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【春二】(6)

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その日初海は来年春から就職する予定の企業に行き、説明会に出席した。そのあと、〒〒テレビに行く。通用口で入館証を提示するが守衛さんは誰かアイドルっぽい女の子とそのマネージャーさんみたいな人と話しており、初海の入館証を見もしない。でも咎められないし、いいだろうと思って中に入る。そして『霊界探訪』の編集部に行こうとしたのだが・・・
 
「あれ?なんでこんな所に出るの?」
ということで局内で迷い子になってしまったのである。
「おかしいな。こんな狭いテレビ局内で迷うなんて」
 
それで20分ほど悪戦苦闘していた時、人形美術館の遙佳・歩夢姉妹に遭遇する。
 
「こんにちわー」
「こんにちわー」
と挨拶を交わす。
 
「編集部に行くの?」
「美大のイベントがあったんで見に来たんですよ。そのついでにと思って」
「うん。いつでも来てね」
 
と言いながら歩いていたら『霊界探訪』の編集部にすぐ着いちゃった。
 
あれ〜何私迷ってたんだろう?と初海は思った。
 

編集部に行くと、妹の双葉が手を振っている。ほかに明恵もいた。
今日はおやつに中田屋の“きんつば”があるので
「豊作豊作」
と言っていただく。ここはいつもおやつが豊かである。
 
食べていたら幸花(一応ディレクター)が入ってきて
 
「ネダは、ね〜が〜」
と言っている。
 
「幽霊屋敷探訪でもやります?」
「それドイルさんが居ないとマジでやばい幽霊屋敷があるから」
「近寄るだけで危険ってとこありますもんねー」
 
「寺社探訪は以前やってるしなあ」
「寺社はたくさんあっても霊界探訪で取り上げたいような寺社はそう無いんだよね」
 
そんなことを言ってたら真珠が入ってきて言う。
 
「南砺市で§§ミュージックの大型時代劇の撮影やるけど取材に行きます?」
「行く行く!」
 

それで南砺市の水田で撮影している様子を撮影させてもらった。
 
ここで取材許可が出たのは、『霊界探訪』は石川・富山では12月中旬に放送されるので大型時代劇の前宣伝になる。そして他地域では1月に入ってから放送されるので舞台裏を流す感じになってちょうどよい効果になるのである。
 
取材班はロケ現場の他、津幡北体育館内に作られたセットの様子や、別館に作られた台詞録音スタジオの様子なども撮影させてもらった。
 
ちなみに、真珠はこの制作の中でTIFのメンバーの1人として忍城の守備兵の役で甲冑を着けて戦闘シーン、開城シーンに出演している。初海は取材に行ったつもりが「君も参加しよう」と言われて、やはり戦闘・開城シーンに加わった。明恵、双葉、更にはたまたま顔を出しただけの川口遙佳・歩夢姉妹も参加して、結局幸花が撮影した。
 
「初海ちゃん、凄く上手いね」
「剣道、小学4年生までやってた.中学と高校の体育でもやった」
「おお経験者か」
「お兄ちゃんの防具と竹刀を借りたけど」
「ああ、そのお兄さんもお姉さんになったんだっけ?」
「そうそう」
 
兄貴今頃ちんちんに痛みを感じてないかな?
 
「双葉ちゃんも元男の娘だっけ?」
「ああ、ぼくは手術はまだなんだよ。高校出てからと言われてる」
 
などと双葉はノリで言っている!
 
「あ、そうかもね」
「一応18歳になったら手術可能になったけどね」
「でも玉は取ってるんでしょ?」
「うん。中学に入る前に取ってもらった」
「やはりそうだよね。双葉ちゃん、天然女子かと思っちゃうくらいだもん」
「ああ。だいたいパスしてる」
「そうだよね」
 
初海はパスしてない?
 

「だから中学も高校も女子制服で通学してるし」
「えらーい」
「うらやましー」
「最近はけっこう学校も柔軟だよね」
 
「でも3人兄弟が3人姉妹になっちゃうって凄いねー」
 
遙佳は「うちの広詩は大丈夫だよな?」などと思っている。
 
「ついでにお父さんまでお母さんになっちゃったというのも聞いたことある」
「ああ、それも何度か聞いたことある。長年性転換したいのを我慢してたのを子供が独立したのを機会に実行するパターンだよね」
 
「アメリカで一家揃って性転換したってのが報道されてた」
「それは凄い」
「息子は娘に、娘は息子に、父が母に、母が父に、変わっちゃった」
「へー」
「それ生殖器を融通できないのかな」
「難しいと思うなあ。拒絶反応起きるよ」
「捨てちゃうの、もったいないねー」
「ペニスはたぶん移植可能」
「あ、それはいけると思う」
「ペニスっていい加減だからくっつきそう」
「それと生殖細胞は融通できるだろうけどね」
「あ、それは絶対やってるよね」
「うん。冷凍精子・冷凍卵子作ってると思う」
 

千里2Aが9月27日(火)に夕月を出産し、それに付き添った妹の玲羅(30)は翌日28日夕方に来た時と同じBeachJet400XPRで丘珠空港に帰還して行ったが、それと入れ替わりに千里の両親、武矢(61)・津気子(55)がこの飛行機の折返しで熊谷まで飛んできた。千里の“表の”ドライバー・矢鳴さんが迎えに行ってくれて、千里と夕月が入院している病院に連れて行った。
 
津気子としてはもっと早く来たかったのだが、あまり大勢で押しかけても邪魔だろうということで“役に立つ”玲羅に任せたのである。2人とも“何人目かよく分からないが”孫の誕生に、はしゃいでいた。
 
千里と夕月は出産の1週間後の10月4日(火)に退院した。武矢と津気子も朋子とともにこれに同伴した。(貴司が運転するランクル使用)
 
武矢・津気子滞在中の部屋割り(2022.9.29-10.7)
 
