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■春白(8)

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エレベータは2人しか乗れないので、最初にアルトさんとカメラマンが一緒に下に降りて、その後、ラピスラズリが降りてくる所、ケイと青葉が降りてくる所を、先に地下に行っているカメラマンさんが撮影した(実はその後ディレクターもひとりで降りている)。
 
カメラの画面は地下の20畳のラウンジを映す。
 
「すごーい。広ーい」
と町田朱美。
 
「大きなグランドピアノがある」
と東雲はるこ。
 
その大きなグランドピアノの前に座る上島がラピスラズリの『この胸のときめき』を演奏する。ラピスラズリの2人がその伴奏に唱和する。
 
この曲は12月16日発売予定の曲で、実は2人はまだ練習中であり、音源が確定していない。この番組の放送は12月6日放送の予定で実はフライングになるが、前宣伝になるとしてレコード会社は使用を許可している。
 
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(更にこの上島のピアノで2人が歌うバージョンがCDにサービスで収録されることになった)
 

「君たち上手いね」
 
演奏が終わってから上島先生が感心したように言った。
 
「ありがとうございます」
 
青葉たちは、先生が2018年度に沖縄に1年間居た間にしていた泡盛造りのこと、沖縄の音楽などについて、また結婚11年にして初めて生まれた子供である美音良ちゃんのこと、また最近プロデュースすることになったWindFly20や、ついでに面倒を見ているという噂もある ColdGly5 のことなどを中心に尋ねた。
 
(実際は上島が本当にプロデュースしているのは上島の娘2人が参加しているColdFly5のみで、WindFly20を実際にプロデュースしているのはローズクォーツのタカである。上島は名前だけなのだが、このことは非公開である)
 
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「だったら、この家は雨宮先生の所有なんですか」
「そうなんだよ。僕の昨年度の収入は400万しか無かったから、とても買えなくて、でも2DKで子供を育てながらの制作活動には限界があったからね。いづれ収入が回復したら雨宮から買い取るつもりだけど」
 
「2DKのアパートでは楽器の音出せませんもんね」
「うん。やはりヘッドホンで聞くのとリアルに音を出すのとでは違うんだよね」
 
「ここなら大丈夫でしょうね」
「元々地下は音が漏れにくいし、防音工事してあるし、更に周囲に家が無いからね」
「素敵な制作環境ですね」
 

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インタビューしている間に、青葉は、東雲はるこの様子がおかしいことに気付いた。
 
「はるこちゃん、もしかしてトイレ?」
「すみません!」
「行っておいでよ。それから続きを撮影しよう」
 
「トイレはそこだよ」
と上島さんが指を指すので、はるこはトイレに入った。
 
ところがなかなか出て来ない。
 
町田朱美が
「済みません。様子見てきます」
と言って、トイレの前まて行きドアをノックする。
 
「岬、お腹の調子でも悪い?」
と声を掛ける。
 
ところが返事が無い。
 
すると上島さんが立って来た。
「向こう行っちゃったんじゃないかな?」
「向こう?」
 

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「このトイレの向こうにも部屋があるんだよ。両方の部屋から共用するようになっているから」
と言って、上島さんが“トイレのドアを開ける”。
 
ドアはロックされておらず開いた。
 
トイレの中には誰も居ない。上島さんはトイレの中に入り“向こう側のドアを開けた”。
 
町田朱美も上島さんに続いて中に入りトイレを通り抜けて“向こう側の部屋”に行く。
 
ここも今居た部屋と同じくらいの広さがある。向こうと同様にグランドピアノも置かれている。その部屋の中で東雲はるこが心細そうな表情で立っていたのが、こちらを見てホッとした表情をした。
 
