広告:ここはグリーン・ウッド (第1巻) (白泉社文庫)
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■春白(4)

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11月初旬、紅川勘四郎は『とりかへばや物語』に特別出演するため、宮古島から4ヶ月ぶりに東京に出て来た。
 
ホンダジェットで迎えに来てもらい、宮古空港から羽田へと飛んだ。そして撮影期間中は(紅川の分の撮影は毎日あるわけではないので)熊谷の郷愁村ではなく、都内にオープンしたばかりの男子寮・空き室に泊まった。そこから撮影の無い日はあけぼのテレビに出かけ、自分が父親代わりを自称している春風アルトの“グチ聞き役”もしていた、
 
紅川が1ヶ月ほど滞在することになった世田谷区の男子寮は、朝晩、双子の姉妹ユキちゃん・ツキちゃんが部屋までご飯を持ってきてくれる(前日までに言っておけばお昼も持って来てくれる)ので食事の心配も要らないし、買物なども頼んでおくと、週2回の買物日に買っておいてもらえる。ここは都心からも近く便利でもある。快適な場所だが、10代の寮生が多い中、自分のような年寄りが住んでていいかという疑問はあった。
 
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もっとも紅川が一番困惑したのは男子寮生たちの“生態”である。
 
1階の自販機でコーヒーでも買ってこようと部屋の外に出る。エレベータで降りてエントランスの方に向かっていると“スカートを穿いている”木下宏紀とすれ違う。
 
「お早うございます」
「うん、お早う」
 
それでエントランスに行くと、ユキちゃんかツキちゃんが(紅川にはふたりが見分けられない)“セーラー服を着た”須舞恵夢・菱田ユカリと何か話している。
 
「お早うございます」
と挨拶されるので
 
「お早う」
とこちらも挨拶してから、彼ら(彼女ら?)に尋ねる。
 
「君たち、その制服で通学してるんだっけ?」
 
「いえ、通学は男子制服ですよ」
と須舞恵夢。
 
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「でも女子制服も可愛いから買って、寮内でだけ着てるんです」
と菱田ユカリ。
 
「君たちなら女子制服の採寸に行っても、何も疑問を持たれないだろうね!」
「はい。ノートラブルでした。ボクたちの名前、女の子名前に見えるし」
「むしろ男名前に見えない」
とユキさん?ツキさん?が突っ込んでいる。
 
「副社長(川崎ゆりこ)からは、その制服で通学しなよ唆されたんですけどね」
「寮母さん(門脇真結の母)からは、女の子に性転換する覚悟ができるまでは女子制服での通学は控えなさい、と言われたし」
「ボクたち、女の子の服を着るのは好きだけど、まだ性転換までは考えてないし」
「何かの間違いで性転換されちゃったら、女の子として生きていく自信はあるけど」
 
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ああ、常識機な寮母さんで良かったと紅川は思った。
 
「女性ホルモンも飲むかどうか悩んでいるんですよ」
「それは悩んでいる内は絶対飲んではいけないよ。飲んだらもう後戻りできなくなるから」
「寮母さんからも言われました」
 

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そういう訳で、スカート穿いたり、女子制服を着て寮内をうろうろしている寮生がとっても多い。どうも見ていると、そういう“女装趣味”?が無いのは、この寮の住人の中では、西宮ネオン・篠原倉光・弘原如月くらいのようであった。男声を使っているのもこの3人だけである。末次一葉も1度だけスカート姿を見たが、彼はズボンの方が多いようである。但し彼は女声遣いである。
 
須舞恵夢・菱田ユカリは男装と女装が半々のよう。木下宏紀、上田兄弟(姉妹?)は、いつ見てもスカートを穿いている。他の子に聞くと、その3人は既に睾丸を取っているし、木下君は多分性転換手術も終わっていると思うなどと言っていた。木下君は高3なのに声変わりしてないから、きっと確実に睾丸は除去済みなのだろう。木下君と上田兄(姉?)は胸もあるように見える。
 