101(和室6) 千里2A・夕月・サハリン
102(和室6) 彪志
103(4.5J) 桃香
201(6J) 貴司・京平
202(8J) 早月・由美・緩菜
203(6J) 朋子
204(6J) 武矢・津気子
205(4.5J) プリマ
2SR(防音室)
 
(部屋割を決めてるのは多分千里3。↑とかかなり政治的)
 

武矢と津気子は浦和の家でも孫たちとたくさん遊んで楽しそうだった。
 
「どれがうちの孫だっけ?」
と武矢が訊くが
「私もよく分からないから全員孫でいいんじゃないですか?」
と朋子が言い、それでいいことにした。
 
「だいたい複数の家族が共同生活してますしね」
「何組の家族がいるんだっけ?」
「さあ」
 
「まお男の数を数えてみればだいたい分かる」
と千里が言う。
「ああ、それはうまい手だ」
と桃香。
「男の数というと?」
と貴司が訊く。
「貴司に、彪志君に、桃香だね。3家族じゃないかなあ」(*58)
と千里。
「私も男なのか」
「似たようなもん」
 
朋子が笑って頷いている。
 

(*58) 数え方が難しいが、4家族ではないかと思われる。
 
(細川家)貴司・千里2A・京平・緩菜・夕月
(鈴江家)彪志・(青葉)
(高園家)桃香B・千里1・早月・由美
(村山家)千里3
 
だから桃香を男に数えるとだいたいうまく行きそうだ。
 
戸籍上は“川島家”もあるが、川島由美は遺伝子的には桃香の娘だし戸籍上の母である千里1は桃香Bと事実婚したので高園家(桃香・早月)と合体したと思われる。
 
この他に龍虎たちの部屋が用意されている。元々は龍虎Fが妊娠した場合にマスコミの目に触れることがないように秘密に出産させるための部屋でMの部屋はついでだったが、今年初めの増築時にFの要望によりNの部屋も作った。
 
また玲央美や冬子がプールで泳ぎに来ることがあるがゲスト扱いでよいと思う。プールに入れる人は地下のトイレやお風呂が使える。
 

墓場劇団のネット公演は本来10月1日(土)に放送予定だったのだが、ΛΛテレビの大型時代劇の制作に協力したため準備できなかった。そのため今月は生中継をお休みし、代わりに2年前に上演された『セーラー服とニンジンジュース』の録画を放送した。なんとカノン(槇原歌音)のデビュー作である。まだ初々しい歌音の熱演が多くの視聴者に反響を呼んだ。
 
「歌音ちゃん、この時点で既に女の子にしか見えない」
「きっと小さい頃から女の子として育ってたんだろうね」
「この子きっと学校にもスカート穿いて登校してるよ」
とみんな勝手な噂をしていたようである。
 
歌音本人も「凄い。女の子にしか見えない。ぼく熱演してる」と自分の“女らしさ”に呆れていた。
 

松崎元紀(月城すずみ)は10月3日の朝、女性の服を着て顔は化粧水・乳液の後カラーリップだけ塗って、ドキドキしながら大学に出て行った。
 
教室に入っていき適当な席に座る。何か言われるかなあと思ってドキドキしている。そこに、同級生の皆川さんが入ってくると、元紀の近くに来て声を掛けた。
 
「おはよう、松崎さん」
「おはよう、皆川さん」
「今日の松崎さんの服可愛いよ」
「ありがとう。皆川さんのもそれいい服だね」
「ああ、分かる?つい買っちゃったから取り敢えず大学に着て来てみた」
「実は私も。通りがかりに見かけて可愛い!と思って」
「うんうん。でも久しぶりに大学に出てくるのに、なんか休み癖が付いてて今日はしんどかった」
「私も!」
 
ということで、元紀は他の女子ともなんかごく普通に会話してしまった。誰も元紀が“女性の服”を着ていることには何も言及しなかった!
 
なおこのクラスは35人の学生の内8人(元紀を入れると9人)が女子で、その内時間ギリギリで入ってきた2人をのぞく6人と元紀は声を交わした。
 

一時限の授業が終わりトイレに行こうと思ってトイレの前まで行くが、そこでハッとする。
 
私女子トイレに入っていいのかなあ。
 
そこで悩んでいたら皆川さんが来る。
「あれ?トイレ満杯?」
と声を掛ける。
 
「あ、いやその・・・」
 
彼女はトイレのドアを開けて中を覗く。
 
「今列できてないよ。入ろ入ろ」
と言って、彼女は元紀の手を握ると一緒にトイレに入ってくれた。彼女の手が柔らかくて『わあ女の子の手だ』と思った。
 
それで元紀は彼女とおしゃべりしながら順番を待つ。待っている間に何人か入ってくる。でも何も言われない。やがて個室が2つ続けざまに空いたので各々の個室に入った。
 
こうして元紀の“女子学生初日”はごく普通に始まったのであった。
 

女子学生たちの陰の会話。
 
「元紀ちゃん美しくなってたねー」
「いや、ああなるのは時間の問題だと思ってた」
「手に触った感触が完璧に女の子の手だったよ」
「きっとずっと女性ホルモン飲んでたのね」
 
「喉仏が無くなってた。あれ削ったんだと思う」
「声も女の子らしい声になってた」
「きっと発声の訓練受けたんだと思う」
「睾丸は既に取ってるよね」
「それは間違い無いと思う。“男の子の臭い”がしないもん」
「どちらかというと“女の子っぽい匂い”がする」
「今体質を女性化している最中だと思う」
 
「女子トイレの使い方ちゃんと分かってるみたいだった」
「最初から“男の子ではない”とは思ってたけど“女の子”になっちゃったみたい」
「今度から女子の飲み会に誘ってあげようよ」
 
(↑君たちお酒は20歳からだよ)
 