「茜!」
と声を挙げる。
 
「こちらは別の部屋だよ」
と上島先生。
 
「そうだったんですか!みんなどこ行っちゃったんだろう?と思った」
と東雲はるこ。
 
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そこにディレクターさんが入ってくる。
 
「今のシーン再現ドラマ行こう」
「え〜〜!?」
 

「まあ地下室は50畳くらいの広さがあるけど、広すぎて使いづらいから2つに切ったんだよ。向こうは主として楽器や譜面の置き場として使っている。まあ気分転換に向こうで作曲作業する時もあるけどね」
と元の部屋に戻ってから上島さんは説明した。
 

 
「確かにたくさん楽器や本棚が置いてありましたね。CDもたくさんあったし」
 
「両方の部屋を行き来するのは、もしかして、このトイレ経由ですか?」
 
なおトイレのロックは連動していて、片方のドアでロックすると他方もロックされ、片方で解除すると他方も解除される。千葉の花丘玉依姫神社の社務所のトイレ(社務所内からも外からも使える)などと同じ仕組みである。
 
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「外側の廊下(空堀り)を通っても行けるよ」
「直接行き来するドアは無いんですね?」
「この地下室を造った人の遊び心みたいだね」
と上島さんは笑っていた。
 
本当は造り忘れたのでは?と青葉は思った。しかし町田朱美は
 
「本当に秘密基地みたいですね」
と感心したように言っていた。
 

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ところで秋風コスモスは、歌手としては、極めて音痴なことで有名!で、彼女の“ライブ”では、ひたすらおしゃべりをして、ごくたまに「疲れたからこのあたりで1曲」などといって息抜きに歌を歌うというパターンが定着している。ファンもコスモスのトークや毎回工夫をこらした手品や豪華ゲストのパフォーマンスなどを目当てにライブ参戦している。
 
(コスモスのライブに登場機会の多いイリュージョニスト“シンデレラ日美子”のパフォーマンスは評価が高い:彼女はコスモスの中学時代の親友だが、現在は結婚していることもあり、コスモスのライブ以外ではあまり見る機会が無い)
 
コスモスのCDはシングルの場合、歌入り2曲と各々のOff Vocal版2曲が入っている。
 
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普通の歌手の場合、多くの人がCDをリッピングして自分のパソコン・カーナビ・携帯プレイヤーなどに取り込む場合、歌唱入りのバージョンたけを取り込み、オフボーカル版(インストゥルメンタル版)は取り込まない。
 
ところがコスモスのファンの多くは、歌唱入りのものは“取り込まず”!オフ・ボーカル版だけを取り込んでいる。川崎ゆりこなども、コスモスのCDはそうしていることを知って、コスモスが怒った!などという事件が過去にあったが、コスモスももう慣れてしまい、その程度のことでは怒らなくなっていた。
 
§§ミュージックの歌手は多数いるので、その発売日はできるだけ衝突しないように分散している。特にメインである、アクア・品川ありさ・高崎ひろか・ラピスラズリ・姫路スピカ・白鳥リズムの6組については絶対に同じ日にならないように調整する。
 
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ところが2020年11月18日(水)は、たまたま誰もCD発売の予定が無かった。それで川崎ゆりこは、とんでもないアルバムの発売をする企画を立てたのである。たいていのことで動じなくなっていたコスモスもさすがに「え〜〜〜!?」と嫌そうな顔をした。
 

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それは『コスモス・オフボーカル・ベスト』というアルバムである。
 
つまりコスモスがこれまでに発表したCDの中で、ファンの間でも評価の高い14曲の“オフボーカル版”を集めたアルバムである。
 
つまりコスモスが歌唱している音源は一切含まれていない!
 
それでも演奏者として“秋風コスモス”とクレジットしていることについて雑誌社から電話で質問を受けた川崎ゆりこはこう答えた。
 
「音源制作の時、コスモスは大抵伴奏のピアノを弾いていますので」
 
コスモスの伴奏音源はその度に適当にミュージシャンを集めて制作している。近年では実はドラムスは桜野レイア、ベースは山下ルンバが弾くのが定着している(ギターは不定)。しかしピアノは、デビュー以来、多くの楽曲でコスモス自身が弾いているのである(米本愛心が弾いたものも多い)。
 
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コスモスいわく
「ピアノって、その鍵盤を叩けばちゃんとそのピッチの音が出るから好き」
 
似たようなことを実はローズ+リリーのマリも言っている。マリはデビューの頃から随分歌も進化したが、コスモスの歌は全く進化してない!
 

