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■春零(9)

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7月3日(日).
 
高岡伏木の青葉邸。
 
この日の午前中は UFOと並ぶ人気の女性歌唱ユニット、スパイスミッションのインタビューを行った。彼女たちは昨夜東京での仕事が終わった後!小松にHonda-JetRedで飛んできた。実は、その帰りの便にUFOとコスモスが乗って今朝熊谷に帰還した。UFOとスパイス・ミッションは昨夜同じホテルに泊まっており、偶然ホテル内で遭遇。ハグしあって、しばしおしゃべりしていたらしい。
 
UFO Schedule
7/2
_9:00→10:30(Blue) 能登空港着
13:00 伏木
1330-1530 番組収録
17:00 コスモアイル(閉館後取材)
19:00 金沢ホテル着
7/3
11:00←10:00(Red) 小松空港から帰還
 
Spice Mission Schedule
7/2
17:00→18:00(Red) 小松空港着
19:00 金沢のホテルに到着 UFOと遭遇。
7/3
9;00 伏木
9:30-11:30 番組収録
13:00-14:00 海王丸パークで撮影
17:00←16:00(Orange) 富山空港から帰還
 
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今回取材された“4組”の中で結果的にはスパイス・ミッションが最も楽なルートを辿ることになった。
 

スパイス・ミッションはマネージャーの砂糖茶々(*25)、および金沢に泊まったケイと一緒に、明恵が運転するSEAT Alhambra に乗って伏木までやってきた。車に貼られている絵については「なんかエスニック〜」と言って、喜んで?いた。
 
先に来ていたラピスラズリ(かほく市内泊:真珠が運転するCX-5で回収してきた)の案内で青葉邸のサンルームに行く。今日は通路のポスターはアクア、北里ナナ、UFO、スパイス・ミッションとなっており自分たちのポスターを見て騒いでいた。
 
(*25) 砂糖茶々は本名佐藤千秋。マネージャー名はブラウンシュガーに掛けている。最初“砂糖茶”にしてたら“加藤茶”のもじりかと思われたので慌てて“茶々”に改訂して、加藤茶さんの所に上等の和菓子を持って謝罪に行った。
 
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実際は中高生時代、友人たちから“茶”とか“ティー”とか呼ばれていた。またシュガーズというバンドを組んでいた。ギターとキーボードはかなりの腕である。スパイス・ミッションのキャンペーンライブで伴奏を務めることもある。
 

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青葉が彼女たちを笑顔で迎える。
 
「素敵なおうちですね〜」
と彼女たちは言っている。
 
「去年の10月に家を建て始めたんだけど、建ててる最中に東京に出張して、その後8ヶ月間家に帰れなかったから、ほんの数日前にやっと新居に入れたんですよ。まだ家の中がどうなってるのか見てない状況で」
 
「大変ですね!」
「君たちも土日は家に帰れなかったりするでしょ」
「あります、あります」
「私たちまだ学校があるから、月曜の朝には帰してもらえるけど」
 
「いや、中学生は、学校がある時間帯に仕事をさせてはいけないという法律があるからまだそれで済んでたけど、高校生はしばしば学校を休まさせられる」
と朱美が言うと
 
「きゃー」
と悲鳴をあげていた。
 
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「取り敢えず自己紹介を」
と町田朱美が言い、4人はそれそれ名乗りをあげる
 
「タイムこと須鳥泰代(すどり・やすよ)でーす」
「クミンこと鉢村玖美(はちむら・くみ)でーす」
「ミントこと井口民依(いぐち・たみえ)でーす」
「セージこと末田星美(すえだ・ほしみ)でーす」
「4人でスパイス・ミッションでーす」
 
青葉・ケイ・ラピスラズリが拍手する。
 
彼女たちは各々、タイム・クミン・ミント・セージの絵が描かれたTシャツを着ているが、絵を見たたけで何のスパイスか分かる人はかなりの専門家か、かなりのファンである。実際にはタイムはグリーン、クミンはホワイト、ミントはブルー、セージはパープルの色のシャツ・スカートを着ているので多くの人は色で見分けている。
 
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昨日ラピスラズリは紫のドレスを着ていたが、セージと色がダブるので、今日はレモンイエローのドレスを着ている。青葉とケイは昨日と同じ服である。
 