元紀が教室で3時間目の授業が始まるのを待っていたら後ろから何かされる。
 
「わっ」
「動かないで。動かないで」
と松元さんの声。
 
「うん」
と答えてしばらくじっとしてる。
 
「イヤリング着けてあげたよ」
「あ、ありがとう!」
 
手鏡で見てみたら、キリンが逆さまにぶらさがっているイヤリングである。
 
「可愛い」
「気に入ったらあげる」
「ありがとう」
 

翌日(10/4 tue)は同じような感じで両手の爪にマニキュアされちゃった。
 
「ねね、松崎さんのこと下の名前で呼んでいい?」
「うん。もちろん」
「“もとのり”ちゃん?」
「できたら“もとき”で」
「OKOK。“もとき”ちゃんね」
 
「私たちのことも下の名前で呼んでいいからね〜」
「了解。そうさせてもらう」
 

火曜日の午後は体育があった。元紀は後期はサッカーを選択している。元紀が更衣室の前でもじもじしていたら(蒲池)聖美ちゃんが来て
「元紀(もとき)ちゃんどうしたの?」
「えっと」
「入ろ入ろ」
と言って彼女が元紀の手を握り、一緒に女子更衣室に入った。それで一緒に着替えたが誰も何も言わない。そのうち(皆川)蔦代ちゃんと(相沢)雪江ちゃんも来て4人での会話になった。4人はごく普通のおしゃべりをしていたのだが、他の3人が元紀のバストが結構あるのと、ショーツのフォルムがすっきりしているのをしっかり見ていることに元紀は気付かなかった。
 
この日は
「男子vs女子で試合をします」
と言われる。
 
「たまに見た目で男女の違いが分かりにくい人がいるから女子はビブスを着けてね。なお性別は自己申告ね。大谷翔平みたいなマッチョな身体持ってても、自分は女と思ったら女子に入っていいからね」
と言って教官は笑いを取る。
 
すると高校までは柔道やっていた185cm/90kgの森田君が
「じゃ俺女子に参加しようかな」
というので
「歓迎歓迎」
という声が女子たちの中からあがる。他に教官自身も女子の方に加わった、ちょうどいいハンディになったようである。元紀は(松元)典実ちゃんから
「はい」
とビブスを渡されてもちろん女子に参加した。
 
ゲームは森田君大活躍で彼が2点もあげ、元バレー部の(笹原)良美ちゃんも1点取って女子が勝った。
 
「森田君、このまま性転換手術受けて本当の女子にならない?」
「考えてみようかな」
 
「手術受けていいよー。私、ビアンもいけるから」
と森田君の彼女である(高林)玲花ちゃんが言っていた。
 

さて、彪志は10月10日の夜(正確には11日の午前0-2時頃)突然女の身体になってしまったのだが、股間の形が変わり、バストができたほかに幾つかの変化が起きていた。
 
・ヒゲは全く生えなくなった。性変が起きる直前に生えていたハズのヒゲも無くなっていた。毎朝ヒゲの処理をしなくてもいいのは楽〜と思った。
 
・スネ毛・お腹の毛も無くなっていた。その後、生えてきたりもしなかった。脇の毛は残っていた。つまり女性の身体にもあるような毛だけが残り、女性にはあまり無い部分の毛は無くなったようである。毛の無いスベスベした白い足を見て、ついうっとりしてしまった(←危ない傾向)。
 
・身長が1cmくらい縮んだ気がするが、その前の身長を測ってないので不確か。しかし足のサイズは明らかに小さくなっている。今まで26cmの靴を履いていたが、少し空きがある気がした。靴屋さんで確認したら25cmの靴が入ることが分かった。体重も2-3kg減った気がするが通常の変動の範囲かも。
 
・ウェストがぐっと細くなった。メジャーで測ってみると、69cmだった。もしかしたらお腹の肉が無くなった分、バストが大きくなったのかも。またお尻のサイズが大きくなっていた。
 
・長年抱えていた肩の凝りが消えた。ただし一時的なものかも。
 
・足にあった傷跡が消えている。これは小5の時にトラックに轢かれた時のものだった。この事故で彪志は睾丸の機能を失いペニスが立たなくなったが“睾丸をもらう夢”を見た後機能復活しペニスも立つようになった。
 
・肩が少し撫で肩になっていた。それで肩掛けのバッグが掛けにくい。また腰の骨が少し大きくなった気がする。つまり女性的な骨格に変化している。俺この骨格なら妊娠できるかも、とチラッと思った。
 
腰の骨の形が変わったのもヒップサイズが大きくなった要因という気もする。ズボンがきついので、悩んだあげくレディスのスラックスを買って穿いている。(レディスを穿いていてもそもそもペニスが無いので、排尿で悩むことは無い)
 
また、喉仏が無くなったまま、千里さんに?男の声が出るようにしてもらったが、その後、女のような声も出せることに気がついた。両者は「スイッチを切り替える」ような感じで変更できる。つまり今彪志は両声類の状態にある。
 

10月15日(土)、
 
藤弥日古(広瀬のぞみ)は母が運転する日産ノートで宮崎市に出た。市内の大学に通うためアパートに住んでいる井寿海(いずみ)の元を訪れる。
 
「こんにちはー」
「あ、お母ちゃん、弥日古?」
「すっかり女らしくなって」
「いやそれはこっちのセリフ」
「まあこれで私たち4姉妹になったね」
「まあ、弥日古が女の子だったのは子供の頃からだったけど」
 
という訳ですっかり女性化している“元長男”の井寿海に会いに来たのである。
 

「これ振袖ができてきたから」
と言って弥日古が箱を渡す。
 
「わあ、ありがとう」
「さっそく着てみよう」
「待ってトイレ行ってから」
 
それで井寿海は元恵の手で1時間半掛けて振袖を着付けしてもらった。
 
「きれーい」
 
井寿海は姿見に映して感動している。弥日古が記念写真を撮ってあげた。母と並んでいるところも写す。弥日古と並んでいるところは母が写した。
 
「本番では美容師さんに気付けしてもらったほうがいいね.私の着付けではたぶん30分しかもたない」
「早めに予約しておかないと予約いっぱいになってるからね」
「うん。でも予約受け付けてもらえるかなあ」
「普段行ってる美容室に相談してごらんよ。早朝とか前日夜遅くで他のお客さんとあまりぶつからないような時間帯ならしてくれるかもよ」
「あ、そうかもね」
 
