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■春零(21)

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7月12日(火).
 
H南高校で今年1回目の水泳の授業が行われた。全員一度に連れていくと密が発生するし、そもそもまともに泳げないので学年単位である。次のように時間を割り振っている。
 
9:30-11:30 3年生
11:30-13:30 2年生
13:30-15:30 1年生
 
送迎バスは2年生を連れてきたら3年生を連れて帰り、1年生を連れてきたら2年生を連れ帰る、というように運行される。つまり送迎バスは5往復する。
 
→回送
←3年(1)
→回送
←2年(2)
→3年
←1年(3)
→2年
←回送(4)
→1年
←回送(5)
 
それをクラスごとに1台で3台使用する。結構なコストが掛かると思うが、それを無料でやってくれる所が“お金を減らしたい”若葉の流儀である。
 
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但しこんなことするからお客さんが来てくれて結果的に黒字が増える。委託しているバス会社からもコロナで客が減っている折、沢山仕事をもらえて感謝される。
 

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晃たち1年生は4時間目の授業が休みになり早めにお昼を食べる。そして12:30に送迎バスで火牛スポーツセンターに行く。入場前に全員簡易検査キットによる感染検査を受ける。ここで2人陽性になった。2人は中には入れず待機室で待機になる。そして保護者に連絡が行き、保護者の車で迎えにきてもらう。実は3年生でも3人、2年生では生徒2人と教師1人が引っかかったらしい。オミクロン株は無症状の人が多いので、本人たちも全く自覚症状が無かったという。
 
陰性だった生徒・教師で中に入る。全員スタッフさんからロッカーの鍵を渡される。エレベータは使わず、エスカレーターで地下の競技用プールまで降りる。狭い密閉空間を作らないためである。
 
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本来は50mプールのほうも横に使えば25mプール×20レーンになるのだが、現在感染防止対策でレーン間を透明のプラスチック板で区切っているので、そういう使い方ができない。それで25mプールのみを使用して授業は行われる。25mプールは貸し切りだが、50mプールの方には一般のスイミングクラブ会員が入っているようであった。
 

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晃は206という番号の赤いタグが付いた鍵をもらった。その番号を見て赤いマークがあり、201-299という表示のあるロッカールームに入る。
 
女子ばかりだ!
 
「あれ〜ここ女子更衣室?」
などと晃が声を出すと
 
「君は女子なのだから、女子更衣室に来るのが当たり前」
と美奈子に言われた。
 
「で、でも・・・」
 
体育の時間は当面女子更衣室は使わず面談室を使うという話だったのに!
 
「大丈夫だよ。ここはロッカーだけオープンスペースにあって、着替えは洋服屋さんのフィッティングルームなどと同様のカーテンのある個別着替え室で着替えるから」
と同じバスケ部の津田秋奈が言う。
 
「だったらいいか」
 
「男女分けずに使わせてもいいくらいだよね」
「それはさすがにまずいと思う」
 
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(でも一般の遊泳プールでは、そういう所もある。家族一緒に入れるのが利点)
 

個室に入ろうとしていたら、このロッカールームに日和が居ることに気付く。日和は晃や美奈子たちを見ると物凄く不安そうな顔で
 
「もしかしてここ女子更衣室ですか?」
などと言っている。日和が持っている鍵には赤いタグが付いている。まあ日和なら赤いタグを渡されて当然だろうなと晃は思った、
 
日和は汎用品のブラウス、つまり校名の入っていないブラウスに明らかに女子用の学生ズボンを穿いている。一応「ワイシャツにズボン」という男子制服に準じた格好ではあるが、女子にしか見えない!胸の膨らみもあるし。
 
「ヒヨちゃん大丈夫だよ。ここは着替えは洋服屋さんの試着室みたいな個別の着替え室で着替えるから、男女混じってもいいんだよ」
 
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と美奈子が言った(嘘は言ってない)。
 
「そうだったんですか!よかった」
と日和はホッとしたような顔である。美奈子が
 
「こっちおいで」
と言って、着替え室が並んでいる所に連れて行く。
 
それで日和は晃・美奈子・秋奈たちと並びの着替え室に入り着替えた。
 

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ドキドキしている日和を見て、晃はかえって落ち着いてしまった。それで個室着替え室の中で安心して水着に着替える。
 
晃が着替え室を出ると、美奈子と秋奈が待っててくれた。
「お待たせ」
「もっと可愛い水着を着ればいいのに」
「お姉ちゃんに任せると絶対恥ずかしい水着を選ばれそうだったからお母ちゃんに選んでもらった」
「ああ、それは賢明だ」
 