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「私たち元々は須鳥・鉢村・井口・末田の頭文字を取るとスハイスになるから、それで“スパイス”という名前が提案されたんですよね」
「でもスパイスと言うと、スパイスガールズのお姉様たちがいるから、こちらはスパイスガールズみたいにビッグになれたらいいなということで、そのためのミッションなんです」
 
「スパイスというユニット名が決まると、各々の名前がスパイスの名前にこじつけられるという話が出て来て」
「それで泰代(やすよ)がタイム、玖美(くみ)がクミン、民依(たみえ)はミント、星美(ほしみ)はセージということで」
と4人はフリップボードに自分たちの名前の漢字と当てられたスパイス名の一覧が書かれたものを見せながら説明した。
 
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「結構苦しいとこもあるけど」
「だいたいスパイスというよりほぼハーブだし」(*26)
「それはしばしば突っ込まれる」
「一応公式では“明日はスパイスになりたいハーブ”と説明するんですけどね」
 
(*26) クミンはハーブと認識される場合とスパイスに分類される場合がある。
 
スパイスとハーブの線引きには様々な見解がある。元々ヨーロッパで栽培できていたものをハーブ、輸入するしかなかったものをスパイスと呼ぶ立場からは、クミンはヨーロッパでも栽培されていたのでハーブである。
 
しかし“種・果実”を使うものをスパイスといい、“葉・花・枝”を使うのがハーブという立場からは、タイム・セージ・ミントはハーブで、クミンはスパイスということになる。ちなみに“クミンシード”は“シード”(種)とは言うが本当は果実である。
 
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彼女たちのメインライターは4人構成である。
 
作詩家:帝王胡桃・三池アンネ
作曲家:樋口花圃・星鷹
 
この4人が全員ケイの関係者で、ケイの人脈の広さが知れる。
 
楽曲の制作の指揮は三池アンネ(篠田その歌)がすることが多く、この段階で歌詞・楽曲を一部手直しする場合もある。他の3人は「自由に直して」と言っている。星鷹(タカ)は一般にMV制作に関わっていて、シナリオを書き、撮影の指揮・編集をしている。スパイス・ミッションが売れているので、彼も現在3割ほどの時間をスパイス・ミッションに割(さ)いているようである。
 

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スパイス・ミッションが○○プロからデビューすることが決まった時、同事務所の丸花社長は、ケイに「マリ&ケイ名義でも秋穂夢久名義でもいいから」曲を提供してもらえないかと打診した。しかし当時ケイは、まだ絶不調から充分回復していなかったので、古い知り合いである樋口花圃を紹介した、
 
しかし樋口花圃はわりとおとな向けの歌を書いていたのでアイドルに歌わせる曲の歌詞を書く自信が無かった。それをケイに言うと、丸花とケイは引退して主婦をしていた篠田その歌に
 
「君、アイドル用の歌詞が書けない?」
と打診した。
 
それで、最初、篠田その歌(ペンネーム:三池アンネ)が歌詞を書き、樋口花圃が曲を付けるというパターンで制作することが決まった。
 
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ところが、ファーストアルバムを出そうということになった時、2人だけではとても手が足りないということになる。ケイの仲介で松本花子から6曲もらうことができた(美川月花・愛野礼奈・南海妃呂・北沢晶菜・岡原加奈・岡原世奈から1曲ずつ)ものの、人間の作家の作品も入れたいということになる。
 
それで篠田その歌が、後輩の貝瀬日南(ペンネーム:帝王胡桃)を引き込み
 
「あんたなら私より若いし、アイドル歌謡の歌詞が書けるよね?」
 
と言った。作曲家ももうひとりくらい欲しいので、丸花さんが声を掛けて、集団アイドルの楽曲を結構書いていたセミプロ作曲家Aを引き込んだ。
 
それで制作をしていて、一通り録音も終わり、出来上がったマスターを工場に持ち込もうと準備している時に、その作曲家Aが薬物で逮捕されたというニュースが飛び込んでくる。
 
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アルバムの発売日程は動かせない。そのためには最悪明後日の朝までには工場にデータを持ち込まないといけない。樋口花圃さんはそんな短時間では曲を書けない。
 