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もっとも須舞恵夢や菱田ユカリも胸があるように見えるが「偽装でーす」と言ってわざわざバストパッドを外して見せてくれた。
 
上田兄(姉?)については、川崎ゆりこは女子寮に部屋をアサインして女子寮のIDカードも渡したらしい。もしかしたら春くらいに女子寮に兄弟(姉妹?)そろって引っ越すのかも知れない、などと他の寮生たちが言っていた。だいたい上田雅水は上田信貴のことを「お姉ちゃん」と呼んでいるようである。
 
そういう訳で、ここは川崎ゆりこによると「男子寮というより男の娘寮」らしい。女装している所を見たことのない篠原君なども、お店などでトイレの場所を訊くと、だいたい女子トイレを案内されると言っていた。もっともその後、そのまま女子トイレに入ったのかどうかについては言葉を濁した。
 
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そもそも男子寮に生理用ナプキンやパンティライナーの自販機があり、結構売れているらしい。こういう実態はマスコミには見せられないなと紅川は思った。
 

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紅川はコスモスに言った。
 
「男子寮に居る子たちさ、今はまだ精子があっても、その内、精子が無くなっちゃう子がいると思うんだよ。精子の冷凍保存を作ってあげない?まだ精子がある内に。それで保管費用は会社で出してあげようよ」
 
「それはいいことですね」
 
とコスモスも言い、婚約者もいて、精子が無くなる心配は無さそうな西宮ネオン以外の8人の寮生について、キュアルームの看護師・海老原さんにお願いして、各々の空いている日時を調整して産婦人科に連れて行き、精子の冷凍を作らせた。篠原君も必要無い気はしたが念のためである。
 
この時海老原さんは
 
「3人だけ、既に睾丸が無いので精子は取れないと申告した子が居ました」
 
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と報告した。むろんそれが誰なのかは個人情報なので、コスモスは海老原には尋ねない。コスモスにはだいたい分かったが。
 

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ちなみにその“3人”が誰かについて、コスモスと千里が話したことがある。
 
「醍醐先生、去勢済みの3人って誰々か、お互いに書いて見せっこしません?見せたらメモは処分ということで」
「いいよ」
 
それで2人は各々紙に書いて、見せ合う。
 
「一致しましたね」
「順序が違うけど」
「取り敢えず五十音順で」
「取り敢えず去勢した順序で」
「そこまでは分かりません!」
 
「でもケイ先生は誰が去勢しているか分からないみたいですよ」
「マリちゃんはかなり外してるみたい」
「紅川相談役も少し勘違いしているみたい」
「まあ誤解されやすい子がいるし」
 
とコスモスと千里は言い合い、すぐにそのメモはシュレッダーに掛けた。
 
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なお、海老原さんからコスモスへの報告によると、去勢済みの子3人はいづれも去勢手術前に念のため精子をアンプル1本だけだが冷凍保存してもらったと言ったらしい。つまり1回だけは子作りに挑戦できる訳だ。
 
なお今回の精液採取は1ヶ月の間を置いて3回おこなった(最低3回というのはケイ会長からの提案)。5人・3回分の精子15個の保管料(1個3万円/年)は会社で負担する。
 
しかし精液採取前の数日は禁欲しなければならないので篠原君とかは「我慢するのが凄く辛かった」と言っていた。逆に“久しくしてなくて”、いざ出そうとしても、なかなか射精に至らず苦労した子も居たらしい。「手が痛くなっちゃいました」と言っていたとか。
 
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なおこのプロジェクトの対象になっていなかったことに、紅川もコスモスも気付かなかったのが、男子寮寮母の門脇さんの娘(元息子)の門脇瀬那と、最初から女子寮に入居した緒方美鶴であるが、その2人から精子を取ることが可能であったかは、微妙(?)である。但し瀬那は徳島時代に“女性ホルモンを始める前に”精子の冷凍保存はしている(費用は姉(元兄)の真悠が払っている)。
 