どうも2人は日和がどんな水着を着て出てくるか期待?しているようだ。
「まさか水泳パンツじゃないよね」
「あの子、胸が膨らみ始めてるから男子水着はもう着られないと思う」
 
やがて少し恥ずかしそうな顔をして日和が着替え室から出てくる。
 
「おお、可愛いじゃん」
「なんか女の子水着みたいで恥ずかしい」
と本人。
 
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彼女(でいいと思う)は、ワンピース水着のパレオ付きを着ていた。胸の所は乳首の形が出ないようにちゃんとカップが入っている。紺地だがグリーンの蛍光色のラインが曲線状に入っていて、女性的な身体のラインを強調する。胸元にはリボンも付いているし、襟元とパレオの裙には小さなレースも付いている。
 
あまり水泳向きではなく、水辺着という感じだ!
 
無論女子水着にしか見えない。男子のワンピース水着は普通にあるが、男子用のワンピース水着に胸カップやリボン・レースは無いと思う!だいたいパレオ付きだし。
 
「問題無いと思うよ。荷物をロッカーに入れよう」
「うん」
 
それで晃たちもロッカーに着替え等を入れたが、日和も自分の番号のロッカーを見付けてそこに着替えを入れたようである。同じクラスの五月に
「おお、可愛い」
と言われて恥ずかしがっていた。
 
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シャワーゾーンを通ってプールサイドに出る。
 
日和は準備体操の時も五月に連れられて2組女子たちの集まりの中で体操をしていた。女子たちみんなに「可愛い」と言われて照れていた。
 
晃も1組女子たちのグループの中で準備体操したが、晃の水着姿のお股の所に他の女子たちの視線が集まっていることに“女子水着初体験”でドキドキしている晃は気付かなかった。何だかうなずき合っていた子たちも居た。
 
晃自身は「みんな可愛い水着を着てるなあ」と思った。
 

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水泳の授業は習熟度別である。A.全く泳げない人 B.10m以上は泳げるが25m泳げない人、C.25m程度は泳げる人 D.ターンできる人。Dクラスを奥村先生が指導していた。
 
Aが0-1レーン、Bが2-3レーン、Cが4-6レーン、Dが7-9レーンを使用する。5-6レーン、7-8レーンの仕切り板を揚げてもらい、各々一体で使えるようにして往路・復路を分離し、衝突事故を防止する。
 
晃は25m自信無いなあと思いBに入って練習したが
「あんた25m行けるじゃん」
と言われて後半はCクラスに行き、ターンの練習をした。先生が手で補助してくれて身体の転回の要領を学ぶ。補助してくれるのは男子生徒は男先生、女子生徒は女先生である。第4レーンの両端を男女別に使用している。晃はもちろん女子のグループに入り、女先生に補助してもらう。
 
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転回の要領を覚えても、ターンを始めるタイミングが最初なかなか掴めなかったが、授業が終わる頃にはそれも分かってきて、だいたいきれいにターンできるようになった。しかしスタミナが持たず、ターンしてからプールの半分くらいまで行った所で力尽きた。
 
「高田さんは筋力トレーニングとかしたら、50m, 100m 泳げるようになりそうだね」
とCクラスを指導してくれた柚津先生から言われた。
 
なお日和の方はAクラスで、ひたすらバタ足の練習をしていた。彼女はビート板でも沈んでしまうので、泳げるようになるまでの道は遠いようである。
 

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授業のラストでは、奥村先生がうまく乗せられて、200m個人メドレーを披露した。バタフライ→背泳→平泳ぎ→クロールで25mプールを1往復ずつする。
 
「すげー」
「速〜い」
「さすが元国体選手」
 
みんなバタフライはあまり見たことが無いので、結構な歓声が上がっていた。
 
「バタフライって凄く効率の悪い泳ぎ方のような気がする」
「下手な人がやるとそうだけど、奥村先生みたいに上手な人がすると、実はとても効率がいいらしいよ」
「へー」
 

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授業が終わった後は、晃も日和も美奈子・秋奈・五月たちと一緒に女子用ロッカールームに入る。晃は個室着替え室の中で水着を脱いで身体を拭き、(女子用)下着と制服ブラウスにスカートを身に付けた。水着は水道の所で絞ってから水着入れに入れた。
 
日和も汎用品のブラウスと女子用学生ズボンに着替えて出て来た。
 
「ひよちゃん、下はスカート穿けばいいのに。持ってるんでしょ?」
 
↑誘導尋問
 
「え〜?持ってはいるけど、男子はスラックスという規則だし」
 
↑きれいに誘導に引っかかっている。
 
「ひよちゃんがスカート穿いてても先生たち誰も注意しないと思うよ」
「そうかなあ」
などと言って、日和は悩んでいた。
 
この子が女子制服で学校に出てくるのは時間の問題だなと晃は思った。
 
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しかし今日は日和のお陰で、ドキドキの女子水着デビューした晃はあまり目立たなくて済んだ!
 
