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■春金(15)

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その日、恵真は夢を見ていた。
 
恵真は空の上から海岸線の景色を見ていた。大きな半島が突き出ている。そこに多数のブルドーザーが動いていて、みるみるうちに半島は削られて無くなってしまう。
 
更に海岸線がブルドーザーで削られて行き、やがて大きな湾が出来た。
 
「エマ半島は金鉱がたくさんあったんだよ。だから削られて無くなってしまった。そして金は海岸線付近でも採れたから、どんどん掘られた。そして、その採掘跡は、今やエマ湾になってしまった」
 
誰かがそんな解説をしていた。
 
へー、エマ半島がエマ湾になっちゃったのかと思いつつ、エマって何だっけ?と考えていた。
 
そこで目が覚めた。
 
恵真はこの夢には何か意味がありそうな気がしたものの、よく分からなかった。
 
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“巨大熊110番”への最初の通報は放送翌日にあった。夕方で青葉は津幡で泳いでいたが、真珠が通報を受け、プールに自ら飛び込んで青葉に報せた。
 
(これができるように、青葉の専用レーンは端の0レーンに変更していた)
 
電話を代わると声からして20代の女性かと思われた。青葉の視界に、体長1.6mくらいある、大きなツキノワグマが感じられた。しかし情報採取のため敢えて訊く。
 
「どのくらいのサイズでしたか?」
「3m近くある気がします」
「体毛の色はどうでした?」
「黒っぽいです。茶色じゃないです」
「警察か役場には通報なさいました?」
「もう少しクマと距離が離れてから通報します」
 
「・・・・」
 
「あのぉ、まさかクマが目の前にいたりしませんよね?」
「10mくらい向こうに居て、こちらを見ているんですが」
 
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リアルタイムだった!
 
再度霊視してみるとクマとの距離は実際には20mくらいある。
 
青葉は通報者の女性に対処法を教える。女性に笑顔で手を振ったりしながら、ゆっくりと後退して距離を空けるように言った。最終的には50-60mまで距離が離れたところで、クマは森の中に入っていき危機は去った。
 

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その後、2日に1件くらいのペースで通報があるが、ほとんどツキノワグマである。2件、大きな犬!を誤認したケースがあった。どちらも近くに飼い主がいた。
 
さすがに遭遇中!というのは少なく、多くが充分離れ、役場などに通報した後だったが、まだ通報してないというので、こちらから通報先を教えて通報してもらったケースもあった。
 
ツキノワグマの体長は青葉が感じ取ったのでは1.5m前後のものが多かったが、通報者は全員3mか4mくらいあったと言う。やはり、恐怖を覚えていると、実際より大きく見えるんでしょうね、と霊界探訪本部では話し合った。
 
通報は、ほとんどが早朝か夕方であった。だいたい明恵か真珠または初海が対応した。吉田も3回くらい対応した。毎日青葉の家に泊まり込んでいる明恵は、早月・由美と戯れていた。
 
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「私、アパートに帰らずにずっとここに居ようかな」
「リモートの週はそれてもいいかもね」
 
彼女には無線LANのパスワードも教えている。つまりギガを使わずに動画などが見放題!である。
 
明恵がずっと青葉の家にいる場合は。朝青葉の出勤に付いて行き、放送局からバイク(真珠が前日放送局に来るのに使用したもの)で青葉の家に帰宅!すればいい。そして動画などを見ながら早月たちと戯れる!
 

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9月22日(火・祝).
 
ルキアはテレビ局でバラエティ番組の収録に出たのだが、また女装させられた!今日はセーラー服を着て、女子中学生の役を演じることになった。“一緒に女装させられた”のは、信濃町ミューズの木下宏紀くんである。ルキアより1つ上の高校3年生だが、ルキアにしても木下君にしても、見た目が若いので、充分、女子中生で通ると、共演の松梨詩恩ちゃんに言われた。彼女はアクアと同級生で、この春に高校を卒業した。結局、詩恩ちゃんを中心に、ルキアと木下君と3人がセーラー服姿で、肩を組んで!記念撮影をした。
 
(本人としては)健全な男子のつもりのルキアとしては、美少女の詩恩ちゃんと肩を組むとかなりドキドキしたが、詩恩ちゃんは平気でルキアと肩を組んだ。しかし木下君と肩を組んだ時に一瞬「え?」という顔をしたのは何だろうと思った。
 
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何かボク色物扱いになりつつあるなあと思いながらも帰宅したら、自宅マンションの明かりが点いている。
 
ありゃ、出かける時に消し忘れたかな?と思いながら、部屋の中に入っていくと、テーブルの上にラウンド・ケーキが置いてあるので、何?何?と思う。
 
そこにいきなり誰かに飛びかかられて、ルキアは思わず
「きゃっ!」
と女の子のような悲鳴をあげた。
 
ルキアに飛びかかってきた人物はそのままルキアを押し倒す!そしていきなり唇を奪った!
 
