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■春零(22)
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「だったら明日朝いちばんに、能登空港から花巻空港に飛ぼう」
と千里は言う。
「その手があるか」
「だから行くのは、私と桃香、お母ちゃん、彪志君の4人」
「え?私は?」
と青葉は言うが
「妊婦を飛行機に乗せる訳にはいかないし、そもそも長旅はさせられない」
と桃香に言われた。
えーん。私もしかして出産まではあれこれ制限付き?
「そもそも青葉はアルバム制作で忙しい」
と千里。
「そうなんだよね。できるだけ早くアクアに楽曲を渡したいんだけど。今遅れ気味で。身体が2つほしいくらい」
などと青葉は言っている。
「青葉が2人になると子供が2人産まれたりして」
と桃香。
「え〜〜!?」
千里はすぐパイロットのエリッサに電話し、明日できるだけ早い時間に能登から花巻にフライトしたいから、飛行許可を取ってと言った。
「花巻から先は?」
「夕方できるだけ遅い時刻に花巻から熊谷。月曜の夕方18時くらいに熊谷から能登。帰りは翌日火曜日に熊谷にフェリー(回送)」
「了解でーす」
「よろしく」
桃香は言った。
「向こうの御両親とも、少し揉める可能性があるけど、婚姻後の住所・住民票をどこに置くのかが問題だ」
「戸籍と住民票ね」
と千里が訂正する。
「今私何て言った?」
「住所と住民票」
「同じことじゃないか!」
「まあよくある言い間違い」
「出発と離陸の時刻とか」
「出産と分娩とか」
「白とホワイトの塗料とか」
「パソコンやPCからなら簡単に操作できるとか」
「うーん・・・」
「戸籍は浦和に置くのがいいと思う」
と千里は言った。
「それが妥協点かもね」
と朋子も言った。
「結婚しても彪志君は仕事の都合で浦和を離れられない。青葉も北陸から動けない。だから取り敢えず戸籍は盛岡と高岡の中間の浦和に置いておけばいい」
と千里。
「浦和なら母も妥協する気がします」
と彪志も言った。
「住民票はどうする?」
「結婚する以上2人とも同じ場所に置くしかないからなあ」
「それも浦和に置こうよ」
と青葉は言った。
「いいの?」
「でも私はここにずっと居る」
「つまり書類の上でだけ浦和に住民票を置くのか」
「それなら何とかなりそうだね」
「だから結婚してもリモート夫婦」
「俺はそれでもいい」
「じゃその方向で向こうの御両親とも話し合おう」
彪志は母に電話を入れた。青葉が妊娠したというのを聞いて、文月は仰天していた。
「青葉ちゃんって妊娠できるの?」
「現に妊娠している」
「それどうなってんのよ?」
「合理的な説明は困難だけど、妊娠しているという事実だけでいいと思う」
「うん。私もそれでいいことにする」
「婚姻届けの提出と結婚式の日程について話し合いたいから明日そちらに行きたいんだけど」
「美容院行って来なくちゃ!」
この日のお昼は、千里が彪志を迎えに行っている間に朋子が買ってきていたトンカツを温めて食べた。容子と紀子もこちらに呼んで9人で食べる。
青葉・彪志・千里・桃香・朋子・由美・緩菜・容子・紀子
千里がお味噌汁を作り、御飯も盛って配った。
「こういう多人数での食事はここ2年くらいほとんどしてなかった」
と容子が言う。
「でも春から女子寮も人数制限が緩和されたし、来年の春くらいにはほぼ自由になるかもね」
と紀子。
午後からは青葉・容子・紀子はスタジオに籠もり、桃香は自分の部屋に入って添削の仕事をする。千里はXC-90に彪志・朋子・由美・緩菜を載せて、近くの氣多神社(越中国一宮)に行き、参拝して安産の御守りを頂いてきた。その後、朋子も美容院に行った。
XC90を使ったのは、チャイルドシートの関係でXC40には4人しか乗らないからである。
妊娠が判明したので、千里はコスモスに連絡して話し合い、青葉は夜9時には寝せることにした。この日はその後を千里が引き継ぎ、容子・紀子を使って作業を進めた。基本的には楽曲を南田容子に試唱させて、それを聞いた上でスコアに調整を掛けていく。紀子は雑用係で、夜中にコンビニまで行っておやつを買ってきたりもしている。
また歌詞や楽曲をシステムに入力する作業もできるようになっていて、今回は初期には2人で手分けして入力してくれた。だからスタジオには青葉のパソコン、容子のパソコン、紀子のパソコンが並んでいる。
現在アルバムに収録する候補曲は13曲あるが、まずは映画に関係している『お気に召すまま』『私を口説いて』『ごめんね。私女の子だったの』の3曲はこちらの作業レベルでは完成して花咲ロンドに送っている。後は東京でまずはエレメントガードが伴奏を作り、アクアの時間が取れる時間帯に順次録音していく。
『沖に娘だ』は『お気に召すまま』のパロディだが、この曲については千里と花ちゃんとの話し合いで、先に舞音に歌ってもらい、アクアはそれを逆カバーすることにした。それでアレンジに関しても花ちゃんに投げている。それを招き猫バンドが演奏して舞音の歌を載せ、そこまでできた所で、伴走は流用して、それにアクアの歌を乗せる作業進行になる。
7月16日の夜は、千里の指示で『金色の太陽』のスコアをほぼ完成させて夜の1時くらいに寝た。この曲は千里が書いた曲である。書いたのは1番で、この日スタジオで作業したのは6番だが、6番は制作をしながら1番もほんとによく復調してきたなと思った。
翌日、7月17日(日).