この日、日和が付けていたパレオについて、女子たちは
 
「ちんちんがあるのが目立たないように付けたのではなく、ちんちんが無いことを確認されないように付けたのでは」
と推測していた。
 
日和にはどうも生理があるようだ、というのも女子の間では噂になっている。
 

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7月15日(金).
 
真珠と初海は千里のVolvo XC40を借りて輪島市の朱雀林業まで往復し、明日から金沢市内のショッピングプラザで始まる“ビスクドール展”に出品する“VIPドール”たちを薫館長から預かり金沢に運んだ。今回、ウォーキングドールのマリアンも行くことになる。スイスイ1号は輪島でお留守番である。スイスイ1号は人形たちの“お父さん”である。
 
VIPドールたち以外の展示する人形は、テレビ局が手配した業者さんの手で運ばれた。ただし梱包を解くのは、真珠が招集した!TIF(*42) のメンバーとH高校ミステリーハンティング同好会のOGたちの手で行われた。
 

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(*42) TIF = Toyama Ishikawa Feminines. 真珠のバイク仲間たちの自称。石川県東部・北部、富山県西部のメンバーが多い。
 

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7月16日(土).
 
彪志が伏木にやってきた。彼は自分のフリードスパイクで郷愁飛行場まで行き、朝一番のHonda-JetBlackで能登空港に来たので、千里がVolvo XC-40で迎えに行った。
 
つまり対応したのは最近北陸の案件を担当している4番ではなく6番である。2Aが妊娠して以来、6番は芸能関係の大半の打合せをこなし、またこの手の作業にも多く借り出されている。実は今週末、千里4は地元(兵庫県)で大会に出ていたので、6番の対応となった。千里3は日本代表の合宿中である。
 

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11時頃、彪志と千里は伏木の青葉邸に到着する。青葉が迎えに出る。
 
「ごめんねー。私が迎えに行くつもりだったけど、妊婦は休んでなさいと言われたし、実際は休む暇もなくアクアのアルバムの制作やってるから」
「そちらが大変そうだ」
 
それで、青葉、桃香、千里、彪志、朋子がリビングに集まり話し合う。
 
「これ母子手帳と妊娠診断書」
と言ってそれらを見せる。
 
「避妊に失敗したのかなあ」
「そうだと思う。御免ね」
と青葉は謝るが
「いや、僕の方こそ謝らなきゃ。青葉、それでなくても忙しいのに。水泳はどうするの?」
「出産まではお休みするしかないね。出産してからまた頑張るよ」
「うん」
「しかし妊娠中は自動的に水泳がお休みになるし、テレビ局もお休みだろうから青葉にとっては逆に良い休暇になるのでは、とこちらでは言っていた所なんだよ」
と桃香は言う。
 
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「それはあるかもね!青葉はあまりにも忙しすぎたよ」
と彪志。
 
「それで予定日は・・・3月15日か」
と彪志は診断書を見ながら言ったが、桃香が言った。
 
「震災の12年後、3月11日に出て来たりしてね」
「あるかも!」
と彪志も言った。しかしあれからもう12年かと彪志は感慨深げに思った。
 
彪志の親戚や友人で亡くなった人も多数居た。
 

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「それで彪志君、結婚してくれる?」
と桃香が訊いた。
 
彪志はそのことまで考えていなかったようで一瞬考えたが
「もちろん。いつ結婚式あげる?」
と訊く。
 
「結婚式より、この場合、先に籍を入れてしまったほうがいいと思う」
と桃香。
 
彪志は再度少し考えたが
「確かにそうだ。挙式の日程はあらためて考えるとして、早急に婚姻届けを出そう」
「彪志さんの御両親とも話し合いが必要だよね」
「うん。来週にも向こうに行って話し合ってくる」
と彪志は言ったが、千里が
 
「来週と言わずに明日にも行って来ない?」
と言う。
「明日ですか?」
 
千里は青葉が妊娠記者会見を開かなければならないことを説明し、そのためには1日も早く婚姻届けを出す必要があることを説明した。
 
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「きゃー記者会見ですか!」
「私も行くよ。お母ちゃんと桃香も同行する?」
「そうだね。行こうか」
 

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