実は井寿海に振袖をプレゼントしようというのを弥日古と真理奈で計画したのである。
 
井寿海は身長が174cmあるため既製品でもレンタルでもこういう身長の人向けのものはなかなか無い。しかし東京の呉服屋さん?で高身長の人の振袖を2ヶ月程度で作ってくれるお店を176cmの品川ありさが紹介してくれた。それでその費用を2人で負担してあげたのである。
 
寸法は母に測ってもらい、デザインは定型デザインの中から本人が選んだ。そして8月上旬に注文したのでまだギリギリではなかったことから、なんとか10月中に仕上がった。
 

「でも思ってたより、いい振袖だね。高かったでしょ?」
「まあ出世払いで」
「うん。就職したらボーナスとかで返すよ。でもこれインクジェットプリンタじゃないみたい。80-90万しなかった?」
「いや、インクジェットだよ。だから40万円ほど」
「うっそー。友禅かと思った」
「この商品は友禅の工程に準じて作るけど、手作業で染めるところだけをインクジェットで染めた物」
「へー!!」
「だから手描きや型押しに比べると制作が速いけど、普通のインクジェットより時間がかかる。でも普通のインクジェットとは模様の深みが違うよね」
「なるほどー」
「このお店はかなり大きな生地とかも用意してて、身長2mの人の振袖作ったこともあると言ってた」
「凄いね!」
と言ってから、井寿海は
「やはりそれ男の娘さん?」
と訊く。2mってバスケかバレーの選手だろうかと思う。
 
「外人の女の人だったって」
「外人さんか!」
ということで納得した。
 

10月20日(木).
 
元紀は「たぶんダメだろうな」という気持ちで法務省のサイトを見た。
 
え?
 
手元の受験票と、ディスプレイに表示されている番号を見比べる。
 
・・・・
 
「いやきっと勘違いだ。少し時間を置いて見直そう」
 
と呟くと、元紀はバッグを持ってコンビニまで行き、コーヒーとサンドイッチを買ってきた。そしてコーヒーを飲みながらサンドイッチを食べた。
 
トイレに行ってくる。
 
お風呂にお湯を溜めて入浴する。
 
最初にサイトを見てから約2時間後、元紀は再度サイトを見た。ひとつずつ数字を見比べる。
 
「うっそー!?信じられない!」
 

元紀は真和にメールした。
 
「このサイトを開いて、この番号が合格者一覧にあるかどうか確認してくれない?自分1人では不安で」
 
真和からの返信は5分後に電話が掛かって来た。
 
「確かにあるよ。おめでとう!」
「ありがとう」
「これで合格?」
「いや。あと口述試験があるけど、これに落ちる人はほとんど居ない。でも緊張したりして落ちる人が毎年10人くらい居るんだよ」
 
「緊張なら、お姉ちゃん大丈夫だね。たくさんドラマに出て度胸付いてるもん」
「あ、そうだよね。でも油断したらいけないから頑張る」
 
「うん、頑張ってね。合格したら弁護士になれるの?」
「いやこれで司法試験の受験資格ができるから、それで来年司法試験を受けてそれで合格したら司法修習を受けて最後に“2回試験”に合格したら法曹資格が取れる」(*59)
「大変だね!でも頑張ってね。再来年には女弁護士だね」
「あ、そうだね」
 
元紀は嬉しいというよりあまりの驚きに電話を終えた後、放心状態だったがハッとしたように予備校から提供されているAIによる想定問答練習に取り組んだ。
 

(*59) 司法試験を受けるのには2つのコースがある。
 
ひとつは法科大学院を修了する方法。
 
もうひとつは司法試験の予備試験を受ける方法。
 
実際には、後者を選ぶ人が多い。それは次のような理由による。
 
・法科大学院を出るまでに物凄いお金と時間が掛かり、貧乏な学生には無理。
 
・法科大学院で教えている内容が全く役に立たず「時間と金のムダ」という意見が根強い。
 
この背景には元々法科大学院という制度が法曹界の声を聞かず政治家や経済界の要請に応えて作られたという現場無視のシステムだったというのがある。そして大学の先生たちは法曹の現場を分かってない。
 
現状、法曹資格を目指す学生は、毎年予備試験を受ける。それで予備試験に合格したら翌年司法試験を受け、合格したら大学を中退して司法修習生になり1年間の修習を受けて「二回試験」に合格すれば法曹資格を得られる。
 
大学2年生(20歳の年)で予備試験に合格した場合、3年生(21歳の年)で司法試験を受け、そこで合格したら大学を中退し22歳の年に司法修習を受け、二回試験に合格すると法曹資格をもらえる。
 
一方毎年受けている予備試験に合格できないまま6年間法学部・法科大学院に通って卒業し司法試験の受験資格を得た場合、司法試験を受けられるのは25歳の年である。こういう学生はなかなか司法試験にも通らない。5年たつと司法試験の受験資格を失う。すると29歳の年に、何の資格も無い状態で仕事を見付けなければならなくなる。大学・大学院時代に受けた奨学金はこの司法試験に挑戦している間にも返済を始める必要がある。また司法試験に合格して司法修習生になったとしても二回試験に落ちて「振り出しに戻る」者が毎年100人くらい出ている。
 
更に法科大学院出身者の司法試験合格率があまりに低い。2023年の司法試験の場合、法科大学院の修了者または在学者の受験者数は3575人で合格者数は1454人(合格率40.7%)。これに対して予備試験ルートの受験者数は353人で合格者数は327人(合格率92.6%)。実力差は歴然としている。また司法試験に通った後の司法修習の場からは法科大学院出身者の実力不足を指摘する声まである。
 