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11月4日に貴司と離婚して大阪に戻った美映は大阪のたこ焼きを食べて一息ついた後、その日は取り敢えずネカフェに泊まった。しかしこの後、どこで暮らそうかと考えた。
 
実家に戻ると、あれこれ詮索されて面倒である。コロナの折、友人の所に居候するのは悪い。ネカフェに何日も泊まるのは体力的に辛いし感染も怖い。一応他人が触ってそうな所は全部アルコールティッシュで拭いているが。(5000万円も持っているのにホテルに泊まる気は無い)。
 
その時、美映はふと気付いたのである。
 
姫路の家には入れないだろうか?
 
姫路の家の鍵はスマホ・キーである。普通ならオーナーである千里が、自分たちが退去した後、こちらのIDは無効化しているはずである。
 
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しかし千里さんの性格だと、それを忘れている可能性がある気がした。
 
「ちょっと行ってみようかな」
と思い、翌日美映は新快速に乗り、姫路に行ってみた。
 
黒いインプレッサが庭に駐められている。
 
あれ〜?誰かいるのかなと思い、門の所のドアホンを鳴らしてみるが反応は無い。それでおそるおそるスマホから門解錠をする。
 
門が開いた!
 
玄関まで行き、玄関をアンロックする。
 
鍵が開いた!
 
「やはり千里さんって、こういう性格だよね。取り敢えず住む所が見つかるまで、ここに滞在させてもらおう」
 
などと独り言を言って、美映は中に入った。
 

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半年以上使用していなかったので、水道を開けると水が赤かった。少し出しっ放しにする。電気は点く。たぶん太陽光パネルが動いているせいだろうと思う。誰も使っていない状態だと、作られた電気は、どんどん関電に買い取ってもらっているはずだ。
 
「たくさん電気起こしてるんだから、少しくらい使ってもいいよね」
などと勝手なことを呟き、取り敢えずバッテリーの残りが少なくなっていたスマホの充電をした。
 
寝具が無いと夜が辛いが、何か残ってないかなと思って見てみると貴司が使っていた部屋の押し入れに布団が1セットある(実は誰かがここにメンテに来た時のために置いてあったもの)。この布団で取り敢えず寝られるなと思う。
 
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それで取り敢えずその布団を以前“自分の部屋”として使用していた、1階南側の部屋に敷き、布団に潜り込んで少し寝た。
 

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1時間半ほどで目覚める。
 
「ああ、ぐっすり寝た。ネカフェじゃ安眠できなかったし。でもお腹空いたなあ。何か備蓄食料は無かったっけ?」
 
などと言いながら台所を探すが、さすがに何も無いようである。
 
服も昨日東京を出た後、着替えてない。下着だげでも交換したい。
 
それで美映は食料品と着替えの買い出しに行くことにした。
 
「庭に駐まっているインプは千里さんの車かな?」
などと言いながら、庭に出て黒いインプの傍に寄ってみる。
 
ドアが開く!
 
しかもキーが挿してある!
 
(この車は《こうちゃん》の車で、時々アクアの送迎にも使用していた。先月関西で使ったので、その後ここに放置していた。彼は“鍵が行方不明にならないように”わりと鍵を車に挿しっぱなしで放置する癖がある。普通はその後外側からロックするのだが、これはロックのし忘れである。ただ門を開(ひら)けない人にはこの車を持ち出すことはできないはずだったし、門を開(あ)けられるのは千里以外では自分や青龍くらいだろうと思っていた。まさか美映のIDを無効化していないとは思いも寄らない)
 
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美映はエンジン掛かるかな?と思ってキーをひねってみたが、掛かる!
 
燃料はたくさんあるようだ。
 
「鍵ささったままだったんだから、借りてもいいよね?」
などと言って美映はその車を運転して門の外に出ると、スマホで門を閉じた。そして車をイオンタウンに向けた。
 
 
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