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■春白(32)
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恵真(羽鳥セシル)は深夜1時頃、ホンダNSXでアナさんに送ってもらい、尾久のマンション前で降りた。自分の部屋に行こうとした時、クラクションが鳴る。忘れ物でもしたかと思い振り替えると、クラクションを鳴らしたのはアナさんのNSXではなく、見慣れた“仮名M”さんの車だ。
恵真も笑顔になる。
「今終わったの?」
とMさんが言う。
「ええ、そうなんですよ」
「良かったら、少しドライブでもしない?」
「あ、はい」
恵真は疲れてはいたが、ドライブとかすると疲れが取れるかもという気がした。
それで彼女の例の車、車種とか分からないが、ライオンが立ち上がったようなマークの車の助手席に乗る。
「いよいよもうすぐデビューだね」
「はい。1月1日発売、その日からテレビとかのCMも流れるそうです。私自身はその日、ローズ+リリーさんのライブに参加します」
「幕間ゲスト?」
「いえ、ダンサーと言われました。他に1曲フルートの演奏もお願いすると言われて譜面も頂きました」
「どのフルート持ってくの?」
「プラチナのフルートは怖いので銀のフルート持って行こうかなと」
「“ロマノフの小枝”を持って行きなよ。雨宮さんに言っとくからさ」
「え〜〜〜!?」
「『少年探偵団』のプロモーションにもなるし」
「でも盗難が恐いですよ」
「もち警備員付きだね」
「ひゃー」
「本当に二十面相みたいなのが現れない限り大丈夫だよ」
「でもずっと気に掛かってることあって」
と恵真は自分で語り始めた。実は“仮名M”もどうやって切り出そうと思っていたので、これは助かったと思った。
「どうしたの?」
「私、一応タマタマは取ってもらったけど、まだちんちんが付いてるでしょ?それなのに女の子アイドルとしてデビューしてもいいのだうかと思って」
「だったらデビュー前に、ちんちん取っちゃったら?そしたらもう君は完全な女の子だよ」
「やっぱり、ちんちん取っちゃった方がいいですかね?」
「それは君自身の身体のことなんだから、他人がとやかく言う問題ではないけどね」
「・・・・・・」
「もし手術受ける気があるなら、今から手術してくれる病院に連れてってあげようか?」
「こんな時間から手術してくれるとことかあるんですか?」
「眠っている間に手術は終わっちゃうよ。朝目が覚めた時はもう女の子だよ」
「どうしよう?」
「迷うくらいなら手術しちゃった方がいいね」
それ雨宮先生から“女の子に変えられた”時にも言われたなと思った。そうだよね。迷ってたった仕方ないもん。
「費用っていくらくらいですかね?」
「気にすることないよ。雨宮さんに付けとくから」
「だったら安心かな」
「じゃ病院行く?」
「はい。連れてって下さい。年内にもう男の子の身体とはお別れしたいです」
「OKOK」
それで恵真は仮名Mさんに連れられて、3階建ての中規模?の病院に来た。
「ここの先生は多分日本国内で性転換手術がいちばん上手い」
「へー」
「普通は予約して何ヶ月も待つんだけど、君ならきっと今すぐ手術してくれるよ」
「どうしてですか?」
「君が可愛いからさ」
深夜なので玄関は閉まっているが、仮名Mさんが電話したら、中の灯りが点いて玄関が開けられた。白衣を着た女性の医師(?)は不機嫌そうな顔をしていたが、恵真を見ると凄い笑顔になる。
「可愛い!あんた本当に男の子なの?」
「はい」
と恵真は恥ずかしそうに言って顔を伏せる。
「性転換手術受けたいって?」
と医師が訊くと、仮名Mさんは
「今すぐ手術とかできます?」
と尋ねた。
「あんた最後に御飯食べたのは何時?」
「18時頃ですが」
「だったら手術できる。おいでおいで」
と言って、医師は恵真を病院内に招き入れると、身長、体重、脈拍、血圧、を計り、採血した。医師自ら検査機器に掛けていたが
「問題無いね」
と言う。その後、心電図も取った。
「じゃ今から手術しよう」
「はい」
それで恵真は医師、仮名Mさんと一緒に手術室に入った。
「手術したらもう男の子には戻れないよ。いいね?」
「はい、女の子になりたいです」
と恵真は初めて、自分の気持ちを正直に言った。
「了解。下半身の服を全部脱いで手術台に横になって」
「はい」
それで恵真は靴を脱ぎ、スカート、パンティを脱いで手術台に横になった、
そこで恵真の記憶は途切れている。
12月31日夕方、千里宅。
青葉は丸一日サックスと水泳の時間を過ごしたが、夕方になって千里姉が来て
「彪志君が帰宅したよ」
と言われるので、あがることにする。
「夜中でも好きなだけ練習してね」
「1日たっぷり運動したから、年越しもせずに寝ている気がする」
それで千里姉と一緒に1階に戻ることにする。一緒にシュート練習場まで出たが、千里姉はそのまま向こうに行く。
「あれ?そっちにも何かあるの?」