法曹資格を目指す人が大学の授業より重視しているのが法律予備校である。予備校の授業は実践的であり、みっちり鍛えられる。元紀も予備校に籍を置いており、ダブルスクールしている。現状、予備校に行かずに司法試験にパスし、その後の司法修習をこなすことは非常に難しい。予備校に行ってなかった人は司法修習のまず最初の予備修習で躓く。予備校での指導無しでそれを通過することはほとんど不可能である。
 
一方法科大学院制度ができた後多数できた法科大学院で「卒業生の司法試験合格率が低すぎる」として文部科学省から注意を受けた所が多く、また次々と閉鎖に追い込まれている。
 

そういう訳で法曹資格を目指す学生は、大学に入ると毎年予備試験を受ける。予備試験は、短答式・論文式・口述試験と3段階になっている。
 
元紀は入学1年目の今年、まず5月に短答式を受験し、合格した(合格率22% 採点対象者12882 合格者2829)。これは自信があったが次の論文式は通らないだろうなと思っていた。
 
論文式は7月9-10日に行われた。元紀はその直後に『竹取物語』の制作で東京に出て来たが、これは騒音が大きなアパートよりも、東京の宿泊所のほうが集中して勉強できるのではという思いもあった.実際元紀は東京にいる間、ドラマなどに出演する時以外、ひたすら勉強していた。元紀は正直今年論文式に合格できるとは思えなかったものの、来年に向けて基礎を鍛え直すととともに、“万一”合格していた場合にも備えて、口述式の準備もAIを使ってたくさん練習していた。
 
そして10月20日論文式の合格者が発表され、元紀は通っていたのである。(合格率18% 採点対象者2679 合格者481)口述試験は11月5-6日に行われる。
 

(*60) 2023年度から、法科大学院の2年生(法学部以外の出身者は3年生)も司法試験を受けられることになった。結果的には法科大学院の存在意義がほとんど無くなったと思う。
 

10月22-23日(土日)は(富山県高岡市)伏木の青葉家で“ミュージシャンアルバム”の制作をした、先月の制作の最後で取材した羽田小牧ちゃん(2007 中3 2020.4 debut)が、12月11日の放送予定で年内最後になるが、今回の取材者が1月15日放送予定で2023年のトップバッターになる。選ばれたのはビンゴ・アキちゃん(2005 高2 2020.1 debut)であった。
 
ビンゴアキは本当は3月31日に取材するはずだったが青葉が『霊界探訪』スタッフにより拉致されて!キャンセルになっていた。その後アキが忙しいこともあり、なかなかタイミングが取れなかったのがやっと取材できることになった。
 
さて2022最終の羽田小牧と2023最初のビンゴアキは、ふたりとも地名を2つ並べた名前の構成も似てるし、デビュー時期も近く、当初はよく混同された、羽田小牧に出演依頼があり行ってみると女性衣裳が用意されていたなどということもよくあった。
 
もちろん女役の仕事で今更交替もできないので不本意に女役を演じた。それで上手いと褒められた。誰も彼が女性でないとは思いも寄らなかった!それで益々女役のオファーが多数舞い込んだ。
 
また2人は共演も多く仲もいいので、一時期はファンが勝手に恋愛要素を想像することもあったが、2人は「お友達です」と宣言しており、現在はファンもそれで納得している。
 
これは小牧が「半分女の子みたいなものだし」というので勝手に納得された面もある。初期の頃は女装させられる仕事も多かった(というよりほぼ100%だった)が現在は全部断っている。それでもうまく欺されて!時々女装させられている。女装すると普通に女の子にしか見えない!
 
小牧は割と女性楽屋に放り込まれてしまい、仕方無いのでそこで着替えるというのもよくある。可愛いから女性楽屋に居ても“お姉様”たちに可愛がられている。本人もそれをネタにしている。彼は女性タレントとのサイン色紙交換数がとても多い。
 
取材ではそのあたりも結構話していた。
 

「アキちゃんのファースト写真集の『ビンゴ・ポン』にはスカート穿いた小牧ちゃんの写真がけっこう映ってたよね」
「あれで小牧ファンも随分買ってくれたみたいですよ。お陰で売上が伸びました。あの頃は彼もデビュー直前の時期で女の子の服着てと言われたのを断れなかったんですよ。でも実はこちらのエージェントはてっきり小牧ちゃんのこと、近々デビュー予定の新人少女俳優と思い込んでたらしくて」
 
「ありがちありがち」
と町田朱美。
「多分今でも小牧ちゃんは普通の女優と思ってる人国民の2割はいると思う」
とビンゴアキ。
 
「あれ?羽田小牧ちゃんって女の子じゃなかったの?」
と東雲はるこ。
「君は本人のインタビューまでしておいて今更何を言ってる?」
「えー?女の子と思い込んでた」
「こういう人もいる」
 
先月のインタビューの中でも
「女装の仕事がたくさん来るから困ってる」
「女装なんてできる内にどんどんしとけばいいのに」
などという会話を小牧と朱美でしていたのに、はるこはきっとボーッとしていて聞いてない。
 
「“先週のドラマ”で小牧ちゃんを『可愛い女優さんだね』とか思う人が国民の2割は増えたよね」
とアキ。
「あれ凄く可愛かったね。私も知らなかったら女優さんとしか思わない。若い女優さんに男の子の役をさせるのは普通だもん」
と朱美。(*61)
 
「お嫁さんにしたい女性タレントに小牧ちゃんがランキングされるのも時間の問題だな」
「いや、公表されたランキングには明記されてなかったけど。昨年のランキングに既に入ってたらしい」(*62)
「そうだったのか」
 

(*61) この会話は台本である。詳細は朱美とアキも聞かされてない。この番組は2023年1月15日(日)に放送される予定である。つまり1月7日か8日頃に何かがある。
 
(*62) ここで“昨年”と言っているのはこの番組が年明けに放送されることを想定したもので今年(2022)のことである。2022年の「お嫁さんにしたいタレント」ランキングは下記であった。
 
