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■春零(27)

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千里は腕を組んで考えた。
 
「晃君、女の子の身体になる前に何か変なこと無かった?夢を見るとか」
「夢だったら」
と言って、晃は一連の夢の話をした。
 
(1)6月18日に北信越大会に出た後、帰りに津幡アリーナで休憩した時、女子トイレに入っていたら、小さな女の子に咎められ、女子トイレを使う資格ができるようにペニスを卒業まで預かると言われてペニスが無くなった夢。
 
(2)その続きの夢と思われるが、ペニスが無くなったと言うと、父が粘土をこねてペニスを作ってくれた夢。
 
(3)その日の夜見た夢で晃は女子選手として試合に出ていた。そして学校の登録も女子に変更されて、生徒手帳も性別女と記載され、女子制服で写った写真が印刷されたものと交換された。
 
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(4)その後、奥村先生が出て来て「睾丸があるのに女子選手として出すのは問題があるから卒業まで睾丸を預かる」と言われて手術され、睾丸を取られて何か保存容器のようなものに入れられた。
 
(5)その続きで、姉が自分の股間をタックしてくれた夢。
 
(6)その続きで、母が自分の胸にブレストフォームを貼り付けてくれた夢。
 
(7)一週間後の6月27日に見た夢で、医師に『お姉さんの命令で性転換手術をします』と言われ、手術されちゃった夢。
 
(8)その続きの夢で、豪華な部屋に寝ていて、メイドさんから「あなたは性転換手術を受けて女の子に生まれ変わった」と言われ、お化粧もされて自分でも可愛いなと思った夢。
 

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「その7番目の性転換手術された夢が呪いだろうね」
と千里は言う。
 
「今思えばあの時『やっと見付けた』と言われたんです」
「君の居場所を見付けるのに苦労したんだろうね」
「あと手術される時に『睾丸は無いじゃないか』とか『このペニスはフェイクだ』とか言われたのですが」
 

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千里は腕を組んで考えていた。
 
「君のペニスと睾丸が無くなったのは呪いとは別口だね」
「え〜〜!?」
 
「恐らくはね、君に呪いが掛かろうとしていたから、呪いから君のペニスと睾丸を守るために君の守護霊が隠してしまったのだと思う。奥村先生、お父さん、お母さん、お姉さんとかは複数の守護霊が関わっていて姿を各々借りたのかもね」
 
「だったらぼくはどうなるんでしょうか」
「夢の中では卒業まで預かっておくと言われたの?」
「はい」
「だったら多分卒業したら戻って来る」
「それまではもしかしてペニスも睾丸も無いままですか?」
「無いと不便ある?」
「不便は無いと思います。ぼくそもそも立っておしっこしないし」
「じゃそのままでいいね」
と千里は言った。
 
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「質問なんですけど、晃はだったら卒業まで女子高生ですか」
と舞花が訊く。
 
「女子でもないね。女性器が全く無いから無性」
「女子の試合への出場資格は?」
「女性ホルモンをずっと摂取して体内のホルモン値を医療機関に記録してもらっていれば来年の秋くらいには出場資格が出来るかも」
 
「じゃ女性ホルモンを飲もう」
と舞花。
「女性ホルモン飲んでたら、おっぱいも大きくなって女の子のような身体になっちゃいますよね?」
と晃。
「まあそうなるよね」
「それ嫌です」
 
「君女の子になりたいんじゃないの?」
「なりたくないですー」
 
「女性ホルモン飲まない場合、身体のベースが男で女性ホルモンの数値が低いから女子としての出場資格は得られない」
と千里は言う。
「それは困る。女性ホルモンくらい飲みなよ。おっぱいは大きくしたいでしょ?」
と舞花。
「大きくしたくないよー」
と晃。
 
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「でもホルモンニュートラルは良くないですよね?」
と愛佳が言う。
 