「モナちゃん?」
「呼び捨ててでいいよ。みっちゃんお帰り。そしてハッピーバースデー」
 
「ちょっと、ちょっと離れて」
「このままベッドに行っていいよ。モナを誕生日プレゼントとして受け取って」
「ダメだよ。そんなことしちゃ」
「だって、私たちもう17歳だし、セックスくらいしてもいいよね。ちゃんと避妊具も用意しておいたよ」
 
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「WindFly20は恋愛禁止じゃないの〜?」
「○○プロに移籍したから、恋愛禁止条項は廃止された」
「で、でもボクの事務所は28歳まで結婚できないんだけど」
「それまで愛人でもいいよー」
「あ、あいじん!?」
 
ルキアはモナに組み敷かれて、ズボンを脱がされてしまう。モナは結構腕力があり、ルキアが振り解こうとしても振り解けない!
 
「女の子ショーツつけてるのね。でもみっちゃんなら許しちゃう」
などとモナは言っている。
 
「そうだ。ボク誕生日は明日なんだけど」
「明日は平日だから。今夜私たちひとつになろうよ」
 
ルキアは焦っている。とうとうパンティーまで脱がされてしまった。
 
「待って。ボク、それが立たないんだよ」
「それは平気だよ。レスビアンの本で勉強したし、私が入れてあげてもいいし」
「入れるって、どこに何を〜〜〜!?」
 
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30分後、ルキアはベッドの中で、隣でスヤスヤと幸せそうな顔で眠っているモナの寝顔を見て、参ったなと思った。
 
結局モナは“ミューチャル・プレジャー”をすることで妥協してくれたが、
「私、みっちゃんのものになったということでいいよね?」
と言うので
「うん。モナはボクがもらった」
と言ったら幸せそうな笑顔をしていた。ボク、この子のバージンを物理的にはもらってないけど、精神的にはもらっちゃったことになるよな、とルキアは思っていた。でも好きと言われたら悪い気はしないし、彼女のこと嫌いでもないし、このまま恋人になってもいいかな、という気もした。
 
でも彼女がしてくれた“女の子式オナニー”は今まで自分がしてたのよりずっと気持ち良かった。他人にされたせいなのか、それとも彼女のリズムや力(ちから)の入れ方が上手いせいなのかは分からない。
 
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この夜はモナが0時すぎに目を覚ましたので、一緒にコーラで乾杯してケーキを分けて食べ、また彼女が作ってくれていたフライドチキンを再度温めて一緒に食べた。そして同じベッドで寝たが、今度は何もせずに添い寝しただけである。でもキスしてと言うので、してあげたら嬉しそうにしていた。
 
翌日は一緒に朝御飯を食べ、一緒に登校したが、帰りは彼女はちゃんと自分のアパートに帰った。ルキアは今夜も彼女と一緒に過ごすことになったらどうしよう?とドキドキしていたので、少し拍子抜けしたものの、ホッとした。
 
この日は仕事がないのでそのままマンションに帰る。お風呂に入った後、
 
「ボク、女の子の下着つけるの、やめようかな・・・」
などと考えて、男物の下着を取り出そうとしたのだが・・・
 
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「あれ?」
 
男の子の下着がひとつも見つからず、どうなってんの!?とルキアは戸惑った!!
 

恵真は9月5日のセッションで銀のフルートを買ってもらった後、9/12に次のセッションをする予定だったのだが、前日の11日(金)になってから、Aさんから、母に直接電話が掛かってきた。
 
「明日・明後日、ちょっと遠出して撮影をしたいんだけどいい?」
「遠出というと?」
「石川県と北海道」
「新幹線?」
「プライベートジェットで飛ぶ」
「へー!」
 
「水着写真がもう少し欲しいと思ってさ。だけどこの時期に海はもう寒いでしょ?プールで感染対策のしっかりしている所を探していたら、石川県の津幡町って所に物凄くしっかりした所があったのよ。ロッカーとかも使う度に消毒するとか、プールがアクリル板で区切られていて、感染が拡大しないようにしてるとか、そもそも入場者に簡易検査キットで感染の有無を確認してるとか」
 
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「なんか凄いね」
「それに首都圏より絶対人数が少ないから」
「そうだよね!」
 
「ついでに石川県の巌門(がんもん)とかヤセの断崖とかでも撮影してくる」
「断崖からミモちゃんを突き落とすように言っておこう」
「私は崖の岩には乗らないもんねー」
 
「2日目は旭川に行って、旭岳の鏡池とか、層雲峡の銀河流星の滝とかでも撮影してくる」
「クマに襲われないようにね」
「死んだふりするから大丈夫」
「そのまま死んじゃうといいね」
 

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恵真と電話を代わり、簡単な指示をする。水着での追加撮影というのには、恵真も了承した。
 
「ビキニ着ない?」
「ワンピースでお願いします」
 
「ま、いっか。そうだ。ステラちゃん、念のためサインを考えといて」
と恵真は言われた。もう名前は何と呼ばれようと気にしない!
 
