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■春金(20)

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ルキアはその日、約1ヶ月ぶりにモナと至福の時間を過ごしていた。
 
ふたりは裸で一緒にベッドに入っているが、ルキアのちんちんが立たないのでふつうのセックスはできない。だからモナはバージン・ワイフである。でもお互いに幸せな気分だった。
 
「もう私たち、恋人ということでいいよね?」
「うん。そういうことにしよう」
 
「だけとみっちゃん、もうすっかり女の子下着だけにしたんだって?」
「男の子下着が見つからないんだよ。どこに行ったのか」
 
ルキアはそれが捨てられているということにまだ思い至っていない。モナはなぜ気付かない?と思いながらも、きっとそもそも男物を着る気が無いのだろうと思った。
 
「体育の着替えの時ちょっと恥ずかしいけど、みんな後向いててくれてる」
「女子更衣室に来ればいいのに」
「それは通報されるよ!」
「大丈夫だと思うけどなあ。楽屋も女性用を使うようにしたんだし」
「男楽屋から追い出されちゃったから。木下君が女性用楽屋にいるから心強い」
 
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宏紀ちゃんは恐らく密かに性転換手術しちゃったのでは?と女子たちの間では噂になっているのだが、ルキアの耳には入ってないのだろうか。
 
「学校にも女子制服で登校すればいいのに」
「先生に叱られそう」
「性別変更届け出せばいいんだよ」
 
そういえばこないだも言われたなとルキアは思った。
 
「ボクが女の子になっちゃってもいいの?」
「私はバイだから大丈夫。手術してちんちん取っちゃってもいいよ」
「それは無くしたくない」
「女の子の身体になっても結婚してあげるからね」
 
その夜はルキアが寝ている間にモナは彼の男性器を勝手にタックしてしまったので、朝起きてからルキアがギョッとすることになる。
 
「寝ている間に手術されちゃった?」
 
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とルキアは一瞬焦った。
 

幽霊時計の取材に向かう道すがら、明恵は
 
「なんかこの道、熊でも出そう」
と言った。
 
「まあ山の中の温泉だからね。一応熊や猪が侵入しないように、旅館の周囲には電線を張った二重のフェンスもあるから、触らないようにという注意」
 
駐車場に駐めて、旅館への道をたどるがこれが長い!
 
最初に10段ほど階段を降りてから50mほど平坦な道(でも片側が崖で怖い)を行き、そのあと50段くらい階段を登る。金沢市内なのに秘湯の雰囲気だ。
 
「この階段結構きつい」
「斜面だし旅館の建物は眺望のため崖のそばに建っているから仕方ない」
 
森下カメラマンが息が上がっている。「運動不足だね」などと言われている。そのあと更に200mくらい緩い上りを歩いた。
 
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旅館への入口の所は熊や猪の侵入防止のためゲートになっていて、ボタンを押して開いて中に入るようになっていた。
 

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90歳くらいかな?という感じの女将さんが案内してくれた。
 
「この時計ですか」
「かなり古いものてすね」
 
とても古風な時計だが、ちゃんと動いているのが凄いと思った。メンテが良いのだろう。
 
「以前鑑定家の人に見て頂いたら、明治初期のものだろうということでした」
 
Grandfather's clockが主に制作されたのは、18世紀と言われる。明治時代には既に骨董品の部類だったろうが、きっと昔の旅館の主人が輸入して設置したものであろう。この旅館自体は安政年間に創業されたものらしい。
 
日本語タイトル『大きな古時計』で知られる歌 "My Grandfather's Clock" は1876年に Henry Clay Work が書いたものである。
 
My grandfather's clock was too large for the shelf,
So it stood ninety years on the floor;
It was taller by half than the old man himself,
Though it weighed not a pennyweight more.
It was bought on the morn of the day that he was born,
And was always his treasure and pride;
But it stopp'd short - never to go again -
When the old man died.
 
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Ninety years without slumbering
tick, tick, tick, tick,
His life seconds numbering,
tick, tick, tick, tick,
It stopp'd short never to go again when the old man died.
 
