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■春金(12)

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火牛スポーツセンター北側に並べられた彼岸花であるが、最初に咲き始めた青い彼岸花に続いて、9月中旬頃になると、赤・白・黄の彼岸花も咲き始め、4白の彼岸花が並んでいるのを楽しめる状態になった。
 
アクアゾーンの遊泳プーフルはさすがに夏休みが終わって人も少なくなっていたのだが、その少ない利用者たちが、アクアゾーン外周の“流れるプール”から撮影した画像を写真投稿サイトなどにアップしたりしていた。
 
ジョギングコースの方からも撮影できるのだが、プール側から撮影すると、4色の彼岸花をワンショットで撮影できるポイントがあり、そのポイントが人気だった。ここはジョギングコース側からは逆光になりやすいのである。むろんそちらから逆光にもめげず、きれいに撮影した上手な人たちもあった。
 
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「ね、ね、こういうことやってみませんか?」
と幸花はちょうど会議から戻ってきた神谷内ディレクターに言った。
 
「まず熊に関する一般的な情報を流すんですよ。熊の生態について専門家の意見とかも聞いて。それで熊に遭遇した時の対処法とかも詳しく解説する。その上で噂になっている“巨大熊”に遭遇したら、番組に通報してもらう。そしたら、金沢ドイルがそこにテレポートして、その熊をやっつける」
 
「テレポートなんてできないけど」
と青葉は苦笑しながら言う。
 
「できないの?」
 
「人間が瞬間移動とか物理学的に不可能だと思うけど」
 
と言いながら、それは千里姉の得意技だよなと思う。このコロナ下でも自由に日本とフランス・スペインを毎日のように行き来しているみたいだし。自分に打ったのと同じワクチンを千里姉自身も“青葉の後で”打ったみたいだから、感染確率は低いだろうけど(若葉なども、すすんで接種している)。
 
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「でも素粒子はテレポートするよね?」
「まあ、それが“どこでもドア”の動作原理だろうけど、実際には人間みたいな巨大な物体をテレポートさせるのは凄まじいエネルギーが必要だと思うよ。恐らく原爆数万個分」
 
「地球が壊れたりして」
「地球が壊れる所まではいかないけど、東日本大震災クラスのエネルギーだね」
「あれって、そんな凄まじいの?」
「あの地震は確か原爆3万個分くらいだったと思う」
「恐ろしい」
 

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「まあ、巨大地震を起こしたら迷惑すぎるから、そういう計画はやめたほうがいいね」
と神谷内さんは言う。
 
その時真珠が
「だったらリモートでできません?」
と言った。
 
「ほぉ」
 
「熊と遭遇した時、うちの番組スタッフに通報してもらうんです。それで青葉さんがリモートでその巨大熊をやっつける。
 
「まさか、私にずっとここに待機してろって言うの〜?」
 
「青葉さんと、幸花さんと明恵ちゃんと3人で交替で待機とか」
と真珠は言ったのだが、
 
「それは当然、真珠ちゃんもだな」
と幸花に言われた。
 
「ああ、完全なヤブ蛇」
と神谷内さんが笑っていた。
 

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しかしこの計画は実施することにしたのである。
 
基本的なやり方はこうである。
 
“通報用”のスマホを1台確保し、そこに通報があった時、そのスマホを持っている人が青葉に報せて対処してもらう。この場合、青葉には、電話の相手が見た“熊”の正体は多分分かるだろうという前提に立つ。
 
実際、青葉も「多分分かる」と言った。
 
あり得る可能性は3つ。
 
・ただの(?)ツキノワグマ
・ヒグマ(“捨て熊”の可能性あり)
・お化け
 
幸花はこのようなスケジュール表を作った。
 
時間帯_ 青葉所在_担当
0600-1200 放送局_ 幸花
1200-1800 津幡__ 真珠
1800-2100 津幡__ 吉田
2100-2400 自宅__ 吉田
2400-0600 自宅__ 明恵
 
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スマホを持つのは、幸花・明恵・真珠(初海)・吉田の4人(5人)である。
 