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それで困っていた時、偶然スタジオの傍をローズクォーツのタカが通り掛かった。丸花さんに呼ばれて対策を練っていた雨宮三森がタカに声を掛けた。
 
「ちょっと来て」
「何ですか?」
「ご褒美に性転換手術をタダで受けさせてやるから」
「私、性転換するつもりはありません!」
「もう性転換済みだったっけ?」
「私は男ですし、女になるつもりは無いです」
 
「じゃ性転換しなくてもいいから、この3つの歌詞に明日夕方までに曲を付けて」
「え〜〜〜!?1日で3曲なんて無理です」
「その内1曲は朝までに書いてほしい。明後日の朝1番に工場に持ち込まないと間に合わないんだよ」
「分かりました。取り敢えず朝までに1曲書きます。日中にもう1曲は書けると思いますが、そこまでが限界です」
 
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「2曲しかできなかったら睾丸1個除去だな」
「なんでそうなるんです?」
「万一1曲しかできなかったら2個除去。0曲ならペニスも除去」
「勘弁してくださいよー」
 
脅迫してるし!
 

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結局タカは、ローズクォーツのバンドメイトであるヤス(太田恭史)を呼び出し、彼にも1曲書いてもらって何とか夕方までに3曲揃えた。スパイス・ミッションは翌日の朝8時から1曲歌い、仮眠後、午後4時から1曲、更に仮眠後、夜中の0時に起こされて最後の1曲を歌った。雨宮がOKを出したのは午前5時だった。むろんこんな時でも雨宮は絶対に妥協しない。
 
雨宮は結局2日完徹。タカも付き合わされて2日完徹。伴奏のバンドは2組交替で使った。むろん打ち込みでは間に合わない。
 
歌が完成した所で、録音していた技術者さんとは別の、仮眠していた技術者さんがマスタリング作業をして、レコード会社の若い人がバイクで工場に運び、何とかプレス開始に間に合わせた。
 
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スパイスミッションの4人はほぼ徹夜になった。中学生なのに!
 
丸花さんが青森・岩手にある4人の実家まで行き、保護者に謝罪して回ったが作曲家の逮捕という非常事態だったとの説明で理解してもらえた。むしろ社長がわざわざ青物や岩手まで来てくれたことに恐縮していた。
 

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プレス開始が間に合ったという報せに、雨宮・タカ・丸花は祝杯を挙げた。
 
「タカちゃん疲れたでしょ、これ疲労回復薬」
と言って雨宮から錠剤をもらう。雨宮が絶対に“覚醒剤”等はしないのは知っているのでタカも「頂きます」と言って飲んで水で流し込む。
 
するとホントに元気が出て来た気がした。
「この薬即効性がありますね。何て薬ですか?」(←先にそれを訊くべき)
 
「ただのダイアン35(*27)だけど」
「え〜〜〜!?」
 
雨宮を信用するほうが悪い!
 
(*27) 女性ホルモン製剤の一種。元々は女性用のピル(避妊薬)で、エストロゲンとプロゲステロンの双方を含有する。本来のピルは21日“本物”を飲んで7日間“偽薬”を飲む(休薬期間)が、Diane-35は偽薬が省略されている。つまり避妊したい女性より、男を廃業したい男性を意識している。タイのニューハーフさんにはこの薬から始める人が多い。男性が飲むと“不可逆的に”生殖機能が消失するので絶対に安易に飲んではいけない。
 
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禁忌事項の多い薬なので詳細は専門のサイトを参照のこと。例えば喫煙者、肝機能の弱い人、高血圧の人は死亡の危険がある。
 
しかしダイアン35という名前を聞いただけで、どんな薬か分かるタカも大概である。
 

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そういう経緯でタカはこのプロジェクトに強引に引き込まれてしまった。彼としては、この1回限りのつもりだったのが、毎回呼ばれるようになってしまった。
 
「おっぱい大きくする手術受けさせてあげるから。奧さんの許可も取った」
「要りません!」
「喉仏削る手術受けさせてあげるから」
「それ声域が小さくなりそうだら困ります」
「女性ホルモン注射してあげるね」
「夫婦生活できなくなるから嫌です」
 
「足のむだ毛、顔のむだ毛のレーザー脱毛させてあげるから」
「・・・・・」
 

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春零(9)

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