↑で見るように、よく知られた日本語歌詞は原詩にかなり忠実である。
 
日本ではスローテンポで唱歌風に歌われることが多いが、アメリカではバンジョーの伴奏でアップテンポでカントリー風に歌われたりする。
 

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「何か怪しい所ある?」
と幸花が尋ねる。
 
青葉は時計をあちこち眺めていたが
「悪いものは感じない。幽霊が出るとしたら、ご先祖様かもね」
と言った。
 
「じゃ祓うべきものでもない?」
「だと思うよ。守り神みたいなものだよ」
 
「ああ、私もそんな気はしていました」
と老齢の女将さんは言った。
 
「辛いこととかあった時、この時計の前に立つと気持ちが落ち着いてくるんですよ」
と女将さん。
 
「ええ、いい時計だと思います。大事にしてくださいね」
と青葉も言った。
 

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そういう訳で、ここもあまりネタにはならない感じだったが、この大時計の前で90代の女将さん、70代の若女将!に、取材班一同、女子制服姿の米山さんも入れて記念写真を撮った。
 
「でもコロナでお客さん減って大変じゃないですか?」
と幸花は訊いた。
 
「ここは元々お客さん少ないから、あまり影響は感じないですね」
と女将さん。
 
「うーん。相槌が打てない」
 
「それにうちの旅館は窓や戸を閉めていても、たくさん隙間風が入ってきて、換気はいいですよ」
 
「それは古い建物の利点ですね!」
と幸花は笑顔で言った。
 

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折角ここまで来たので、ここのお風呂(天然温泉)や、お部屋の様子(割と立派!)、お料理(早めの夕食として頂いた)なども撮影させてもらってから、7人(神谷内・森下・青葉・幸花・明恵・真珠・米山)でぞろぞろと旅館を出る。
 
「料理美味しかったね〜」
などと言いながら獣侵入防止のゲートを出る。
 
これが夕方4時すぎであった。
 
「そろそろ熊が活動しはじめる時間だなあ」
 
「ごめーん。僕が会議で出るの遅れたから」
と神谷内さんが謝る。
 
「いや、お食事のんびり頂いたし」
と青葉。
 
「まあ熊が出ないことを祈ろう」
などと幸花が言いながら、駐車場への道を進む。ゲートを出てから、比較的傾斜の緩い坂道を200mほど降りて行く。
 
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「あっ」
と声を挙げたのは、米山さんだった。
 

「みんな騒がないで」
と明恵が声を掛ける。
 
前方に巨大なクマの姿があった。
 
「3mくらいある気がする」
と真珠が言う。
 
青葉は他の人に動かないよう手で制してから、ゆっくりとクマに近づいて行った。
 
クマが立ち上がる。青葉の倍くらいの背丈がある。向こうが威嚇する。
 
青葉は静かに印を結ぶと素早く真言を唱えた。
 
「ノウマク・サンマンダ・バサラダン・センダンマカロシャダ・ソハタヤ・ウン!タラタ!カン!マン!」
 
巨大な熊の姿がはじけるように消えてしまった。
 
竜巻のような風が起きた。
 

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青葉が大きく息をついた所に、他の6人が近づいてくる。
 
「何だったの?」
と幸花が訊く。
 
「クマのお化け」
と青葉は笑顔で答えた。
 
「え〜〜〜!?ほんとにクマのお化けがいたの?」
「いたね」
 
「森下君、カメラは?」
と神谷内さんが訊く。
 
「すみません。回してませんでした」
と森下カメラマンが謝るが
 
「どうせカメラには写りませんよ」
と青葉は言った。
 
「だったら再現ドラマするから、みんなさっきの位置に戻って」
と神谷内さん。
 
森下さん以外が元の位置に戻り、米山さんが声をあげる所、明恵がみんなに静かにするよう言う所、青葉がクマに近づいて真言を唱える所を森下さんが撮影した。後でCGでクマを描き加えるという。森下さんはその他、周囲の映像をかなり撮っていた。
 
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しかしこれでかなり時間を取ってしまったので、もう17時過ぎる。日没時刻である。
 
「じゃ後は局に戻ってから、少し編集方針を話し合おう」
と神谷内さんが言い、全員階段を降りる。
 
「暗くなってきたから、足を踏み外さないようにね」
「ここ夜中には通行不能ですね」
「そんな時刻にはお客さんは来ないんだろうね」
 
そんなことを言って50段の階段を降りた後、少し平坦な道を行く。階段より片側が崖という、この道の方が怖い。そして今度は階段を10段上る。この時、先頭に立っていたのは幸花であった。
 
階段を登り切って駐車場に出た所で立ち止まる。
 
「どうしたの?」
と言って続いていた神谷内さんも駐車場面に出て絶句する。
 
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異変を感じた青葉が「ちょっと」と言って、明恵・真珠の横を通り抜けて先に駐車場面に出た。
 
目の前に大きクマがいる。
 

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「青葉、これも熊のお化け?」
と幸花が訊いた。
 
「いや、これは本物のヒグマ」
 
「本物なの?」
「騒がないで」
 
ヒグマはこちらを見ていたが、やがて近づいてくる。青葉は幸花の前に立ち、相手との距離を見計らった。
 
向こうは地面を叩いたりする、いわゆる威嚇行動を取らない。まっすぐこちらに歩いて来た。その距離がもう至近距離3mくらいまで来た所で、青葉は印を結ぶと、大きな“気”の塊をそのヒグマにぶつけた。
 
クマがのけぞるようにして向こう側へ倒れた。
 

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しばらく誰も動かなかった。
 
「死んだ?」
と幸花が言ってクマに近づこうとするので、青葉は
「ダメ」
と言って静止し、彼女の前に立つ。
 
その時、ヒグマは立ち上がった。グルルという感じの怒ったような声をあげる。そしていきなりこちらに飛びかかってきた。
 
しまった!
 