「女性ホルモン飲まないなら男性ホルモン飲む?」
 
晃は少し考えていたがやがて言った。
「あまり男っぽくもなりたくないです。ぼく男の子たちとは話が合わないし。そもそもちんちん無いと男子としても差し障りがあるし」
 
「晃は女子生徒になっちゃったんですけど、また男子生徒に戻るんでしょうか」
と舞花が訊く。
 
「難しいと思うよ。どうしても男子に戻りたかったら転校するしかないと思う。せっかく女子生徒にしてもらったのに、やはり男子でしたと言えば、学校は“女子だった”というのが嘘だったと考える。そして女子のふりをして女子更衣室や女子トイレに侵入しようとていた犯罪者と思われるかもね」
「え〜〜!?」
 
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「つまり晃はもう今更男子生徒には戻れませんよね」
「うん。学校から犯罪者として告発される前に女子たちに半殺しにされるかもね」
「きゃー」
 
「だったら、晃、開き直ってもう女子生徒として高校生活を卒業まで送りなよ。卒業後のことはまた考えるとして」
と舞花は言った。
 
晃も少し考えていたが
「それしか無いか」
と言った。
 
「まあそれでも将来男の子に戻りたい気持ちがあるなら『恥ずかしくて女子トイレや女子更衣室を使えない』と言い続けて、3年間多目的トイレ・面談室での着替えをずるずると続けるかだね」
 
「その路線で行きます!」
と晃は言った。
 
やはり本人としても、少なくとも今の段階では女の子になりたい訳ではないのだろう。
 
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「でもどっちみち、そのタックの状態はまずい。それ割れ目ちゃんだけでも私が本物に変えてあげるよ」
「結局ぼく女の子になるんですか」
「形だけ形だけ(だったらいいね)」
「ちんちんが付いてるの人に見られたら、翌日には刑務所行きたね」
と舞花。
「仕方ない。お願いします」
と晃も言った。
 
それで千里は晃の“性別軸”を調整し75度(*46)くらいに設定する“予約”をした。ただし75度ではバストがとても小さいのでバストだけ少し大きくするようにした。実際の性別軸の変化は2時間後に発動するように設定したので、晃にはすぐ帰宅して寝ているように言う。
 
「私が送ってってあげるよ。愛佳ちゃんも一緒に」
「済みません」
 
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それで千里は3人を自分のCX-5に乗せ、まずは高田家に行って、舞花と晃を降ろした。その後で谷口家に行き、愛佳を降ろした。
 

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(*46) 性別軸略図
 
筆者もわりと“感覚で”書いていたのだが、これまでの記述とできるだけ矛盾が“少ない”ように図にまとめてみた。
 

 
内側から、卵巣/睾丸、陰核/陰茎、陰唇/陰嚢、バスト、の状態。
 
0度が女性で180度が男性。270度は“ふたなり”でペニスもヴァギナもある。ペニスは立ちにくいが丸山アイは根性で立たせる。90度はペニスもヴァギナも無い“無性”。但し90度には陰裂がある。140度が外見的に何も無い“天使”状態。
 
デンデンクラウドは最初ペニスのある285度にしたがバストがあるのが困ると言われてバストの無い120度に再設定した。結果的に立って排尿できなくなった。
 
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150度が男の娘の角度。未熟な男の子。150-210度が男性の範囲だが、180度を越える角度ではバストがあり、女性ホルモンをしているMTFさんと似ている。
 
邦生は175度になっていて、男性ではあるが男性機能も弱いし男性ホルモンも弱い。彼は胸だけ30度になっていて、わりとバストがある。更に津幡姫の手で勝手にヴァギナを作られてしまった。ヴァギナだけで卵巣や子宮は無い(と思う。多分)。
 
75度は未熟な女の子の角度。晃はこの角度に設定した。生理はあるが妊娠まではできない。千里は彼のバストだけ40度に移動した。彼のペニスは津幡姫が卒業まで預かる(と姫は言っている。後述。でも気まぐれな人なので危ない)。
 

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7月21日(木).
 