青葉は普通に生活・仕事をしていればいい。もし通報があったら、青葉に声を掛けて対処してもらう。それで青葉が練習中なので気付かないとか、ニュースを読んでいる最中で対応できない、といった事態を避けられる。ちなみに、青葉がニュースを読んでいる最中や直前の打ち合わせ中などは千里姉に対処してもらうことで、千里姉の了解も取った。
 
「私ゲストなのに」
と真珠は言ったが
「まず隗(かい)より始めよ」
と幸花は言った。
 
「それ誤用だと思うんですけど」
と真珠は文句を言う。
 
「まず隗(かい)より始めよ」というのは、良き参謀が集まらないと嘆く燕の昭王に対して臣下の郭隗(かくかい/クォクイ)が言った言葉である。「まず私から始めて下さい。私のような愚臣が優遇されていると聞いたら『あんな奴でも優遇されるなら、自分はもっと優遇されるだろう』と多くの優秀な人が集まってくるでしょう」と。それで昭王は隗に立派な館を建ててやり、師として大事にした。するとそれを聞いて、樂毅・鄒衍・劇辛などの人材が集まってきて、以降、燕は国力が高まっていくことになる。
 
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それで本来は提唱者が優遇されることを「まず隗より始めよ」と言ったのだが、日本では近年この言葉は「言った人がまず自分でやれ」という誤った使い方をされることが多い。
 

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吉田君は
「なんで俺が頭数に入ってんだよ!?」
と言った。
 
「まあいいじゃん。タダで使える人があまり居ないのよ」
「つまり報酬無しかい!?」
「晩御飯くらいはおごってくれるって」
 
「プールでは水着着てね」
「そのくらいはいいけど」
「あそこのプールは女子専用だから女子水着を着てね」
「そんなの着ねえよ!」
「男子水着で中に入ろうとすると射殺されるようになってるから」
「どういうシステムだよ!?」
 
でも幸花は吉田をうまく乗せて、女子水着を着せてしまうのである!
 
いつも女子水着で泳いでいる筒石が
「仲間ができて嬉しい。やはり吉田君、女の子になったの?」
などと言っていた。
 

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実際にはこのような体制で臨むことになった。
 
明恵は当面青葉の自宅に泊まり込む!夜中にバイクで青葉の自宅に行き、青葉の自室で一緒に寝せてもらう。朝、青葉の車に同乗して放送局に行くが、この時、幸花も拾って一緒に行く。ここで幸花にバトンタッチする。
 
幸花は午前中放送局内で待機し、何かあった場合は青葉または千里に連絡して対処してもらう。お昼に真珠がバイクで放送局にやってくるのでスマホは幸花から真珠にバトンタッチされる。真珠は青葉の車に同乗して津幡に行き、青葉の練習に付いている。
 
夕方、勤務を終えた吉田がバイクで津幡にやってくるので、スマホを引き継ぐ。真珠は吉田が乗ってきたバイクで帰宅する。吉田は青葉の練習に付いていて、練習が終わったら一緒に青葉の自宅に移動し、夕食も頂く(神谷内さんが吉田君の食費と言って月3万円青葉に渡すことにした)。そして12時頃に明恵が来たら交代して、吉田は明恵が乗って来たバイクで帰宅する。
 
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真珠がお昼に自宅から放送局に乗って来たバイクは翌朝、明恵が帰宅するのに使う。そして夜中になると、そのバイクで青葉の自宅に行く。吉田が帰宅するのに使ったバイクは翌朝出勤に使い、夕方には津幡に行くのに使う。
 
バイクから見ると3台のバイクが各々次のように循環する。
 
1朝 吉田宅(吉田)銀行
1夕 銀行(吉田)津幡
__ 津幡(真珠)真珠宅
2昼 真珠宅(真珠)放送局
3朝 放送局(明恵)明恵宅
3夜 明恵宅(明恵)青葉宅
__ 青葉宅(吉田)吉田宅
 
朝の時点で見ると3台のバイクは、吉田宅・真珠宅・放送局にあるのである。この3台は、明恵のYamaha YZF-R25(青葉から借りっ放なし)、真珠のSuzuki GSX250F(兄から借りっ放なし)に加えて、明恵の友人・初海の Kawasaki Ninja 250 (彼氏から借りっ放なし!)も借りることにした。そして初海自身にもこのミッションに参加してもらうことにした!
 