美由紀にバイト代3万円でお留守番(緩菜と由美の見守り)を頼み、千里は自分のXC-40に朋子・桃香・彪志を乗せて能登空港に向かう。千里・桃香・朋子は訪問着を着た。彪志は実家に今週行くとは思ってなかったので適当な服である。
能登空港からはHonda-Jet
Blackに乗り込み、エリッサの操縦で花巻に飛んだ。花巻空港には彪志のお父さん・鈴江宗司(65)が迎えに来てくれていたので、彼のホンダ・グレイスに乗って、盛岡郊外にある鈴江家に行った。
「大変ご無沙汰しておりました」
と朋子が挨拶。お土産に『福うさぎ』を渡す。
一同は家の中にあげてもらって、まずは仏檀にお参りする。千里が「御仏前・川上青葉」と書いた封筒を仏檀に置いたが「何か厚そうだ」と思って彪志は見ていた。
お茶を頂き、手土産に持って行った“福うさぎ”を開けて頂いた後、仕出しが取られていたので、それも頂きながら本題に入る。
まず彪志と青葉を結婚させることは問題無く合意となる。
彪志は2019年7月6日、青葉にエンゲージリングを贈っており、青葉はお返しに彪志にオメガのスピードマスターを贈っている。それで結納式はもう今更省略することにした。
本来なら婚約した段階で挙式の日程など決めるべきだったのだが、青葉は当時、世界水泳、短水路選手権、インカレ、などの大会が目白押しで、代表合宿も続き、平行して卒論をまとめていてとても時間が無かった。更に東京オリンピックの代表有力候補だったのでオリンピックが終わってから具体的な話はするつもりだった。
ところがオリンピックは延期され、思いがけず金メダルを取ったので水連の説得でパリまで現役を続けることになった。それで結婚式も保留のままになっていたことを彪志と千里があらためて説明した。
本籍を置く場所について、桃香から現在彪志君が住んでいる浦和に置くというのではどうかという案が出され、お父さんが
「僕も考えていたけど、それがいいと思う」
と言うので、お母さんはやや不満そうだったが、それで合意に達した。
この戸籍の置き場所がやはり最大の問題だった、住民票も同じ場所に置くことで合意する。ただし青葉は仕事の都合もあり、北陸を離れられないので遠距離夫婦にならざるを得ないと千里が説明し、これもお父さんが
「やむを得ないでしょうね」
と理解してくれたので、これもお母さんは不満がありそうだったが合意に達した。
あとは“時期”の問題となる。
千里は、青葉が“公人”なので、できるだけ早い時期に、妊娠して水泳を一時期休むことを記者会見を開いて説明する必要があるので、できたらすぐにでも婚姻届けを提出したいと説明した。
「記者会見まで開かないといけないって大変だね!」
「オリンピックの金メダリストですからね〜」
しかしお父さんは理解を示してくれて、その場で、既に本人たちの分は記入されている婚姻届けの証人欄に、署名捺印をしてくれた。朋子も署名捺印をして、いつでも提出できる状態にする。
「結婚式はいつあげましょうか」
と朋子。
「結婚式も早めにやっちゃいましょうよ」
と宗司。
「いい日取りあります?」
「調べてました。取り敢えずこれは土日になる吉時です」
と千里がリストを見せる。
2022.07.31(日.先負.みつ) 6:45-18:46
2022.08.06(土.先負.なる) 13:01-18:41
2022.10.01(土.友引.みつ) 11:06-17:25
2022.11.26(土.先勝.なる) 8:58-16:29
2022.12.03(土.友引.たいら) 13:40-16:27
2022.12.25(日.友引.たつ) 8:43-12:09 16:14-16:33
「9月には、いい日は無いですか?」
とお父さんが訊く。
「9月はこれですね」
と言って千里は平日を含むリストを見せる。
2022.08.31(水.赤口.なる) 8:42-18:10
2022.09.02(金.友引.ひらく) 10:53-18:08