高岡C高校では、緊急の会議が開かれていた。高岡C高校の女子バスケットボール部は7月26日から始まるインターハイに参加するため、24日には香川県高松市(石川県の高松ではない!)に移動する予定である。
 
ところが女子バスケ部の監督・矢作先生が、半ば壮行試合と思っていた日曜日の地区強化大会中に倒れて病院に運ばれ、18-20日も入院している。家族の話では意識不明の状態が続いており、原因も不明で回復の見込みも不明だというのである。
 
それで矢作監督が行けない場合、代わりに誰に引率してもらうかを、校長・教頭、男子バスケット部の天龍先生を含め、バスケットの少しでも分かる先生たちに集まってもらって協議していた。
 
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ところが、その矢作先生から10時頃「退院できそう」という連絡が入ったのである。そして本人はお昼近くになって職員室に姿を見せた。
 

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「矢作先生!お身体はどうですか?」
と教頭が訊く。
 
「どうもご迷惑おかけしました。何かよく分からないんですけど、昨日の夕方急に回復したんですよ。最初事態が把握できなかったんですが、あんた倒れてずっと意識不明だったと言われて『嘘!?』と思いました」
 
「大丈夫ですか?」
 
「私個人的にもどこも調子の悪い所が無いので、そのまま退院したかったけど、医者が朝になってから検査してからでないとダメと言って、今朝からあれこれ検査されました。でもどこにも問題は無いということになって退院許可が出たので、退院しました」
 
「原因とかは何だったの?」
「分かりません。でも体調は万全だからもう大丈夫ですよ」
「じゃ無理しないように」
「はい、ありがとうございます。終業式にも出られなくて申し訳ありませんでした」
 
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学校では何かあった時のために、長柄先生にも同行してもらうことにした。長柄先生は以前の学校でバスケット部の指導をした経験がある。
 
インターハイの運営に確認したら、病気から回復したものの不安があるので同伴者を付けたいということなら、矢作先生の泊まる予定の部屋にエクストラベッドを入れて一緒に泊まってもらう対応は取れるということだったので、それでお願いすることにした。それで同室できる女性の先生で、できるだけバスケのことが分かる人にお願いということにしたのである。
 

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7月21日(木)。千里は舞花・晃とファイアーバードで午前中に待ち合わせた。千里は2人を“道場”の方に入れた。
 
「身体のほうはどうなった?」
「千里さんに言われたように、20時半頃になって気分が悪くなって寝てました。1時間ほどで体調は戻りました。お股を確認すると、タックではなく本物の割れ目ちゃんになってました。これ生理来ます?」
 
「来ると思う。でも卵巣の機能が弱いから妊娠までは無理」
「卵巣があるんですか〜?」
「今度は他人からの借り物ではなく、君自身の卵巣だね」
「ひゃー」
 
「女のお股に触りたい放題だね。いいでしょ?」
と舞花。
「お姉ちゃんも性転換して女の子になる?」
と晃。
「興味はある。性転換しちゃおうかなぁ」
と舞花。
 
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「それで晃は女子ですよね?」
と舞花が確認する。
 
「暫定的にだけど、間違い無く女子」
「だったら女子の試合に出られますよね」
「出られる。全く問題無い」
 
「よし。ウィンターカップには出てもらおう」
「え〜〜!?」
 
まあそのあたりは春貴が判断するだろう、と千里は思った。
 
「但し女子になったのに合わせてそれなりに運動能力とか体格は落ちているはずだからね」
「え〜〜!?」
 

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千里は今度時間が取れる日でよいから、金沢に一緒に行ってその“石碑のようなもの”があった場所を教えてほしいと言った。
 
「かなりデタラメに歩いて辿り着いたから分からないかも」
「でも試してみよう」
「分かりました。今日でもいいですよ」
「よし今から行こう。」
 

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志望は、意識を回復しない浅子の枕元で、ずっと語りかけていた。出会った頃の思い出、一緒に苦労した様々なこと、そして子供が産まれた時のことや、子供がこんなことしてくれて嬉しかったよなあ、などといった話、をたくさん語りかけていた。
 
妻は眠っているように見えて全く反応が無い。しかし語り続けていた。
 

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