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■春零(13)

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アクアは山村マネージャーが運転する“アクアのアクア”virgo で帰って行った。
 
この日のインタビュー撮影
 
9:30-11:00 スパイス・ミッション
12:00-13:30 ラピスラズリ
15:00-16:30 常滑真音
 
悠木恵美が運転する“舞音のアクア”から舞音が降りてきて、ケイとラピスラズリが迎える絵を撮影する。ラピスラズリはインタビューする側なので紫のワンピースを着ている。舞音は招き猫の着ぐるみ!である。着ぐるみのまま何とかシートベルトをしていた。
 
ラピスラズリが舞音を案内して玄関からサンルームに導く。ポスターはUFO, スパイス・ミッション、ラピスラズリ、常滑舞音となっている。
 
サンルームで青葉が歓迎する、青葉とケイの衣裳は前3人と変わらない。
 
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「自己紹介をどうぞ」
「常滑出身、常滑なめまね・招き猫の舞音きんでーす」
「猫ちゃんなの?」
「そうでーす」
「だったら君にはカリカリをあげよう」
「カリカリ大好きでーす」
「ホントに?」
「実は食べたことある」
「色々やってるなあ」
 

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「舞音ちゃんのデビューに至る経緯はほんとに偶然の連続だよね」
と朱美。
「はい。今考えても信じられないです」
と舞音。
 
「2021年のローズ+リリーさんのお正月ライブで、最初ライブのお手伝いにエーヨ(甲斐絵代子)を連れていく予定だったんです。ところが直前に彼女体調を崩して私が代役で出させて頂いたんですよね」
 
「このステージで舞を舞うシーンがあって、その舞がとてもよくできていて素人ではない、とケイさんの叔母様の若山鶴風師匠がおっしゃって。確かに私は小さい頃から日本舞踊を習っていたんですよ。それであんた名前あげるから名取り公演をしなさいと言われました。でもコロナの折、人を集めての名取り公演ができないので、あけぼのテレビで放送して頂けることになって」
 
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「その放送を偶然にも常滑市長さんが見ておられて、常滑出身のタレントさんが居るのなら、常滑焼きのキャンペーン曲を歌ってほしいという照会があって。それでCDを制作したら、常滑市・常滑焼きの関係者さんがたくさん宣伝して下さって思いがけずたくさん売れてしまって。それでこれだけ売れたら、もう正式にデビューしたことにしようと言われて。その後ひたすらミリオンが出て。昨年は夢のような1年でした」
 
「いやあ、ラピスラズリも最初は対抗しようと思ってたけど今ではすっすり諦めた。君は今、§§ミュージックの、北里ナナ、アクアに次ぐNo.3の歌手たよ」
「評価して下ってあがとうございます」
 
なんかどさくさ紛れに、北里ナナをアクアと別にカウントしてるし。
 
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「その後はCM曲の話がどんどん来るし、漁協さんのキャンペーンで『タイカジキ、カニエビ、イカタコ、サケマグロ』を歌ったら子供たちに人気が出て、童謡を歌う話がたくさん来るし」
 

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「今やCM女王だね」
「私、週に2回くらい何かのCMの収録とその曲の音源制作やってますよ。毎月のようにCD出してるけど、未収録曲がどんどん溜まっていってる状況で」
「ほんとによく舞音ちゃん見るもん」
 
「そういえば、君と七尾ロマンちゃんと薬王みなみちゃんの3人で作った“まろみ”という秘密組織があるとか」
と朱美は言う。
 
「そういう内輪ネタを」
と舞音は笑っている。
 
「まね・ろまん・みなみ、で“まろみ”なんです。私の名前が先頭にあるのは特に意味は無くて、この3音の組み合わせでいちばん発音しやすいからなんですけどね」
 
まろみ・まみろ・ろまみ・ろみま・みろま・みまろ、では“まろみ”が確かにいちばん言いやすい。
 
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「これは、いかにしてアクアを越えて自分たちが事務所のトップになるかという秘密組織なんですよ。朱美ちゃんも入りません?」
 
「それいいなあ。入れてもらおうかなぁ」
と朱美。
 

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「私は?」
とはるこが訊くが
 
「アクアたちを越えるということは、当然はるこも越えるということ」
「え?そうなの?」
 
「歌の上手さで、アクア・北里ナナの姉妹の次がはるこちゃんというのは、全員一致の見解」
と舞音。
 
「だから、はるこを越えてもまだ上にアクア姉妹が居るから、どうやってあの2人を越えるかとゆー相談だよねー」
と朱美が言っている。
 
「私は途中地点だったのか」
「そうそう」
「完璧に内輪ネタだね」
と朱美も笑っていた。
 

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「最近は舞音withスイスイというパターンも多いよね」
「そうなんです。姉妹歌手では甲斐姉妹のほうが先行していたんですが、甲斐姉妹はラピスラズリと一緒に歌う機会が多くて、私は当時暇だった水谷姉妹と一緒に音源制作することになって。童謡関係では完全に舞音withスイスイで定着しました」
 
