広告:國崎出雲の事情 4 (少年サンデーコミックス)
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■春白(1)

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(C) Eriko Kawaguchi 2021-01-30
 
風山歩は、10月2日(金)に妹(元弟)のマリナが子供を産んだのに立ち会った後、休んでしまった会社に電話を入れて出産報告をした上で、代々木の自宅(?)に帰ることにする。本来の自宅は川口市にあるが、夫は長距離のトラック運転手でめったに帰宅しない。それで通勤電車の密集を避けたいというのもあり、マリナのオフィスの留守番と称して、代々木のオフィスで日々寝泊まりしている。ここに着換えや調理器具も持ち込んでいる。
 
コンビニで晩御飯を買っている内に、ナプキンが切れていたことに気付く。
 
「そろそろ来る頃だし」
 
というので、ナプキンを買おうとしたのだが、お気に入りのが無い。
 
「ドラッグストアに寄るか」
などと呟きながら、ダイコクドラッグまで足を伸ばす。それでナプキンを買っていたら、ふと近くに置いてある妊娠検査薬に目が行った。
 
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「そういやこないだセックスしたけど、妊娠してたりしないよね?」
 
歩はこの時なぜそんなことを考えたのか分からない。しかし妹が出産して、赤ちゃんが可愛い気がしたので、妊娠のことを考えたのかも知れない。結局それも買物カゴに入れた。
 
他にも色々買っているのだが、レジで金額が大きかったので、そっかー、妊娠検査薬は高いよね?と思ったが、まあいいことにする。
 
それでやっと自宅(オフィス)に戻る。
 
奥の部屋で寝転がってスマホでゲームをしながらおやつを食べていたら、チョコと思って手に取ったのが妊娠検査薬だった。
 
「そっか。使って見るか。まあ陰性だろうけど」
と思いながらトイレに行き、おしっこを掛けてみた。
 
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しばし待つ。
 
「横線が出てる。これってマイナスという意味だっけ?やはり陰性だ。まあ妊娠する訳無いよね。これまで交際期間含めて9年間妊娠しなかったんだもん」
 
などと歩は言うと、検査薬をトイレの汚物入れに捨てて来た。
 
「でもそろそろ生理だと思うんだけど、まだ兆候が来ないなあ」
と歩は呟いてナプキンのパッケージをトイレの棚に置いたが、実際に歩の生理が次に来るのは、1年8ヶ月後の2022年6月である。
 
(商品の説明書はよく読みましょう)
 

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10月10日、恵真は仮名Aさんと13回目のセッションをするが、
「今日明日で音源を完成させよう」
と言われた。
「もしかして泊まり込みですか」
「そそ。それで2日がかり」
 
「そしたら来週は休んでもいいですか?」
「うん。じゃ来週は代休にしよう」
ということで、次のセッションは10月24日に行うことにした。また今日は都内のホテルに泊まることにして、Aさんが母に連絡し、了承を得た。
 
祐天寺のXスタジオという所に入り、最上階の広い部屋に入る、ここを今日明日借り切ったという話だった。吹き込むのは先日から練習していた3曲である。
 
『風の中のココ』(作詞作曲:桜蘭有好おうらんあるす)
『君に会いに来た』(作詞作曲:星野輝希)
『少女と子ギツネのロンド』(作詞作曲:琴沢幸穂)
 
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伴奏が先日まで練習していたものと少し違うので訊いたら、生バンドに演奏させたらしい。
 
「今レコード会社の方から、感染防止の観点から、バンドと歌手は必ず別録りにしてくれと言われているのよ」
「なるほどー。でもそれなら私の歌がうまくなくてバンドの方たちに余計なお手間をかけなくて済みます」
 
「うん。まあ楽曲の制作ではそうなるパターンが多いね」
と仮名Aさんも言った。
 

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これまでかなり練習していたのだが、仮名Aさんの要求は厳しい。フルートの練習でも随分言われたが、感情をこめて歌うことを要求される。
 