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明恵たちが通っているG大学では、出席番号の偶数組と奇数組に分けて、一週間おきに、リアル授業とリモート授業をしているが、明恵と真珠はどちらも奇数組である。しかし初海が偶数組だったので、彼女に協力してもらうことにしたのである。
 
明恵は夜の担当なので大学生活には問題は無いのだが(朝御飯まで青葉の家でもらえるし朝も起こしてもらえるので天国)、真珠の担当は午後なので授業とぶつかる。それで真珠がリアル授業を受ける週は、初海に↑の真珠のパートを担当してもらうことにしたのである。
 
なお、初海は大学近くのアパートに住んでいるので、バイクが無くても大きな問題は無い。真珠は問題がある!のだが、当面大学に行く日は母に送り迎えしてもらうことにした。
 
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“特設・巨大熊取材班”についての告知は、9月18日(金)深夜に『緊急特番・北陸巨大熊探訪』として放送することにした。
 
ツキノワグマを飼育している富山市内の動物園にも取材に行き、担当の方にお話しを聞くとともに、ツキノワグマの映像も撮影させてもらった。この人からは、ツキノワグマへの“愛”を感じて、幸花たちは、いい所に取材したと思った。幸花たちは、世間に出回っている“熊”に関する情報が、ヒグマとツキノワグマをごっちゃにしていると感じた。
 
「やっぱりツキノワグマっておとなしい生き物なんじゃないの?」
と幸花は言った。
 
「そうだと思いますよ。ただ力が強すぎるから、人間が素手で喧嘩したらかなわない」
「まあ、あまり喧嘩したくないね」
「やはり偶然遭遇してしまった場合は、平和的に離れるというのが基本ですね」
「悲鳴をあげたり、背中向けて逃げたりしてはいけない」
「それはそもそも野生動物に対峙した時の基本ですよね」
 
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「アメリカでは、アメリカグマは神様が造ったもので、ヒグマ(グリズリー)は悪魔が造ったもの、という伝説もあるらしいですよ」
「なるほどー」
 
その後、金沢市のクマ担当の人、山岳会の人、大学の先生にも取材して、クマの生態や、遭遇した場合の対応について解説してもらった。
 
それで番組を編集していたら
「ちょっと北海道までヒグマの映像を撮りに行ってこない?」
という話が、千里姉から持ち込まれてきたのである。
 

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「確かに北陸にはヒグマを飼育している動物園が無いんだよね」
 
千里姉の話によると、年明けくらいにデビューさせる予定で現在レッスンなどを受けさせている新人タレントさんの水着写真を撮りたいので、津幡アクアゾーンに来るらしい。普通のプールとかでは感染対策に不安があり、その対策が完璧と思われる津幡に来るのだと言う。感染対策の完璧なプールとしては、首都圏近くなら、同じムーランリゾートが運営する郷愁アクアリゾートもあるが、あちらは屋外プールなので夏以外の撮影は厳しい。
 
それで東京から津幡までの移動にプライベートジェットを使用するので、そのまま青葉たちを同乗させて北海道に飛び、そのタレントさんも北海道で写真撮影をするという話なのである。
 
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「帰りは?」
「日曜は旭川から羽田に戻るけど、翌日でも良ければ、羽田から能登に飛んでいいよ」
「うん。それでいい。お願い。ところで費用は?」
「運賃はタダでいいよ。山村の趣味で飛ばしてるだけだから」
「じゃ遠慮無く」
 
実際には能登→旭川→羽田→能登の燃料代は恐らく30万円くらいではないかと青葉は想像した。タレントさん側と折半して15万円くらいという計算も成り立つが、千里姉はアバウトな人だし、お菓子でも渡せばいいよね?と青葉は思った。
 
 
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