と青葉は思った。いったん倒れたクマがこんなに速く行動できるとは思ってもいなかったのである。
 
「みんな逃げて!」
と大きな声で言う。
 
クマが飛びかかってくる。
 
やられた!と思った。脳裏に亡き姉・未雨の顔が浮かんだ。
 
目を瞑る。
 

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大きな音がした。
 
痛くない!?
 
青葉がおそるおそる目を開けると、クマが左手の方で倒れていた。
 
「青葉、甘すぎる!」
という声がする。
 
千里姉である!
 
「どうしてこんな時に手加減するのさ?ここで青葉がやられたら、青葉だけでは済まない。他の人たちも続けて襲われる危険があったんだよ。一発で殺せるだけのエネルギーをぶつけなきゃ」
と千里姉は青葉を叱っている。
 
「ごめん」
と青葉は素直に謝った。
 
正直先日からクマという動物について取材していて、かなり情が移っていた。それで殺さずに気絶させようとしたのだが、どうもエネルギーが小さすぎて、気絶させるには足りなかったようであった。ヒグマのパワーを見誤ったかも知れないと青葉は思った。
 
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「金沢コイルさん!?どこから?」
と神谷内さんが言う。
 
「偶然ここの駐車場で楽曲の構想をまとめようとしていたんです。そしたら何か騒ぎがあるから見たら、ヒグマが人を襲おうとしてるから、私が走り寄って倒しました。偶然ここに居て良かった」
などと千里姉は言っている。
 
嘘だ!きっと《姫様》の通報で、ここにテレポートしてきて、クマを倒したんだ。
 
青葉は後ろを伺うが《姫様》は知らんぷりしている。姫様が直接助けてくれても良さそうなものだが、そういうことはしないのが、姫様のポリシーである。神様は人間に直接関与しないというのが、神様と人間との関わり方のルールである。その代わり、千里姉に教えてくれたのだろう。
 
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「でも助かりました。ありがとうございます」
と神谷内さんが御礼を言う。
 
車の中で待機していた城山ドライバーも出てくる。
 
「いや、大きなクマの姿を見て生きた心地がしなかったけど、階段の方で音がしたら、そちらに行ったから助かったと思ったんですよ。でも皆山さんたちだったから、やばい!と思いました」
と城山さん。
 
「ところでそのクマは死んだんですか?」
と森下カメラマンが訊く。
 
すると千里姉は言った。
 
「気絶させただけです。動物園の人か何かを至急呼んで下さい」
 
「え〜〜〜!?」
と米山さんが声をあげる。
 
青葉は、どっと疲れた。
 
ちー姉ったら、人には一発で殺せと言っておいて!
 
と、青葉は嬉しい気分になって涙が出た。
 
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通報で動物園の獣医さんがまずは駆けつけて来て、ヒグマに麻酔を打った。
 
「よく気絶させましたね」
「合気道の技で急所を打ったんです」
「へー。凄いですね。どこも怪我していないみたいだし」
と獣医さんは感心していた。
 
「怪我させて半矢とかにしたら超危険ですからね」
「です。とても危険です。よく猪の罠にかかって怪我して凶暴化する例があるんですよ」
「怖いですね」
 
その後、猛獣用の檻を持った人たちが来て、そっとヒグマを檻に運び入れた。
 
それでヒグマは保護されたのである。
 
動物園の人によると、これはやはり本来はアメリカに住んでいるヒグマの亜種・ハイイログマ(グリズリー)で、きっと誰かがペットとして飼っていたものかもしれないと言っていた。
 
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その後は、神谷内さんが呼んだ〒〒テレビの報道カメラマンたちも現場を撮影していた。ヒグマが檻に収用されてから、神谷内さんたちも再現ドラマを作るための撮影を慌ただしく行なった。。
 
ようやく精神的な余裕が出た幸花が
「これってラスボスを倒したと思ったら、真のラスボスが登場するっていうゲームによくあるパターンだよね?」
などと言っていた。
 
しかしこの日を境に“巨大熊”出現の噂は消えた。通報が実際途絶えたこともあり“巨大熊110番”の電話も、11月以降は県との話し合いにより、そちらに引き継いでもらうことにした。それで青葉たちも2ヶ月ぶりに普通の生活に戻ることができた。この顛末は12月の『霊界探訪』で取り上げられることになる。

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