「別に何も無いよ」
と言って、ゴールと反対側の壁の所にあるスイッチを押すと、そちらの壁が開く。
「そちらは隠しドアじゃないんだ」
「駐車場への通路があるだけだよ」
「そうだったのか」
それで“通路”に入るのだが
「通路にしては広くない?」
「私は確かに“通路”を発注したんだけど。工事の人がなんか随分幅のある通路を作ったみたいで」
「通路にしては広いね。むしろホールか何かに見える」
「ね?」
“通路”の奥にドアがあるので開ける。そこは昇降式駐車場の下の段になっているようだ。
「ここにつながるのか」
「私は雨に濡れずに駐車場まで行けるようにしたかっただけなんだけど」
そこに“人間用のエレベータ”がある。千里姉がそれに乗る。
「こんな所にエレベータがあったの!?」
「あれ?さっきはどうやって1階にあがったの?」
「・・・滑り台をよじのぼったけど」
「大変だったでしょ!?」
「だって、こんな所にエレベータあるなんて、教えてくれなかったじゃん!」
と青葉は抗議した。
ともかくもそれで2人は駐車場の地面と同じ高さの所まで昇り、そこから駐車場の脇の通路を通って表側まで来て、そこの屋根付き渡り廊下?を歩いて母屋に戻った。
「子供たちが、滑り台で下に降りて、通路を通って駐車場まで来て、エレベータで地上に戻って、駐車場横の通路、渡り廊下を通って母屋に戻るというので無限に走り回って遊んでいる」
「楽しいだろうね!」
青葉は帰宅していた彪志に実家へ電話を掛けてもらい、その電話口に出て、お父さんに年末の挨拶と定年退職に関してお疲れ様でしたを言った。
さてこちらでは、大晦日の夕食になるが、千里・桃香・貴司・彪志・青葉・早月・由美・京平・緩菜と9名になる。結構な大人数になった。
千里が作っていたおせち(筑前煮・ローストチキン・伊達巻き・黒豆・寒天・小女子(こおなご)の佃煮・栗きんとんなど)、及び年越し蕎麦を食べた。桃香が貴司と彪志に
「お酒飲もうよ」
と提案したが彪志は「夜中呼び出されることもあるから」と言って遠慮したので、結局桃香と貴司の2人で恵比寿ビールを飲んでいた。千里と青葉も遠慮してお茶にした。子供たちはオレンジジュースを飲んでいた。
子供たちは20時で寝せるが、千里と青葉も寝てしまう。実際青葉は1日練習して、眠くてたまらなかった。
青葉が寝るので彪志も一緒に1階和室に入る。
結果的には桃香と貴司が残り、2人は0時過ぎまで起きていたが、むろん桃香が男性には全く関心が無いのでふたりの間には何も起きようが無い。
除夜の鐘を聞き、あけぼのテレビでアクアのライブを観てから1時過ぎにふたりとも各々の寝室に入り眠った。この日の部屋割も昨日と同じであった。
101 彪志・青葉
201 貴司
202 早月・由美・緩菜
203 桃香
2SR 京平
恵真は爽快に目が覚めた。
「目が覚めたらナースコールして」
と書かれた紙があったので、恵真はナースコールした。するとお医者さんが来てくれて
「手術の結果を確認しよう」
と言い、ワンピース状の病衣着をめくり、股間の包帯をほどいた。
そこにはむろん何も突起物は無く、縦にきれいなスリットが走っている。
何か今までと全然違わない気がした!
先生がその付近を触って確認している。
「問題無いみたいね。痛みが無かったらもう退院できるよ」
「全然痛みは無いです」
「じゃいつでも退院していいから」
「ありがとうございます」
それで恵真は“仮名Mさん”を電話で呼び、Mさんが手続きと支払いをしてくれたので、恵真は退院した。
「とうとう女の子になっちゃった」
「良かったね。女の子になれておめでとう」
と仮名Mさんは学校に送って行く車の中で言ってくれた。
性転換手術を受けた翌朝に病院から学校へ直行して普通に授業を受けたのは、きっと恵真以外には存在しない!
美鶴は朝起きた時、物凄くあの付近が痛かった。
「どうしたの?何か気分が悪そう」
と姉の飛蝶が訊く。
「よく分からないけど、お股が痛くて」
「どうしたのかね」
「私、今日学校休む」
「分かった。そちらの担任に言っておく」
「ありがとう」
それで美鶴を置いてその日は飛蝶がひとりで学校に行った。
これが12月28日の朝だったのである。なお今年は4-5月の休校分の補充のため飛蝶たちの学校では授業は29日まで行われた。
飛蝶が学校から戻っても、美鶴はまだ具合が悪いようなので、飛蝶は
「ちょっと見せなさい」
と言った。美鶴は恥ずかしがっていたが、半ば強引に服を脱がせて美鶴の股間を見た。
「あんたいつの間に性転換手術受けたのよ?」
と飛蝶は“新しい妹”に訊いた。
千里は西湖に通告した。
「卒業する時に、自分の性別を決めると言っていた。凄く大変な決断とは思うけど、西湖ちゃん、卒業式の日までに、これから男として生きていくか、女として生きていくか、決めなさい。そちらの性別で確定させるし、必要なら戸籍もちゃんと変更できるようにするから」
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