとなった2019年7月20日郷愁リゾートでの、トラインバブル、スパイス・ミッションとのステージなどから話を振っていく。ケイが初期のUFOには結構関わっていたので、これまであまり出ていなかったような話まで出て来て、青葉が感心していた。
「トラインバブルには結構マリのほうが関わっていたんだけどね。それで(UFO所属事務所の)兼岩会長から相談があって、でも私は当時とても余裕が無かったから吉原揚巻さん紹介したら、吉原さんとUFOが物凄く相性が良かったみたいだね」
とケイは言っていた。
「吉原先生とても優しいです」
「給料安かった頃、美味しいもの色々食べさせてくれたし」
と3人は言っていた。
歌手と作曲家というのは win-win でなければならないよなあとケイは思っていた。
吉原さんにとっては、奈川サフィー(2016)に続く2組目のブレイク歌手だが、営業成績はUFOが奈川サフィーの100倍はある。UFOのお陰で吉原さんは賃貸から郊外の一戸建てに引越し音楽室も作って生でピアノを弾けるようになったらしい。
「でも私、高校時代に“フライング・ソーバー”というバンドやってたんだよ」
と青葉が言う。
一瞬考えたユニが
「それ“フライング・ソーサー”(flying saucer:空飛ぶ円盤) のもじりだけど“フライ”が飛ぶのflyじゃなくて揚げるのfryで“焼きそば”ということですね」
と言う。
「そうそう。焼きそばのUFOに引っかけている」
「なるほどー」
「おもしろーい」
「でも君たち焼きそばのCMにも出たよね」
「はい。出させていただきました。私たちの顔写真のパッケージとかも出て、あれでまた結構ファンが増えたんですよ」
「焼きそばの方の売上も増えたみたいね」
「win-winですね」
「焼きそば1箱頂きました」
「1ヶ月で食べちゃったけど」
などという会話をしたのだが、この放映後また1箱頂いたらしい。
「君たちのファンクラブの名前はエイリアン連盟だったね」
「はい。なんでもムニャムニャ企画という案もあったらしいですけど、実在の社名とぶつかるのはまずいということで没になったらしいです」
「いやそれは小学生の親が仰天する」
「だから会員はエイリアンです。入会すると私たち3人の絵が入ったアンパンがプレゼントされます」
「絵が入ったアンパンで、エイリアンなのね」
と青葉。
「私ももらったよ。時々注文してるよ」
と朱美。
「入会ありがとうございます。あれ結構美味しいと言われるんですよ」
「食べるのがもったいないと保存してたらカビが生えちゃった、なんて話もあるね」
「賞味期限内に食べることをお勧めします。カビが生えたら捨てて下さい。ファンクラブで通販してていつでも買えますから」
だいぶお話をしてから、ラピスの演奏でUFOが歌うことになり、ピアノルームに移動する。掃き出し窓を開けて、濡れ縁に出る。
「すてきなおうちですねー」
とUFOの3人が言っている。
「あれ?」
と青葉が声をふげる。
「なんかピアノ室への入り方が変わっている」
以前は濡れ縁を歩いた先にピアノ室の防音ドアがあったのだが、そうではなく、濡れ縁の先には普通のドアがあり、そのドアを入ると右手にピアノ室の防音ドアがあった。
(before/after)
「あの右手にある建物は何ですか?」
とユニが尋ねる。
「何だろう?」
と青葉は首をひねっている。
「12月に来た時は無かったですよね」
と東雲はるこも言う。
「その件は取材が終わってから」
とコスモス!が言っている。
なんでコスモスさんがうちの家のこと知ってるの〜?
「ちょっとした改造手術をさせてもらった。ピアノ室から出る時、以前は前に出ていたのが、改造手術後は、下に出るようになった」
と後ろから千里が言っている。
「それ何か別のことを想像させるんだけど」
「心が汚れてるな」
濡れ縁からいったん室内に入り、ピアノ室に入る所に衝立が3.5枚ある。この3枚半には、しまうらら、松原珠妃、谷崎姉妹、リダン♂♀のポスターが貼られている。
「わあ、うちの事務所の大先輩たちです」
「この人選はしまうららさんにしてもらった。しまさんが選んだのなら誰も文句無いだろうから」
とケイは言う。
「選び方、怖いですね!」
しまうららさんは、実際には谷崎姉妹と遠上笑美子のどちらを入れるかかなり悩んでいた。結局先輩の谷崎姉妹を入れた。他の3組は安定である。谷崎姉妹は最近ライブが姉妹セットにされているが、実はコロナ以降、ネットライブが中心になったことでライブ動員数がそれまでの10倍になった。
ファン層の年齢が上がり、行動力が衰えていたのが、ネットなら会場まで行く必要が無いのでチケットを買ってくれるようになったのである。それに30代は20代に比べて行動力は無くても経済力がある。更にタイムシフトでも見られると忙しい人は助かる。
この手のネットライブによる復活は、30代のアーティストで目立っている。
ともかくもピアノルームに入る。伴奏を務める町田朱美がピアノの前に座る。
UFOは多数のヒット曲があるのだが、町田朱美が大好きと言っていた初期のヒット曲『第三種接近遭遇』を歌うことにする。冒頭に『未知との遭遇』のUFO交信音“DE | C2 G,2 | G4”というのが入っている。