1.アクア(2001)
2.オク@UFO(2006)
3.ビンゴ・アキ(2004)
4.常滑舞音(2005)
5.ミント@スパイスミッション(2006)
6.水埜香奈絵@赤いトマト(2004)
7.鴨川ルリナ(2004)
8.宮村尚子@ファレノプシス(2001)
9.大内小猫(2007)
10.河村恋@東青山少女合唱団(2008)
 
小牧ちゃんは14位に入っていたらしい。このランキングは11位以下は非公開。ちなみにアクアの票は2位のオクの票の3倍ほどあったらしい。舞音はきっと小学生たちに「お姉さんにしたいタレント」を訊けばトップ。なお上記の4位と5位の間も大きく空いている。
 

なんか全体の3割くらいは朱美とアキで“小牧ちゃんの可愛らしさ”についておしゃべりしていた気もする。
 
ビンゴアキ自身のデビューのきっかけ、初期の仕事についても多数話した。また初主演作となった『赤ずきん』(2021.07.03) についても語った。
 
「あの時は『えー、私が主役〜?』というのでもうドキドキして夜も眠れませんでした」
「緊張するよね〜」
「でも学校で授業中に眠ってて先生に叱られましたけど」
「あはは」
 
「主役というのは独特の緊張があるよね。私も初めての主役ではほんとに緊張したよ。でもビンゴアキちゃん凄く可愛い赤ずきんだった」
 
「けっこうNG出したんですけどね。オオカミ役のケンネルさんが『俺なんて40回NG出したことあるから』とか言ってみんなを笑わせてくれて、それで次のテイクではOKもらえたんですよ」
 
「ケンネルさんは真面目に頑張る人には優しいんだよ」
「ああ」
 
「逆に名前は売れててもいい加減な演技する人には凄く厳しい」
「じゃ私真面目にやってると判断してくれたのかなあ」
「アキちゃんいつも全力投球だから評価されるんだと思うよ」
「でももっと頑張らなきゃ」
「うん。この世界、一時的なブームで売れる人もあるけど、まじめにやる人と適当にやる人の差は10年20年で明らかに出るって、雨宮先生が言ってたよ」
「そういうものかも知れないですね」
 

10月22日の午後はスカイロードをお迎えした。朱美が物凄い興奮気味で
 
「大好きです!結婚したいなんて言ったらファンの人に殺されるから言わないけど(←言ってるじゃん)、CD・DVD・写真集全部持ってます」
と昂揚した顔で言っていた。
 
「小学校の頃、スカイロード派とウドゥン4派に分かれてたよね」
と珍しく東雲はるこも発言する。
 
ラピスラズリがあまり興奮しているので、千里が
「ちょっと息抜きに」
と言って音源を流す。
 
「なつかしー!」
とスカイロードの面々が言う。
 
「このCD持ってる人は多分宝物にしていいよね」
「そうだと思います。多分40-50枚しか出てないと思う」
とkomatsu.
 
「これはどういう音源なんですか?」
と朱美が尋ねる。
 

「これは2011年頃にスカイロードが自主制作で作った音源。実はスカイロードのマネージャー波釣さんが知り合いに配ったもののひとつなんだよ」
 
波釣が頷いている所をすかさずカメラが映す。
 
「これ聞いて『いいじゃん』と思って私は雨宮先生にプッシュしたんだよ。そのあと色々あったんだけど、結果的にそこからデビューに進んだ」
 
「じゃスカイロードのデビューに醍醐先生が絡んでいたんですか」
と朱美が驚いたように言う。
 
「あの時はお世話になりました」
と波釣さんが言う。
 
「私は橋渡しのきっかけを作っただけですけどね」
「いや、パイロットロープを掛けていただきましたよ」(*63)
 
しかしスカイロードのメンツは知らなかったようで驚いていた。
 
kpmatsuが数人と小声で話してから言った。
 
「醍醐先生。この音源僕たちも持ってないんです。一部コピーもらえませんか?」
「コピーは取ってるから、このCDそのものをあげるよ」
「ありがとうございます!」
 

(*63) この会話は“スカイロード”というのが「橋」を意味することに掛けたダジャレ。スカイロードのメンツも朱美も、青葉でさえ理解しているが、例によって東雲はるこはキョトンとしている。でもはるこはこういう役回りの担当!
 
パイロットロープというのは吊り橋のメインケーブルを掛ける前に最初に渡す軽くて細いロープ。これを頼りにしてメインケーブルを掛け、そこからハンガーロープを下ろして、橋の本体を空中に固定して行く。それで“空中の道”が完成する。
 
パイロットロープの掛け方は、伝統的には浮き子工法、フリーハング工法、空中渡海工法などがあったが、近年ヘリコプターによる渡海工法が開発され航路を遮断せずに渡海できるとして明石海峡大橋などで採用された。
 

朱美の興奮が少し落ち着いたようなので、青葉が主導して後半、デビュー以来のグループの軌跡について語っていく。
 
「最初は数十人の小さなライブハウスからドーム公演までの軌跡というのは今考えてもよく辿り着けたなと思いますよ。初めて1000人規模の会場でライブした時も初めてテレビに出た時も、初めて3000人クラスの会場で歌った時も初めて1万人の会場でやった時も、夢のような気分でした」
 
「そのあたりがコロナ以降の世代の私たちには分からないんですよね。デビューしてすぐにコロナでリアルライブが禁止されて、私たちネットライブしかしてないから」
と朱美は言う。
 
「いやラピスラズリはネットライブで何十万人と動員しているから凄いと思う」
「それでもリアルのドームとかに立ったら、足がすくみそう。ライブであがることってないですか?」
 
「あがり対策はひたすらたくさん練習することしかないと思う」
とkomatsuは言う。
 
「ああ」
「自分はたくさん練習した。うまく演奏できないはずがない、という自信だけがあがりの気持ちに対抗できるんだよ」
「凄く含蓄のある言葉ですね」
「練習は嘘つかない、だね」
「それスポーツでも音楽でも同じですね」
 