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しかしそういう訳で、今回発売されたアルバムでは全ての曲でコスモスがピアノを弾いていたのである(実はそういう音源を集めた)。
 
だからこれはコスモスのピアノ演奏アルバムである!
 
そしてこのCDがFMで紹介されたりしたこともあり、コスモスのアルバム初ゴールドとなってしまったのであった!
 
(シングルでは、2016年の『メタルシティ/佐久間川の川辺』が、放送局に銃を持った男が乱入してアクアを人質にしようとした時、コスモスが身代わりになってアクアを逃がしたことからコスモスの人気が高まり、その影響でゴールドになったのがある:もっともコスモスは折角話題になった曲だからと言って、桜野みちるにカバーさせたら、そちらがコスモス版の倍売れて、桜野みちるの初プラチナになった。なお『メタルシティ』はコスモスの姉・秋風メロディーの作品、『佐久間川の川辺』は明智ヒバリの作品で2人とも大いに印税で潤った)
 
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おかげでコスモスは在来局の音楽番組にまでお呼びがかかったが、コスモスは『餃子と焼売』(海浜ひまわりの作品)で、むろん歌唱はせずにしっかりビアノ演奏をしていた!(ドラムス:桜野レイア、ベース:山下ルンバ、ギター:海浜ひまわり、という豪華な演奏陣であった)
 

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(2020年)11月10日は、青葉・ケイ・ラピスラズリは、川崎市内の雨宮三森の自宅を訪問した。
 
ケイも青葉も、10月に訪問した蔵田孝治の時以上に気が重かった!
 
上島雷太が不祥事で影響力を大きくダウンさせた結果、雨宮先生は現在、東郷誠一先生と並ぶ、最も音楽業界に影響力を持つ作曲家である。しかし東郷誠一先生ほど大事にされていない!のはこの先生の性格ゆえである。
 
この日は雨宮先生が暴走しないように、一番弟子で雨宮グループの元締めである新島鈴世さんが来ていて、取材陣一行を玄関で迎えてくれた。
 
「でも広いおうちですね」
と町田朱美が感心したように言った。
 
「まあ色々な女の子を連れ込むのに色々な趣向の部屋を造ったから」
という発言は編集でカットされた!
 
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「だけどホント色々な趣向の部屋があるのよ。良かったら映して」
などと言うので、屋敷の中を歩き回る。確かに純和風の部屋から英国貴族風、現代アメリカ風、ロマノフ王朝風?、など様々な部屋があるので、町田朱美が純粋に感心していた。
 
「あら?この部屋は?」
 
それは中央にベッドがあり、上に豪華なシャンデリアが掛かっている。
 
「ここは秘密の手術室よ」
「手術なんですか?」
「怪奇蜘蛛人間を造ったり、怪人イカデビルを造ったり」
「すみません。それ何でしょうか?」
 
さすがに今の中学生に50年前の番組のネタは分からない。
 
「男の娘の改造もやってるわよ」
「それ男の子を男の娘に改造するんですか?それとも男の娘を女の子に改造するんですか?」
 
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「朱美ちゃん、女の子に改造してあげようか?***もう要らないでしょ?」
 
と雨宮先生が言う(***の部分は編集でピー音で消された)ので、青葉が
 
「その前に先生を女性に改造しましょう」
と言った。
 
「それは絶対嫌。私は男やめる気はないから」
と先生。
 
「既に男はやめてる気がしますけど」
と新島さん。
 
「先生もそろそろ年貢の納め時だと思いますけどね」
とケイも言っていた。
 

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雨宮先生の取材は、大いに脱線しながら(後で編集の時にディレクターを悩ませることになる)、2時間ほど続いた。
 
 
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