「そうそう。私たちと甲斐姉妹の組み合わせも多い」
「ラピスラズリのCDでバックコーラスが甲斐姉妹というのも多いですよね」
「そうなんだよね。ルビーの音源制作にパール、夕波もえこ、ビーナが入るパターンも多いし。幾つか組み合わせが固定化してきてるね」
 
「ビーナちゃんは昨年夏は私やスイスイと一緒に童謡の制作をしたのですが、彼女の日程が詰まってきてもう無理になりました」
 
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みんなビーナのことは完全に女子扱いである。性転換手術を終えたらしいという情報も女子寮の全員に伝搬している。小学2年生の頃から女性ホルモン飲んでいたらしいという情報も男子寮を震源に女子寮まで伝わってきている。
 
青葉はビーナが男の子である(元男の子だった?)ことを知らない!
 
「あの子も忙しいよねー」
「うちの事務所で5指に入りますよね」
「うん。アクア、北里ナナちゃん、舞音ちゃん、私たち、次がビーナだと思う」
 
どうも朱美も舞音は“北里ナナ”をアクアと別にカウントする方式のようだと青葉は思った。ケイさんもその数え方に異義を唱えない。
 

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歌に行くことにする。濡れ縁を通りピアノ室に向かう。ラビスラズリの時はアクア、北里ナナ、姫路スピカ、白鳥リズムだったが、“アクア”が外されて北里ナナ、姫路スピカ、白鳥リズム、ラビスラズリのポスターが貼られている。
 
「このポスター誰が貼ってるのかなあ」
と、はるこが言う。
「きっとコスモス社長の秘密組織だよ」
と朱美。
 
青葉もケイも、本当にそうかもと思った。
 
今回は、はるこがピアノの前に座り、舞音は招き猫の着ぐるみを脱ぐが、その下にエドゥアール・マネの『笛を吹く少年』のコスプレをしていた。
 

 
舞音がファイフを取り出して前奏のメロディーを吹く。はるこのピアノが始まり、舞音は『マネがマネのマネをした』を歌唱した。
 
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演奏が終わり、朱美・青葉・ケイが拍手する。
 
「やはり舞音ちゃんコスプレ女王だ。招き猫の格好のまま歌うのかと思ったら、その下に別の衣裳があったとは」
「衣裳の重ね着多いです。夏は大変ですけど」
「大変だろうね!」
 

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ということで取材は終了した。これが16時半頃だった。
 
「皆さんお疲れ様でした。少し早いけど御飯食べてって」
と千里が言う。
 
「確かにお腹が空いた!」
と舞音が言っている。
 
「それだけ仕事してたらお腹空くだろうね」
「私毎日かなりたくさん食べてる気がするのに体重がほとんど変わらない」
「消費してるだろうね」
 
それでリビングに入って夕食を取った。これに参加したしたのは、青葉、千里、ケイ、ラピスラズリ、舞音、悠木恵美、の7人である。ほぼ§§ミュージック関係者だけなので、気楽な食事会になった。
 
「わあ、焼肉だ焼肉だ」
と舞音が喜んでいる。
 

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全員普段着に着替えた。舞音は招き猫柄のTシャツとスカートを着ている。
「この手の服、もらっちゃうからたくさんあって」
などと言っている。
「ここに来る時着てたセーラー服は学校の制服?」
と訊く。
 
「いいえ。女子高生っぽい服ということで選んだもので、うちの学校の制服はブレザーです」
「なるほどねー」
「ロマンちゃんがいつもセーラー服着てるね」
「あれで通学してるみたい」
「うん。あの子の高校は制服が無いから」
「制服の無い学校も結構増えてきた気がする」
「まあ制服が無いということは、男子がセーラー服を着てもいいということで」
「学生らしい服ならOKということになってるけど、セーラー服は間違い無く学生らしい服だもんね」
「実際セーラー服とか女子高制服っぽい服を着てる男の子いるらしいよ」
「へー」
 
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「そういう子、トイレとか更衣室はどうするの?」
「それぞれの状況によるらしい」
「なるほどねー」
 