「いちばん辛かったのはやはりkitagawaの脱退ですよ。自分の身体の一部をもぎ取られたような気持ちでしたね」
とkomatsuは語る。
 
「MCとかもほとんど彼がしてたからね。komatsuはトークが苦手だし」
とkatahiraは言う。
 
「代わりのメンバーを入れることを事務所からは勧められたんだけどね」
「5人で歌っていたのを4人で歌うためにはパート割りを全部組み直さないといけなないから」
「結局ぼくらは残りの4人でやっていく道を選んだ」
「まあパート割りの変更は大変だった」
「ライブで誰も歌わなくて『おい誰の番だ?』とか」
 
「混乱してるの何度か見ましたよ。あ、ここkitagawaさんのパートだって」
「うん。疲れてると頭が付いてかないんだよね」
「ライブで観客が歌ったことありましたね」
「ああ、あの時朱美ちゃん居たんだ?」
「5列目で参戦してました」
「おっすごい」
 

「今後やりたいことは?例えば建設会社作って青森と北海道の間に橋を架けるとか」
「ああ、ぜひやってみたい・・・って、俺たち工事には素人だし」
「青森と北海道の間に橋を架けてもしょっちゅう強風で通行止めになる気がする」
 
「でもコロナが終わってからになるけど、離島コンサートってやりたいね」
「ああ、それはいいことですね」
 

23日の午前中は東青山少女合唱団(EAGC)であった。人数が多いので彼女たちはGulfstream G450に載せて連れてきた。
 
「ビジネスジェットなんて初めて乗ったからVIPになった気分だった」
「ベビーベッドがあるからびっくりしたら、オーナーさんの赤ちゃん用だとか」
「まあ好きなように座席決められるのも自家用機の気楽さかもね」
「なるほどー」
「君たちも一機買う?」
「いくらするんですか〜?」
 
「はい、醍醐先生」
と朱美は千里に振る。
 
「最新型のG650なら定価9億円だけど、あれは2世代前のG450だからその中古を4億円で買ったんだよ」
 
「私たちは4万円でも躊躇するよね」
「でも飛行機が4万円で売ってあったら絶対買わない」
「それは言えてる!」
 

「だいたい年間の維持費が5000万円くらい掛かりますよね?」
「うん。そのくらい掛かる」
「きゃー。だったら宝くじに当たっても買えない」
「普通の人にはその維持費が払えないよね」
 
「維持費ってどんな費用が掛かるんですか」
「まず燃料費。それから駐機代、メンテ費用、そして大きいのはパイロット代。これが最低2人分掛かる」
「車と似てますね」
「そうそう、基本的には同じようなもんだよ。ガソリン代・駐車場代・点検費・ドライバー代」
「なるほどー」
 
「でもパイロットは安い給料では雇えないから」
「そうですよね!ライセンス取るのもお金掛かるもん」
「英語出来ないとだめですよね」
「管制官との通話は全部英語だからね」
「視力も無いといけないですよね」
「うん。両眼1,0以上無いといけない」
「そこで私だめだぁ!」
 

「だけど私“東青山”と聞いた時は、東京の青山連想した」
と朱美が言うと
 
「私たちもです!」
と東青山少女合唱団の全員が言う。
 
「絶対詐欺だよね〜」
「私、なんて都会的な名前と思ったのに」
「私も母に『おしゃれな名前ね』と言われた」
 
「実際は、三重県伊賀市の青山なんですよねー」
「それも東青山駅は伊賀市青山の領域からも外れていて、津市に飛び込んでるんですよ」
「どっちみち凄い山の中で」
「でもそこでデビューコンサートしたんでしょ?」
 
「しました!地元の人がたぶん村総出で来てくれました」
「そんな田舎でアイドルのライブなんてめったに無いよね」
「凄く盛り上がりましたよ」
「みんなファンになってくれました」
「ファンクラブの会員番号2桁を全て送呈しました」
「ぜひまた来てくれって町内会長さんに頼まれました」
「それ来年やる場合は警備が大変だよね」
「ええ。だから村民限定ライブにしないといけないなって言ってるんです」
 

彼女たちの歌は東雲はるこが伴奏したが、みんな歌はうまかった。きれいにハーモニーができていて、はるこが感心していた。
 
ちゃんと歌える子を集めて編成したようである。
 
2022年にデビューしたばかりで、最初の曲『春の恋のフーガ/花』はゴールドディスク。秋に出した2曲目『夏休みの浜辺/ Sweet Memories』は2022.10現在7万枚。この番組がお正月に流れるとこれも10万枚行く可能性があるだろう。今回のインタビューは、そのプッシュ狙いでもある。
 

23日午後からは、一転して少人数のハラマドラーをお迎えした。最近流行の作曲者(原木ミッド)+女性ボーカル(mado)という構成である。
 
「原木(はらき)さんとmadoさんで“ハラマドラー”なんですね」
「ですです。名前を何も思いつかなかったので安直に2人の名前をくっつけました」
 
「madoさんって苗字でしたね?」
「そうなんです。しばしば“まどか”さんですか?とか“まどほ”さんですか?とか訊かれるんですけど苗字なんですよ。“あいだのと”(間戸)って書くんですよね」
「すごく珍しい苗字ですよね」
「全国で50人くらいではと言われたことあります」
「ああ」
「ちなみに下の名前は」
「ネットにたくさん書かれてますけど“ふうか”なんですよ」
「なるほどー」
 
「あ、ふうかちゃんか」
と東雲はるこが気がついた。
 
「“はらふうか”にしちゃうと、『いないいないばあ』のふうかちゃん(原風佳:番組登場2003.4-2007.3)の名前みたいなんですよね。しかも私、あのふうかちゃんと同じ学年なんですよ」
「へー」
 