「サイン!?なんか芸能人みたい」
「あんた♪♪ハウスと契約したから既に芸能人だからね」
 
それでサインに関しては母に相談し、一緒に考えた。
 
“羽鳥”という苗字に合わせて小さな楕円を描き、それに羽根が付いて飛んでいるような絵を描く。そしてその下に筆記体で Cecile と書いてみた。
 
「これだけじゃ寂しいなあ。もう少し何か絵を描こう」
と母が言うので、恵真は Cecile という文字の左右に、ほぼ対称になるようにカジキマグロっぽい絵を描いた。
 
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恵真の出生星座・魚座に掛けたものであり、また亡き父の仕事にも掛けたものである。
 
「何か紋章のような感じになったね。格好いいと思うよ」
「じゃこれでやってみる」
「うん」
 

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そういう訳で、恵真は早朝Aさんにフェラーリで迎えに来てもらい、羽田空港に向かった。手荷物検査を通り、小型の飛行機に乗り込んだ。アナさん・オナさんは既に搭乗していた。
 
「適当な席に座ってね」
「お客さんはこれだけですか?」
「そうそう。これはプライベートジェットだから。ちなみにパイロットの山村さんはアクアのマネージャーでもある」
 
「わっ、お早うございます。羽鳥セシルです。今日明日はお世話になります」
「おはようございます。よろしく、セシルちゃん」
と40代に見える女性は笑顔で返事をした。
 
女性のパイロット制服って格好いいな、と恵真は思った。上はペールブルーのブラウスに白いダブルのジャケットで金ボタン。首の所には黄色いリボンをしている。ボトムは白い膝丈スカートでやはり金色の飾りボタンが縦に付いている。青いストッキングを穿いていて、靴はローファーである。やはりパンプスでは操縦に問題が生じる場合もあるのかな?と恵真は思った。帽子は将校さんみたいなツバのある帽子。白い布手袋をしている。
 
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「この機体は事実上アクアの専用機なんだよ、でも空いてる時はどんどん使わせてもらってる」
 
「へー」
 
「あと能登から5人乗せるから」
「はい」
 

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朝食に用意されたお弁当を食べながら離陸許可を待つ。
 
Aさんが
「そうだ。サイン考えた?」
と言うので、持って来た画用紙にマイネームで描いてみせる。
 
「格好良い!」
とアナ・オナ姉妹が言った。Aさんは
 
「さすがヒロミンが考えただけある」
と感心したように言うと
 
「そうだ。これを金色のサインペンで描くといい」
と言った。
 
「金色ですか!?」
「黄金のセシル、Cecile d'or だね」
「フランス語ですか?」
「うん。君はドイツ語よりフランス語が似合う」
「セシルという名前自体、フランスっぽいですね」
「うん。スペイン語ならセシリア、英語ならシシリア、ドイツ語ならツェツェーリアかな」
「へー」
 
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そういえば最初はセリシアと言われたのに、映画撮影の時にセシルにされちゃったけど、元々同じ名前だったのか、と恵真は考えた。しかしセシリアはスペイン語か。
 
それでたまたま?Aさんが持っていた金色のマジックで、渡された藍色の色紙に描いてみたら、なんかすっごく格好良い。
 
「では君のサインはそれで」
「はい」
 

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この第1号のサインは2020.9.12 という日付を入れて、パイロットの山村さんに贈呈した。日付および“山村さん江”という宛名は白いマジックで書いた。
 
「なんで“江”を使うんですか?」
「昔からの風習だからなあ。一応それ漢字の“江”ではなく、“え”の変体仮名の“江”なんだけどね」
「ああ。“し”の変体仮名の“志”などと同じですか?」
「そうそう」
 
「ちなみに変態ではなくて変体だから」
「ああ、Aさんのことですね」
「君のことでもあるね」
 
アナ・オナ姉妹が笑って
「今この飛行機に乗っている5人、全員変態と言われてきた人ですね」
 
と言っていたが、恵真は、あれ?今乗ってるの4人だよね?と不思議に思った。
 
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