2日間掛けて歌唱・フルート演奏の録音をして、11日の夕方。
 
できあがった音源を、Aさん、恵真、技術者さん、♪♪ハウスのマネージャーさんの4人で聴く。
 
この3曲の中で、『少女と子ギツネのロンド』は、有名作曲家・琴沢幸穂さんの作品なので必ず使うと言われている。もう1曲を『風の中のココ』にするか『君に会いに来た』にするかを決めなければならない。
 
「『風の中のココ』にしようか?」
「私もそちらがインパクトある気がしました。『君に会いに来た』もいい曲なんですけど」
 
マネージャーさんも頷いているので、同じ意見のようである。
 
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それで羽鳥セシルのデビュー曲は『少女と子ギツネのロンド』と『風の中のココ』になることになった」
 
「私思ってたんですけど」
とセシルは言った。
 
「うん?」
「こういうの言うのは生意気かも知れませんが」
 
「私は生意気なアーティストが好き。おとなしく言われたままやる子は嫌い」
 
うん。そういう人のような気がした。普通の先生が気に入るような子がこの先生は嫌いなのである。
 
「『少女と子ギツネのロンド』ですが、こちらも『ココと子ギツネのロンド』とかにはできないものでしょうか?」
 
「ああ、それはいいかも」
と言うと仮名Aさんは電話する。作曲家さんに許可を取るのかな?と思った。
 
「ああ、千里?どこかに可愛い男の娘いない?」
といきなり訊くので、恵真は顔をしかめる。
 
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「まあそれはいいや。こちらの男の娘、セルカちゃんに、こないだ書いてもらった『少女と子ギツネのロンド』だけどさ、カップリングする曲が『風の中のココ』という曲でさ。こちらもそれに合わせて『ココと子ギツネのロンド』とかにしたらダメ?ああ、いい?サンキュー。うん、それだけ。じゃ<可愛い男の娘見つけたら教えてね」
と言って、電話を切った。
 
何か私の名前はわざと間違えて言ってないか?
 
「OK。了承取れた。こちらも『ココと子ギツネのロンド』にしよう」
 
「コの音が続きますね」
と技術者さんが確認するように言う。
 
「うん。だからいいと思った」
とAさんは言った。
 
タイトルは変更するが歌詞は変えない。
 
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そしてこれでマスタリングしてもらうことになる。なお来週はお休みにしたので、10/24に、PVの撮影をすることになった。
 

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2020年10月17-18日(土日).
 
東京辰巳国際水泳場で、日本選手権(25m)、つまり短水路の日本選手権が開催された。大きな水泳大会としては、昨年10月の同じ大会以来、約1年ぶりで、参加した選手たちは、文字通り“水を得た魚のように”喜んで泳いだ。但し、この大会は無観客で実施された。
 
津幡で泳いでいるメンツ、青葉、南野さん、竹下リル、ジャネ、筒石、それに〒〒スイミングクラブ“部長”の皆山幸花の6人が東京に出て来て参加する。ジャネは本当は百万石スイミングクラブの所属だが、移動を最小限にするため、そちらから幸花に委託された。リルも本来は学校の所属だが、そちらも委託された。
 
6人はコスモスの配慮により、§§ミュージックのホンダジェットで迎えにきてもらい、それで能登空港から羽田に飛んできている。唯一の男子である筒石をコーパイ席に座らせ、キャビン席(4席)に、青葉・南野・ジャネ・リルという女子選手4人、それに補助席に幸花が座ってきた。ちなみにこの6人は全員ドイツの製薬会社BioNTechが開発したCOVID-19のm-RAN型ワクチン"Comirnaty"を治験段階で接種済みである。
 
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青葉は、女子フリー800m, 個人メドレー400m に出場する。実はどちらも17日に実施される。青葉は午前中に個人メドレー400mの予選に出て、お昼頃800mに出た。そして夕方になって個人メドレー400mの決勝に出た。
 
個人メドレー(IM) 400mは、青葉が優勝して2位が南野さん、800mはジャネの優勝で青葉は僅差の2位だった。ゴール近くまで2人が激しい首位争いをしたが、最後はジャネが逃げ切った。2人のタイム差は僅か0.1秒であった。
 