元々“接近遭遇(close encounter)”とは、UFO研究家のJ.アレン・ハイネック (Josef Allen Hynek 1910-1986) が1972年の著書『UFO体験:科学的探究 (The UFO Experience: A Scientific Inquiry)』の中で提唱した、“異星人”との接触レベルを分類した用語である。
第1種接近遭遇(Close encounters of the first kind)
UFOを150m以内で見た場合
第2種接近遭遇(Close encounters of the second kind)
UFOが何らかの影響を与えたり、UFOが痕跡を残したりした場合。
第3種接近遭遇(Close encounters of the third kind)
UFOの搭乗者を見た場合。
スティーヴン・スピルバーグ監督の初期の話題作『第三種接近遭遇』は、この用語を背景に製作された1977年の映画で、スピルバーグ自身が脚本を書いている。
吉原さんの『第三種接近遭遇』とはこれをヒントに“異性人”との遭遇体験を分類したものである。
第一種接近遭遇:異性を15m以内で見た。
第二種接近遭遇:異性を間近に見てドキドキした、あるいは相手が何かした跡が残っていたり遺留物があった。
第三種接近遭遇:異性と話した。
要するにこの歌は、気になる彼氏と、とうとう会話を交わした!という歌なのである。中学生の恋愛未満のドキドキ体験を歌ったものである。
この日の演奏では、このUFO交信音(レミド↓ソ↑ソー)だけ、東雲はるこがエレクトーンで入れた。
UFOの3人ももう高校生なので、
「今歌うには少し恥ずかしい」
などと言っていた。
「でもまあこの歌“異性人”とは限らないよね」
と朱美。
「世の中いろんな人がいますからね!」
とユニも言った。
やはり高校生の会話である。
取材が終わったのは15時すぎだった。スタッフを残して、リビングのほうに青葉、ケイ、ラピスラズリ、UFO、それにコスモスと千里まで入り、ハンガリー土産?のチョコをもらいお茶を飲んで一息する。
このチョコは“姫様”が青葉に渡したのでギョッとした。でもUFOもラピスも「美味しい〜」と言って食べていた。
「ハンガリーのチョコって有名ですよねー」
とフーガも言っていた。
今からUFOがコスモアイルに行ってもすぐ閉館してしまうが、開館中に行くと騒ぎになってまともに取材できないし、大量の警備員が必要になってしまう。それで、こちらも向こうも閉館後のほうが都合が良いらしい。
それでUFOの3人はここで時間調整の上で、初海が運転するエスティマで、カメラマン、ディレクター、付き添い役のケイと一緒に国道415号を越え、羽咋市のコスモアイルに向かった。
(再掲)能登の道
R415は氷見市中部から羽咋市のイオンタウンの近くに到達する山越えの道で、大きなヘアピンカーブもある。初海から
「ちょっと山道に入るね」
と言われ、UFOたちは、またここに来た時みたいな凄い道を走るのかと思ったものの、初海の運転が上手いので
「今回はあまり辛くなかった」
と言っていた。
県境少し手前のトンネル内に交差点がある所とか
「こんなの初めて見た」
と言っていたし、県境のすぐ先にある大ヘアピンも
「凄いヘアピンですね〜」
などと言ったりする余裕があった。
能越道のハードさを6とすると、R415は本来7レベル程度の道である。能登にはR415よりもっと凄い道がいくらでもある。むしろR415はかなりまともな部類である。能越道開通まで交通量の多かった氷見市北部と中能登町を結ぶ県道18号がレベル8くらい。県道でも番号3桁のものだと最大レベル13-14くらいになる。
しかしうまい人が運転するとあまり加速度が掛からず、同乗者の辛さが半減する。下手な人が運転すると加速度以前に生命の危険を感じる!
UFOは、コスモアイルでの取材の後、やはり初海の運転で金沢に行ってホテルに泊まり、翌日小松空港から帰還することになる。
一方のラピスラズリは、各々の実家(かほく市)に泊まるらしく、UFOを見送った後、テレビ局のスタッフ数人と一緒にテレビ局の車で帰って行った。
青葉邸のサンルームは明日も撮影があるので、セッティングはそのままにしておく。テレビ局のスタッフは今日は、いったん撤収し、青葉、千里、コスモスの3人が残る。
「それで大宮万葉先生にお願いがあるんです」
とコスモスは言った。
「アクアのアルバム制作ですか?」
と青葉はさすがに想像が付いたので言った。だいたい超多忙なコスモスがわざわざ高岡まで来ることが異例である。かなり無理なお願いなのだろうというのは推察できた。アクアのアルバムを夏に制作したいというのは昨年から聞いていた話である。しかしアクア自身、時間があるのか?
「ご明察ですね。その通りなんです」
「フルアルバム?」
「はい。12曲前後のものを想定しています」
「アクア自身のスケジュールは?」
「映画の撮影がやっと終わったので、今先行して仕上がった曲の練習をしてもらっています」
「彼のスケジュールはいつまで空いてるんです?」
と青葉は尋ねた。
「彼女たちのスケジュールは7月いっぱいまでは大きなものは入れていません」
とコスモスは答える。
もはやアクアはほぼ女性タレント扱いだなと青葉は思った。
しかし今月中にアルバムはほぼ完成させる必要がある訳だ。
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