「年バラしていいの?」
「ネットにたくさん書かれてるし」
「ネットは情報過多ですよね。こないだ私が歌番組で登場時にこけたのも、あっという間に大量にSNSに写真付きで書かれました」
「全くくしゃみもできないね」
 
「年齢のサバ読みもできませんね。同級生にバラされちゃう」
「ああ、昔は女性タレントの年齢サバ読みは当たり前だったけどね」
「若く見えるのをいいことに10歳サバ読んでた女優さんも居ましたよ」
 

「ちなみに原木ミッドさんの下の名前は?」
「真ん中の“中”と書いて“あたる”と読むんですよ。だから中村中さんと同じ読み方ですね」
「なるほどー」
「ちなみに“原木中”というのを「はら・ぼくちゅう」と誤読されたこともあります」
「ああ」
「でも3字の名前は区切り間違いしやすいよね」
とmadoさんが言っている。
 
「笠智衆(りゅう・ちしゅう)さんとか区切りを間違えられやすい」
「いや、笠智衆さんは難易度高い」
 
「占星学者の流智明(ながれ・ともあき)さんとか」
「あれ絶対「りゅうち・めい」とか読んでる人いますね」
 
「ベリーズ工房の夏焼雅(なつやき・みやび)ちゃんとか夏・焼雅(なつ・やきまさ)と読まれると性別を誤解される」
 
「マラソン選手の真木和(まき・いずみ)さんんとかも危ない」
「そもそも“和”という漢字一文字の名前が読み方が様々あって男女ありますよね」
「なごみ・やまと・なぎ・あい・のどか・とも・・・」
「男子サッカーの橋本和(はしもと・わたる)さんとかもいますね」
 
「勝・海舟(かつかいしゅう)を“かつうみ・ふね”と読んじゃった学生がいたとか」
「いや知らないと読むよ」
 
「でも4文字名はもっと罠だよね。つい2文字・2文字に切りたくなる」
「この手のネタでいつも話題になるのが“浜木綿子”さんですね。知らない人は“はまき・わたこ”と読みがちだけど“はま・ゆうこ”さんですからね」
 
「平幹二郎(ひら・みきじろう)さんも危ない」
「時任三郎(ときとう・さぶろう)さんも危ない」
 

結局名前の論議で30分近く話していた(10分くらいに編集された)。
 
「楽曲の制作は原木さんがおひとりでなさるんですか?」
「いや。最初のモチーフはぽくが書きますけど、ぼくはキーボードプレイが下手なんで、だいたい妻に試し弾きしてもらってそれでまとめていくことが多いですね。最終的にはMIDIの打ち込みですけど。だから印税は妻と山分けです」
 
「ちょっと待ってください。テレビなんかに出て来た時、原木さん、キーボード弾いてるじゃないですか」
「あれは弾いてるんじゃなくてキーボードの前で踊ってるだけです。鍵盤も適当ですよ。ぼくのキーボードはスイッチ切ってありますから」
「え〜〜?そうだったんですか!?」
 
「ファンの間では有名だけど一般にはあまり知られてないかもね」
とmadoが笑っている。
 
「だからボーカルの吹き込みの現場では桜さんがいつも一緒ですね。彼女の演奏に合わせて歌うんです」
「ああ、奧さんが制作現場にはいつもいるんだ」
「まあ第3の女かな」
「そういう言い方では僕まで女みたいだ」
「女装してもいいですよ」
 
「浮気防止というわけではないですよね?」
「技術者さんとかもいるのに怪しいことはできないでしょ」
「万一変なことされたら即twitterに投稿しますから」
「ああそれは怖い」
「悪いことはできませんねー」
「そんなことはしないよぉ」
 
「それに元々桜さんは私の同級生で、バンド組んでたこともあるんですよ」
「ああ、そういう関係だったんだ」
「それで妻より彼女の方が歌が上手いから歌ってと頼んだんですよ」
「なるほどー」
 

10月25日(火).
 
彪志が朝起きた時、着けていたナプキンが真っ赤に染まり、かなり重くなっているのに気付く。
 
何これ〜!?
 
取り敢えず交換用ナプキンを持ちトイレに行って交換する。お股が血のようなもので汚れているので、トイレットペーパーで拭く。そのまま状況が把握出来ずに5分くらいぼーっとしていたかも知れない。
 
外を走り回る子供たちの足音や声で我に返る。(この家はトイレが5個あるのでせかされたりはしない)
 
彪志は再度あの付近を拭いてから、新しいナプキンを装着してトイレを出た。朝御飯を食べてから車を運転して会社に出る。その運転中に
 
生理だ!
 
と気がついた。
 
そうか生理が来たのか。
 
ということは、俺完全に女になってしまったのだろうか。
 
うーん。。。
 

青葉が知ったら何と言うか心配だけど、青葉は
「レスビアンでもいよ」
と言ってくれそうな気がする。そんなこと考えていたら生理が来てもそんなに大きな問題では無い気がして来た。
 
それで一日仕事したが、この日は2時間に1回くらいナプキンを交換した。男子トイレには汚物入れが無いので、1回の多目的トイレを使用した。また外出中はコンビニの共用トイレでナプキンを交換した。先日からナプキンを使っていて共用トイレのあるコンビニをだいぶ覚えたので、助かった。
 
そして「今日は体調が良くないので定時で帰ります」と言って19時頃には退出した(←全然定時ではない気がする)。
 
しかしこれ毎月やってる女子は偉いよと思う。結構きつい。でももしかして自分もこの後は毎月これしないといけないのかなあ。そのうち会社にもバレて
 
「生理があるって、君女だったのか!」
「女性だったのなら女性の服着てね」
とか言われたらどうしよう?俺スカートとか穿いて勤務しないと行けないのかなあ。恥ずかしー(←穿きたいということは?)
 
俺もう立って小便することはないんだろうなあ(←特に問題無いよね)
 
お化粧とかもしないといけないのだろうか?(←したいんでしょ?)
 
 
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【春二】(6)



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