女性度次第だよな、と青葉も思った。
 
ロマンの高校はかなり柔軟である。上田信希(上田姉)と同じクラスの大城令耶など一応女子用標準服を着ているが、実際には男にしか見えない。でも彼、ではなくて彼女は心が本当に女の子であることをみんなに認められているので、普通に女子トイレ・女子更衣室を使っている。
 
校外に出る時は、誰かが付き添って「病気で男っぽい身体付きになっちゃったけど間違い無く女の子」と証言してあげている。彼女は16歳の誕生日をすぎたところで親の許しを得て去勢手術を受けたので、もう男に戻ることはできない。
 
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リビングに中華料理で使うような回転卓が置かれている。各座席の前には一人用ホットプレートが置かれており、お肉は中央の回転台に乗っている。
 
「とやま牛のロース、モモ、カルビー、とやまポークのモモ、バラ、能登地どりのモモ肉・ムネ肉、長野県・安曇野のウィンナー、地元石川富山県産の野菜たくさん、自由に取ってね。無くなったらどんどん追加するから」
と千里は言っている。
 
食卓に就いている7人の間にはポリカーボネイトの透明板が置かれていて、回転台の上のお肉のトレイにもふたが付いているので、万一くしゃみなどをしても飛沫がお肉に付くことはない。そもそも焼いて食べるので安全度は高い。部屋の換気も良く、寒いくらいに風が通っていた。
 
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青葉の助手の真珠と初海が給仕係をして、御飯・お味噌汁のお代わり、またお肉の追加などをどんどんしてくれた。
 
「御飯も美味しい」
「石川県産の“ひゃくまん穀”です」
 
「大宮先生のご家族とかは、どこか別の部屋におられるんですか?」
と舞音が訊く。
「この家にはもうひとつリビングがあるから、そちらに居るんだよ。向こうは向こうで焼き肉してる」
と千里が!答える。
 

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「すごーい。リビングが2つあるってさすがですね」
「舞音ちゃんも家を建てたらリビングが7個くらいある家を建てるといいよ」
「どうやって使い分けるんですか!?」
 
「私の泊まる部屋を用意して。舞音を起こさないといけないから」
と悠木恵美。
「もちろん、もちろん」
と舞音。
 
「朱美ちゃんの家には調理係さんと、掃除係さんと、運転手さんが泊まりこんでいるという噂が」
と舞音は言う。
 
「調理係さんは居るけど通いだよ〜。マネージャーも通いだけど」
と朱美。
「マネージャーは絶対泊まり込みが楽だと思う」
と悠木恵美は言う。恵美は女子寮で舞音の隣の部屋を与えられている。
 
「それをやると、毎朝はるこを起こすという大変な作業まですることに」
「朝はマネージャーんが来るんじゃないんだ?」
「朝はドライバーさんが来て、夜はマネージャーの倉橋さんか東丸さんが送ってくれる」
「つまり、はるこちゃんを起こすのは毎朝、朱美ちゃんの仕事か」
「ごめんなさい」
「この子、低血圧だからね。だいたい毎日1時間掛けて起こす」
「朝起こし係を雇うべきだな」
 
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「そういえばUFOはコスモアイル、スパイス・ミッションは海王丸で撮影した映像と組み合わせるみたいだけど、舞音ちゃんは追加取材とか無いの?」
 
「高岡大仏の所で利長くんと遭遇したので、その絵を使うことにしました」
「ああ」
 
コスプレ女王とゆるキャラは相性がいい。
 
「ラピスは?」
「私たちは昨日UFOの取材が終わった後、各々の実家に帰る前に白尾灯台に寄って、そこで夕日をバックに撮影しました」
「そんなことやってたんだ」
 
「ということは、ラピスラズリも舞音ちゃんも後は帰るだけだね」
「そうなるみたいでーす」
 

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「美味しかったぁ」
といって、食事が終わったのが17時半頃である。
 
朱美が提案して、全員自分の食器は全部自分でシンクに持っていく。真珠と初海がホットプレートを片付ける。
 
千里が「万葉のハンガリー土産」と言ってチョコを配り、真珠と初海が紅茶も配って一息つく。
 
「じゃ18:10くらいに出るつもりでいようか」
と千里は言った。
 
「空港まで誰が運転するの?」
とケイが訊くと
 
「私が運転するよ。私も浦和に戻るから。火曜日からNTCで合宿だし」
 
と千里が言っているが、ケイも青葉も「白々しい」と思った。ふたりともここに居るのは1番で、合宿に参加する3番とは別の千里だと思っている。
 

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