2022.09.06(火.赤口.みつ) 15:23-18:02
2022.09.07(水.先勝.たいら) 16:18-18:00
2022.09.29(木.赤口.たつ) 8:45-17:28
2022.10.01(土.友引.みつ) 11:06-17:25
「ま、実を言うと、青葉の関係者には芸能人が多く、芸能人は土日より平日のほうが助かるんですけどね」
「なるほどー!」
とお父さんは感心していた。
「これ結婚式さえこの時間帯に入っていたら披露宴は少し外れても大丈夫ですよね?」
と宗司。
「はい。ただの宴会ですから」
と千里。
「でしたら9月2日・金曜日の11時くらいに挙式で夕方から披露宴というのではどうです?」
と宗司は言った。
「確かに8月6日では慌ただしすぎますよね」
と朋子も言い、9月2日に挙式・披露宴をすることにした。そして婚姻届けは連休明けの7月19日(火・友引・みつ)にも提出することを決めた。またコロナがまだ落ち着かないので、披露宴はネット形式で行うことも決めた。
結婚式の場所としては“中間地点”という趣旨から、千里が名誉副巫女長を務める、越谷F神社でしようということになり、千里が辛島宮司に電話を入れて了承された。友引ではあるが平日の日中なので空いていた。
披露宴は越谷の小鳩シティの空いているスタジオを使うことにして、予約を入れた。103スタジオが取れた。ここならネット中継施設がある。
婚姻届けの提出日、結婚式・披露宴の日取りが決まった所で千里は青葉に連絡を入れ、青葉は石崎部長に連絡した。
「だったら水連への産休届は婚姻届けを提出した後で行おうか」
「はい、分かりました」
「記者会見する必要があるかも知れないよ」
「はい、それはやります」
7月16-17日(土日).
富山県内を複数の地区に分けて、各々の中で試合をする高校バスケットの地区リーグが行われた。会場はその地区の幾つかの高校に分散して実施される。
高岡地区には、高岡市内に10校、射水市に4校、氷見市に2校の合計16校の高校・高専があるが、今回の地区リーグには男子12校、女子10校が参加する。
日程は1日目は、比較的近くの高校同士で総当たり戦またはノックアウト方式の予選をおこない、2日目は予選の順位ごとに1位リーグ、2位リーグ、3位リーグ、4位リーグで順位戦をおこなうということになっている。
男子は12校なので、3校ずつの4つのリーグが行われた。女子は10校なので、H南高校の属する北部地区4校だけノックアウト方式(3決あり)、中部地区と南部地区は3校での総当たり戦となった。
4位校は明日は非公式参加のJ高専と対戦する。高専は現在共学化されているので女子バスケ部もある。このリーグに参加するのは2004年度以降生れの選手で構成したチームである。
春貴は金曜日の午後の練習で部員たちに登録名簿を提示した。この大会は18人まで選手登録できるがそんなに部員が居ないので登録したのは13名+3である。
4 谷口愛佳 153 PG
5 高田舞花 159 C
6 山口夏生 154 SF
7 竹田松夜 155 PF
8 原田河世 165 C
9 鶴野五月 152 PG
10 綾野美奈子 158 SG
11 高田晃 167 PF
12 砂井梨央 163 C
13 菓子弥生 161 F
14 山口一恵 158 PG
15 藤永弘絵 154 F
16 津田秋奈 162 F
-- 吉川日和 Trainer
-- 青木海里 Assistant Coach
-- 湖中弓樹 Manager
海里と弓樹は男子の選手18人枠には入れないので、こちらに連れてきてマネージャーおよびアシスタントコーチとして登録した。彼らは実はモッパー要員である!彼らも背番号を着けていない女子バスケット部のユニフォームを着せている。
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