400mIMの3位は竹下リル、800mの3位には南野さんが入り、“津幡グループ”の存在感を示すことになった。
 
この大会では、200mIMに出た大橋悠依が自らの誕生日を祝う日本新で優勝したことがマスコミでは報道されていた。
 
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大会が終わった後、筒石は彼が勤めている会社の社長に呼ばれて出社した。彼は3月までは東京(の尾久のマンション)に住んでいて、ごくたまに会社に顔を出していたのだが、東京近辺のプールがどんどん閉鎖される中、練習場所を求めて津幡に移動して以来、全く会社には出ていなかった。筒石もさすがにちょっと叱られるかなという気がした。
 
「最近ずっと石川県の方にいるみたいだね」
と社長が言う。
 
「すみません。時々こちらにも出社しなければと思っていたのですが、向こうは1人1レーンを独占して泳げるもので。それに緊急事態宣言で、県境をまたぐ移動は控えてという話などもあって」
と言い訳する。
 
「だけど今回の大会も活躍したね」
「はい、おかげさまで優勝して金メダル2つもらいました」
 
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「やはり、石川県の練習場の環境がいいようだね」
「そうですね。24時間、好きな時に泳げますし」
 
「それで君の処遇を考えたのだけど」
 
ありゃあ、何か処分されるかなと筒石は考えたが、社長の言葉は意外なものであった。
 
「金沢にうちの取引先の会社で、KS工業という会社があるのだけど」
「はい」
 
「それで君にこれを渡す」
と言って、筒石は“辞令”と書かれた紙を渡された。
 
出向辞令
 
営業第三課 筒石君康殿。
 
令和2年10月20日をもって、貴殿の営業第三課の任を解き、KS工業金沢本店・営業部への出向を命ずる。
 
「これは?」
 
「向こうでの労働条件は、あちらの社長さんと話して。基本的には、時々会社に顔を出すだけでいい。取り敢えず東京五輪まではひたすら練習していていいから」
 
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「ありがとうございます!」
 
「取り敢えず20日に1度向こうの会社に顔を出してよ」
「分かりました」
 
それで筒石は金沢の取引先企業に出向(実質的な転勤)になったのである。
 

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「じゃお引っ越し?」
と事実上の妻であるジャネ(マラ)から尋ねられる。
 
「うん。でも既に俺、向こうにほとんどの荷物がある気がする」
「確かにそんな気がするね。じゃ、君康はこの後、そのまま帰ってよ。私がこちらのマンションの荷物を整理して必要そうなものは向こうに送るから」
 
「分かった。じゃ頼む。でも俺たち、火牛ホテルにそのまま滞在してていいんだっけ?」
 
「向こうに当面住むのなら、向こうにマンションか何か借りてもいいかもね。ねぇ、青葉ちゃん、適当な物件を見つけてやってくれない?こいつに任せたら最悪のマンションを選びそうだし」
とジャネがいうので
 
「いいですよ。じゃ津幡町か金沢市内かに適当なマンション探しておきますよ」
と青葉も言った。
 
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それで帰りのホンダジェットには、ジャネ以外の5人が乗り、ジャネは尾久のマンションに行った。そして、“マラ”“マソ”の2人がかりで荷物を整理した。
 
(“ジャネ”は実は2人いて、青葉や千里は“マソ”“マラ”と呼び分けている。ただし“マラ”は2010年に死亡しており、現在は幽霊である。“マソ”“マラ”ともに水泳をするが、大会に出るのは生きている方の“マソ”である。筒石と恋愛関係にあるのは“マラ”であり、つまり筒石は《牡丹燈籠》をしている。“マソ”は処女である。“マラ”は死んでいるから多分妊娠しないが、そもそもオカマさんなので元々妊娠能力は無いはず。“マソ”は天然女性であり妊娠能力はある。また“マラ”は歌が上手いが、“マソ”は音痴である。ちなみに月見里姉妹は、生前の“マラ”とクミコとの間に生まれた子供なので、ジャネは“妹分”と言っているが実は娘である)
 
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